第2606号 2004年10月25日


身体で覚える
糖尿病療養援助技術

〔第7回〕

今の心と行動に合わせる技術

吉田百合子
富山医薬大附属病院地域医療連携室・看護師


前回よりつづく

今の心と行動に合わせる技術

 糖尿病の自己管理では,日々の生活を調整する必要性が出てきます。生活の調整にはさまざまな方法がありますが,どのような方法をとるにしても,最終的には実際の行動がはじまることが必要不可欠です。そして,行動がはじまるためにはまず,心の動きがあります。迷いや喜びといった感情が,人の行動を促しているのです。また,生活の調整にはさまざまな段階があり,その時々の心の動きがあります。

 ですから,糖尿病の自己管理を確立しようとする患者を支援する私たちの役目は,その心と行動の整理を助けるものだといえます。そこでは,1人ひとりの今の心と行動に合致した支援が求められ,各個人ごとの状況を見極める技術が必要となります。すなわち,個人の今の心,現在取り組んでいる内容を察知する力,そしてそれを次へ発展させていくことを支援する訓練が必要になります。

 プログラムは,(7)カウンセリング,(8)自己管理行動の確認,(13)自己管理を体験学習です。

 プログラム
(1)やりとり学習(ロールプレイ)
(2)肯定的な文章に直す
(3)よい点を拾う
(4)Q&A
(5)利益の確認
(6)私メッセージ
(7)カウンセリング
(8)自己管理行動の確認

(9)ライフスタイルを聞く
(10)食事ナラティヴ
(11)運動ナラティヴ
(12)目標の確認
(13)自己管理を体験学習
「身体で覚える糖尿病療養援助技術」プログラム。太字は本号で紹介したプログラム。

(7)カウンセリング

 心の支援のプロであるカウンセラーは,カウンセリング理論に基づいたカウンセリング技法を用いて,本人が自分の問題に気づき,心の整理をしていくのを助けます。しかし,これらの技法を使い切るには相当の訓練が必要であり,うまく使えないと反対に傷つけてしまうこともあります。

 ここでは,カウンセリング理論に基づいた,カウンセリングの基本的な技術である「うなずき」「繰り返し」「感情の反映」に限定して練習することにします。

 「うなずき」は,相手の話に「もっと話して」「それから,どうなったんですか?」という気持ちを込めて,ひたすらうなずく方法です。話すほうは自分の思いをどんどん話していくことによって,自分で整理がつく人も出てきますし,時間をおいて整理がついてくる場合もあります。

 「繰り返し」は,例のように相手の言葉の語尾を繰り返す方法です。声にして「あなたはこのように言っていますよ」と,相手の鏡になります。相手は「ああ,自分はこのように考えていたのか」と,自分の思いの確認ができて,心の整理が速くなります。援助者は新しい言葉を言わないので,患者にとっては違和感がなく,自分の思考の邪魔をされることがありません。

 もう1つ「感情の反映」があります。これは本人の身体に出ている感情をみてとって,「うれしそうですね」「悲しそうにみえますが」と返すものです。患者本人が,自らの気持ち,感情を確認するために重要な技術ですが,そうした気持ちを隠したいこともあるでしょうし,うまくくみとれない感情もありますので,慎重に行う必要があります。

 研修では,これらを2人,もしくは3人一組のロールプレイで繰り返し行います。方法についてはこの連載のバックナンバーを参照してください。

(8)自己管理行動の確認

 糖尿病での自己管理行動には食事療法や運動療法など多くの項目がありますが,その項目ごとにそれぞれ段階があります。認知レベルでは,知識を得る段階,理解する段階,判断して予測する段階があり,一方,行動レベルでは,実行する段階,評価する段階,再実行する段階があります。

 例えば,食事療法では「食品のカロリーを知る」という知識の段階があってから,「その食品は自分には適当か」という理解・判断の段階に進みます。また,「もし食べるとどうなるか」という予測の段階もあるでしょう。一方,行動では「食べる」ことを実行する段階,血糖値を見て「評価」する段階,「量の加減」をする再実行の段階があります。

 支援者は,例えば患者の「私○○が好きでカロリーが気になるのです」という言葉から,項目は「食事」であり,段階は「今食べている量の評価」と判断します。そして,次の段階を目指したり,またこの段階においての行動をできる限り具体的に進めるための支援を行います。すなわち,多くの自己管理項目の中から,その時々に丁度合ったものを選ぶことを援助するのです。

 この自己管理の察知と支援は,実際には患者の何気ない言葉から発展させることが重要なので,先にどのような自己管理行動があるかを確認し,支援の言葉を練習しておく必要があります。

(13)自己管理を体験学習

 自己管理を勧める場合,自分がその行動についてどの程度知っているかによって,相手への影響力が違います。すなわち身体で体験していれば,身体を張って説明できるということです。

 あなたは1日1600Kcalの食事を体験したことがありますか。自分の食事のカロリー計算をしたことがありますか。1日1万歩いたことがありますか。自分のお腹に注射の針を刺したことがありますか。血糖測定をしたことがありますか。鏡で足の裏を見たことがありますか。目隠しをして壁伝えに歩いたことがありますか。

 自己管理行動を説明する前には,まず自分が体験することが条件だと考えます。そして体験時に必要なのは,やってみただけでなく,どのように感じたかを文字にして確認し,その確認から,どのように説明に工夫を加えるかを,自己管理行動を勧める時の技術として考えます。

 以上,今の心と行動に合わせる技術を紹介しました。これらの技術に共通していえることは,仮にあなたが10の技術とパワーを持っているとしても,そのうち1しか出さない,ということが肝要だということです。10のエネルギーを持つことも大切ですが,9を出さずに留めておくエネルギーも必要です。それが,押し付けがましくならない,患者さんの「今」に即した援助につながります。

 心と行動は,常に変化しており,患者自身も明確に認識できていないのが普通です。ですから,それを支援することには困難を覚えます。しかし,うまくタイミングが合えば,患者自ら,気持ちが変わり,行動が変化していきます。これらの技術をロールプレイで行うことによって,患者支援の基本が体験できます。


[著者略歴]
国立山中病院附属看護学校卒業後,国立がんセンター勤務を経て現職。佛教大,富山医薬大学院に社会人入学し,社会学,看護学を学ぶ。「現場の“技”を言葉にして,それをもう一度現場に還元するのが私の仕事」と語り,日々後進の指導に取り組む。