第2609号 2004年11月15日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


小児の症候学,臨床検査医学の教科書としての風格

今日の小児診断指針
第4版

五十嵐隆,大薗惠一,高橋孝雄 編

《書 評》山野恒一(大阪市大教授・発達小児医学)

第3版に感じた物足りなさを払拭

 本書は「今日の小児治療指針」とペアで企画され,1988年2月に初版が発行された。第4版は5年ぶりの改訂である。これまで本書の編集企画は小児科学会のベテランの先生が携わってこられたが,今回は若さあふれる新進気鋭の先生が担当され,随所に新しい企画が盛り込まれ,新鮮な思いで読ませていただいた。

 書名のごとく,本書は臨床の場で小児疾患の診断に役立つ書として世に出された。多くの小児科医は目前におられる患者さんの診断に関する知識を確認するためによく利用されてきたのではないかと思う。確かに,本書第3版は限られたスペースに小児疾患の診断に役立つ項目を的確に選び,明瞭簡潔に記載されているが,実際使用してみると何か不足を感じていたのは私だけではなかったと思う。

 第4版の構成は“正常発達の評価”,“バイタルサインの見方・取り方”,“症候編”,“検査編”の4章からなり,小児の139疾患の診断基準,診断の手引きが付録として掲載されている。第4版で特筆すべき点は検査編の中に,各種培養,細菌・ウイルス感染症迅速診断,生理検査,病理検査,心理検査,知能検査の6項目が新たに追加されたことである。これらは小児科臨床の現場で重要な項目であるが,第3版では取り扱われていなかった。第3版で抱いていた物足りなさはこの点であった。

追加された重要項目

 新しく追加された項目をもう少し詳しくご紹介したい。一般小児科臨床で頻度の多い疾患は感染症である。「各種培養」の項目では検体採取から検査室へ検体を届けるまでの方法,および各検査で検出された細菌,真菌の解釈について具体的に記載されている。また,疑われる疾患に対して,検査材料をどこから採取すればよいのか,どのような起炎菌が多いかを示す一覧表は臨床現場で働く小児科医に有益な診断的情報を提供してくれるものと思われる。また,「細菌・ウイルス感染症迅速診断」の項目では日常の小児科診療においてベッドサイドで使用頻度の高い迅速診断キットについて,ていねいに説明されている。「生理検査」の項目では心電図,呼吸機能検査,脳波,筋電図-神経伝達速度,起立試験が取り上げられ,異常所見とその解釈について理解しやすく説明されている。「病理検査」の項目では骨髄,肝,腎,筋,皮膚,消化管粘膜,気管支・肺の生検材料の処理の仕方,所見の解釈の仕方,各疾患の特徴的所見について記載されている。心理検査は一般の小児科医にとっては馴染みの薄いものが多い。しかし,「心理検査」の項目ではどのような子どもにどのような検査を施行すればよいのか,また,その解釈についても,比較的理解しやすく説明されている。

 このほか第3版でも取り上げられていた画像診断の項目はページ数が増加し,45ページとなっており,各疾患に特異的画像とその説明がなされている。本書第4版は小児科の臨床現場での知識確認に使用するだけでなく,知識を整理する意味で通読することもお勧めしたい。本書は小児の症候学,臨床検査医学の教科書としての風格を漂わせているように私には感じられた。

B5・頁716 定価16,275円(税5%込)医学書院


世界中の病理学者が診断の礎とする教科書

Rosai and Ackerman's Surgical Pathology, 9th ed
Juan Rosai 著

《書 評》藤盛孝博(獨協医大教授・病理学)

 本書は,世界中の多くの病理学者が診断の礎としている外科病理学の教科書といっても過言ではなく,実用書としての有用性には定評がある。Lauren V Ackerman(1905-1993)による著書として1953年に初版が出版されて以来,すでに50年以上の歴史がある。前回の改訂から8年が経過し,Juan RosaiにとってはAckermanを亡くして2回目の改訂版である。この第9版では4000を超える図がすべてカラーで掲載され,今風の仕様として組織像およびその説明が付属のCD-ROMにも収録されている。CD-ROMはPDFファイルとスライド形式が選択できるようにプログラムされており,選択した画像(スライド)の編集も容易である。序説やマクロ観察,特殊技術の3章を筆頭に,臓器別内容が28章にわたってまとめられている。そのほとんどはAckermanとRosaiの手によるものであるが,肝臓(Valeer J. Desmet),腎臓(Nelson G. Ordonez),骨髄(Richard D. Brunning),中枢神経(Marc K. Rosenblum),末梢神経・骨格筋・下垂体(Juan M. Bilbao, Lee Cyn Ang)はかっこ内に示した各々の専門家が執筆している。また,巻末の“付録”には報告書の書き方や検体の扱い方あるいは臓器の切り出しなどについても簡潔にまとめられている。

