第2609号 2004年11月15日


レジデントサバイバル 愛される研修医になるために

CHAPTER 9
患者理解の第一歩(前編)

本田宜久(麻生飯塚病院呼吸器内科)


前回からのつづき】

 今年1月よりはじまった連載も9回目。患者対医師のコミュニケーションを取り上げたい。学びの多い文献や書物がたくさんあり,筆者のような未熟者が述べるのは傲慢かもしれないが,ここでのテーマはあくまで患者理解の“第一歩”。筆者が医師となり3年くらいで強く実感したことを,体験として紹介したい。この章での研修医はすべて筆者である。

 今回紹介した内容全体を眺めてみると,「自らの感情を制御する」という課題が医師患者関係確立の第一歩であるように思える。気の合う仲間と仲良くして過ごせば済むことが多かった学生時代。相性が悪い時の対処法は大学では習わない。新たなプレッシャーが新社会人である研修医に立ち向かってくる。

第一印象を大切に(悪印象なら丁寧に)

 ある日の救命センター。はじめての当直。研修医は不安と期待でいっぱいの模様。指導医から,アドバイスがあった。

指導医「さて,気をつけるべき患者さんの見つけ方は知ってる?」

研修医「え? ちょっとわかりません」

指導医「いい方法がひとつある。簡単な方法」

研修医「うーん。外見?」

指導医「違う。答えは第一印象。自分が嫌な気持ちになった時,たいてい相手も同じように嫌な気持ちになっている。自分が陰性感情を持った時こそ,丁寧に対応すべき」

研修医「なるほど!」

コメント

 このような考え方が学問的にはどのように説明できるのかは,知らなくて申し訳ないのだが,「立ち向かう人の心は鏡なり」という言葉が古くからあると聞く。簡単に考えても,自分に好意を抱いてくれる人に好意を抱き,悪意を持っている人を警戒する。本心はなんとなく伝わるものである。この考えは私が1年目のはじめに総合診療科部長から教えていただいたもので,今でも非常に役に立っている。

CAUTION

とはいえ,好印象だから相手もそうとは必ずしもいえない。特に高齢者は感情を押さえて,こちらに合わせてくれていることがありうる。こちらの都合ばかり伝えていないか,自己吟味する態度も重要。

救急は「動きながら考える」

 ある日の外来。45歳男性A氏が,腹痛で前かがみになって診察室にやって来た。椅子に座れず,横にあるベッドに倒れるように寝転がった。研修医は型どおり,名を名乗り,いわゆるオープンクエスチョンからはじめた。

研修医「こんにちは,内科の○○と申します。今日はどうされましたか?」

A氏「腹が痛いから来てんだよ!!」

 A氏はあきらかに怒っている。研修医は,「なんだ,いきなり」と少し不快になった。「惑わされず,基本が大事。しっかり病歴をとろう」と思い直し,椅子に座ったまま,痛みの発症時間,部位,正常,放散痛,関連症状,経過などを聞き,丁寧にカルテに書いていた。下痢もあるとのこと。そして,

研修医「ええと,海外旅行には行きましたか?」

A氏「関係あんのか? 痛いんだよ,こっちは!!」

 いきなり攻撃的な態度にしどろもどろの研修医。指導医がそれをみて,「点滴ルートをとろう,痛み止めもまず使おう」と,患者のベッドサイドにすぐに近づいた。

コメント

 患者A氏の気が短いのも事実であろうが,考えてみれば怒るのも当たり前である。ひどい腹痛で来院したのは明らかな状況。椅子に座ったまま涼しい顔で「どうされましたか?」と聞かれ,対岸の火事のような態度に腹を立てたのだろう。患者の要求は,「まずは痛みをとって欲しい」であり,医師の座っての問診を診療とは思えなかったようだ。この場合,スピードある行動こそ丁寧な対応である。

 研修初期にはどうしても,「話を聞いて,記録して,考えて,対応する」という作業を順番に,別々に行ってしまい,時間がかかってしまう。「動きながら考える内科エマージェンシー」の第一歩は,まず腰をあげることである。そして,患者の橈骨動脈を触りながら,名を名乗り問診を開始すれば,ABC(気道,呼吸,循環)の大まかな観察は終わる。研修1年目の冬には,「聞きながら記録し,診察しながら問診する」能力を身につけていて欲しい。もちろん,記録を後にし,聴くことが必要な場合もある。

