医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


英語論文作成に欠かせない1冊。様式を知っておくことも重要

APA論文作成マニュアル
APA(アメリカ心理学会) 著
江藤裕之,前田樹海,田中建彦 訳

《書 評》萱間真美(聖路加看護大学教授・精神看護学)

汗がどっと吹き出した 校正依頼のメール

 ウイルス添付の外国からのメールを見ると,反射的に削除する技を身につけた今日この頃,職場から帰宅しようとしてメールを覗くとまたもや添付つきの……削除にかかろうとしてもう一度タイトルを読むと,それは2年越しの査読をクリアして,やっと掲載が決まった米国の雑誌からの校正依頼のメールだった。編集委員長から聞いていたより3か月早い。48時間以内にPDFファイルに挿入されているすべての疑問点を明確にして,書き込んで印刷して,Faxで送り返さなくてはならない。しかし明日から2日間役所の会議だ。終わるのは多分深夜になるだろう。とすると,今夜しかない。汗がどっと噴き出す。

 共著者の所属,役職は半数以上変わっている。問い合わせて英語で書き,挿入箇所を示す。そのとき使うのは……どの記号だっけ。引用文献の出版社の表記方法,どの順番で書くんだっけ。にわかにパニックになろうとする視界の隅に,書評を依頼されたAPAマニュアルの日本語版が。装丁がオリジナルと色違いなだけなので見慣れていて見つけやすい。慌ててページをめくる。編集が政府などの機関である場合の引用文献の書き方,編集者が著者の場合の引用文献の書き方,そして校正記号の例。もちろん私だって手元には英語版も持っている。投稿前の時間のあるときならば,英文のマニュアルでも使えるのだ。しかし,48時間以内と期限を切られ,短時間に緻密で間違いのない手順を要する時には,日本語がありがたい。書評用の美しい本だった本書は,こうして瞬く間に力を込めて見開かれ,私の愛書とともに使いこなされる運命となった。

第一印象で損をしない

 改めて紹介したい。APAはアメリカ心理学会の略であり,このマニュアルはこの会が出版している英文論文作成の手引書である。心理学をはじめとして,医学,教育学,看護学の領域では広くこの様式がAPA方式として投稿規定に用いられている。冒頭に述べたような,看護学の論文を米国の雑誌に投稿するというような状況では,この本はバイブルだ。博士課程を持つ大学では,博士論文の作成要領もまたこのAPA方式に準じているところが多い。本書を訳されたのは長野県看護大学の若手教員と外国語担当の教員であり,その発端は論文の作成要領をまとめる際の作業であったという。日本語に翻訳されたとはいえ,本書の目的はあくまでも英文の論文作成であり,英語表記上の注意点が述べられており,例文はオリジナルの英文がそのまま掲載されている。お勧めなのは付録の投稿時の編集委員長へのカバーレター見本である。自力で書いていたころは基本的なマナーさえ知らなかった。ビジネスレターの本を参考にへんてこな手紙を書いたものだ。科学の世界は発見の内容がすべてとはいっても,それは建前であって,様式を知っていて損をすることはない。第一印象で損をしないということは言語的ハンディを持つ私たちには重要なことだ。

 英文の論文投稿で自分の仕事を英語圏に発信し,そこから直接反響をもらうことは楽しい。日本への留学を希望するメールや,共同研究や本の共同執筆を希望するメールなど,論文の掲載をきっかけに新しい展開がある。投稿と執筆のルールさえ知っていれば,英語圏への発信は可能だ。

 さて,今回の論文への反響のメールをウイルスメールと間違えて削除しないようにしなければ。どんな展開があるのか,ちょっと楽しみである。