医学界新聞

 

地域に根ざしたがん看護の発展をめざして

第19回日本がん看護学会開催


 さる2月5-6日,仙台サンプラザ(仙台市)において,冨田きよ子会長(宮城県立がんセンター)のもと,第19回日本がん看護学会が開催された。一般演題247題を集め,盛大に行われた今回は「地域に根ざした,がん看護の発展をめざして」をメインテーマに,外来や保健指導など,地域で生活するがん患者に焦点をあてたプログラムが多く組まれた。本紙では,地域での生活者としてのがん患者の,治療選択に焦点をおいたシンポジウムのもようを紹介する。


■がん患者の治療選択をいかに援助するか

 シンポジウム「生活者としてのがん患者の意思決定を支える」では,内布敦子氏(兵庫県立大),吉田千文氏(千葉大附属病院)の両座長のもと,4人のシンポジストが,がん患者の治療選択の場面における看護師の役割について意見を交わした。

ベテラン看護師の治療選択援助

 乳がん治療では近年,外来化学療法によって治療を行うケースが増えている。玉橋容子氏(聖路加国際病院)は手術,放射線など数ある治療法から外来化学療法を選択する際や,その後,通院治療を続けていく際の外来看護師の役割の大きさを強調した。また,院内アンケートの結果から,ベテラン看護師と新人看護師の間で,治療選択の場における患者へのかかわり方が大きく異なることを指摘した。

 玉橋氏は,ベテラン看護師が,単なる情報提供にとどまらず,患者の社会的地位,生活習慣などを総合的に踏まえた相談を行っていることを指摘。またその結果として,アドバイス後に,治療選択をあらためているケースが多く見られたことを報告した。

代弁者としての家族の問題

 石上節子氏(東北大病院緩和ケアセンター)は,がん患者の治療選択の際の家族ケアについて問題提起した。石上氏ははじめに,緩和治療を望んだ40代後半の女性の事例を紹介。この事例では,患者の夫は終始延命治療を希望しており,最終的に医療者と夫の関係が悪化した。患者本人の意思確認はしっかりと取れていたが,その場合でも,家族の意思確認がおろそかにしてはならないケースであったと紹介した。

 もう1例は,患者本人が「妻には自分から伝えたい」という意思を示していたが,その後患者の症状が急激に悪化し,医療者から直接妻に患者の予後を伝えなくてはならなくなったというケース。もともと精神的にもろい面を持っていた患者の妻は,告知を受けて精神状態を崩してしまったという。

 石上氏はこれらの事例について,「患者本人による意思決定は基本だが,終末期には患者本人が意思決定できなくなる瞬間が必ずある」ことを指摘。家族が患者の意思を代弁できるよう,看護師は患者・家族と同じ歩調で添うことが大切であると述べた。

患者と自分を信じる

 森文子氏(国立がんセンター中央病院)は継続治療選択の場をテーマに口演。がん治療では「急性期を過ぎてフォローアップに入る時期」あるいは「積極的治療による効果が期待できなくなり,緩和医療にギアチェンジする時期」などにおいて,治療選択が必要となる。その選択を行うのは患者自身であるが,選択を支援するために看護師が果たしうる役割は大きい。

 森氏は,こうした役割として「考えるための時間を確保する」「意思決定の素材となる情報,具体的な選択肢,対応策を引き出す」「患者の持つ力を信じ,引き出す」「患者と家族の思いを受け止める:迷うこと,くじけることも許す」などをあげた。一方,こうした場面を援助する看護師に求められることとして,「支援する自分自身の思い,感情を見つめられること」が重要であると指摘した。

 森氏は,この後のディスカッションでも,「患者を信じるためには,まずそれを信じる自分自身を信じることが必要である」と述べるなど,がん治療という,患者の人生にとって大きなターニングポイントにかかわる看護師には,人間としてのトータルな力が求められることを強調した。

医師に選択を委ねる患者

 入江由美子氏(阪大病院)は,「医師に選択を委ねたい患者を支える」をテーマに口演。「インフォームド・コンセント」「自己決定」ということが強調される一方で,「医師に選択を委ねるほうが,日本人の国民性には合っているのではないか」という見解も本邦では少なくない。入江氏は,「医師に選択を委ね」ながらも,その内面的な過程が異なる対照的な2事例を紹介し,この問題を考察した。

 事例Aは,自分ががんであることを知った心理的ショックが大きく,その発言にも「情けない」「もう生きている意味はない」といった,自尊心の低下が感じられる発言があった。一方,事例Bでは,「ショックだったが,治療の可能性はあるということはわかった。がんばりたい」といった発言が見られ,また,治療に関しても「病気の状況について説明してもらえれば,治療法の選択はプロの判断に任せたいと思う」という希望を伝えていた。

 両事例とも,最終的には「医師に治療方針を一任する」ということでは同じだが,自尊感情や,能動性ということでは大きな違いがあるのではないかと入江氏は指摘。医師を信頼して治療方法を任せるとしても,看護師はその過程を共有し,あくまでその人が,自身の人生の主人公であるという部分は損なわれないよう援助する必要があるのではないかと述べた。

「人間力」が求められる現場

 ディスカッションでは,まず内布氏が「患者さんの選択を支える知恵・技術の共有が必要と思われるが,何かよい方法はあるか」とシンポジストに質問。これに対して,「ツール頼みになってはいけないが,質問表,アセスメントシートなどがあると便利」(玉橋氏),「多職種での話し合いの場を確保すること」(石山氏)などの意見が出た。

 また,それらの技術とはどういうものかという問題については「生まれ持った力,あるいは相性というものがあるのは確か。患者さんの自己決定の場に立ち会うことは,看護師自身の生き方,価値観などの包括的な力が問われる場面だと思う」(玉橋氏),「自分のスタイルを,自分で理解できているかどうかが重要」(森氏)など,自己決定を支えるには,専門知識に加え,幅広い人間的な力が問われることを強調した。