医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


知っておきたい
医療監視・指導の実際

櫻山 豊夫 著

《評 者》村嶋 幸代(東大教授・地域看護学)

「患者中心の医療」実現のために 医療監視は大切な役割を担う

 医療監視というと,「自分とは遠い世界だ」と思う人が多いのではないだろうか。本書は,そんな医療監視が,実は通常,医療に携わっている人間にとってはもちろんのこと,一般社会人にとっても大変身近な存在であること,自分を守ってくれる大事な仕組みであることを気づかせてくれる本である。

 著者は,現在,東京都保健福祉局医療政策部参事として,医療監視の第一線に従事する医師である。(おそらく業務の中で実際に携わったであろう)事例が豊富に出てきて,読むものを飽きさせない。中には,新聞報道で見たことがある(ように思ってしまう)事例もあり,それらの事件の原因と事後処理,再発防止に向けての要点や具体的取り組みがていねいに,しかも要領よく解説されている。思わずわが身を振り返り,自己点検して,身を正したくなるような本でもある。

 語り口はソフトで,このように医療監視が実施されるのだなあとわかってくる。例えば,「苦情が寄せられたとき,まずは病院の事務長に事情を説明し,お話を聞きます。必要があれば(念のため),緊急の立ち入り検査を実施します。最初に病院側の責任者・関係者から説明を受け,その後,病棟で看護師や医師の動きを拝見します。実際の動きを見た結果,○○の点が問題だと考え,指導しました」と本文中にある。これを読むと,医療監視が,医療従事者の主体性・自尊心を大事にしながらソフトに,しかし,科学的に的確に,盲点を見逃すことなく,実施されていくことがわかる。底に流れるのは,「患者中心の医療を実現したい」という著者の想いであり,医療監視はその点で大切な役目を担っていることが,よく伝わってくる。

 「第1章 医療監視の実際」では,医療監視の目的と医療法の考え方,立ち入り検査と実査の留意点が述べられており,「第2章 事例から見た苦情対応」では,院内感染の事例,院内感染が疑われたときや苦情への病院の対応,などが解説されている。「第3章事例から見た医療事故の防止」では,医療事故をめぐる指導・発生後の留意点と防止上の注意,薬剤過剰投与の事例と院内巡回による情報把握の重要性が記述され,どのようにしたら医療事故を防ぐことができるのかを考えるうえで,手がかりになる事例が多数示され,学ぶことが多い。また,「第4章 事例から見た院内感染の実際」では,結核・セラチアによる院内感染,院内感染立ち入り検査の結果も,事例を通して解説されている。さらに「第5章 医療関連各法が問題となった事例」では,薬事法関連の違反が2題,医師法21条の届け出義務違反になってしまった「異状死」の例,医業の停止になってしまった例など,基本的でありながら,関係者の理解不足のために大事に至ってしまった事例が提示され,未然に防ぐための対策が解説されている。最終章では,都立病院の患者権利章典が紹介されるとともに,医療監視が「医療の担い手と受ける側との信頼関係が作られ,良質で適切な医療が提供されることを目的に実施される」ことが,しっかりと述べられている。

 「医療監視」という一見厳めしい事柄が,事例を通してわかりやすく解説されており,楽しく読みながら,医療を行う側,受ける側の双方にとって大事なポイントを学ぶことができる。

 本書は,元々は雑誌『病院』(医学書院)で「事例による医療監視・指導」として連載されたものが基盤になっている。各章末には,「今回の事例から学びたいポイント」が要領よく纏められ,理解しやすい。医療関係者,特に,医療安全・感染問題にかかわる方だけでなく,病棟や外来で働く看護師,医師,薬剤師などの医療関係者,医療の質に疑問や関心を持つ多くの方々に,ぜひとも手にとって読んでいただきたい本である。

A5・頁240 定価3,360円(税5%込)医学書院


内視鏡外科における縫合・結紮法
-トレーニングからアドバンスト・テクニックへ

黒川 良望 監修
安藤 健二郎 著

《評 者》白石 憲男(大分大助教授・第1外科)

内視鏡下手術操作における 縫合・結紮手技のコツを ていねいに解説

 1990年,わが国に腹腔鏡下胆嚢摘出術が導入されて以来,内視鏡下手術は急速に普及し,その適応が拡大されてきた。これは,体に優しい「低侵襲手術」が,国民の福祉に貢献すると期待されているからである。しかしながら,その手術手技は従来の開腹手術と異なり,モニター下の鉗子操作であるため,外科医のトレーニングが必要である。

 内視鏡下手術操作の中で最もトレーニングが必要な操作の1つに縫合や結紮操作があげられる。そのため,日本内視鏡外科学会の技術認定医制度においても縫合・結紮操作の提示が必須の要件とされている。内視鏡外科における縫合と結紮法のコツが理論的に示された本書は,そのような時代にマッチしたテキストブックと言える。

