医学界新聞

 

看護の視点から政策への提言を

第24回日本看護科学学会開催


 さる2004年12月4-5日,第24回日本看護科学学会が,高崎絹子会長(東医歯大教授)のもと,東京都千代田区の東京国際フォーラムにおいて開催された。「少子高齢社会における看護の責務とは-理論と実践の統合をめざして」をテーマとする今回の学術集会では,患者の身近な存在である看護師の声を社会や政策に反映させていくにはどうすべきかが議論された。


患者の人権を守る アドボカシーの理念

 会長講演では,高崎会長が「患者・病弱者のアドボカシーと看護の責務」をテーマに,人権問題として主に高齢者・痴呆老人への虐待の現状をとりあげながら,それに対して看護師がなすべき役割について述べた。

 高崎会長ははじめに,看護師の社会的な役割や,倫理的な位置づけについて概説。患者の権利について定めたリスボン宣言や,ヘルシンキ宣言が定める医学的研究に関する倫理指針を紹介した。続いて,それらの倫理指針に基づき,患者にかわって患者の人権を守っていくことをめざすのが「アドボカシー(advocacy)」という理念であり,看護師はそうした役割を担う位置にいると述べた。

 さらに,患者の権利が侵される具体的な場面として,高齢者への虐待の現状について取り上げた。厚労省が2003年度に行った「家庭内における高齢者虐待に関する調査」からの「虐待により生命に危険な状態のあった例が全体の約1割にのぼる」など,深刻な現状を,次々とスライドで紹介した。

 最後に高崎会長は,こうした患者・病弱者のアドボカシーの確立は看護職が専門職としてかかわっていくべき課題であり,そのためには看護の理論・実践・研究の統合や,さらには政策への提言までを含めた,継続的な取り組みが必要であることを強調した。

■学会の“これまで”と“これから”

 シンポジウム「日本看護科学学会が果たしてきた役割と今後の課題」(座長=兵庫県立大・片田範子氏,天使大・近藤潤子氏)では,学会設立25周年を記念し,これまでの学会活動を振り返るとともに,社団法人化など今後の課題について議論が行われた。

看護系6大学により発足

 最初に,座長の近藤氏が日本看護科学学会のこれまでの歴史を紹介。1975年に看護系6大学(聖路加看護大学,千葉大学,東京大学,名古屋保健衛生大学,高知女子大学,琉球大学)から成る「日本看護系大学協議会」として発足し,1981年に日本看護科学学会が設立。以後,日本の学術界に看護学を位置づけるため日本学術会議への登録をめざすなど,社会における看護の重要性を率先して訴えて続けてきたことを説明した。

 また,萱間真美氏(聖路加看護大)は同学会評議員108名にアンケート調査を実施。看護学分野において,今後優先して取り組むべき研究テーマについて意見を集めた。その結果,看護の質評価やケアの効果に関するものが最も多く,「アセスメント・評価ツールの開発」への要望も高かったという。これにより氏は,総合学会として今後はケアの評価の方法論やツール,研究モデルの開発に積極的に取り組んでいくべきではないかと結論づけた。

看護師が直面する倫理問題

 続いて登壇した井部俊子氏(聖路加看護大)は,看護倫理検討委員会の活動について説明。1991年に発足した同委員会では,看護における倫理的課題として,これまでに「脳死および臓器移植」や「看護師が直面する倫理問題」などについて検討を重ねてきた。

 特に臓器移植における脳死の問題は,「これまでひたすら患者の生命維持に尽力してきた看護師にとって,価値の分裂といった重い課題をもたらすことになる」と指摘。また,臨床の看護師が日常感じている倫理上の問題として,「患者に対する情報提供の不十分さ」や「患者が身体的,精神的に不当に侵害されている状況」,「胎児や小児の生死が親の選択に左右される状況」などをあげた。

 そして近年では,看護研究における研究対象者への倫理的配慮が大きな問題となっていることにふれ,「研究承諾書など自己決定の尊重やプライバシーの保護など,研究計画書の段階で倫理的な審査をするシステムをつくる必要がある」と強調。「研究計画に対するガイドラインや倫理審査体制をつくることを課題としたい」と述べた。

 日本看護科学学会の国際活動推進委員会では,国際学術大会の開催や英文誌の発行を行っている。委員長を務める田代順子氏(聖路加看護大)は「日本の看護学における学術活動を世界へ情報発信するだけでなく,国際活動を通した看護学の向上をめざしたい」とし,1992年に第1回国際看護学術大会が開催されてからの歩みを語った。

 氏は今後の課題として,さらに質的・量的な研究の交流を促進するためにも,国際看護学術大会を企画段階から数か国で協働して進めていくことなどを検討しているという。

■法人化をめざすことの意義

 最後に登壇した村嶋幸代氏(東大)は,学会の目的として「看護学の成果を用いた社会貢献」,つまり看護のエビデンスに基づいた政策提言をしていくことが重要であるとし,そのためには社団法人化が必須であると強調した。氏は「現在看護系学会には法人化した学会はなく,このことは看護の学会が社会的に認められた人格として発言できる母体を持っていないことを示す」と指摘。しかし法人化において,文部科学省の定める「正会員数1000人以上」や「基本資産2000万円以上」といった学会法人の設立許可基準はクリアしているものの,「当該分野唯一の学会であること」という条件が壁となっている。この解決策として,担当官からは「社団法人化を進めるためには,看護学のもう1つの大きな総合学会である日本看護研究学会と合同して法人化を進めるように」と求められているという。これは看護学の研究者・実践者の総力を結集し,より充実した学会活動を展開していくようにという意図が込められていると解釈される。

 日本看護研究学会と日本看護科学学会とは,共に看護学をめざしており,学問分野としての切り分けが難しいのも確かである。一方で,各々の歴史や先達の想いもある。氏は,「今後も日本看護科学学会のあり方について検討を進め,より社会に貢献できる様にしていきたい」と述べてしめくくった。