医学界新聞

 

ガイドラインと技術認定制度を議論

第17回日本内視鏡外科学会開催


 第17回日本内視鏡外科学会が,2004年11月24-26日の3日間,東原英二会長(杏林大泌尿器科教授)のもと,横浜市のパシフィコ横浜で行われた。同学会は今回から会期が1日延長され,教育セミナーの充実をはじめ,各科の領域を超えたプログラムが多数企画された。同学会では関連学会の協力のもと,技術認定制度を2004年にスタートさせたが,本紙では,特別企画として行われた「訴訟判例とガイドライン」と「技術認定が開始されて」を取り上げる。


■診療ガイドラインと技術認定制度

 「訴訟判例とガイドライン」(司会=阪医大 谷川允彦氏,西内・加々美法律事務所 西内岳氏)では,冒頭,司会の西内氏が「診療ガイドラインと技術認定制度」について,基調講演した。

 訴訟では医療水準が問題となるが,訴訟の中での医療水準の位置づけと果たす役割について,最高裁の判例を交えながら西内氏は解説をはじめた。訴訟では診療当時の医療水準によって過失の有無を判断する。それはあくまで臨床医学の実践における医療水準であり,研修医であっても専門医であっても同じ医療水準が適用される。医師には研鑽義務があり,たとえ医療慣行に従った場合でも過失が問われることがあるので,注意が必要である。

診療ガイドラインの功罪

 診療ガイドラインについては,科学的根拠に基づいて作成されている場合,他の文献よりも訴訟で重視される可能性が高い。ガイドラインの機能としては,医療側がガイドラインに則って診療を行ったにもかかわらず不幸な転帰をたどった場合,過失がないと主張する根拠になる。一方,ガイドラインに則らない診療行為により不幸な結果を招いた場合には,医療側はその症例の特殊性あるいはガイドラインに則らなかった合理的理由を証明しなければならない。

 内視鏡外科は10年余と歴史が浅く,依然として先端医療の位置づけであるので,高度の説明責任を伴う。他の治療法との比較,リスク,予後についての説明は必須である。

 訴訟は後処理であり負の側面が大きいが,ガイドラインの本来の目的は安全性,信頼性,妥当性の高い治療法の普及・促進にあるので,負の部分をあまり気にしないで,ぜひ前向きにガイドライン作成を進めてほしいと西内氏は述べた。

技術認定制度と医療水準

 技術認定制度については,認定されているから過失にならない,あるいは認定されていないから不利になる,ということはなく,ガイドラインほど医療水準とはかかわりがない。訴訟ではエラーの有無,不可抗力か否かが判断のポイントとなる。裁判官が心証をとる背景として専門医制度あるいは技術認定制度が微妙に影響を与える可能性はあるとした。

 フロアから臨床試験と医療水準について質問があったが,臨床試験の際には,治療の選択肢,術式のメリット・デメリット,予後など,インフォームドコンセントが重要であると西内氏は述べた。

 その後,診療ガイドラインの現状について,「胃・大腸」を司会の谷川氏が,「呼吸器外科領域」を岩崎昭憲氏(福岡大)が,「産婦人科領域」を塩田充氏(近畿大)が,「食道」を東野正幸氏(大阪市立総合医療センター)が,「泌尿器科領域」を松田公志氏(関西医大)が解説した。

推奨グレードCの考え方

 口演後のディスカッションでは,「内視鏡下手術と開腹・開胸手術のエビデンスが五分五分の場合,内視鏡下手術だけが厳しくみられるのは釈然としない」との意見や「最もエビデンスの高いRCTが既にできないほど,内視鏡下手術が当たり前になっている領域がある」との指摘があった。エビデンスが不明確な推奨グレードCについて議論されたが,西内氏は,医家は推奨グレードCを高く評価しがちで,一方,法律家は低く評価する傾向にあることを指摘した。そのほかに「事故が起きた時のことを考えると,推奨グレードCであることは事前に強調すべき」との意見や「内視鏡下手術がエビデンスの認められる推奨グレードBの場合,開腹・開胸手術を勧めることは患者に負担を強いることになるのでは」との意見もあった。西内氏は医療水準に足る治療法がほかにある場合は,説明義務が生じるとし,ここでも当該医療機関の具体的な治療成績開示を含めたインフォームドコンセントの重要性を強調した。まとめとして谷川氏は「診療実績を明示することも含めて,説明責任を果たして,インフォームドコンセントを取得することの重要性」について述べ,「内視鏡外科をいかに慎重に育てていくかにガイドラインの意義がある」と述べた。

■技術認定制度の現状と課題

 「技術認定が開始されて」(司会=京浜総合病院 山川達郎氏,慶大 北島政樹氏)では,冒頭,司会の山川氏が技術認定制度の背景と経緯について述べた。現状の問題点としては,(1)手技に習熟した外科医の不足,(2)初心者・指導者の不十分な教育システム,(3)不十分な設備状況,(4)病院管理者・職員の理解不足をあげ,施設間の技術的格差が大きいことを指摘した。また,今後の課題として,(1)技術認定制度申請書受付にあたって遭遇した問題点の整理,(2)技術認定審査上遭遇した問題点の整理と各領域間のすり合わせ,(3)技術認定制度運用にあたっての各領域間での約束事項の制定,(4)技術認定証取得者の責務の成文化,をあげた。

 その後,産婦人科領域(日医大 明楽重夫氏),消化器一般外科領域(富士宮市立病院木村泰三氏),泌尿器科領域(関西医大 松田公志氏),整形外科領域(帝京大溝口病院 出沢明氏),呼吸器外科領域(自治医大 蘇原泰則氏)の技術認定制度の現状と問題点が明らかにされた。最後に惠木浩之氏(広島大)が,内視鏡外科手術の技術評価システムについて口演した。