 本書の主旨は,「序」に示されているように「どうすれば内視鏡下での手縫い縫合・結紮がスムーズにできるようになるか」ということである。

 本書の構成は,総論と各論からなり,バランスのとれた内容になっている。総論においては,縫合・結紮に必要な道具の紹介にはじまり,その理論と基本操作,著者が考える4つの基本手技,その練習法について述べている。特に鉗子操作による結紮・縫合の三大要素として手術対象と持針器との(1)方向,(2)角度,(3)距離をあげ,基本手技の手順とコツをていねいに解説している。各論においては,縫合・結紮手技が重要な9つの術式をとりあげ,その具体的な手技を著者の経験にもとづき記述している。いずれもわかりやすいイラストと説得力のある記述で解説されている。さらに,それぞれの章ごとにKnack & Pitfallsが記載されており,実際に手技を行う際のアドバイスとして有用である。

 このように,本書は内視鏡外科における縫合・吻合法のガイドとして有用な書物である。全編にわたり,記述は実にていねいで思いやりにみちたものである。行間に安藤先生のお人柄がにじみでており,読んだ後には心地よい満足感が得られる。本書を手にした読者は,必ずやスムーズな縫合・結紮法を習得できるにちがいない。

 初学者のみならず,日常診療において内視鏡外科を実践している外科医にぜひ読んでいただきたい書物である。

B5・頁192 定価7,875円(税5%込)医学書院


小腸疾患の臨床

八尾 恒良,飯田 三雄 編

《評 者》山本 博徳(自治医大講師・消化器内科)

最新の内視鏡法にも言及した 小腸病学の集大成

 「小腸疾患の診療」と聞くと今でもマイナーだと感じられる方もおられるかもしれない。しかし,実は小腸は消化管のなかで最も長く,最も重要な働きをしている臓器である。食道,胃,大腸は全摘しても生きていくことが可能だが,小腸を全摘しては生きていくことはできない。それにもかかわらずこれまで消化器病学のなかで中心的に取り扱われることは少なく軽視されてきたきらいがある。

 その中で編者の八尾恒良先生,飯田三雄先生は小腸二重造影の開発をはじめ30年以上前から一貫して小腸疾患の診療,研究に力を注がれてこられたのである。

 本書はお二人の先生方を中心とする九州大学病態機能内科学(第二内科)と福岡大学筑紫病院の消化器グループの長年にわたる研究成果の集大成である。

 本書の特徴は日本の消化管診断学の最も得意とするⅩ線画像,内視鏡画像,病理組織構築を対比したうえでの画像診断学を小腸疾患の診断にも取り入れ,なおかつ小腸疾患の診断には欠かせない病態の解説も十分になされた包括的な小腸診断学の実用書となっていることである。本書の随所に盛り込まれた豊富な症例,美しい画像には驚嘆させられる説得力がある。

 総論では小腸疾患へのアプローチのための諸検査法に関し最新のカプセル内視鏡,ダブルバルーン内視鏡も含めて詳細かつ実用的に解説されており,各論では各小腸疾患に関してカテゴリー別に症例の画像を提示しながらわかりやすく網羅的に解説されている。

 小腸病学を学ぶために通読するのもよいだろう。また小腸疾患に遭遇した時に診断,鑑別診断を進めるうえで参照するのもよいだろう。まさに痒いところに手が届く高い完成度で仕上がっている。

 はからずも今ダブルバルーン内視鏡,カプセル内視鏡という小腸全域の内視鏡観察を可能とした2つの新たな内視鏡法の登場により小腸ブームが幕を開けようとしている。本書は長年の小腸診療,研究の蓄積に加えこのような新しい手法も取り入れた最新の内容となっており,まさにタイムリーに発刊された待望の書である。

 新たな内視鏡手技の登場により小腸への新しい扉が開かれた今,小腸疾患に対し興味がますます注がれ大きく注目を集めていくものと考えられる。この時期にタイムリーに発刊された小腸病学の集大成といえる本書は,21世紀の消化管学において必携の書といっても過言ではない。

B5・頁440 定価18,900円(税5%込)医学書院


そこが知りたい! クリニカルパス

日本クリニカルパス学会 監修
日本クリニカルパス学会企画委員会 編集
山中 英治,副島 秀久,今田 光一,岡田 晋吾 編集委員

《評 者》藤村 重文(東北厚生年金病院院長/第5回日本クリニカルパス学会学術集会会長)

