医学界新聞

 

短期集中連載 【全5回】

DPC入門
Diagnosis Procedure Combination

第3回   DPC定義表と包括評価の概要

松田晋哉 (産業医科大学教授・公衆衛生学)


2604号よりつづく

 今回はDPC定義表と包括評価の概要について説明したいと思います。

DPC定義表

 すでに述べましたように,DPCは14桁のコードから構成されており,それは主要診断群,傷病名,入院種別,年齢・体重・JCS条件,手術等サブ分類,手術処置等1,手術処置等2,副傷病名,重症度等の9の項目に対応しています。分類の公的ガイドとも言うべき「診断群分類定義テーブル」は,当該病態のそれぞれの項目ごとに何が分類の指標として考慮されるべきかという内容を示したものです。例えば,表では「白内障・水晶体の疾患」について,まず該当する病名がICD-10で例示されています。次に手術については「白内障・水晶体の疾患」において考慮されるべき手術が「白内障手術+眼内レンズ挿入術」,「白内障手術」,「眼内レンズ挿入術」,「関連手術」,「その他の手術」として例示されています。ここで,最初の3つの手術については出現頻度が多いことおよびそれを行った症例に関して在院日数やコストのばらつきも少ないことからそれぞれ独立に評価されています。しかしながら,それ以外の手術は「白内障・水晶体の疾患」に関連した手術であるが頻度が少ないために,分類のキーとしては独立できず「関連手術(定義テーブルの診断群分類対応コードでは96)」としてまとめられています。「その他の手術(定義テーブルの診断群分類対応コードでは97)」は当該疾患と直接的に関係のない手術で,定義告示としては例示されていません。次に,手術・処置等1としては「角膜移植術」,手術・処置等2としては「全身麻酔」の有無が評価されています。また,この例では該当しませんが悪性腫瘍などの場合は化学療法や放射線療法の有無が手術・処置等として記載さます。副傷病についても考慮すべき傷病がICD-10で規定されています。ここで注意すべき点は,ここに示された病名がある場合のみ「副傷病名あり」と判断され分類に使用されるということです。したがって,仮に副傷病があっても,それが定義表に対応するICD-10として示されていなければ「副傷病あり」とはなりません。最後に「白内障・水晶体の疾患」の重症度等については病側が片側か両側かが考慮されます。この定義テーブルからは「白内障・水晶体の疾患」について「手術」6区分(なしを含む)×「手術・処置等1」2区分×「手術・処置等2」2区分×「副傷病」2区分×「重症度等」2区分=96の分類が定義表から可能になりますが,分類としては臨床的に意味のある16分類のみとなります(図1)。

 定義表のみからこのような判断をすることは,慣れないうちは非常にわかりにくいだろうと思います。そこでそれぞれの傷病について分類の流れを図式化したのが図1に示した樹形図です。

包括評価の概要

包括評価の対象患者
 まず,包括評価の対象患者ですが,一般病棟の入院患者で,包括評価の対象となったDPCに該当したものになります。ただし,入院後24時間以内の死亡例や,治験の対象患者などは除外されます。なぜならば,これらの患者さんは医療資源の消費量という点では非常にばらつきが大きくなってしまうからです。

包括評価における診療報酬の額
 次に包括評価における診療報酬の額ですが,包括評価部分と出来高部分から構成されています。

 包括評価部分とは,ホスピタルフィー的な要素で,この部分に関しては,診断群分類ごとの1日当たりの包括評価によって点数が決まっており,さらに医療機関別係数によって調整をする,という仕組みになっています。したがって,包括範囲の点数は以下のように計算されます。

 包括範囲の点数=診断群分類ごとの1日当たり点数×医療機関別係数×在院日数

 包括評価の範囲は,出来高の診療報酬との対応でみると入院基本料,検査,選択的動脈造影カテーテル手技を除く画像診断,投薬,注射,1000点未満の処置料,手術・麻酔の部での薬剤・特定保険医療材料以外の薬剤・材料料となっています。

 出来高のほうはドクターフィー的要素ということで,手術料,麻酔料,1000点以上の処置料,心臓カテーテル法による検査,選択的動脈造影カテーテル手技,内視鏡検査,病理診断,指導管理料,リハビリテーション等や,手術・麻酔の部で算定する薬剤・特定保険医療材料となっています。

 このように,わが国の場合,包括部分はDPCごとに設定された1日当たり定額方式で支払われます。アメリカのDRG/PPSのような1入院当たりの包括ではないことに注意が必要です。ただし,在院日数に応じた評価は,在院日数の適正化の意味もあり3段階の逓減制が導入されています。期間に関しては3つの設定があります。図2はそれを説明したものです。まず,入院期間Iですがこれは25パーセンタイル値に相当します。例えば,あるDPCの患者さんが100名いた時,在院日数の短い方から数えて25番目の患者さんの入院日数に相当するのが,この入院期間Iです。次に入院期間IIですが,これは各DPCにおける平均在院日数に相当します。そして,特定入院期間ですが,これは各DPCにおいて平均在院日数+2×標準偏差として計算される日数です。この3つの期間について次のような価格設定が行われます。

 まず,DPCごとに平均在院日数における1日当たり平均点数が求められます。これが図2中の一番上の点線に相当します。これを基本として入院期間Iまでの15%加算額が決定され,さらに図中のAとBの面積が等しくなるように,入院期間IIまでの1日当たりの点数が決定されます。そして,特定入院期間以降は出来高算定という形です。ただし,平成15年度における検討の結果,化学療法などで初期加算を重くしたほうが適切であると評価されたDPCについては25パーセンタイル値までの加算分を5パーセンタイル値まで繰り上げて設定しています。

 このようにして入院1日当たりの点数が決まるわけですが,実際の支払いではこれに医療機関別係数を掛けることになります。この医療機関別係数とは何かというと,機能評価係数と調整係数の和として求められるものです。

 機能評価係数とは,その名の通り,各病院の機能を評価する係数で,現在はとりあえず,紹介外来加算のように,現行の診療報酬表で評価されている機能的な加算点数を係数化しています。調整係数は,制度変更に伴う対象期間における財政状況の激変を緩和するために,同じ患者を同じように診療した場合,同じ収入が得られるようにするための移行期間の係数として設定されているものです。

 将来的には,この医療機関別係数の中の調整係数は,機能評価係数や地域係数に置き換わっていくことになると考えられます。例えば,離島から患者が入院してくるような場合,まず入院してから検査をして手術を受け,そして抜糸も入院中に行うということとなるので,入院日数が通常の患者より長くかかります。したがって,このような地域特性を何らかの方法で地域係数化することが必要になります。

2607号につづく


松田晋哉氏
1985年産業医大卒。91-92年フランス政府給費留学生(フランス保健省公衆衛生監督医見習い医官),92年フランス国立公衆衛生学校卒。93年医学博士(京大)。99年3月より現職。専門領域は公衆衛生学(保健医療システム,産業保健)。