第2605号 2004年10月18日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


時代の変化の只中で作業療法士をめざす学生のための入門書

《標準作業療法学 専門分野》
作業療法学概論

矢谷令子 シリーズ監修
岩テル子 編

《書 評》渡辺邦夫(帝京医療福祉専門学校・作業療法科長)

臨床・教育・研究の3つの視点からバランスよく

 本「標準作業療法学」シリーズは,1999年に改訂された作業療法教育課程の「大綱化」に準拠した作業療法専門分野の教科書である。特徴は,時代の変化に敏感な教科書をめざしていること,学生の主体的な学習を促し,学ぶ喜びを重視すること,学生が到達すべき「一般教育目標」と具体的な「行動目標」を各章に明記し,それらに対する「修得チェックリスト」を設けたことなどである。

 シリーズの手はじめの1冊が本書である。編者の岩テル子先生は,臨床と教育と研究の3つの仕事をバランスよく実践している大先輩である。本書の序文には,作業療法の道筋がわかりやすく説明され,“作業療法士になりたい”という意気込みをしっかり動機付けするという目標が記されている。そのバランス感覚は本書の各所にちりばめられ,執筆陣もそれに沿って腕を振るっている。

 本書の構成は,5章からなる。

 第1章「専門職に求められる資質と適性」では,近年の利用者中心主義の考え方,作業療法士養成教育の変遷,多職種連携型のチームアプローチの重要性,EBMのあらましなどが要領よくまとめられている。

 第2章「作業療法とは」では,作業療法の起源と歴史を概観し,主として80年代以降のカナダおよびアメリカの「作業」の概念と「作業療法」の枠組みを基盤に,「個人と文化の両者にとって意味のある作業ができるようになること」が作業療法の真髄であることをダイナミックに主張している。また,この章でWHOの「国際生活機能分類」(以下,ICF)のあらましを説明し,巻末にはICFの第2分類を付している。この背景には,近年の作業療法の諸理論とICFとの相性がよく,日本作業療法士協会発行の『作業療法ガイドライン(2002年版)』もICFを採用していることなどがある。

 第3章「作業療法の過程」では,医療モデルと社会モデルの中間的な立場から作業療法の具体的な実践過程のあらましを説明している。また,執筆者の豊富な臨床経験に根ざしているためであろうか,臨床的な留意点や,多様で柔軟なアプローチの重要性が随所に説明されている。一方,第2章で展開された作業療法の理論との整合性が不十分で,「ねばならない」といった圧迫感のある表現が用いられ,違和感が残る点も見受けられる。

 第4章「作業療法の実際」では,身体障害,精神保健,発達,高齢期,地域の5分野の作業療法について事例を中心に説明している。この章は,受身的に読めばわかるわけではない。事例と作業療法の具体的な展開を理解するために,設問に沿って資料を調べること,共感的に思考力と想像力を活用することが求められている。

 第5章「作業療法部門の管理・運営」は,90年代以降の社会保障制度改革の基調と診療報酬・介護報酬・支援費制度などの動向とともに,臨床経済学による分析の知見が加えられている点が興味をひく。こうした視点から作業療法部門のマネジメントのポイント,作業療法士の自覚と責任,そしてコスト意識が強調されている。やや難解だが,学年が進んだ段階で,きっちりと押さえておくべき内容である。

変化の時代に戸惑う臨床現場の作業療法士にも

 本書は,時代の変化の只中で,作業療法士をめざしている学生のための入門書である。作業療法士養成施設では,他の類書と比較し,吟味しながら本書を活用することになるだろう。それと同時に,変化の時代に戸惑いを感じている臨床の作業療法士にとってもよき道標となるだろう。また,他の標準シリーズは手早い改訂で内容を充実し,多くの支持を得てきた。本シリーズも,変化を後追いすることなく,半歩先を行く先見性に磨きをかけ,コンパクトな体裁を保ち,よりわかりやすい教科書をめざしてほしい。

B5・頁240 定価3,990円(税5%込) 医学書院


ガンコおじさんに宗旨替えを迫るマニュアル

内分泌代謝疾患レジデントマニュアル 第2版
吉岡成人,和田典男,伊東智浩 著

《書 評》相澤 徹(信州大学健康安全センター長)

医師は単なるクラフトマンで終わってはいけない

 「マニュアル本は読むな」,より正しくは「日本語で書かれたマニュアル本は読むな」と私は口癖のように後輩の方々や学生に言っている。「さしあたりどうするか」を羅列してあるだけの本が多いからである。

 私たち医師はクラフトマンとしてさしあたり目の前の問題をどうするかのノウハウを要領よく身につけて,その名人となってはならない。単なるクラフトマンで終わってはいけない。そんなことを一生続けても第一おもしろいはずがない。少々要領が悪くても,病態の本質が何か,私たちの医療に足りないところは何か,を真剣に考えて病気と患者(けっして患者様でなく)に接して,勉強し続けていくことが大事であり,それこそが医師という職業の醍醐味である。そういう脳の働きを導いてくれないので,「マニュアル本は読むな」というのが私の宗旨である。

レジデントにかけてあげたい一言が随所に織り込まれる

 ところが,である。本書はマニュアル本でありながら,きわめてコンパクトに要領よく内分泌代謝疾患の診断治療の原則を網羅してまとめただけでなく,いたる所に病棟でレジデントの先生にかけてあげたい一言,「原則は……,でも本当のところは……かもしれないね。」が織り込まれている。クラフトマンを超える道筋,疑問や議論について考えていく(簡単に解決できないことを考えることが大事!)よすがとなる事実,症例,論文が,示されている。これがきわめて大切である。私は著者らの後輩医師への,患者への,さらに言えば医師という職業への暖かい息づかいを感じた。

 本来マニュアルは通読する本ではない。また通読すべき本でもない。しかし,書評を依頼された手前,この原則に逆らって私はこの本を序から付録まで一気に通読した。本書は著者代表の吉岡成人氏の「ホルモン負荷試験の毎日」「食事療法を守っている患者……ほど太っている」という言葉ではじまる。けだし名言である。

 内容の概略はインターネットでも簡単に調べられるが,一応記しておくと,I.内分泌疾患(甲状腺疾患,下垂体疾患,副腎疾患,副甲状腺疾患,性腺疾患,内分泌関連疾患),II.代謝疾患(糖尿病,高脂血症,肥満症,高尿酸血症,ポルフィリン症),付録.(内分泌負荷試験,内分泌疾患の主な徴候と鑑別診断)となっている。

 あえて言うならば,糖尿病の項では,現在の糖尿病管理に明確な限界点のあること,しかしながらそうした統計上の限界点はきわめて多数の患者が無治療である(またはきわめて不適切な管理下にある)ことに起因するかもしれないこと,そして,病初期から厳格な糖尿病管理を行えば一病息災も決して不可能でないこと,などにも触れて欲しかった,というのが糖尿病を主戦場とする私の感想である。また,付録の「内分泌疾患の主な徴候と鑑別診断」は「主な症状と検査値の異常から考えるべき鑑別診断」のほうが適切かもしれない。

 珠玉のマニュアルである。私は宗旨替えを迫られている。

B6変・頁296 定価3,150円(税5%込) 医学書院