医学界新聞

 

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家庭医をめざす各国の学生・研修医たちとの交流
――National Conference of Family Medicine Residents and Studentsに参加して

山下大輔(聖マリアンナ医大総合診療内科)


 アメリカ家庭医療学会により毎年7月末にカンザスシティにて開かれる,学生・研修医のための学会であるNational Conference of Family Medicine Residents and Studentsへ参加してきました。内容はワークショップや講演そして全米より集まる300以上の家庭医療専門研修プログラムの施設紹介が主であり,学生研修医のための家庭医療夏季セミナーを想像していただけるとよいかと思いますが,その規模は総参加者2631人,学生651人,家庭医療学レジデント541人と大きなものです。

充実したワークショップ

 まず目立つのは充実したワークショップです。「実習も含めた負荷心電図」,「縫合実習」,「コルポスコピー」,「ギプス固定の実習」など家庭医に必要な婦人科・整形外科などを含んだ幅広い技術を教えるものから,「家庭医にとっての研究について」,「マッチングに応募するときのエッセイの書き方」など多岐に及びます。私も3つのワークショップに参加しましたが,特に「Teaching Residents to Teach」は,先輩レジデントが後輩レジデントに指導をするときのコツについてロールプレイを通じて学ぶワークショップで,非常に役立ちました。日本でも徐々に紹介されつつある5 Clinical Teaching Microskills1)をどのように行うかを,明快なプレゼンテーションとロールプレイへのフィードバックを通して指導を受けました。

充実した施設紹介

 学会会場の多くを占めるのは,全米から集まった家庭医療専門研修施設の紹介です。現在米国には450を超える家庭医療学のレジデンシーが存在し,毎年3500人ものレジデントが生まれています。このうち300ほどのレジデンシープログラムがカンザスに集まってきます。それぞれ1-2名の指導医と2-3名の現役レジデントがその場にいることが多いようでした。

 面白いことに,決まって彼らが強調するのは,街の住みやすさ,生活や研修の過ごしやすさです。QOLを重視し,精神的にも肉体的にも安定して研修を受けることを選択するアメリカ人らしさが出ているのでしょうか。厳しさを研修の売りにすることが多い日本との違いを感じました。

 研修内容についてはいかに一般的な病気の患者さんを診られるか,そしてどれだけ実践的に研修を受けられるかを強調するところが多く,また家庭医療の特徴である外来教育の充実に重点を置いているようでした。一方で地域差や施設差もみられ,家庭医療が従来強い,中西部や西部の施設はやはり分娩が充実していることを売りにします。いわゆる一般病院(Community Hospital)では院内で家庭医療が唯一の研修プログラムというところも多く,他科との競合なく研修が行えることを売りにし,一方で大学病院では研究やカンファレンスの充実を売りにします。また大学の研修でも外来研修施設が必ず大学外に置かれ,また地域の病院での研修を組み合わせるなどして,一般的な病気を診るという家庭医療の特徴を維持しているようでした。ピッツバーグのShadyside病院のブースでは展示の真ん中に現在は亀田メディカルセンターの家庭医診療科で指導されている岡田唯男先生が赤ちゃんを診察している写真を中央に展示しており,同じ日本人としてとても嬉しく感じました。

熱い参加者たちとの出会い

 現地で数人の日本人に出会いました。その中で目立っていたのは,岡山県の水島協同病院のグループでした。研修医3人,指導医1人の4人で参加されており,果敢にさまざまな施設と話をし,ワークショップに参加されており,聞けばニューヨーク州の施設と仲良くなって大リーグの試合まで一緒に見に行かれたとのことでした2)。一緒にいらした指導医の里見和彦先生が「研修医が幸せに研修を受けられたらよいと思う,その為のヒントがあれば」とおっしゃっていたのがとても印象的でした。

 また思いがけなかったのはブラジルからの熱い学生・研修医・指導医との出会いでした。彼らとは学会前日に話をする機会があり,家庭医療はまだ認知されていないこと,家庭医療学の講座をもつ大学がないこと,彼らの学会は積極的に学生にワークショップやクリニックでの教育を展開しており,多くの学生が参加していること,学生を支援する熱い先生がいることなどを聞き,まるで日本を映す鏡を見ているようだと感じました。それぞれの国で家庭医療をこれから発展させて行こうという共通の思いもあり,とても仲良くなりました。彼らとは10月にフロリダで開かれた世界家庭医療学会でも再会したのですが,学生が発表をするなど積極的な活動をしていました。

