第2609号 2004年11月15日


専門医から総合診療まで幅広く

第12回日本消化器関連学会週間開催


 第12回日本消化器関連学会週間(DDW-Japan2004)が,中澤三郎議長(日本消化器関連学会機構)のもと,さる10月21-24日の4日間にわたり,福岡市の福岡国際会議場その他において開催された。日本消化器関連学会週間は日本消化器病学会,日本消化器内視鏡学会,日本肝臓学会,日本消化器集団検診学会,日本消化吸収学会の5学会が合同で開催し,4年に1度開催される日本医学会総会を除けば,国内最大規模の学術集会。

 「個性と連帯」をテーマとする今回は,台風23号の影響で前日多くの交通機関が止まったにもかかわらず,のべ1万4000人を超える参加者が集まり,大変盛況なものとなった。


■専門医制度の現状を議論

 23日に行われた医療研修会「専門医制度の現状と今後の課題」(司会=千葉大・税所宏光氏,昭和大・井廻道夫氏)では,専門医制度が進む中,今後消化器病医はどうあるべきかについて議論された。

 最初に登壇した酒井紀氏(日本専門医認定制機構)はまず,専門医制度の確立を阻害する要因として「大学の講座医局制度」,「自由標榜制と医療広告規制」,「国民皆保険制度と一律の診療報酬」をあげた。

 また,日本医師会からは「医師の格付けにつながる」として反対があったことにふれ,1993年に学会認定医制協議会,日本医師会,日本医学会の三者で行われた議論の経過を説明。結果,「専門医の表示は施設内にとどめ,医師および医療機関の能力格差の表示とならないよう配慮する」といった方針が決められたことを述べた。

 同機構は各学会に対して専門医制度および研修カリキュラムを審査・評価し,認定の更新については単に学術集会や講習会などへの出席のみでなく,診療実績を必要条件とするよう指導している。

 氏は専門医制度について「国に任せず,医師が一枚岩となって制度を作っていかなければならない」と強調。単に諸外国を模倣するのではなく,日本の医療事情に適した制度としてこれからの医師育成に役立つものにしなければならない,と述べた。

 田原克志氏(厚労省)は専門医の広告緩和ついて,その経緯を説明。2002年に「客観的で検証可能な事実については原則として広告規制を緩和する」,「患者保護の観点からネガティブリスト化は行わず,可能なかぎりのポジティブリストの拡大で対応する」といった方針の下で,医療法改正が行われたことを述べた。氏によれば,2004年現在で41団体,39の専門医が広告可能となっている。

専門医とメディア報道のあり方

 櫻井秀也氏(日本医師会副会長)は専門医の広告が緩和され,病院の診療実績等がメディアによって公表されるようになったことから,患者が一部の病院に殺到し,逆に質の高い医療が提供できなくなっているという事態が起こっていることを指摘。「医療はなるべく地域で完結できるようにすべきであり,単純に手術件数の多さだけをとりあげるようなことは避けてほしい」と強調した。また,専門医の必要数については各学会で十分に検討し,各専門領域の重なりについても学会間での議論が必要なのではないかと述べた。

 続いて登壇した司会の井廻氏は,「消化器病関連学会と専門医制度」というテーマで口演。サブスペシャリティの学会(日本消化器病学会,日本肝臓学会など)の専門医は複数取得が可能だが,その前に日本内科学会などの基本領域の専門医あるいは認定医の資格取得が必要であること,5年ごと専門医の認定更新には学術集会出席や学会発表の単位だけでなく,診療従事証明が必要であることを述べた。

 一方,氏はそれぞれの学会認定の専門医制度での研修,受験資格,試験の難易度に大きな差が見られることを指摘。専門医認定試験が筆記試験であることについて「筆記試験のみで能力評価は妥当なのか検討する必要がある」とし,また認定更新の際に試験がないことについても疑問を呈した。

外科専門医に必要な手術経験数

 万代恭嗣氏(社会保険中央総合病院)は専門医制度が生まれた背景として,医学の進歩に伴う各領域の細分化が起こり,それぞれにおいて知識と技術に熟練した医師が必要となってきたことを指摘した。

 氏は「専門医制度とは,専門医の育成と質を向上させるための制度でなくてはならない」と述べ,新しい外科専門医制度の理念を紹介。スペシャリティ,サブスペシャリティへの移行を視野に入れた初期臨床研修や,臨床経験症例や内容に到達目標を設定することをあげた。特に手術経験数については最低数を350例とし,そのうち術者として消化管および腹部内臓を中心に120例を経験することが条件となっている。

 さらに「患者から見た『専門医』とは,信頼でき,質の高い専門的治療ができる医師である」と述べ,現在の専門医制度における学会の専門医の定義との間にずれがあるのではないかと述べた。

 口演後のディスカッションでは,専門医に対するドクターフィーについて議論が行われた。万代氏は「米国では医師のモチベーション向上のためにあり,将来的には専門医になる努力に対して支払われてもよいのではないか」としつつも,現在においてはまだ必要ないとの考えを示した。酒井氏も「まずは専門医の質を上げて,社会に認知してもらうべき」と同意。

