医学界新聞

 

医療と社会の接点づくりの試み

――日本医学会総会・ポストコングレスの話題より


 第26回日本医学会総会のポストコングレス公開シンポジウム「どうする日本の医療」が,さる1月22日,東京・よみうりホールにて開催された。

 この企画は第26回日本医学会総会会頭の杉岡洋一氏(九州労災病院長・前九大総長)の発案によるもので,2004年1月の福岡に続き,第2回が東京で一般公開された。医療費削減・市場原理導入の圧力が強まる中,国民に日本の医療の現状を正しく理解してもらい,「医療のあるべき姿」をともに考えようというねらいがある。

 まず基調講演では,「社会的共通資本としての医療」という概念を提唱する宇沢弘文氏(東大名誉教授・経済学)が登壇し,市場的基準や官僚的管理による支配の危険性を説いた。次に,パネル討議「日本の医療はどうあるべきか?」(司会=読売新聞・丸木一成氏,九大・高・cb67・涼一氏)が行われ,4名の演者がそれぞれの専門の立場から口演した。

「悪しき経済主義」より 質の確保に力点を

 鈴木厚氏(川崎市立川崎病院)はWHOのデータなどをもとに医療の国際比較を行い,「日本は世界最高の医療を,安い医療費で提供している」と分析した。それにもかかわらず,日本の医療が各方面から批判を受けているのは,財務省主導の医療費抑制策やマスコミの大衆扇動,医療関係者の危機感の欠如などによると指摘。医療をサービス業でなく,「国民の生活を守る安全保障」として捉え,経済と連動せずに議論すべきだと強調した。

 近藤克則氏(日本福祉大)は,長年の医療費抑制政策から転換し,医療費を1.5倍と大幅拡大した英国の医療改革を紹介。一方の日本では医師・看護師不足を背景とした医療事故の多発など,医療費抑制政策の弊害がすでに見られることを指摘した。日本の医療の今後の課題は医療費抑制でなく,質の確保であるとして,そのためには適度な医療費拡大は不可欠との考えを示した。

 李啓充氏(作家)は,日本の医療制度改革に関連付けて,市場原理に医療を委ねて失敗した米国の実例を紹介。米国においては,概ね営利病院のほうが非営利病院よりもコストが高く質が劣ること,度重なる巨大病院チェーンの犯罪,無保険者が4000万人以上にのぼり医療費負債による個人破産が急増していることなどから,日本の医療制度改革論議の危うさを指摘した。混合診療解禁に関しても,財力によるアクセスの不平等や保険医療の空洞化が問題となり,結果的には患者の選択の幅が狭まると言及。「エビデンスが明らかな診療行為は保険診療に含めるのが本筋」と強調した。

 中島みち氏(作家)は乳がんを体験した患者の立場から提言した。医療者に求めるのは病気の治癒だけでなく,時には「納得できる」ということが一番大切になると強調。手術が成功しなくとも納得できた経験を語った。

 演者らの討論では,鈴木氏が「病院選びは医療者でも難しい。情報開示だけでなく信頼関係の確立を」と訴えた。李氏も,米国では手術成績向上のために細工する病院があることから「アウトカムの計測だけでは危険」として,質の底上げの努力をしたほうがよいと語った。

 最後は宇沢氏も加わり,英米の「悪しき経済主義」による医療制度崩壊の歴史が語られ,質の確保を第一とした医療改革の重要性が強調された。