医学界新聞

 

時代のニーズに応える研修のために

――座談会「研修医が育つ環境を整えよう」での議論


プライマリ・ケアとローテート研修

畑尾 2004年5月から2年間の卒後臨床研修が義務必修化されました。従来は医学部卒業後すぐに専門研修に進むことが多かったのですが,社会のニーズに応えるため改革が行われました。新臨床研修制度の2つの特徴は,プライマリ・ケア基本的診療能力重視と基本科目・必修科目を中心としたローテート研修です。

島田 自治医大は地域医療のために設立された大学で,プライマリ・ケア重視の先駆者です。附属病院は1-3次医療機関として地域に貢献しています。かぜ・切り傷から重症外傷・まれな疾患まで,市中病院と大学病院を合わせた豊富な症例を経験できます。希望により,僻地中核病院,診療所などでも1-3か月研修できます。

 自治医大附属病院は30年以上前からローテート研修を行っている経験・実績があります。現在は総合系,準総合系(内科),準総合系(外科)の3つの卒後臨床研修コースを設けています。自治医大卒業生は出身都道府県に帰ります。入れ替わりに,北は旭川医大,南は鹿児島大学まで日本全国から医学部卒業生が当院の卒後臨床研修生として集い(琉球大からもお待ちしています),自由で活発な雰囲気です。緑豊かな大学構内には全員にレジデントハウス(研修医宿舎)が用意されており,標準以上の給与とあわせ,皆さん研修に専念できています。医療の国際化にも対応しています。親日家のアラン・レフォーUCLA外科教授(シーダース・サイナイ・メディカル・センター臨床研修プログラム責任者)を客員教授としてお迎えしました。アメリカ医療のよいところを日本の現状にあわせて直輸入します。海外の研修病院で学ぶ機会もあります。海外の研修システムのよいところを積極的に取り入れて研修の質をより高めていきたいと思います。

研修医の4つの役割

レフォー 研修医を診療チームの一員として育てることが大事です。研修医は4つの役割を担っています。まず研修医は生徒です。指導医から効率よく知識・技術を学びたいと思っています。逆に研修医は先生でもあります。ほかの研修医や学生に教えることにより知識を確実なものにします。研修医に簡単に教育手法のテクニックを教えるとよいでしょう。3つ目,これは最も重要です。研修医は患者サービスの実施者です(特に夜間)。常に指導医の監督,保護下にあり,困ったときには気軽に相談できるような配慮が必要です。4つ目の研修医の役割は診療情報の管理者です。質の高い診療録・サマリーをなるべく短時間で作成できる体制を整備・維持することが大事です。血液検査やレントゲン検査の結果は即座に指導医・専門医のダブルチェックが必要です。経験の少ない研修医のみに任せてはいけません。

 労働時間・労働環境の管理も重要です。労働時間は週80時間以内と定められていますが,各科で事情が異なります。外科系では手術に術前・術後の管理を加えると週80時間では足りません。研修期間を通じて過労・燃え尽きを予防するため,30時間以上の連続勤務の禁止,当直は中2日以上あける,週1日の休日の確保などの基準が遵守されているかモニターする必要があります。米国では研修医の電話一本で有名な研修病院でも観察処分になり,改善がない場合には研修プログラムが取り消しになります。研修プログラムの特徴をよく理解して,臨床研修の進化に貢献していきたいと思います。

研修医のQOL,一味違った研修プログラム

早瀬 自治医大の研修はきめ細かな教育プログラムが特徴です。研修医向けカンファレンス,クルズスが多数あります。研修医はホームページ
http://www.jichi.ac.jp/hospital/resident/resident.html)で予定をチェックして自由参加できます。2年間の卒後研修終了後は大学院進学,シニアレジデントとしてローテート研修を継続,あるいは入局して専門研修を行うなどの道があります。

 また,研修医のQOLに気を配り,労働時間の超過に注意しています。広い研修医室を用意し,新品のデスクを全員に貸与しています。研修医の学習および憩いの場で,大学と市中病院のよいところを併せ持ったような明るいスペースです。研修医住宅は緑に囲まれたキャンパス内にあり,徒歩・自転車で通勤できます。遠足,旅行(日光・軽井沢など),懇親会が多数あり,研修医の情報交換の場になっています。

