第2611号 2004年11月29日


がん治療の「心」を語る

第42回日本癌治療学会開催


 第42回日本癌治療学会が,山岸久一会長(京都府立医大)のもと,さる10月27-29日の3日間にわたり,京都市の国立京都国際会館において開催された。

 がん治療の目覚ましい進歩によって治療成績は向上し,近年では治療後のQOLが重視される,「やさしいがん治療」が求められるようになっているという背景から,今学会掲げられたメインテーマは「心」。各科データベースに基づいたがん治療指針や,専門医制度といった学会としての取り組みの他,各科の最新の治療法や緩和医療なども含めたさまざまな角度からの話題が取り上げられ,心あるがん治療をめざした議論がなされた。


■専門医制度への各学会の取り組み

 特別企画「癌治療専門医制度を考える-国民により良いがん治療を提供するシステムについて」(座長=慶大 北島政樹氏,国立がんセンター研究所 廣橋説雄氏)では,学術集会前日に同学会理事会で承認された,「日本癌治療学会がん治療専門医制度」の概要が報告された他,がん治療にかかわる各学会が進める専門医制度についても紹介された。また,厚生労働省,日本医師会のそれぞれの立場からもがん医療について発言があり,国民がよりよいがん治療を受けることができるための課題が議論された。本号ではここでなされた議論の一部を報告する。

日本癌学会は専門医育成をサポート

 はじめに日本癌学会理事長の今井浩三氏(札幌医大)が登壇。日本のがん治療の現状について,質の高いがん化学療法専門医の育成が不十分であることや,大学病院に化学療法科がほとんどないことなどといった背景から,がん治療の専門医育成と制度の確立が重要になると指摘。さらに,がん治療専門医に求められるものとして,分子医学,がん診断の知識と実践的理解,専門的知識の習得と一定期間の臨床研修,集学的治療の理解,治療法選択のdecision makingなどをあげた。

 そのうえで氏は,日本癌学会は専門医制度をサポートしていく立場にあるとし,その立場から貢献できうることとして,臨床研究につながる可能性のある基礎研究を推進させることや,トランスレーショナル・リサーチの基盤を構築し,臨床と基礎研究の連携を図ることをあげた。また,学会の方針として確定してはいないものの,がん治療専門医のための研修カリキュラムに必要な基礎的知識を習得するための企画を,同学会学術総会前日の企画などとして作っていきたい考えを示した。

 座長の北島氏が腫瘍教育講座の必要性について指摘すると,今井氏は,大学に腫瘍医学講座を立ち上げられるよう働きかけていくことも日本癌学会の役割になると述べ,がん医療の充実は卒後教育だけでは難しくなるとの考えを示した。この問題に関連して,佐々木康綱氏(埼玉医大)が会場内から発言。「現在でも卒前教育はあることはあるのだが,系統立っていないことが問題。卒前から卒後までつながる,一貫性のある教育が必要」と指摘した。

他学会との連携も視野に入れた日本癌治療学会の専門医制度

 本学会前日に理事会承認を得た日本癌治療学会におけるがん治療専門医制度については,同学会専門医制度委員会委員長を務める吉野肇一氏(慶大)が発言した。

 氏は,医療事故が続いたこともあり,国民からのがん治療専門医を求める声が強まったことから,がん治療にかかわる全科を含む最大の学会である同学会が専門医制度を作る必要があったと説明。その目的について,全診療科におけるがん治療の共通基盤となる臨床腫瘍学の知識・技術に習熟することなどと紹介した。最初の専門医認定試験は2005年の10月に行われ,2006年1月にはがん治療専門医の第1号が誕生する予定だ(専門医制度認定要件等の詳細については,同学会のホームページを参照されたい)。

 さらに氏は,がん治療専門医制度のめざす姿として,癌学会や腫瘍外科系学会,臨床腫瘍学会などとの連携についても視野に入れた取り組みをしていくことを強調し,締めくくりに,「内科だけでも,外科だけでもできない,すべての科が協力して治療にあたっていくことが,『心あるがん治療』ということではないか」と述べ,がん治療における集学的治療・各科専門医の連携の重要性を示唆した。

