医学界新聞

 

療養病床の近未来を問う

第12回日本療養病床協会全国研究会開催


 第12回日本療養病床協会全国研究会が9月10-11日の両日,中川翼会長(定山渓病院)のもと,札幌市の札幌コンベンションセンターで開催された。

 「介護療養型医療施設連絡協議会」から「日本療養病床協会」に改称して最初の大会となる今回はメインテーマを「療養病床の近未来――北の大地からの提言」として,同名のシンポジウムが企画されたほか,特別講演では介護保険制度改革の検討状況が報告された。また,記念講演ではプロスキーヤーの三浦雄一郎氏が70歳でのエベレスト登頂体験を語った。大型の台風が数日前に北海道を直撃して一時は開催も危ぶまれたにもかかわらず約1600名が参加し,一般演題も過去最高の330題が集まった。


■法改正に向けた見直しが進む介護保険制度

 2000年4月に施行された介護保険制度が見直しの時期に入っている。現在,厚労省による検討作業中で,2005年には制度改正法案を国会に提出。さらに2006年4月には保険料の見直しと介護報酬改定がなされる予定だ(診療報酬改定も同時期の見通し)。中村秀一氏(厚労省老健局)による特別講演「介護保険改革と介護保険療養病床の今後のあり方」では,社会保障審議会介護保険部会による制度見直しの検討状況が説明された。

社会保障審議会での検討状況

 介護保険部会では2003年5月以来審議を重ね,さる7月30日に「介護保険制度の見直しに関する意見」がとりまとめられた(厚労省HPから閲覧可)。同意見書は,(1)制度見直しの基本的な考え方,(2)制度見直しの具体的内容,(3)被保険者・受給者の範囲について,の3部で構成されているが,(1)と(2)については「審議会としての意見はまとまった」と説明し,「意見書の内容に沿って制度の設計作業を行い,来年2月までに法案を提出したい」と語った。制度創設時からの課題である(3)に関しては,現時点では結論を得るには至らず,秋以降も継続して検討していくことを明らかにした。

 介護保険の基本理念からみた課題としては,(1)量から質へのサービス改革,(2)在宅ケアの推進,(3)市町村の保険者機能を強化する地方分権の推進,の3点をあげた。(1)については「介護保険部会の中でケアマネジメントの議論がかなりあった」として,ケアマネジャーの資格更新制の導入や研修の強化,事業者指定の見直しを視野に入れていると語った。(2)に関しては,在宅と施設の利用者負担の不均衡の是正をポイントにあげ,施設における居住費用や食費負担の見直しを図るべきという意見を紹介した。

総合的な介護予防システム確立へ

 2015年には「ベビーブーム世代」が高齢期に達し,その10年後には高齢者人口がピーク(3500万人)に達する。これに伴い,高齢者の独居世帯の増加も推測されている。先述の意見書ではこれを「高齢化の最後の急な登り坂」と称して,介護予防の重要性を強調している。

 中村氏は厚労省「高齢者リハビリテーション研究会」の報告書も踏まえつつ,「現行のサービスでは介護予防の効果が上がっていない」と指摘。死亡の原因疾患と生活機能低下の原因疾患は異なることに着目した介護予防の確立が急務であるとの見方を示した(「高齢者リハビリテーション研究会」報告に関しては本紙2579号・2581号で既報,医学書院HPより閲覧可)。そのため,市町村主体で行われている既存の予防事業を見直し,現行の介護保険制度における要支援,要介護1などの軽度者も対象とした「新・予防給付」の創設を重点課題にあげた。現在は老健局内に「介護予防重点推進・評価委員会」を設け,マネジメントやスクリーニングの手法,サービスプログラムなどに関して検討中で,「来年1月までには結論が出るだろう」との見通しを述べた。

■制度改革に揺れる療養病床34万床

 昨年8月末に一般病床と療養病床の区分届け出が行われ,現在のところ一般病床約91万床に対し,療養病床は約34万床となっている。一般病床の減少と療養病床の増加傾向が続いているが,介護保険制度と医療保険制度の改革が療養病床の将来にどのような影響を与えるのか,不安の声も根強い。また,75歳以上を対象とした高齢者医療保険制度の検討案を厚労省が提示しており,その動向も注目されている。

 シンポジウム「療養病床の近未来――北の大地からの提言」(司会=国立保健医療科学院 小山秀夫氏)では,西澤寛俊氏(西岡病院),中島正治氏(厚労省),浜村明徳氏(小倉リハビリテーション病院),中川翼氏(定山渓病院)が登壇し,今後の療養病床のあり方が議論された。

医療保険療養病床はリハ病棟と特疾病棟に特化!?

 各演者による口演の中で,全日本病院協会の副会長でもある西澤氏が同協会発行の「病院のあり方に関する報告書」(2002年)の概要を説明。療養病床の課題として「機能の明確化」をあげ,「医療保険療養病床は回復期リハビリテーション病棟と特殊疾患療養病棟に特化」という案を提示した。療養病床の行方に関してはさまざまな憶測が飛び交っているが,会場からも医療保険担当の中島氏に意見を求める声が出た。

 小山氏はこれを受け,「医療保険療養病床が重度の人をみていて,介護保険療養病床が介護中心に軽度の人をみているという事実はない。むしろ,前者のほうが軽度の患者が多い」と指摘。中島氏は,両者の実態に差がないのならば改善の必要があるとの考えを示しつつ,「一方は診療報酬,一方は介護報酬の世界。それぞれの場で十分な議論をして結論を出すこと」と,改めて確認した。

 また,中川氏らが今年4月に日本療養病床協会の会員病院に対して行った調査結果(回答率81.5%)によると,医療保険療養病床のうち回復期リハ病棟は11.1%,特定疾患の病棟(特I or特II or特加算)は34.9%を占めており,すでに療養病床のシフトがはじまっていることが明らかになった。

 その後は,MSWの確保,回復期リハビリテーション病棟の機能向上など,療養病床の質に関する議論が続いた。小山氏は「ここ数年,特に介護保険ができたあとは療養病床が玉石混淆になっている印象がある」と分析。常に質を向上させていく努力を関係者に求め,シンポジウムをまとめた。