どの章も各分野の専門家のニーズに応える内容

 序文のなかで,Rosaiは以下のようなことを述べている。「免疫染色の出現は外科病理の枠を大きく広げた。さらに近年の遺伝子工学的手法の進歩によって新知見が得られ,我々は外科病理の新たな転換期の渦中にいる」。その意は本書でも特殊技術の項(special techniques in surgical pathology)に反映され,免疫染色をはじめとした記述の充実と,DNA microarrayやmicrodissectionといった検索方法の追加がみられる。各々の免疫染色用抗体に対する説明と“top choice”,“desirable”といったランク付けをしたリストも前回と同様であるが内容が更新されている。また,特殊技術の最後の項には癌遺伝子や癌抑制遺伝子と疾患とのかかわりに対するRosaiの私見が追加されている。どの章をとってみても各章を専門と自負する病理医のニーズに答えているというところが凄いと感じる。

 1970年代において,炎症から腫瘍までを網羅した外科病理学の教科書は『Ackerman's Surgical Pathology』ひとつといってよい時代であった。まさに,『Ackerman's Surgical Pathology』は病理医を志す医師,病理学に興味を示す医学・医療従事者,さらに病理専門医にとって必読すべき一書であった。その評価は今も変わらない。私自身,書庫には分冊前の旧版1冊,分冊後の3版分(6冊)と今回の第9版2冊が並んでいる。私が医学生から病理医として研鑽した歴史とも一致するものといえる。埼玉医大の病理学教室で御指導賜った吉井隆博教授(旧版)や,毎日通勤電車で本書(分冊後の最初の版,1970年後半)を読み物代わりにしておられた片山勲教授からこの本の素晴らしさを伺ったことが,どれだけその後の病理学を生涯の仕事とするモチベーションを高めてくれたことであろう。

各分野の専門医にも役に立つ

 繰り返すが,本書は古典的な形態学から最新の遺伝子診断学までを包括している。各分野の専門医の要望に充分対応できる教科書はこれをおいて他にない。外科病理学に興味をもつ専門医だけでなく,初学者にとっても参考になる。世界に通用する内容を含んだ教科書である。英文投稿の際の基本的な記述や描写を学ぶ参考にもなる。各分野の専門医は自分のパートだけでも熟読してもらいたいし,さらに,専門分野以外のことも臨床から病理組織像までを実に要領よくまとめているので,日常の診断業務やカンファレンスに役に立つと思う。Gastrointestinal stromal tumor(GIST),MALT type lymphomaなど私どもの専門分野であるGI tractの最新情報も簡潔に記述されている。最新の文献も必要最小限のものが追加引用されている。これらのことは読者のさらなる勉学に寄与できるであろう。

 最後に若干手前味噌になるが,2004年5月,筆者は医学書院から単著で『消化管の病理学』を上梓することができた。その製作過程で,この膨大な領域を網羅するRosai and Ackerman's Surgical Pathologyがどれだけの労力と時間を初版の完成に必要としたかを感じることができた。今回の9版は改訂に必要とした8年が決して長過ぎたということはないと思われるくらいの完熟したものである。

 以上総論的な書評になったが,各論の1つひとつを評価するのは購読した読者諸氏1人ひとりにお願いしたい。決して損させない本である。すべての医師および医学に従事する方々に推薦したい。

A4変・頁3,036 定価50,610円(税5%込)MOSBY


理学療法学生がよいレポートを書くための近道

理学療法学生のための
症例レポートの書き方

宮原英夫 監修

《書 評》潮見泰藏(国際医療福祉大助教授・理学療法学科)

 理学療法における臨床実習では,学生が体験した症例のレポートを完成することで実習が完結することがいつからか常識となっている。その是非はともかくとして,自らの実習体験を整理し,ていねいに書きまとめるという経験は,臨床思考過程を理解し,実際にそれを実践する能力を身につけるうえで不可欠と言える。

実際に書かれたレポートが詳細な解説とともにまとめられる

 本書は,北里大学医療衛生学部理学療法専攻の学生の皆さんによって書かれたものである。一般的な症例レポートの書き方に関する書物はすでに数多く出版されているが,本書は臨床実習の場で実際に書かれたレポートの内容が,ほぼそのままの形でまとめられているという点でユニークである。特に各論の各症例のレジュメとレポートの後には,ていねいな,しかも詳細な解説が付されており,これからレポートを作成しようとしている学生にとっては大いに参考になると思われる。何よりも掲載されているレジュメもレポートも,一般的な書式で書かれているため,誰にでも読みやすく,活用しやすい点が本書のポイントである。しかも,どの症例レポートの内容もしっかりとまとめられており,監修にあたられた宮原英夫先生をはじめ,北里大学における教授陣の日ごろの熱心なご指導の様子をうかがい知ることができる。

 よい文章を書くためにはよい文章を読むこと,そして,よいレポートを書くにはよいレポートを読むこと,これが一番の近道である。その意味で,理学療法士をめざし,日々研鑽を積まれている学生の皆さんにとって,本書がよきお手本としておおいに活用されることを心から願っている。

B5・頁152 定価3,360円(税5%込)朝倉書店