《書 評》仙波純一(放送大学教授)
いよいよ2005年から精神科専門医制度がはじまる。医師国家試験以来,資格試験を受けるなどということをしたことがない。長く精神科医をやっていたおかげで,移行措置でよいとのこと。それでもケースレポートを3例提出して,口頭試問を受けなければならない。
ケースレポートといっても,毎日の診察に追われて,簡単な退院サマリーを書き上げるので精一杯である。最近はDSMとかICDで診断名をつけなければいけないようで,神経症性うつ病などという病名はなくなったらしい。パニック障害とパニック発作の区別もちょっと曖昧である。しかし,ケースレポートともなればちゃんと正確な知識をもとに書かなければならない。細かい知識でけっこう思い違いをしている可能性もある。それを口頭試問でつつかれてはメンツにかかわる。これはもう一度,医学生に返った(若返った?)つもりで教科書を読み返すしかない。
とはいえ,医学生向けの教科書ではいくら何でも簡単すぎる。だてではないが臨床的な知識はひよっこの精神科医の比ではない(はず?)。多少厚くてもいい。これだけ知っていれば専門医としてはまあ合格というレベルの教科書がないものか。
中身はけっこう難しいが,脳の働きもここまでわかってきているのかと感心させられる。臨床面では精神科救急,リエゾン精神医学,電気けいれん療法の実際,各種の精神療法,社会的治療やリハビリテーションについての詳しい記述がある。全体に病気の症状論よりも,治療についての記述に重点が置かれている。これは読者がすでに一応の診断学を修得していることが前提となっているためであろう。特に精神療法の部分はじっくり読むと,忙しい診療の中で忘れがちな医師-患者関係について反省させられること大である。
執筆者のほとんどは講座担当者で,若手の教授から名誉教授の諸先生まで得意な分野を担当されている。よく読むと,若手の教授は新しい知識を意気込んで書いておられ,大先輩の先生はじっくりと大局的な書き方をされて重厚である。これだけの分担執筆者の記述を調整することになった編集担当の先生方はさぞかし大変であったろう。結果としては記述の詳しさにでこぼこがなく,実に読みやすい。適度なサイズの活字でレイアウトも美しい。いかにも最近の教科書という印象である。
多少の要望をあげておく。わが国には児童精神科医が少ないとはいえ,もう少し児童精神医学の部分を増やしていただきたい。また,教科書は理想を書くものであるかもしれないが,わが国で慣習的に行われている診断や治療法についての批判的な視点もほしかった。また,辞書代わりにも使える教科書なのであるから,重要な用語には必ず英文を併記してもらい,英文索引を充実してもらいたかった。治療法はできればevidence-basedな記述をお願いしたかった。しかし,これはわが国では時期尚早であるかもしれない。
ところで私が個人的に大変感銘を受けた部分は,50ページ余りある「精神医学の基本」である。これを読むと,日常雑然とたまっていた臨床的な知識がすっと整理され,精神医学という太い川に乗って流れていくようなすがすがしい気持ちになれるのである。これからの精神科専門医をめざすすべての精神科医に,老年(?),若手を問わず推薦したい。私もこれから勉強します。
《書 評》斎藤友紀雄(日本いのちの電話連盟常務理事)
自殺後に遺された家族,あるいは影響を受けた人たちが,心身ともに治療を必要とするほど傷ついていることは意外と知られていない。英語圏ではこうした人たちを「サバイバー」と呼び,これは未遂者も含んでいるが,彼らを支援するさまざまな治療的プログラムがある。日本でも各方面でサバイバー・ケアが注目されているが,本書はこの分野の絶好のマニュアルであり,明確な指針を示したものとして,先駆的・開拓的な著作である。
従来から自殺防止を,予防(プリベンション),危機介入(インターベンション),ポストベンションというように,3つの段階に分類してきた。「ポストベンション」は,一部では「第三次予防」と称して使われてきた。しかし本書の著者らによれば,一般の疾病ならばともかく,自殺は一度起きてしまったら取り返しのつかないことであり,第三次予防はありえないとする。そこで著者らは,自殺後に遺された人たちへのこころのケアであると説明し,含みのある「ポストベンション」という言葉のまま使用している。
自殺が発生すると誰彼の責任がすぐ問われるが,ここで著者たちが強調しているのは,デブリーフィングとは決して責任追及や犯人探しではない。さらにデブリーフィングはあくまでもファースト・エイドであって,フォローアップはもちろん,個別のケアないしは治療に続くべきだと重ねて強調している。
本書は自殺予防の分野に,「ポストベンション」という新しい可能性と展望を示したものとして先駆的な意味を持っている。編集者2氏のほか下園壮太,藤原俊道,山下千代の3氏らも共同執筆しており,それぞれの呼吸が合ってこころにくい。精神保健分野だけではなく,企業メンタルヘルス,教育・福祉の分野でもぜひ読んで欲しい好著である。
《書 評》檀 和夫(日医大教授・第3内科)
本書の構成は,Ⅰ.診断に関する一般的概念,Ⅱ.血液疾患のうち代表的なものの基本的知識,Ⅲ.血液悪性腫瘍の重要事項,Ⅳ.癌患者の全般的なケア,Ⅴ.代表的固形腫瘍の知識,Ⅵ.小児の代表的腫瘍,Ⅶ.HIV関連疾患,Ⅷ.腫瘍遺伝学となっている。Ⅳの癌患者の全般的なケアの章では,疼痛対策,化学療法の合併症,など実際的な事項以外にも,癌治療の心理社会的側面,緩和ケア,ホスピスといった,知っておかなくてはならないが,あまりなじみのない事項も取り上げられており,大変興味深い。また,Ⅶ章では,HIV関連の悪性腫瘍や血液学的異常が記載されており,これらも今後ぜひとも知っておかなくてはならない知識であろう。Ⅷ章では癌遺伝学,癌患者のカウンセリングにも触れられている。 難易度の表記で試験対策にも役立つ