イラスト/小玉高弘(看護師)
救急は「動きながら考える」
来院の理由が明らかなら,スピードある行動こそ丁寧な対応。「聞きながら記録し,診察しながら問診する」能力を身につけよう。

第一印象を疑え

 10代の女性A。夜10時過ぎに救命センター受診。すこし厚めの唇にほどこされた口紅は,やや暗い赤色でてかっており,とがったピアスが片耳に数個かざられている。診察室に座ると,足を組み。突然話しはじめた。

女性A「妊娠しちゃったんだけどぉ。堕ろすのに,(胎児の)大きさで値段が変わるって聞いたからぁ。大きさ測って欲しいんだけどぉ」

研修医「あ,そうですか?(「おわぁ,こんな奴が世の中にはいるんだあ!? とりあえず,エコーで赤ちゃんの心臓の動きを見せてやるしかないだろう。それで気持ちが変わらないかなあ」と内心びっくり)」

 ひとまず,腹部エコーで胎児を描出。婦人科にも診察を依頼。その後,「なんにも考えていないんだなあ」と嘆きつつ,診察終了。この件に驚いた研修医は,後日,カンファレンスで相談した。

研修医「……というわけで,堂々と『堕ろすから大きさ測れ』って言うんで,呆れましたよ!」

指導医「ふーん。その人誰かと来てた? パートナーか家族はいっしょだった?」

研修医「あ,そう言えば……。たしか一人で来てました」

指導医「なんでだろうね。誰にも相談できてないのかな?」

研修医「‥‥‥。」

指導医「堂々としてた? 内心,ドキドキだったりして。足を組んでるのも,気になるね。先生にいろいろ言われたくないっていう防御反応だったりするかもね」

研修医「先生,深い,深いっす! 第一印象で自分が相手を否定してました」

コメント

 第一印象を大切にして,陰性感情発現時には丁寧な対応をすることを習慣づけたのならば,次は「自分の第一印象は正しいのか」と振り返ることをお勧めしたい。振り返ってもうまく解決できないことも多々あるが,それでも,自分はこの問題を解決できていないと自覚できること自体がよい収穫である。

 このカンファレンス以降,客観的に自分を把握し,感情をコントロールするために,以下のような思考プロセスを筆者は実行している。

1)直面している事実はなにか(状況把握)
 「堕胎したい」と堂々と発言している女性に遭遇した。

2)事実を自分はどう受け止めているか(感情の発見)
 堕胎はあまり嬉しくない。ましてや堂々と言うなと腹を立て,唖然としている。

3)その受け止め方はどうして沸き起こったのか(自己吟味,自己発見)
 救命センターで当直するのは救命のためなのに,落命に協力している矛盾。命を守ろうとしない女性は,当直の目的に反している。

4)本当はどのように受け止めたらよかったのか?(新たなる感情の構築)
 本当に彼女は堂々としているんだろうか? 自分が堂々とふるまっている時は,本当は早く立ち去りたいことが多いゾ! こちらにあれこれ言われたくない態度の裏返しなのか?

5)じゃあどうするか?(新規展開)
 彼女の人生にもいろいろあるんだね。誰もついて来てないし,結構つらいのかもね。今日会うだけの自分なんだから,普通に対応しよう。できることはする。できないことはできない。それでよいのではないか。

 1-5)のことを簡単に言えば,「自分の状況と感情を客観視し,自分の感情をすこし横に置いて,相手の気持ちを考える。そこで,よりよい言葉や態度を考える」ということ。

 子どもの時,親や学校の先生から「相手の気持ちになってみろ」と教えられてきたまんまである。自分が陰性感情を持ったことについて,自分で自分を責めないことが長続きの秘訣。

その他の事例

●アルコール依存症の人が傾眠でやって来た。エタノール血中濃度も高い。苛立ち,それ以上検査せず入院させた。翌日も意識回復せず。頭部CTで重度の慢性硬膜下血腫があり,緊急開頭。

次回につづく




本田宜久
1973年生まれ。長崎大卒。麻生飯塚病院での研修医時代より院内でのコミュニケーションに興味を持ち,以来事例を集めている。
yhondah2@aih-net.com