医学界新聞

 

Dr. Robert Ignoffo氏に聞く

――第14回医療薬学会盛会裡に閉会


 医薬分業の普及,医療過誤防止対策の強化などにより,医療現場における薬剤師の環境が大きく変化してきている。また薬学教育6年制化が2006年にスタートする中で,各領域で活躍する薬剤師はもとより,医療者・国民の間で医療薬学への関心は高まりつつある。こうしたなか,日本医療薬学会(会頭=京大教授・乾賢一氏)の第14回年会が緒方宏泰会長(明治薬科大教授・薬剤学)のもと,さる2004年10月16日,17日の2日間にわたって幕張メッセで開催された。会場には4000名を超える薬剤師などが参加,熱心な発表と討議を繰り広げた。

 薬剤師を取り巻く環境変化を反映してか,主要な疾病領域について医療現場における“くすりの専門家としての薬剤師”の役割を論じる「疾病治療への薬剤師のかかわり」や,将来を担う学生自らがオーガナイザーになった「学生の研修教育,薬剤師の質的向上のための教育」などのシンポジウムが聴衆の関心を集めた。

 本紙では,年会のために来日・講演した米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)・薬学部教授のRobert J. Ignoffo氏の講演(「米国におけるがん専門薬剤師の役割」)と独自インタビューから要旨を報告する。

Robert J. Ignoffo氏の講演・インタビューから

 1960年代から今日に至るまでUCSFは薬学領域においても臨床・研究・教育における屈指のトップランナーである。多くの優秀なPharmDを輩出し,Pharmacy School Rankingでは全米1位,同大学病院は全米病院評価でも常にトップテンに入る。その背景に,医療現場における薬剤師の積極的参加があることを同氏は紹介した。

 同大学病院における活動をはじめとする薬剤師の臨床現場への関与は,全米規模でみても,ICUにて薬物有害事象発現率を60%以上低下させることができたこと,病院経営のコスト削減(不適切な薬剤使用の削減,臨床薬学教育をベースにした服薬指導による患者のコンプライアンスの改善などで40%以上),その他臨床サービスの向上,臨床研究の前進などにもつながっている。とりわけ有害事象の低下は,ほとんどの事例で医師が薬剤師の行った薬物治療についての提言(処方,薬物治療モニタリング,医薬品情報,支持療法を含む抗がん剤の調製など)を受け入れたことにあると報告。それらの結果,今日では,質の高い患者ケアのためには――薬剤師と,医師その他医療従事者の立場・状況・任務の相違はあれ――米国医師会および米国内科学会が「医療チームの中での薬剤師の積極的な関与と薬剤師業務の拡大」を明確に求めていること,「薬剤師は治療薬にかかわる事柄(コスト削減も含めて)について医師や患者に対して積極的に教育する役割を担っていくこと」を推奨している状況を報告した。

 専門薬剤師制度については,わが国では日本病院薬剤師会が専門薬剤師認定制度特別委員会を設置し検討を進めているが,米国では1976年にその制度(The Board of Pharmaceutical Specialties)が展開されており,放射線領域,栄養(NST),癌,薬物療法,精神科領域などですでに専門薬剤師が活躍している。UCSFにおいてはそれらの領域を含む多様な有給レジデント教育が確立し,大学病院,付属の外来ケアセンター,精神科施設,小児科病院,その他の関連施設(外来・入院)で研修するシステムもとられている。

 わが国と米国では歴史の相違・国情の相違・医療制度の相違が大きいものの,わが国の関係者がこうした米国における実践を知ることは,変革期にある“医療薬学”を考えていくうえで今後重要となってくる。