第2607号 2004年11月1日


短期集中連載 【全5回】

DPC入門
Diagnosis Procedure Combination

第4回   DPCに基づく包括評価の実際

松田晋哉 (産業医科大学教授・公衆衛生学)


2605号よりつづく

 今回はDPCに基づく包括評価の実際について説明したいと思います。

DPCに基づく包括評価の実際

 事例は「65歳男性で胃がん(胃底部,粘膜内腫瘍,リンパ節転移なし,入院時併存症なし,入院後続発症なし,化学療法なし,放射線療法なし)で胃全摘手術を受けた患者さん」です。胃底部のがんですのでICD-10はC16.1となります。

 表1は,この症例に対応した定義表を示したものです。胃の悪性腫瘍はC16$と記載されていますが,$は0(噴門)から9(詳細不明)のすべてを含んでいます。ついで,これにより病名に相当する上6桁(基本DPC)が060020が決まります。次に入院形態ですが治療を目的とした入院ですので「3」,胃の悪性腫瘍では年齢等は考慮されませんので8桁目は「x」となります。手術は「胃の開腹全摘術K657$」を行っていますので「02」,手術・処置等はなく,またこの定義表に記載された副傷病もありません。最後にこの胃がんでは重症度に相当するものが設定されていませんので,以上の情報から,この患者さんのDPCは「0600203x02000x:胃の悪性腫瘍 胃切除術・胃悪性腫瘍手術 処置等1なし 処置等2なし 副傷病なし」となります。

 では,これに対応する包括評価部分の点数はどのようになるのでしょうか? 以下,それを計算してみましょう。ここでは,この患者さんが30日間入院したとしましょう。表2の点数表をみると,入院期間Iは13日,入院期間IIは25日,特定入院期間は38日となっています。入院期間Iの13日の1日前の12日までは「2830点×医療機関別係数×12日」,以下同様に13日-24日分は「2092点×医療機関別係数×12日」,最後の6日分は「1778点×医療機関別係数×6日」と計算します。仮に医療機関別係数が1だとすると,以上を合計した6万9732点がこの場合の包括評価部分の点数となります。これ以外に,手術で使われた薬剤や手術料等が出来高評価部分として7万6169点であれば,この患者の診療報酬はその合計の14万5901点となります。

包括評価制度における請求方法

 次に請求方式を説明します。

 請求は現行の方式と同様月々行います。包括評価の対象となるかどうかは,診療報酬請求時である月末に決定し,包括評価の対象患者については,従来の診療報酬明細書ではなく,包括評価用の診療報酬明細書,いわゆるDPCレセプトを利用して請求を行います。このDPCレセプトには診断群分類の決定に必要な患者基礎情報が記載されなければなりません。具体的には支払い対象となるDPCが分類番号およびその区分名とともに記載されます。また,最も医療資源を投入した「傷病名」と併存症・合併症に相当する「副傷病名」が,それぞれのICD-10コードとともに記載されます。さらに,レセプトにはDPCへの割付に必要な他の情報,例えば,処置や手術の有無がその内容とともに記載されます。すなわち,DPC14桁の9つの部分に対応する情報が記載されなければならないのです。

 請求に関する部分は包括評価部分と出来高部分から構成されています。包括評価部分については,次に述べますように退院時に差額の調整が行われることから当月分以前のものについても記載が必要です。出来高部分は従来どおりで,この例では続紙に詳細が記載されています。

 図1は請求方法の基本形ですが,この例の場合,診断群分類Aで2か月にわたり入院していますが,各月において診断群分類Aで請求していただくことになります。

 図2は,3か月にわたり入院して,その途中で特定入院期間を超えてしまった例です。この場合,越えた日からの分は出来高で算定することになります。

 図3は入院中に診断群分類が変更された例です。この場合,2か月目,3か月目については診断群分類Aで請求し,さらに最終月に,この患者が入院当初から診断群分類Bであった場合に発生する差額を調整するという形になります。

 このように請求実務は,非常に面倒な形になっていますが,すでにこのような事務作業に対応したレセコンの開発は終わっており,また実用化されています。したがって,実務的にはあまり大きな問題ではないようです。ただし,調整が発生した場合の,患者さんへの説明は必要になります。

 ところで,DPCレセプトでは原則として従来のような詳細な傷病名は記載されません。そのため傷病の多い高齢者等の例で,退院時処方などについて必ずしもそれに対応する傷病名がDPC名称やレセプトの副傷病名から判定できない場合,その内容を詳記した続紙がない限り査定の対象となるという事態が発生しています。包括評価においては事務作業を効率化することもその目的の1つであることを考えますと,このような詳細な記載が要求されることは,事務負担を非常に大きくするものであり,本来のDPCの趣旨にはそぐわないものです。したがって,このような状況を改善するための措置が今後必要となります。具体的には,DPCレセプトの電子化です。

 現在,様式1とE,Fファイル(診療行為の内容とその回数情報など詳細がわかる情報セットで,多くのレセプト用コンピュータに実装されています)をベースとしたDPC対応電子レセプトのフォーマットが検討されています。これが実用化されると,現在紙ベースでやっている請求業務は大幅に簡素化されることになります。

「病名くん」と「ふくろうくん」

 DPCに関しては,以上のような分類および請求業務を行うためのソフトが開発されており,すでにDPCに基づく包括評価を受けている病院ではそれが利用されています。将来的にDPCの対象施設が拡大していくという予想が出されていますが,そのような状況で調査に参加していない関係者の方々から不安の声も上がっており,また筆者もよく関連した質問を受けます。筆者は,そのような質問には以下のように答えています。「DPCが支払い方式として一般化するのかどうかについてはわかりません。それは中医協の専決事項ですので,まだ何も決まっていないと思います。しかしながら,それぞれの病院がお持ちになっているデータからDPCを発生することは,現在無料で配られているソフトを使えば簡単にできます。例えば,MEDISのホームページ(http://www.medis.or.jp/)からダウンロードできる「病名くん」と「ふくろうくん」を使えばDPCへの分類をディスチャージサマリーから作ることができます」。

 「病名くん」と「ふくろうくん」は東京大学の大江和彦教授が中心となって開発したフリーソフトです。「病名くん」を使うと日本語病名からICD-10の検索を行うことができます。「ふくろうくん」はDPCへの割付を行うための簡易ソフトですが,「病名くん」とリンクさせることで(画面上で簡単に設定ができます),日本語病名を用いながらDPCへの割付が簡単にできます。たいへん使いやすく,また便利なソフトですので,ぜひお試しになることをお勧めします。ただし,「病名くん」は最初からDPCへの応用を視野に入れたものではありませんので,日本語病名とICD-10との対応に関して,まだ精緻化しなくてはならない点もあります。これについては,DPC研究班で収集した病名データを用いて,今後その改善が図られることになっています。いずれにせよ,このような便利なソフトが無料で配布されているというのが,日本のすばらしさではないかと筆者は考えています。

次号につづく


松田晋哉氏
1985年産業医大卒。91-92年フランス政府給費留学生(フランス保健省公衆衛生監督医見習い医官),92年フランス国立公衆衛生学校卒。93年医学博士(京大)。99年3月より現職。専門領域は公衆衛生学(保健医療システム,産業保健)。