第2601号 2004年9月20日


寄稿

家庭医と,そして家庭医をめざす学生と語り合う3日間

第16回「医学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナー」を運営して

井田耕一
(信州大4年,第16回「医学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナー」実行委員長)


 オリンピック直前の8月初旬,長野は猛暑に負けないくらいの熱気に満ちました。夏の恒例行事となった,医学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナーも今年で第16回を数えました。本年度は参加した医学生・研修医が200名,そして講師の先生方が60名,総勢260名が全国より集まり,大盛況のうちに終了しました。

 その一方で,今回は申込み開始よりわずか3週間で定員を締め切る運びとなり,残念ながら多くの方々にご参加いただけませんでした。そこで,今回参加できなかった方,そして少しでも家庭医療に興味を持つ方にセミナーの様子をご紹介したいと思います。

3日間の構成

 家庭医療学夏期セミナーは例年3日間の日程で開催されます。初日に「家庭医療とは何か」を知り,そして2日目に「家庭医の基本技能」を実践し,最終日に「2日間で生じた疑問」を解決してゆきます。本年度は初日に4講演あり,内容は家庭医療を実践されている先生方のお話の他,ケアマネージャーの方から在宅医療の問題と医学生・研修医への提言などをいただくものなど,家庭医療というフィールドを知るために過不足ないものでした。2日目,参加者は17セッションの中からあらかじめ選択した3セッションを受講します。詳しいセッションの内容は家庭医療学会学生・研修医部会のホームページをご覧ください。

 本稿では私が参加しましたセッションを2つ簡単にご紹介します。まず「小外科実習」では,茹でて人肌に似せた豚足をメスで切り,この傷を縫合する練習をすることで,皮膚縫合について学びました。すでに経験のある研修医の先生方は講師からハイレベルな縫合術を習っていました。また「在宅ケア実践編」では,第一線で活躍される先生が現場で実際悩んだ在宅症例を提示し,その際に先生の方針で果たしてよかったのか否かを担当講師を中心にグループでディスカッションするものでした。普段,大学では学ぶ機会のない内容であるため,はじめは戸惑いもありましたが,徐々に語らいに参加できるようになりました。

 最終日は,家庭医をさらに詳しく知るためのセッションが5つ用意されました。各セッションでは質問時間が多めにとられ,参加者は楽しく時には真剣に講師とディスカッションし,少なからず疑問を解決できたと思います。私は「世界への道・活躍する女性家庭医」に参加しました。このセッションではアメリカで活躍している日本人女性の先生が,現在に至るまでの経緯,職場環境,そして家庭医の魅力について語ってくださいました。ぎっしりと組み込まれた診療予定の中でも,ご自分のペースを崩さず,むしろ日常を楽しんでいらっしゃる印象さえ受けました。先生の「日々勉強です」というお言葉は,今セミナーで忘れられない言葉のひとつです。

連夜の懇親会

 夏期セミナーは昼間だけではありません。夜は家庭医の先生方ともっと密着して語り合える場を提供しました。講師の先生の周りには自然と人の輪ができ,お話に耳を傾ける参加者の表情は真剣そのもので,実行委員として胸が熱くなりました。後にある先生から伺いましたが,希望に満ちた学生の表情を見ながら話をして感無量だったということです。

 懇親会の場は一方で,先生方とだけでなく参加者どうしの語らいの場としても好評でした。忙しい大学・研修医生活のなかでは,自分の将来や夢を語り合える場が意外に少ないものです。しかし私たちがいた空間には,学生同士が率直に語り合う相互作用の結果として普段忘れられている「目に見えない大切なもの」がたくさん生まれ,皆がこれらをしっかり両手に持ち帰ることができたと思います。従来の生活に戻ってもそれらの輝きを失わせず,夢へつながる原動力にしていただけたら実行委員としてこのうえない喜びです。

課外活動の醍醐味

 今回夏期セミナーを開催するにあたり問題となったのは60名にも及ぶ講師の先生方へのご依頼およびご連絡でした。ご多忙な中,講師の先生方は参加者に伝えたい熱い想いを胸に来場されます。本セミナーは手作りであるため予算に余裕はなく,したがって講師への謝礼をお支払いしておりません。つまり完全に手弁当でお願いします。このことに留意して,実行委員は十分な謙虚さを持って準備を進めるべきでしたが,学生としての甘さが出てしまい数多くの先生にご迷惑をおかけしました。当然のことながらいくつかお叱りも受けました。しかしそこには同時に愛情ある助言が含まれ,私たちはこの点をよく反省し,メーリングリストや電話などを使って皆で対応を考え今セミナーに活かすことができたのです。学生時代は,失敗を繰り返す中で反省し,その点をいかにして次につなげるのかを実践できる貴重な期間です。社会人となって「非常識だ」と言われる前に失敗をしたことで,尊敬する先生方に叱咤激励され正しい道を示していただけたことは一生の財産だと思います。こうしたものはセミナーを開催するなどといった課外活動の醍醐味だと感じています。

「医学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナー」への参加意義

 もし興味をお持ちでしたら,家庭医療を知っている,知っていないにかかわらずぜひ家庭医療学夏期セミナーに足を運んでいただきたいと思います。また近い将来,家庭医療が日本に定着すれば,専門医との連携は必要不可欠になります。その意味では,専門医志向の方も家庭医療を知ることは決して無駄にはなりませんので,ぜひご参加いただけたらと思います。

 また将来専門医になるべきかどうかを悩んでいる学生にもこのセミナーの存在意義は大きいと思います。というのは,少なくない学生がいわゆる「診療所のお医者さん」を原風景として心に描いていたものの,大学内の専門教育や流行により進路を修正している姿をよく見るからです。同じ迷いをかかえた経験のある先生方と率直に語り合い,このわだかまりを整理することで,専門医の道を選ぶにしても未練なくご自分の道にまい進できることでしょう。

 最後となりましたが,学外課外活動の一環としてセミナーを運営してきて苦労も多かった一方で,尊敬できるスタッフとの出会いからはじまり,試行錯誤の中セミナーを作り上げていった経験は素晴らしく,私の中で一生忘れ得ないものとなりました。こうした機会を与えてくださった筑波大学付属病院総合診療グループの前野哲博先生に,この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。


井田耕一さん
 早稲田大教育学部卒。同大学院中退。2001年信州大学医学部入学。学生による課外活動が,法人化された大学にどのような影響を与えるかについて興味を持っている。
 学生にメリットある活動を提供することを日々の課題にしている。