第2602号 2004年9月27日


第1回「医学書院スキルアップセミナー」開催

糖尿病患者のエンパワーメントをめざし,
臨床の「知恵」を結集


 さる8月7日,イイノホール(東京都千代田区)において,第1回医学書院スキルアップセミナーが開催された。今回のテーマは「糖尿病ケアの知恵袋」。500人近くの聴衆を集めた会場では,日本における糖尿病患者への心理的アプローチの第一人者である石井均氏(天理よろづ相談所病院)をはじめ,4名の講師を迎え,糖尿病患者の「やる気」を引き出すエンパワーメントアプローチと,それを進めていくための臨床の知恵が講義された。なお,本セミナー参加者には,日本糖尿病療養指導士認定更新研修単位<1群>看護研修の1単位が交付された。

●セミナープログラム
糖尿病への「日本式」エンパワーメントアプローチ(石井均)
糖尿病患者へのトータル・サポートを目指して(ロシュ・ダイアグノスティックス社)
実践! 栄養指導(本田佳子)
実践! 運動療法指導(石黒友康)
実践! エンパワーメント-会場とともに考えるケースディスカッション(石井均,本田佳子,石黒友康,事例提供:船田仁美)


「生活習慣の変化」を援助するための「3つの柱」

 午前中は,石井均氏(天理よろづ相談所病院)が『糖尿病への「日本式」エンパワーメントアプローチ』をテーマに講演。石井氏は,糖尿病患者への援助とは,患者の生活習慣が変わることをめざして行うものであるとしたうえで,その目的を達成するための「3つの柱」について解説した。

 3つの柱の1つ目は,患者を援助するためのしっかりとした方法論を持つということであり,2つ目は,行動変化の主体は患者であるということ,そして3つ目は,その援助をチームで行い,家族をも巻き込んだ援助にもっていくことである。

 石井氏は特に,方法論に執着するあまり,2つ目の柱を忘れ,「患者を変えよう」と医療者ばかりが熱くなってしまうケースに注意をうながした。また,エンパワーメントアプローチはあくまでも患者が主役であり,患者が自分自身で治療法を選択することが,結果として高い治療成績につながることを解説した。

「知恵」こそが専門家の証

 一方,石井氏は「しかし,こうした理論だけでは,エンパワーメントは単なる『考え方』に過ぎない」と強調。米国において証明されつつあるエンパワーメントの有効性を示す「結果」を,日本においても会場に集まった参加者とともに作っていきたいと述べ,エンパワーメントアプローチの枠組み,方法論などを解説した。特に,患者の思いを聞き,支えるためのツールとして,PAID(Problem Areas in Diabetes Survey:糖尿病問題領域質問表)や「変化ステージモデル」などについても,その利用方法を具体的に解説した。

 また石井氏は,「患者さんに自己決定してもらうのがエンパワーメントだとしても,それは医療者が何もしなくてよいということではない」と述べ,「患者さんが変化する,あるいは変化を考える時に,できるだけ多くの引き出しを自分の中に持って,それに応えることができるか,ということが専門家として必要なことだと思う」と述べ,氏の編集になる新刊『糖尿病ケアの知恵袋』を紹介。「この本は,エンパワーメントの考え方に賛同してくれた皆さんの知恵を結集して作ったものですが,今後は,この会場に集まってくれた皆さんの“知恵”をも集め,さらに大きな知恵袋を作っていきたい」と講演をまとめた。

セミナー参加者とともにつくる新たな「知恵袋」

 昼食を挟んで午後からは,本田佳子氏(女子栄養大)が「実践! 栄養指導」を,石黒友康氏(聖マリアンナ医大・PT)が「実践! 運動療法指導」をそれぞれ講義。特に石黒氏の講義は,会場を交えて身体を動かすもので,参加者の関心を強く引いた。

 セミナー最後のプログラムであるパネルディスカッション「実践! エンパワーメント」では,先に講演を終えた石井氏,本田氏,石黒氏に加え,事例提供者として船田仁美氏(さいとう内科クリニック・看護師)が登壇。船田氏の提供事例をもとに,「糖尿病患者へのエンパワーメント」の実際が議論された。

 提供事例は40代男性の2型糖尿病患者。3度の長期治療中断を含む,3年余りの長期間にわたる事例だった。「少しよくなると病院に来なくなる」や「家族からうるさくいわれるのがストレス」といった,糖尿病診療にかかわるものなら誰もが思いあたる困難エピソードに,強くうなずく参加者が多数みられた。また,石井氏ほか,講師陣からの事例に対する的確な分析や,思いも寄らない提案などは,まさに「知恵袋」の名にふさわしく,多職種で事例を深く掘り下げて検討することの重要性を確認するディスカッションとなった。

編集室より
 本セミナーの詳しい内容については,弊社『看護学雑誌』2005年2月号(2005年1月発行予定)に特集として掲載される予定です。また,セミナー当日,時間の関係上お答えすることができなかった参加者からの質問への答えも,上記特集号に掲載される予定です。ご期待ください。