第2603号 2004年10月4日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


「臨床研究の本は難しい」,そんなイメージを一変させる一冊!!

How to Makeクリニカル・エビデンス
浦島充佳 著

《書 評》小野崎耕平(ハーバード大スクール・オブ・パブリック・ヘルス・医療管理学/ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社エチコンジャパン)

 「本書の出版を心待ちにしていた」書評の決まり文句だ。それは賛辞や励ましだけではなく,時には,著者への気遣いや愛情だったりもする。単なる慣例で添えられている場合もあるだろう。一方,いくら心の底からそれを伝えても,三割くらいは割り引いて見られるのが,この手の書評と結婚式のスピーチである。いずれも,事実上「誉める」意外の選択肢はないからだ。しかし,それを承知のうえでも,あえて最大限の賛辞と推薦の言葉を贈りたい稀有な著作,それが本書『How to Makeクリニカル・エビデンス』だ。

本質を突いたメッセージが満載

 「エビデンスを患者さんにどう使うか,というエビデンス・ベイスド・メディスン(EBM)は臨床家として当たり前,これからの日本の医療界に求められるものは,『エビデンスを構築すること』すなわち,クリニカル・エビデンス・メイキング(CEM)ではないでしょうか?」冒頭で著者はこう説く。

 東京慈恵会医科大学の創始者,高木兼寛の「脚気栄養学説」にはじまり,ポリオ・ワクチンの臨床試験,狂牛病,エイズなどのケースに引き込まれるうちに,臨床研究の種類や対象,その方法論,統計学の基本セオリーなどのエッセンスが,いつの間にか腑に落ちてくる。

 「統計学的有意差をもって相関関係があることを提示することと,因果関係があることは異なる」というメッセージが再三登場する。ハッとする読者も多いだろう。このような,本質を突いたメッセージは他にも満載だ。それでいてわかりやすい。そしておもしろい。

 著者の浦島充佳先生は,東京慈恵会医科大学で骨髄移植を含む小児癌医療を中心に活躍,そしてハーバードの内科インストラクターやダナ・ファーバー癌研究所研究員を経て帰国。分子生物学的手法に疫学・生物統計学的手法を融合した新たな領域を開拓してきた。現在は慈恵医大の「臨床研究開発室」で臨床家の研究デザインや解析の支援のほか,人気の「慈恵クリニカル・リサーチコースを主宰するなど,同分野の普及啓蒙でも大活躍である。

 各章の冒頭で提示されるケースとその分析。そしてそこから導かれるメッセージ。各章にふんだんに盛り込まれている,ケースを軸とした構成は,ハーバードの名教授陣が授業で繰り広げる「ケース・メソッド」のアプローチを髣髴とさせる。エキサイティングだ。

直ちに本書を手にとるべきだ

 日頃,臨床研究の勉強の必要性を感じながらも日々の診療で忙殺され,なかなか第一歩を踏み出せない,数学や統計が嫌いだが臨床研究の必要に迫られている,学会前に統計ソフトに慌ててデータを流し込みつつエイヤッ!で検定をしている,海外で「通る」ペーパーを書きたい。このような方々は直ちに本書を手に取るべきである。もちろん,看護師,コメディカル,医学生,医療関連企業の方や一般の方々にとってもきわめて有用なのは言うまでもない。

 P値,オッズ比,交絡,バイアス,コホート研究とケース・コントロール研究の相違等々,盛り込まれている内容は豊富だ。秀逸なのは,それぞれについて「要は何なのか?」「それが現実にどういう意味があるのか?」という本質にまで言及している点だ。だから腑に落ちる。

 そして,さらに深く学びたい人のためには,豊富な参考資料がダウンロードできる著者のウェブ・サイトへの案内が要所に掲載されている。勉強したくなる仕掛けが心にくい。

 本のサイズも章立ても見事にコンパクトにまとまっている。鞄に忍ばせておけば,空いた時間に少しずつ読める。これも多忙を極める臨床家にこそ読んで欲しいという著者の,これまた憎いばかりのストラテジーである。(ただし,一度読み出すと今度は中断するのに難渋するだろう!)