DPCに対応した医療に パスは必須とも言える

 第5回日本クリニカルパス学会学術集会が2004年11月19日(金),20日(土)の2日間にわたって仙台市で開催され,2,737名が参会した。現在の本学会の役割を象徴しているかのようにいずれの会場でも活発に意見交換などがされ,参加者の多くを占める若い人々の熱気で溢れていた。会場の仙台国際センターの一角に設けられた書籍展示コーナーには医学書やパス関係の新刊書などが多く展示され,そこもたくさんの人々で混み合っていた。私もそこで日野原重明先生の著書の一つ,『60歳からの旅は人生の栄養剤』とともに日本クリニカルパス学会企画委員会編集の『そこが知りたい!クリニカルパス』を購入した。以下,本書についての私の所感を述べたい。

 日本クリニカルパス学会はご承知のように,患者ケアの質的向上や医療の効率化と安全性を基本理念とするクリニカルパスの普及をはかることを主旨として設立された。年に一度開催される全国規模の学術集会は回を重ねるごとに参会者数が年々右肩上がりに増加しており,パスに対する関心と学術集会から得られる成果が医療関係者にとって如何に大きいものであるかが窺われる。言うまでもなく,今日のわが国の保険医療において最も重要なことは,ひとつに患者の信頼を得ながら質の高い安全な医療を提供することであり,同時に高い満足度とともに効率性が要求されている。

 わが国の現在の医療状況の中で最も必要な実際的課題のひとつが,DPCに対応した医療を提供することであるが,それにはパスが必須ともいえよう。パスは医療の質をより向上させるための1つのツールである。DPCばかりでなく,チーム医療,インフォームドコンセント,医療の効率化や標準化,医療ミスの防止などに貢献し,医療の経験とEBMを加味してチームで作成されるものである。パスはそれぞれの病院において色々な特有な条件をも加味して,最も効果的なものを作ることが必要である。

 本書はパスに関する理論と実践に広い知識と多くの経験を有する編者の方々によって作成されている。パスをこれから作るという場合ばかりでなく,現在パスを使用していながら,なお多くの問題を抱えている場合などにも対応しており,読者の疑問に対する答えがわかりやすく返ってくるように構成されている。

 つまり,本書は病院管理者,医師,看護師,薬剤師,臨床検査技師,放射線技師,リハビリテーション関係者,事務など,すべての医療関係者が関与する必要があるパスについてのノウハウが効率よく網羅されている。医療関係者にとって座右の書のひとつになるであろう。

B5・頁172 定価2,625円(税5%込)医学書院


DNAキーワード小事典
An A to Z of DNA Science: What Scientists Mean When They Talk about Genesand Genomes

Jeffre L. Witherly, Galen P. Perry, Darryl L. Leja 著
村松 正實 監訳

《評 者》菅野 純夫(東大教授・大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻)

専門外の読者にも理解しやすい 入門書的役割も持つ小事典

 21世紀を迎え医学が飛躍しようとしている。その原動力となっているのは,ゲノム研究に代表される分子生物学の進展である。ちょうど今から50年前に,DNAの二重らせん構造が発見され分子生物学が産声を上げた。DNAを中心に遺伝学と生化学を結びつけたこの比較的若い学問は,遺伝情報の本質を解き明かし,遺伝子の転写や翻訳,DNAの複製や細胞周期などの詳細,発生や分化,さらには,疾患や脳神経活動の解明にまでその活動範囲を広げている。解剖学,生理学,病理学,微生物学といった古くから医学を支える学問も,分子生物学に大きく影響され,その形を変えつつあるのである。

 本書は,その分子生物学のメッカ,DNA二重らせん構造の発見者の1人であるJ.ワトソン博士が理事長をするコールドスプリングハーバー研究所が発行した分子生物学の小辞典の日本語訳である。分子生物学は学問として若いため,医学教育の中にそれが取り込まれたのは比較的最近である。したがって,多くの医師は一握りの人々を除いて,現在でも分子生物学について十分な知識を持つとは言えない。特に,分子生物学は,それまでの医学用語とはかなり異なるものが多く,独習するにも困難の多いものであった。

 このような状況はアメリカでも同じであり,本書が企画されたのも,状況を変えようとしたためである。本書では分子生物学だけではなく生命科学全体にも通じる149のキーワードを取り上げ,わかりやすく解説してある。まず,簡潔なまとめがあり,さらに詳しい解説が続く。図も豊富にあり,専門外の人々にも理解しやすい内容となっている。訳は平易で,しかも,正確な言葉遣いがなされている。キーワードの解説の形を取っているが,通読してもよく,入門書的な性格を持っている。もちろん,事典としても使いやすい。

 ゲノム医科学など,ますます分子生物学の影響の強まる21世紀の医学を読み解くための,貴重な同伴者となってくれる1冊である。

B6・頁140 定価1,890円(税5%)MEDSi