医学界新聞

 

腹臥位療法の普及をめざして

「腹臥位療法推進研究会の研究と実践の報告」セミナー開催


 さる2004年12月11日,「腹臥位療法推進研究会の研究と実践の報告」セミナーが,東京都中央区の聖路加看護大学において開催された。このセミナーは日野原重明氏が理事長を務める聖ルカ・ライフサイエンス研究所が同研究会と共催で行っており,第6回目となる今回のテーマは「腹臥位療法のすすめ-その原理と効用」。会場には一般の参加者も多く集まり,盛況となった。

“してもらうリハビリ”から“するリハビリ”へ

 最初に登壇した眞島千歳氏(そらとびねこ訪問看護ステーション)は,これまでに廃用症候群や呼吸・嚥下障害など,約30例に対して腹臥位療法を実施。その効果を報告するとともに,リハビリテーションとして腹臥位を応用した「よつばい歩行」を紹介した。氏は腹臥位療法の特徴として,当事者自らが意欲を持って取り組める「当事者主体のリハビリ」であることを強調し,また当事者の変化が家族,看護師,ヘルパーその他の人々を刺激してかかわり方に変化をもたらすことから「介護状況がダイナミックによい方向に向かっていく」と腹臥位療法を評価した。

急性呼吸不全の治療にも有効

 尾崎孝平氏(鐘紡記念病院)は,呼吸・循環器系における腹臥位療法の効果として血流分布(換気血流比)の改善,肺胞の再拡張をあげ,急性呼吸不全の患者に対して有効な治療法となり得ることを指摘。20分-2時間の範囲で患者を腹臥位(または側臥位)にすることで症状が改善されると述べた。

 また,実施上の注意点として,体位変換は危険を伴う行為であることを十分認識し,保護枕やタオルなどを使用すること,実施中は循環動態や呼吸パターンなど患者モニタリングを怠らず,うつぶせに対する患者の不安感や恐怖にも気を配ることを説明した。

 現在氏の施設では腹臥位だけでなく体位変換が容易で圧迫も少ない前傾斜側臥位を用い,これらとNPPV(非侵襲的陽圧換気法)を組み合わせた非侵襲的呼吸管理(NIRS)を行っている。氏は「急性呼吸不全の中にはNIRSで十分可能な症例があり,こうした例では従来の侵襲的な呼吸管理を適応すべきではないのではないか」と述べ,今後NIRSを急性呼吸不全のどのような病態に適応すべきか詳細に検討していくことを課題とした。

 続いて摂食・嚥下における腹臥位療法の効果について,福井朱美氏(恵寿総合病院)が口演。胃瘻を増設した患者に対して腹臥位療法を行い,7か月後には三食経口摂取が可能となり,在宅復帰へつながった症例を紹介。「OTをコーディネーターとした経口摂取へのチームアプローチが実施できたことが大きいが,腹臥位療法によって嚥下機能が改善されたと考えられる」と述べた。

参加者も交え実技指導

 口演後は,川島みどり氏(日赤看護大)の指導のもと,参加者を交えた腹臥位療法の実技が壇上で行われ(写真),保護枕の当て方やクッションの使い方が具体的に説明された。また今回は一般の参加者が多かったこともあり,質疑応答には会場から多くの質問の手があがった。

 セミナーの最後には,丸川征四郎氏(兵庫医大)が総評として登壇し,「腹臥位療法を行う際は,患者とその家族の理解と協力を得て,手の届く範囲に目標を設定することが重要」とし,実施中は患者の苦痛やバイタルサインに注意することをあらためて強調。「腹臥位療法は運動能力や内臓機能を向上させるだけでなく,人と人とのかかわりを深める」と述べてしめくくった。