奈良博士も述べているように,従来の翻訳書にありがちな逐語訳が避けられ,日本語として自然に読めるように配慮されている。また,奈良博士のアイデアで,各問題には難易度のレベルが記されており,国家試験や専門医試験を受ける時によい指標となりそうである。なお,本書の巻頭には16枚のカラー写真と本文中に数枚の白黒写真が挿入されているが,これらは色,濃淡,鮮明度などがいまいちであり,あまり有用とは言えない。
本書は前述のごとく体系的な項目立てにはなっていないため,知りたい項目を探して調べるのには不向きであり,むしろ暇な時間(例えば通勤電車の中など)に読み物風に興味のあるところをピックアップして質問の解答を考えながら読んでいき,同時に知識を増やすといった使い方がよいかもしれない。ぜひ一読をお勧めする。
《書 評》西條長宏(国立がんセンター東病院副院長)
現時点におけるがん治療は,早期がんに対する手術療法以外すべて臨床試験の域を出ないと言っても過言ではない。しかし,新薬開発のために製薬メーカーが行う治験以外では実際にまともな臨床試験は限定されたグループでのみ行われているのが現状である。
よく週刊誌や新聞に施設別5年生存率が出され,あたかもその差が治療技術の差であるかのような報道がなされる。また,厚生労働省においてもその数字を把握するのに多大な研究費を投入する。このような話を聞くにつけ赤面の思いを禁じえない。
がんの臨床試験はこの本の副題-臨床医と統計家の協調をめざして-にある如く,臨床腫瘍医は統計家のことを,統計家は臨床腫瘍医のことをお互いに理解しあう必要がある。わが国ではいずれのポピュレーションも欠落してきた。問題の根幹はわが国の内科学に臨床腫瘍学のカテゴリーがなく,大学に臨床腫瘍学講座がないことによる。第三次対がん十か年戦略ではこの点をも見据えたプランの具体化が必須と思われる。しかし,この国家百年の計の実現を待っていては,急速に進む学問の流れに対応できない。すなわち臨床腫瘍医が細々と養成される過程で,行えることを実行する必要がある。
統計の本といえば難解な数式が並び,どのように頑張っても途中で眠くなってしまうようなものが多い。今回の訳本には2つの大きな特長がある。1番目はDr. John Crowleyらによる原書自体が具体例を中心として極めてわかりやすく記載されていること,すなわち数式はほとんどなく,臨床腫瘍医向けの構成がなされている。2番目は福田・新美・石塚の各先生による邦訳がよく推敲されており,読みやすくなっていることである。
この訳書には現在臨床試験に携わっている研究者だけでなく,がんの診断・治療に興味を持つすべての研究者にとって臨床試験の意義を理解するのに必須の内容が含まれている。日本臨床腫瘍学会の会員はもちろんのこと,がんの研究をしようとする研究者にとっては研究の開始前に必読の書と思われる。
《書 評》松田淳子(協和会病院リハビリテーション科)
実は,本が出ることを知っただけでわくわくしていた。
著者であるCarr,Shepherdの著書は1991年に『脳卒中の運動訓練プログラム』(横山巌監訳,医学書院)の邦題で日本に紹介されている。具体的な動作課題をとりあげ,課題の分析から日常生活で実践できるようにするまでのアプローチをあくまでも具体的に記したその本は,当時声高に言われだしていた課題指向型アプローチを,そして運動学習のプロセスを具体的に理解させてくれるものだった。「具体的」を羅列したが,当時日本にはそのような本はなかったし,動作分析が大事,運動学習を学ばなければ,といってもそのことを具体的に記してくれた本はなかった中で,その本は斬新だった。
ずっと,新しい本が出たらいいのに(もちろん日本語で)と思っていた。その著者たちの本である。わくわくしないはずがない。
原書の副題には「Guidelines for Exercise and Training to Optimize Motor Skill」とあるが,脳血管障害者のモータースキルを最適化するための運動課題に対するアプローチのガイドラインが具体的に記されている。特に脳血管障害者が生活のために絶対学ばなければならないいくつかの動作に関しては,正常運動学,観察による脳血管障害者の呈する問題点,アプローチの方法がバイオメカニクスの観点を中心にあくまでも具体的に述べられている。また,脳血管障害をモデルにしていることからパフォーマンスの加齢による変化についても述べられ,noteとcheckという項目ではそれぞれ練習場面で注意することやチェックすることが端的に示されている。経験の少ない理学療法士や学生にとっては日常の臨床や実習で即役立てられる内容である。
さらに本書にはそれぞれの課題のアプローチに対する効果を評価するための方法が示されている。効果を標準化したツールで評価し,蓄積することが課題の脳血管障害の理学療法分野にとっては有益な構成である。
読んでいて違和感のない日本語訳もありがたかった。訳者の方々のご苦労にも感謝したい。
脳血管障害者の理学療法を学んでいる人,すでに脳血管障害を持った人と向き合っている人,脳血管障害者の理学療法の展開に悩んでいる人,どの立場の人が読んでもきっと得るものの多い1冊である。ぜひ手にとって読んでいただきたい。
B5・頁264 定価5,040円(税5%込)医学書院