 また,会場からは専門医の更新条件となる単位取得に学術集会への参加が必要なことについて「限られた人員でルーチン化された診療を行っている,特に地方の医師には条件が厳しい」という指摘があり,インターネットなどを利用して,現地にいなくとも常に最新の情報が得られるようなシステムの構築を学会に求める声があがった。

■colitic cancerをどう診断するか

 22日には,第68回日本消化器内視鏡学会の特別講演として,長廻紘氏(東女医大)が「Colitic cancerの内視鏡診断」というテーマで講演を行った。colitic cancerとは長期経過した慢性腸炎において腸炎の部分に合併する大腸癌のことで,腸炎関連大腸癌とも呼ばれる。

 氏は弊社発行『胃と腸』誌においてcolitic cancerがはじめて報告されてから現在に至るまでの流れを紹介するとともに,なぜ内視鏡検査でcolitic cancerを診断するのが難しいかについて講演した。

“無秩序の中の秩序”

 氏はまず「潰瘍性大腸炎の多くが内科的に管理されるようになり,癌を合併する条件を備えた高危険症例が増え,診断の重要性が増している」と現状を指摘。しかし,colitic cancerは炎症を起こした粘膜上に発生し,潰瘍が浅く周堤も低いため内視鏡では背景との識別が難しいという問題点がある。これに対して,氏は「無秩序の中の秩序」と呼ぶ特有の規則的なパターンによる識別方法やEUS(超音波内視鏡)を用いた診断方法を紹介した。

 氏は最後に「colitic cancerは,見つけたら後はマニュアル通りに処置すればよいだけなので,いかに発見するかがすべてとなる」と強調する一方,未分化癌の場合にはスキルス初期像と同様に現在の方法論の延長線上では診断は難しいと述べ,今後の研究の発展に期待した。


消化器病診療の向上をめざして

――第12回日本消化器関連学会週間の話題から


■総合診療の診断技術に学ぶ

 10月22日に開催された特別企画「プライマリケアにおける消化器臨床のあり方」(司会=山口大・福本陽平氏,阪大・笠原彰紀氏)では,プライマリケア医に求められる消化器疾患への対応が,診療の最前線にいる演者らによって紹介された。

 小泉俊三氏(佐賀大)は大学附属病院の総合外来の役割には,地域医療機関と高度先進医療機関である大学とを連携させるインターフェイスとしての機能があると指摘。また,プライマリケアの担い手として「臓器診断に向かう前に多軸的なアプローチを通じて,目の前の症状の背後にあるさまざまの問題にも光を当てる」と述べ,医師患者関係や療養指導における問題についても患者の自主性を尊重したカウンセリング的対応が必要であると強調した。

 伊藤澄信氏(順大)は,東京医療センター総合内科での経験から,患者に多い消化器系疾患は上部消化管非悪性疾患,感染性腸炎,胆道非悪性疾患,肝炎・肝硬変だったことを紹介。したがって,総合診療科の研修医に必要な消化器系診断手技として腹部エコー検査は必須であり,さらに上部消化管内視鏡検査,MDL注腸をあげた。氏は「プライマリケアにおいては治療可能な疾患を見過ごさないことが最重要課題」と述べ,これらの診断手技の研修の重要性を訴えた。

腹部不定愁訴へのアプローチ

 生坂政臣氏(千葉大)は,腹痛患者における非消化器系疾患について口演。プライマリケアの現場では腹痛患者のすべてが消化器系疾患というわけではなく,精神疾患や泌尿器疾患の可能性があることから「原因臓器が特定できない腹痛患者を診療するには非消化器系疾患の診断にも精通していなければならない」と指摘。傾向として身体的愁訴が多いほど心因性の可能性が高いことをあげ,通常の問診に加えてBATHE(Background,Affect,Trouble,Handle,Empathy)を聞くことの重要性を強調した。

 金子宏氏(愛知医大)も同様に,慢性的な上腹部症状があるにもかかわらず異常所見が見られない上腹部不定愁訴について,受診が頻回の場合はストレスやライフイベント,パーソナリティーなど心理社会的因子による可能性が大きいことを指摘。特に機能性胃腸症はコモンディジーズであり,自律神経失調様症状の有無を問診すること,内視鏡検査などで器質的疾患がないことを保証するのが初期診療では重要であるとした。

 氏は,十分な説明と消化管運動改善薬を4週間処方しても改善が見られない場合,抗うつ薬使用の適応となることにふれ,「特に身体表現性障害,パーソナリティーの問題が疑われる場合は専門家への紹介が適切と考えられる」と述べた。

専門医へ紹介するタイミング

 藤岡利生氏(大分大)はまず頻度の高い上部消化管疾患として胃炎,消化性潰瘍,胃食道逆流症をあげ,検査はなるべく非侵襲的な検尿,検便,採血,腹部超音波検査などから行うべきと発言。ただし,食道癌,胃悪性リンパ腫,胃癌の警告症状である体重減少,嚥下困難,頻回の嘔吐などには特に注意し,見逃さないようにすることを強調した。