これからの医療を考える羅針盤を与えてくれる

 「最良と思われる治療を施しても治らない。ではどうしたらよいのか?」「海外の雑誌に投稿しても論文が受理されない。なぜか?」こんな原体験と想いこそが,著者を執筆に駆り立てたのだろう。「証明された治療法が人々に適応されなければ意味がない」「1つのクリニカル・エビデンスが,けた違いに多くの人を幸せにすることができるかもしれない。臨床研究とはそんな魅力を秘めた領域だ」と一貫して説く。原体験と豊富な経験に裏打ちされたメッセージは,重く,そして気迫に満ちている。

 本書が与えてくれるのは,「解説」ではなく「メッセージ」である。そして,類書と圧倒的に異なる点は,実はここにある。もちろん,クリニカル・リサーチに必要な数多くの知識を与えてくれる。しかし単なる実用書では決してない。これからの医療を考える羅針盤を与えてくれる啓蒙書である。

A5・頁208 定価2,625円(税5%込)医学書院


遺伝に関する知識をクリアに整理

《総合診療ブックス》
一般外来で遺伝の相談を受けたとき

藤田 潤,福井次矢,藤村 聡 編

《書 評》垣添忠生(国立がんセンター総長)

自信を持って相談を受けるために

 藤田潤,福井次矢,藤村聡先生の編集で,「一般外来で遺伝の相談を受けたとき」が刊行された。編集にあたった三先生は京都大学で診療,研究の第一線に立つ現職の人々である。当然のことながら,現場からの発想が強く貫徹された書物となっている。医学書院における「総合診療ブックス」の21冊目にあたり,一般医や看護師に向けて,これだけは知ってほしいことを平易に解説する単行本シリーズだそうだが,その意図通りの出来上がりである。記述と適切な図の挿入により,どの章も誠に明快である。ちなみに筆者は曖昧な知識しか持っていなかった「ミトコンドリア遺伝」の章を読んで,この病気の意味を初めてはっきりと理解することができた。

 外来診療の現場では,病気に関する多様な相談を受ける。特に,結婚や子どもを持つこと,血縁者の病気と自分との関連など,遺伝と関連した相談も多い。時には自身の知識があやふやなため,当たりさわりのない,曖昧な返事でお茶を濁す場合もある。今後は,わずか数時間あるいは数日,集中して本書を読めば,あるいは自分に関連した章を拾い読みするだけでも,自身の知識が非常にクリアに整理される。以後は自信を持って先ほどのような状況を切り抜けることができるようになるだろう。

「遺伝」に関する偏見,無理解

 遺伝子という言葉が世の中に定着してきたことはよいことだが,依然として「遺伝」に関する根強い偏見,無理解がある。医療従事者がまず本書のような書物で事態を正確に理解し,正しい知識,判断を世の中に広めることも,この種の病気で苦しみ,あるいは心配する人たちの懸念を軽減し,人間の多様性の1つとして,こうした病気が社会に受け入れられていく地道な道程につながると信ずる。

 筆者は,わが国でも遺伝子情報による差別を禁止する法律の必要性と,遺伝カウンセリングに対する病院内での正式な職種の確立,そして診療報酬上の加算を強く願っていることを付記して,本書の書評としたい。

A5・頁196 定価4,200円(税5%込)医学書院


軽度発達障害への対応も言語聴覚士の役割

言語聴覚士のための基礎知識
小児科学・発達障害学

宮尾益知,二瓶健次 編

《書 評》五十嵐一枝(白百合女子大教授・文学部)

子どもの疾患と発達に関する科学的な広い知識の習得をめざして

 本書は,言語聴覚士を従来の言語障害のみならず,最近話題にのぼる軽度発達障害への対応にも大きな役割を持ちつつある職種と位置づけて,その養成に必要な子どもの疾患と発達に関する科学的な広い知識の習得をめざして書かれている。

 第1章では,胎児期および新生児期に認められる異常や奇形,小児期の各系の疾患について,各発達期と各領域の専門家によって遺漏なくしかも簡潔に記載されていて読みやすい。子どもの療育や教育に携わる専門家が,病気や障害の内容を知る必要にせまられて医学書を開くと,記述量の多さと専門用語に阻まれて先に進めない,という難点もここでは解消されている。

 第2章では,運動障害,知的障害,言語障害,感覚器障害,およびその重複障害に関して,早期発見と各機能にとって適切な早期対応をめざして,定義や原因やさらに障害の特徴を考慮した対応の仕方が述べられている。

 第3章では,発達期に現れる認知,言語,運動,社会的技能などの全体的または部分的遅れについて,精神遅滞,広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥・多動性障害をあげて,臨床的特徴,行動観察や評価の方法,家庭や集団での支援のあり方の要点が述べられている。発達の過程で少しずつ重なり合うことの多いこれらの障害について,成育歴聴取や判別すべき認知や行動のポイントなどがていねいに説明されており,認知心理学的あるいは神経心理学的評価方法が詳しく紹介されている。さらに,得られた情報や評価を実際の対応に結びつけ,専門性の高い援助へとまとめあげていく必要性が強調されている。

 最後に第4章では,少子化が進む原因と保健環境や医療の変化に言及し,現代の環境の中でいかに子どもを健やかに育てるかについて,広く地域社会や行政や経済などの視点を含んだ子どもを取り巻く環境について考え,支援の実際を考察している。