放射線腫瘍医が足りない

 西尾正道氏(北海道がんセンター)は,日本放射線腫瘍学会広報委員としての立場から,日本のがん治療の現状について,手術優位の姿勢,多い抗がん剤使用量,貧困な放射線治療体制の3点を指摘したうえで発言した。同学会認定医は2004年9月現在で418人。ところが,認定医数の地域差が激しく,認定医のまったくいない県もある。氏は日本における放射線治療の問題点として,こうした放射線治療医のマンパワー不足の他にも,放射線治療医は紹介されてはじめて診療できる立場にあることや,医学物理士(放射線治療管理士)などの雇用がないこと,放射線治療の教育や認識の不足,アンバランスな診療報酬などをあげた。

 氏はさらに,がん治療専門医の必要条件として,すべての治療法を理解し,適切な治療法の選択ができることを第一にあげ,これが最も遅れており,特に正しく放射線治療の適応を理解している医師が少ないと指摘した。

薬物療法の専門医育成をめざす日本臨床腫瘍学会

 日本臨床腫瘍学会からは堀田知光氏(東海大)が発言。氏は,日本の臨床腫瘍学の現状として,根拠に基づかない化学療法の横行や,腫瘍関連の臨床系学会における教育カリキュラム・プログラムの不備などを指摘。同学会がめざすものとして,臨床腫瘍医(=がん薬物治療専門医)の育成,世界的に通用する臨床腫瘍医を育てるための教育体制の確立,日本で良質のエビデンスを創生すること,標準的治療を普及させることの4点を示したうえで,同学会の教育,専門医制度について紹介した。

 また,私見として,がん治療においての外科療法,薬物療法,放射線療法は別枠であろうこと,また,疾患別・臓器別のがん治療の専門医は治療法の進歩を共有しにくいといった点を指摘。さらに,第三者機関によるがん治療専門医認定が必要になるとの考えを示した。

■外来化学療法に集まる関心

 がん化学療法の発展,副作用対策の進歩に加え,外来化学療法加算,包括医療の導入にともなう入院期間短縮の必要性から,外来化学療法を行う化学療法ユニットの整備運用が各地で進められており,実施件数も年々増加している。パネルディスカッション「外来化学療法の支援」(座長=金沢大 高橋豊氏,国立がんセンター東病院 大津敦氏)では,積極的に外来化学療法が進められている各地の施設から,各施設の取り組みについて報告がなされた。会場には立ち見がでるほど,多くの参加者の関心を集めたセッションとなった。

各施設で進むシステム整備

 演壇に登ったのは,柳原一広氏(京大),里見絵里子氏(国立病院機構大阪医療センター),石岡千加史氏(東北大),小谷美智代氏(大阪府立成人病センター),蔵並勝氏(北里大),鈴木修司氏(八王子消化器病院),小牟田清氏(大阪警察病院)の7名。外来化学療法室,あるいは外来化学療法センターの設置,看護師・薬剤師を含めた支援体制の確立,電子カルテの利用,クリニカルパスによる標準化などを含め,安全性の確立したシステム作りのための,それぞれの取り組みが報告された。

 各施設ごとの報告の後に会場も含めたディスカッションの機会が設けられた。すでに外来化学療法専任の医師が配置されている施設もあるが,議論の中では,外来化学療法の実施については各診療科によって温度差があり,コスト的な意味でも専任は難しく,外来化学療法導入にあたっては,担当医師を兼任で配置するという形が院内のコンセンサスを得やすいのではないか,などといった指摘もあった。また,外来化学療法実施当日の患者の状態によって薬剤の減量を検討しなければならない際の判断はどこがするかという問題については,基本的に主治医が判断するという施設と,外来で判断する場合がある施設とがあることが明らかになった。