医学界新聞

 

チームで育てる新人ナース

がんばれノート
国立がんセンター東病院7A病棟

[第5回]焦らず急ぐ
主な登場人物 ●大久保千智(新人ナース)
●末松あずさ(3年目ナース。大久保のプリセプター)


前回よりつづく

 右も左もわからない新人が悩みや不安を書き込み,プリセプターや先輩ナースたちがそれに答える「がんばれノート」。国立がんセンター東病院7A病棟では,数年前から,新人1人ひとりにそんなノートを配布し,ナースステーションに常備しています。

 4月が終わり,連休明けには夜勤がはじまります。この節目に新人は「自分は成長したのか? これで夜勤に入れるのか?」と気にしています。

 誰もが“夜勤は時間との勝負”であることを承知しているので,まずは4月を乗り越えたことを認めつつ,周りが限られた時間をどうやってやりくりしているのかに目を向けてもらいます。自分の経験を含めてアドバイスしたり,励ましたりして,新人をバックアップします。


今回の登場人物
大久保千智,末松あずさ,川崎久恵(7年目ナース),寺田千幸(2年目),原田操(4年目,寺田のプリセプター)。

4/30 ●川崎
 4月,終わってしまいますね。本日2回目の指導係をさせていただきました。まだまだ視野が狭いですね。

 一息ついても,遅れたりしません。手際よくやろうと考えなくても大丈夫。1日,いや1人の患者さんのラウンドを終えた時に「あ,今,手際よかったかも」って思えるくらいでちょうどいいです。余裕は,自分が作り出すものです。一杯いっぱいになって,もうこれ以上の許容がないとなれば,それを認めてしまえばいいんです。

 ……ってこれは,まだ難しいですね。「周りのメンバーが,どうやって仕事を整理しているんだろう?」って疑問に思いませんか? そのうち大久保さんにもできると思うよ。でも,ただの真似は上っ面になるので,自分のものにするのよ!! ファイト!!

4/30 ●寺田
 お疲れ様です。体の調子はどうですか? 疲れはたまっていませんか? きっと毎日緊張の連続で本当に大変だと思います。1人で動くようになると,時間の配分や自分のあまりの「できなさ」に驚き,ショックを受けつつすごしていると思います。

 私も去年の今頃,やることが多すぎていつも焦っていました。でも焦ると余計にからまわりして,時間がかかってしまったりするんですよね。以前私が焦りまくっていた時,プリセプターの原田さんが「深呼吸をして。焦らず急ぐ」というメモを私のワゴンの上においてくれたことがありました。それ以来,焦りそうになるといつもその言葉を思い出しています。

 がんばれノートを久々に読ませてもらったら,大久保さんが日々成長しているんだなと感じました。4/25(第4回参照)に書いてある「その人が選んだものをできるだけ生かしていく」というところ,すっごくいいですね。これからもお互いいろいろ学ばせてもらいましょう。

5/3 ●末松
 世間はGWまっただ中,大久保さんもリフレッシュしているところでしょうか。私もぜいたくなことに連休を頂きました。お互いの休みがずれて1週間近く会っていませんがどうですか?GWが明けたら初夜勤なので,もしかしたら連休中もずっとそのことを考えたりしているのでしょうか。初の夜勤,日勤とはまた違う緊張感,責任感があると思います。動き方も違うし,新しく覚えなくてはならないことが山程あると思いますが,少しずつ慣れていきましょうね。

 夜勤を通じて,25人前後の患者さんを自分1人(もちろん,先輩がフォローしますが)で看ることで,これまでよりもっと広い視野でいろんなことがみえてきますし,それを要求されるようになると思います。経験を重ねていきましょう。確実に成長を実感していけると思います。できないことやうまくいかないことに気づくことが成長の始まりだと思います。

 この時期は朝焼けがとてもきれいです。自然の神秘も体感しながら,富士山に黙とうを捧げながらがんばりましょう。

5/4 ●原田
 久しぶりに読んだら,寺田さんが私の名前を出していてなんだか照れくさくなりました。そう言えば去年の寺田さんも毎日必死だったな,と。大久保さんが申し送りの時にすごく緊張してるなといつも感じます。一日が終わるとやっと終わった,という感じでしょうか。といっても日勤のくり返しだから,また明日また明日と追われてしまうような感じもあるでしょうね。

 私は夜勤も含めつつ働いていて休みの日を待ちわび「あー早く今日が終わらないかなぁ」なんて思っちゃうんですけど,そう思った後に,いやいやこうして1日過ごすのスゴイもったいなくないか?! と自己啓発して奮い立たせる毎日であります。患者さんをみててもそうだけど,人生なんて何が起こるかわからないですもんね。毎日大変だと思うけど1日経って感じたことや学んだことは着実に身になるから,1日1日捨てずにやってれば「ちょっとできるようになったかも」と思える時がくるよ。がんばろうね。

 GW明けたら,仕事に来るのが憂うつになるかもしれないけど,きっとすっかり忘れてしまったこともあるだろうから,1つひとつ丁寧に(やってると思うけど)やっていきましょうね。

寺田 自分で行う処置も増えてきて,焦ることが多くなってくる時期だったと思います。毎日がんばっている大久保さんを見ていて去年の自分を思い出しました。周りを見る余裕がない時でもあります。自分だけができていないと思ってほしくなかったので,みんなが通る道であること,また先輩たちが温かく見守ってくれていることを知ってほしくて記入しました。

末松 入職して1か月が経ち,大久保さんは必死に努力をしていました。そして夜勤を任されることになりました。それはすべてのスタッフが大久保さんの成長を認めていることでもあります。当病棟では準夜勤は3人,深夜勤は2人で50人の患者様を看ていきます。それにはこれまでとは違う観察能力,判断能力,何より責任感が要求されます。最初からうまく的確に時間内にまわることを目標にはあげていませんでした。まず夜勤を通じて自分の課されている責任の重さに気づいてほしいと思いました。

原田 大久保さんをみていて,毎日遅くまで働いて,さらに毎日毎日緊張の連続で必死だろうとは思いましたが,大丈夫かな,続くかな…というのが正直な思いでした。毎年毎年一年生というのはそういうものですが。何を学んでほしいというよりも,続けていくために自分で自分をコントロールできる術を見つけてほしいと思いました。私自身は新人の時,ストレスをうまくコントロールできなかったので。


病棟紹介
国立がんセンター東病院7A病棟は,病床数50床,上腹部外科・肝胆膵内科・内視鏡内科の領域を担当している。病床利用率は常に100%に近く,平日は毎日2-3件の手術,抗がん剤治療・放射線治療,腹部血管造影・生検・エタノール注入などが入る。終末期の患者に対する疼痛コントロールなど,新人にとっては右を見ても左を見ても,学生時代にかかわることがない治療・処置ばかりの現場である。

関連書籍紹介
『はじめてのプリセプター 新人とともに学ぶ12か月』(川島みどり,陣田泰子編集)
 本連載に登場するプリセプター,末松あずささんの新人時代のがんばれノートが収録。がんセンター東病院の新人教育が学べる,プリセプター,プリセプティ,看護管理者必携の一冊。