本書全体から読み取れる編者の意思

 本書は,言語聴覚士が臨床活動に必要な基礎知識を得るために編集されたものであり,その目的に十分かなった内容である。さらに,子どもの疾患や行動やこころの問題は近接領域の多職種の専門家の連携によって支援されなければならない,という編者の意思が本書全体から読み取れ,子どもはどのようにして育まれるか,という普遍的なテーマを繰り返し考えさせられる構成でもある。また,随所にコラムとノート欄が設けられており,私たちが時々見聞きするが意味がよくわからない専門用語やトピックスなどの解説や紹介が書かれていたり,ケースの紹介があったりするなど興味深く読み進むことができる。言語聴覚士のみならず,子どもの発達に関連する諸領域を学ぶ学生や専門家にも薦めたい1冊である。

B5・頁212 定価3,360円(税5%込)医学書院


学生が作業療法士となるための出発点

《標準作業療法学 専門分野》
作業療法学概論

矢谷令子 シリーズ監修
岩テル子 編

《書 評》澤 俊二(藤田保衛大リハビリテーション学科・作業療法士)

「よい教員」の役割

 毎年10校近い作業療法士の養成校が増え続けている昨今,教員のなり手がない,臨床実習地が足りない,卒前・卒後の教育が足りない,よって,作業療法士の質が低下しつつあるというように,ことあるごとに教育の危機が言われている。その通りであろうと思う。だからこそ,今,「よい学校」を作るべきではないかと思う。

 「よい学校」とは何か。「よい教員」がいるところが「よい学校」である。「よい教員」とは,学生の魂を揺り動かし,彼らの持つ秘めた可能性を引き出す教員のことであると考える。教員が,「よい教員」になる努力を懸命に行う。そして,作業療法教育において,新1年生に対して特に全力をあげて「作業療法学概論」をきちんと教えることこそが「よい教員」の役割として重要であると私は考えている。

 「作業療法学概論」は,学生が作業療法士となるための出発点であり,そこで学ぶ作業療法の歴史,広がり,理論,実践,そしてなにより,作業療法の面白さや魅力は,彼らの心を揺さぶり,自分で調べたり,見学に行ったりして実感することで,作業療法の核が育っていく。教員として,また先輩作業療法士として,一緒に悩み,考える機会は,白紙で新鮮な彼らの心に感動の波を起こす。「作業療法って何?」と聞かれて,胸を張って答えられる学生が育つ,それが,「作業療法学概論」である。また,長く臨床実習生を指導した経験から言えることは,臨床にかかわる者は次第に我見で作業療法を学生に語り,その偏りに気付かなくなってくる。だからこそ最新の『作業療法学概論』を紐解き,原点を学ぶことはたいへん重要であると思う。

作業療法に関する最新の知識を整理

 さて,今回,「標準作業療法学専門分野全12巻」のトップバッターとして,岩テル子氏の編集で『作業療法学概論』が登場した。近年では最新となる作業療法の概論である。学生のみならず,臨床に携わる若手の作業療法士にとっても,また私のように少々くたびれてきた作業療法士にとっても,作業療法に関する最新の知識を整理して得られ,かつ,作業療法を改めて考えることができる,刺激的な本である。

 第1章に,「専門職に求められる資質と適性」を持ってきている。この本の核であると思う。学生は,自分が作業療法士になる素質を持っているか不安に思っている。それに対して,専門職の備えるべき条件を示し,自分で考えるようにていねいに言葉を紡ぐ。チームアプローチの必要性を説き,さらに「EBMと作業療法」が登場し,わかりやすく説明がなされる。第2章で,「作業療法とは」がつなぐ。ここでは定義,歴史,理論の変遷を学ぶ。第3章の「作業療法の過程」で,ソフトに臨床に導入する。第4章の「作業療法の実際」で,それぞれの分野で事例をあげて,具体的に作業療法では何を目的に,何を行うのかを明らかにする。第5章で「作業療法部門の管理・運営」がくる。今までの概論で扱われなかった,給与などのコスト意識を持つためにはどうしたらよいかなど,臨床に即した視点で細かく数字をあげて,的確に管理・運営を述べている。臨床についている作業療法士もハッとする内容で参考になろう。ただ,介護保険制度における居宅介護支援事業所を法人格をもって立ち上げる作業療法士も多くなっている。居宅介護支援事業所の開設への言及を今後の版で希望する。そして巻末に,「さらに深く学ぶために」という項を設け,参考文献をあげて,自己学習が深まるように配慮している。

 本書は図が楽しい。そして,キーワードの説明がある。さらに,学ぶべき目標が定められている。全体に細やかな配慮がなされている。

 アメリカを代表する教育哲学者のデューイは,「教育が進歩しなければ社会も進歩しえない」と警告する。卒前・卒後教育において,本著を参考にして学ぶことで,一歩進歩した自分に至ると思う。

B5・頁240 定価3,990円(税5%込)医学書院