医学界新聞

 

治験の普及には何が必要か

「治験促進のための産官学合同フォーラム」開催


 さる11月3日に,日本医師会治験促進センターによる「治験促進のための産官学合同フォーラム」が,東京都文京区の日本医師会館において開催された。医師主導型治験が本格的にはじまり,また日本医師会や国立病院機構による治験ネットワークの整備が進む中,現在の治験をめぐる問題と今後について活発な議論が行われた。


整備が進む治験ネットワーク

 最初に登壇した矢崎義雄氏(国立病院機構理事長)は,わが国における治験の問題点として,病院間の連携が不十分であったこと,費用および時間がかかりすぎることを指摘した。現在国立病院機構では全国154病院のネットワークを利用し,質の高い症例を多数提供することにより迅速な治験の推進をめざしている。氏はさらに,企業などの治験依頼者側に対しても,症例あたりの単価を10%下げ,未実施症例の請求をしないなど,治験費用を軽減するための取り組みを行っていることを説明。ITを利用したデータ管理や診療所臨床医との連携体制の構築を今後の課題とした。

 続いて青木初夫氏(日本製薬工業協会長)は,製薬企業から見た治験の現状について講演。「新薬の上市確率はきわめて低い」と述べ,創薬研究の段階で仮に1万種の化合物を発見したとしても,前臨床試験まで進めるのはそのうち5-10種,最終的に治験をクリアして承認されるのはわずか1種という新薬開発の現状を説明した。また,承認までには平均して10-15年かかり,その大部分が前臨床試験および臨床試験であることも指摘。特に治験を含む臨床試験に要する年数が長期化の傾向にあり,積極的なCRCの導入,治験外来の設置による効率化が望まれると述べた。

 寺岡暉氏(日本医師会治験促進センター長)は医師主導型治験の意義とは,「企業による治験では扱われないが,日々の診療や患者の視点から必要と思われる薬品の治験を医師自らが行う」ことであると強調。日本医師会治験促進センターとして,医師主導型治験の実施基盤の整備や,医師向けの治験マニュアルの作成など積極的に取り組んでいく方針を明らかにした。

治験について総合的に議論

 講演後のパネルディスカッションでは,矢崎氏,青木氏に加え安達一彦氏(厚労省),上田慶二氏(医薬品医療機器総合機構),中野重行氏(日本臨床薬理学会),三上裕司氏(日本医師会治験促進センター),石井苗子氏(女優/キャスター)といった演者が,それぞれの立場から治験に対する意見を述べた。

 まず「わが国において治験の活性化は可能か?」というテーマについて,安達氏は文科省と厚労省が共同策定した「全国治験活性化3カ年計画」について説明。2003年度に「がん」「循環器」「小児医療」の3領域において大規模治験ネットワークを構築し,さらに地域における治験ネットワークに対しても「治験推進ネットワークモデル事業」,「治験推進地域ネットワーク事業」といった支援を行っていることを述べた。今後はさらに,治験実施体制の充実をめざしてCRCの養成や,治験の電子化,ホームページによる国民への啓発活動にも取り組んでいくという。

 また,上田氏は今年4月に創設された医薬品医療機器総合機構の活動について紹介。同機構では,治験における承認審査の効率化をめざし,治験申請者に対するサポートを行っている。氏は適切な承認審査資料の条件として「有効性証明のための適切な対照薬の選定やプラセボの活用」,「安全であることのみを強調せず,問題点があれば対処法を明確に示す」といったポイントをあげた。

社会への啓発活動が課題

 このように治験の基盤整備が進んでいく中で,石井氏は「治験=人体実験というイメージを持っている一般人は少なくない」と指摘。国内での治験が減少し,「治験の空洞化」が起こっていることについても,日本人と欧米人の体質の差を理解している人は少なく,「海外で治験をしてくれるのであれば,わざわざ日本で治験を行わなくてもよいのでは」という意見が聞かれたことを紹介。社会への情報発信の必要性を訴えた。

 中野氏は学問的な立場から発言。臨床薬理学の役割とは質の高い合理的薬物治療をめざし,治験を含めた臨床研究によってそのエビデンスをつくることであると定義。また「治験とは住民参加型医療である」と述べ,治験の実施によってインフォームド・コンセントやチーム医療など,医療施設のレベルが向上すると指摘。今後は医師国家試験に臨床試験についても盛り込むことが必要なのではないかと提言した。

会場もまじえて課題を検討

 今回のフォーラムでは,キーパッドを利用し,参加者からも意見を募集した。「わが国における治験の活性化に必要なことは」という問いに対しては「医師のモチベーションアップ・知識の向上」が最も多く,「国民への啓発活動」「審査制度の質と速さ」といった声が続いた。

 また,「日本医師会に期待すること」では「一般診療医の治験参加支援」,次いで「治験に対する医師へのインセンティブ」,「国民への啓発活動」という結果となり,今後の課題が浮き彫りとなった。

 最後にまとめとして三上氏は「大学病院などで行われる医師主導型治験を推進することはもちろんだが,医師会としては,小規模医療機関の医師がこうした治験に参加できるよう後押しすることも大事。難病は症例の集まりやすい大病院,生活習慣病や慢性疾患は中小規模の医療施設が担当するなど,病院の性質に応じた治験の機能分化も必要なのではないか」と提言してフォーラムを締めくくった。