アメリカ人医学生との出会い

 アメリカ家庭医療学会の学生組織はFamily Medicine Interests Groupとして組織化されており,各FMIGの代表が集まったセミナーにも参加をしてきました。90年代後半より米国では学生のプライマリケア離れが急速に進んでおり,学会にとっても学生に家庭医療への興味を持ってもらうことは急務の課題です。各FMIGの代表の悩みは「会合に行ったら自分しかおらず,友達に電話をしてもデートで断られた」,「専門医のローテーションにて家庭医などになるのかと卑下された」「自分の学年のうち家庭医志望は自分だけだ」等,いかにも学生らしい悩みで日本人の僕らにも共感できるようなものが多く見られました。

 しかし,全体には日本の家庭医療夏季セミナーのような,学生自身からの勢いは正直感じられません。ブラジル人の学生は,「こんなに周りに家庭医療を実践している人が多いのに,こんなに意識が低下しているのはなぜ?」と,アメリカ人の学生に詰め寄るように質問していましたが,この話し合いに参加している学生はむしろ家庭医療にポジティブな意識をもって集まっているわけで,なんとも返答に苦慮していました。

 しかし,意識が低下しているとはいえ,毎年2000人以上のアメリカ人学生が家庭医療に進んで行くのですから,まだまだ家庭医療が卒業後の選択肢となりにくい日本やブラジルとは大違いです。また家庭医療の卒業生は他のプライマリケアにかかわる職種に比較して医師の満足度は高いという調査結果があるのを忘れてはいけないでしょう。実際,今回会場で出会った家庭医療のレジデント達は非常に家庭医としての選択に満足しており,患者や社会に直接貢献できることに誇りを持っているようでした。

 ただこういった社会や医学生の間での家庭医療への理解不足は大変深刻で,この3月に結果を発表したFuture of Family Medicine Project3)は,家庭医の今後のあり方や患者さん中心の医療の構築などを通して医学生のみならず社会に家庭医を啓蒙していこうと提言しています。これはこの集まりだけでなく学会を通してのキーワードとなっており,繰り返しいろいろな場面で言及されていました。新たな家庭医の姿や定義は,今後日本において家庭医療を普及する上でも,多くのヒントを含んでいます。また一昔前の家庭医のモデルを参考にしてアメリカと同じ悩みに将来直面しないうえでも,とても参考になると感じています。

おわりに

 カンザスでの4日間は同世代のレジデントなどの今回書ききれないほどの多くの出会いや,アメリカの家庭医療の規模の大きさを感じさせてくれました。一方で成熟した家庭医療の悩みや問題点を感じたのも確かです。来年以降,日本の多くの医学生や研修医の方にもこの学会に参加し,その雰囲気を感じ取ると同時に同世代の仲間と国を越えた付き合いをし,日本の熱気をアメリカ人に伝えられれば,なおよいのではと感じました。

 今回の学会はミシガン大学医学部家庭医療科日本家庭健康プログラムの奨学金の援助のもと参加を致しました。興味をお持ちの皆さんにはぜひ応募をお勧めします。最後に奨学金を含めいろいろとお手伝いいただいた,ミシガン大学のマイク・フェターズ先生,佐野潔先生,そしてカンザスシティで大変お世話になりましたカンザス大学家庭医療科のポロック先生とそのご家族に深く御礼申し上げます。

水島に将来家庭医のプログラムを立ち上げるため,体当たりで参加した学会でしたが,研修医の顔つきはすぐに変化し,はっきりと集会にハマっていることがわかりました。実験的な今回の「世界へのアーリー・イクスポージャー」ですが,研修医の若い魂にどのようなメッセージを書き込んだでしょうか? 今後も,研修医のこういった機会が増えることを期待します。
(里見和彦氏=写真左から2人目)


引用・参考文献
1)岡田唯男:効果的に外来で教育を行う-5つのマイクロスキル,JIM: 399-403 Vol.14 No.5, 2004.
2)水島協同病院の参加記(http://www.mizukyo.jp/seibu.htm
3)The Future of Family Medicine: A Collaborative Project of the Family Medicine Community Ann Fam Med 2004 Vol.2 sup(http://www.annfammed.org/content/vol2/suppl_1/

<筆者より>
家庭医専門医をめざす若手医師のメーリングリストを行っています。参加ご希望の方は,nipponnokateii-owner@yahoogroups.jpまでご連絡ください。またミシガン大学の奨学金なども含め質問もお待ちしております。