 この他にも臨床研修の質を維持・向上させるため自治医科大学附属病院はEPOCという国立大学系のオンライン評価システムに加入しています。指導医が研修医を一方的に評価するだけでなく,研修医も指導医と研修プログラムを評価します。研修管理委員会の簑田教授(アレルギー・リウマチ科)を中心にコンピューター演習室などを利用して説明会や入力作業が行われています。

 レフォー教授著の『Surgery on call』,『スカット・モンキー・ハンドブック』,『Critical care on call』などを題材にランチョン・セミナー,イブニング・セミナーを多数開催しています。研修アドバイザーの齋藤先生(ハワイ大)のお力も借りて一味違った研修プログラムにしたいと思います。研修医の皆さんにはUSMLEに挑戦することを勧めています。

症例提示の鍛錬,そしてトリプル・ジャンプヘ

齋藤 日本の研修医は症例提示のやり方が未熟です。学生の臨床実習も含めて,要領よく堂々とプレゼンできるよう鍛錬していきたいと思います。医学界新聞(医学生・研修医版)に連載しているように,症例提示には12の要素があります。各診療科で特に重要な要素があり,逆に省略してもよい要素もあります。指導医が各診療科の雛形を示すのがよいでしょう。また各診療科で行われている教育セッションの効率を検討し,不必要なものは廃止,必要性の高いものは新設する必要があります。日本でもチュートリアル形式の問題基盤型学習が増えていますが,この発展型としてトリプル・ジャンプがあります。(1)患者の診察,指導医への症例提示・討論,学習課題の抽出,(2)学習,(3)発表・討論という3段階があります。1対1のチュートリアルなので学習効果が高く,ハワイの大学生・研修医に大好評です。自治医大でもぜひ取り入れていきたいと考えています。今後,入院期間の短縮に伴い,外来での教育の比重が高まってくることが予想されます。トリプル・ジャンプは病棟・外来どちらでも実施可能な密度の高い指導法です。

最後に

島田 社会のニーズに応えるため,医療チームの一員としての研修医を厳しく,暖かく育ててゆくことが重要と考えています。臨床研修全般につきましてぜひご意見をお寄せください。病院見学希望の学生さんも申し込みをお待ちしています。


連絡先:〒329-0498栃木県河内郡南河内町薬師寺3311-1
 自治医大附属病院卒後臨床研修センター
 TEL(0285)58-7014
 E-mail:rinshoukenshu@jichi.ac.jp
 URL:http://www.jichi.ac.jp/hospital/resident/resident.html

座談会出席者紹介

畑尾正彦氏(写真右端)
日本赤十字武蔵野短大教授。元日本赤十字武蔵野病院外科部長。平成15年度厚生労働省臨床研修指導医講習会ディレクター。全国の臨床研修病院で臨床研修指導医講習会のディレクター,チーフ・タスク・フォースとして医師を指導。

島田和幸氏(写真右から2番目)
自治医大附属病院卒後臨床研修センター長。内科学講座主任教授(循環器内科)。研修管理委員長として研修プログラムを統括。臨床の現場で研修医を熱く指導しています。循環器学会指導医,内科学会指導医,老年学会指導医,内科学会認定医,老年医学会認定医,臨床薬理学会認定医。

齋藤中哉氏(写真左から2番目)
ハワイ大学医学教育部門。自治医大臨床研修アドバイザー。臨床研修指導医講習会,医学生セミナー(ホノルル)など日米で活躍。「医師のための英文履歴書の書き方」(米国医師会編)の和訳本が好評。現在,医学界新聞に「英語で発信! 臨床症例提示」を連載中。

アラン・レフォー氏(写真中央)
カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)外科教授。シーダース・サイナイ病院の臨床研修責任者。自治医大客員教授。腹腔鏡下手術が専門。毎年,医療奉仕団を率いてグアテマラの僻地で活動。日本語と英語を交えた親しみやすい問題基盤型学習(PBL)で学生,研修医の心をつかんでいる。代表的な研修医向け著作には「クリティカル・ケア・オン・コール」「スカット・モンキー・ハンドブック」「サージェリー・オン・コール」(前2作には和訳本あり)がある。

早瀬行治氏(写真左端)=報告者
西粟倉村診療所,頭島診療所勤務,自治医大ウイルス学講師などを経て現職。日米で医師国家試験合格。岡山済生会病院(外科系),ニューヨーク・ベス・イスラエル病院(内科),自治医大総合診療部と10年毎に研修医生活を3度経験。内科,感染症,消化器病専門医。医学教育調査室副室長を兼任。