 檜垣真吾氏(山口大)は下部消化管疾病について,患者負担の軽減という視点からも,その初期症状の認知は重要であると強調。大腸癌の初期症状である便潜血,大腸内視鏡による診断と処置が必要な急性の下部消化管出血,栄養状態の悪化を伴う下痢を指摘。これらが見られた場合,早急に専門医へ紹介するべきと述べた。

 続いて登壇した田妻進氏(広島大病院)はプライマリケアにおける肝・胆道疾患診療について口演。まず胆石について,無症状かつ胆嚢内の観察が可能な状態であれば超音波検査による定期的なフォローで対応,無症状であっても胆嚢内に影が見られる場合や,有症状胆石では速やかに専門医への紹介が必要であるとした。

 また,肝炎では黄疸を伴わない場合,まずはウイルス性かどうかスクリーニングして診療方針を立てること,黄疸があるのならば専門医へ紹介し,「特に精神症状,出血傾向を伴う場合は緊急を要する」と注意を促した。

 白鳥敬子氏(東女医大)は膵疾患の初期診療について,その診断と処置を説明。急性膵炎の場合には,発症48時間以内に重症度判定をすることが不可欠であり,循環不全や腎不全を防ぐため,まずは充分量の電解質を輸液することが重要と強調した。

 また,膵臓癌は特徴的な症状がなく発見が遅れがちなうえ,浸潤性が強く切除不能例が多いことから「膵疾患においては小さな変化を見逃さず,的確な診断プロセスに乗せることが重要」と述べた。

■新薬登場でB型肝炎治療は変わるか

 現在B型肝炎の治療は,主にインターフェロンと抗ウイルス剤であるラミブジンが主流だが,依然としてウイルス(HBV)の完全排除は困難であり,その治療方法も完全に確立されてはいない。パネルディスカッション「B型肝炎の新しい治療戦略」(司会=虎の門病院・熊田博光氏,久留米大・佐田通夫氏)では,ラミブジン耐性株の出現予測や新しい抗ウイルス剤による治療など,最新の知見が報告された。

新たなラミブジン治療

 ラミブジン耐性株出現の指標として肝組織中のcccHBVDNA量(肝細胞に組み込まれたウイルスDNA)の測定が有用とされているが,臨床応用は困難である。

 田中榮司氏(信州大)は血中HBVコア関連抗原(HBVcrAg)量が肝細胞中のcccHBVDNA量を反映する可能性が示唆されていることから,耐性株の出現予測,ラミブジン中止の指標になりうるかを検討。

 その結果,ラミブジン投与6か月後にHBVcrAg値が5万U/ml以下であれば耐性株出現率はきわめて低く,逆にこれ以上の症例ではウイルスDNAが陰性でも注意が必要であると指摘。指標としての有用性を示唆した。

 また,HBVキャリアにおいてウイルスの急性増悪による劇症肝炎は予後が不良であることから,持田智氏(埼玉医大)は急性増悪例に対するラミブジンを用いた抗ウイルス療法を検討。無症候性キャリアではプロトロンビン時間が40%以上,慢性肝炎患者の場合は総ビリルビン濃度が15mg/dL未満の段階でラミブジンを投与すれば急性増悪例を高率に救命することが可能であると発表した。

 進藤道子氏(明石市立市民病院)は「cccHBVDNAを排除できるのは宿主免疫力のみであり,これが活性化されている時に抗ウイルス剤を使用するのがベスト」と指摘。まずインターフェロン治療を3か月行い,治療終了後に起こるウイルスの増殖によって活性化される宿主免疫を利用し,ラミブジン投与を開始するという治療法を行った。その結果,ラミブジン単独,インターフェロン単独療法に比べて高い治療成績が得られ,ラミブジン耐性株出現率にも有意差はなかったことから,この方法が有効であることを示唆した。

アデフォビルの有用性を検討

 今回の学術集会開催中の10月22日に,ラミブジンに続く抗ウイルス剤として期待されているアデフォビルが承認された。

 桑原礼一郎氏(久留米大)はラミブジンとこのアデフォビルの併用療法について研究し,アデフォビルが特にラミブジン耐性株出現後の肝機能改善に有効な薬剤であり,特に肝予備能が低下している肝硬変症例などではラミブジン耐性株が出現次第,早期のアデフォビル導入が望ましいことを強調した。

 保坂哲也氏(虎の門病院)はラミブジン抵抗性症例に対してアデフォビルおよびエンテカビル(現在未承認)の投与を行い,HBVDNA量の減少およびALT値の正常化に有効であったことを報告。ラミブジン耐性株が出現し,肝予備能が低下した症例では早期にこれら新規抗ウイルス剤の投与が必要であるとしつつも,エンテカビルの承認後にどちらを選択するかは今後の検討を要するとした。

 最後に司会の熊田氏は「B型肝炎は早期に適切な治療が必要であり,治療においてはなるべく多くの選択肢があることが望ましい。アデフォビル,エンテカビルに続いて新しい薬も出てくるので,今後の研究に期待したい」としめくくった。