第2599号 2004年9月6日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


この1冊をマスターすれば肝疾患の診療の及第点がとれる

肝疾患レジデントマニュアル
柴田 実,関山和彦,山田春木 編

《書 評》銭谷幹男(慈恵医大助教授/消化器・肝臓内科)

肝疾患にこれから携わろうとする若手医師のために

 この度,柴田実,関山和彦,山田春木3博士編集による『肝疾患レジデントマニュアル』が,医学書院から1999年発刊『これからの肝疾患診療マニュアル』の改訂版として上梓された。前版である『これからの肝疾患診療マニュアル』と同様に,最新の情報を網羅し,肝疾患にこれから携わろうとする若手医師が必要でかつ知りたい内容がみごとにコンパクトにまとまっており,これ1冊をとりあえずマスターすれば,肝疾患の診療の及第点がとれることは間違いないであろう。

 従来の内科系マニュアルでは記載が少なかった,画像診断や組織学的診断,さらに検査手技についても実地医家に必要な情報が的確に記載されており,日常診療での有用性は高く,また,肝移植についても,施設連絡先を含めた実施への実際が記載されており,その利便性も高い。『レジデントマニュアル』と名称を変えたものの,略語一覧,巻末の付録なども実に便利であり,肝臓専門医にとっても備忘録的虎の巻として白衣のポケットに忍ばせれば,大いに役立つものと思う。

 マニュアルとしては,『ワシントンマニュアル』が有名だが,この本の大きな特長として適宜,改訂を加えている点がある。肝疾患診療現場は,薬物や,機器の開発,さらに検査手技の発達による進歩が大きいことを勘案すると,今後適宜改訂されていくことが期待される。ことにわが国で飛躍的にその施行件数が増加している生体肝移植に関する記載や,ウイルス定量法の変革,新たな抗ウイルス薬などについては早急に加筆を計画し,常にUp to dateな標準マニュアルとしての確立を,版を重ねることにより成就されることを切に希望したい。

 また,今後の希望としては,日常診療ではしばしば遭遇する他疾患との合併時の対応,肝疾患時の薬物投与の注意などにも項目を割いていただければ,本書の価値はさらに高まること請け合いである。

B6変・頁388 定価4,725円(税5%込)医学書院


類書にない工夫に満ちた,超音波診断最良のテキスト

消化管超音波診断ビジュアルテキスト
畠 二郎,他 著
春間 賢 編

《書 評》芳野純治(藤田保衛大第2病院教授・内科)

消化器病分野では聴診器に代わる重要な診断法

 川崎医大内科学食道・胃腸科春間賢教授が編集された消化管に対する腹部超音波診断の本である。春間教授がこれまで行ってきた機能から形態に至る幅広い研究の成果の1つである。多数の症例のきれいな超音波画像をみることができる。

 超音波検査は,消化器病を担当する医師にとって聴診器に代わる重要な診断法である。しかも,非侵襲的な検査のため,受け入れやすいメリットもある。この検査により消化管のスクリーニングが行われればよく,内視鏡検査が行いにくい状況ではさらに有用である。術者がプローブを自在に動かすことにより,良好な画像が得られる。

 本書には類書にない工夫がいくつもされている。まず,症候別に超音波所見が記されている点に驚く。嚥下障害から血便まで11の症候に分けて症例の説明がされている。超音波検査の本で同様な項目がある本はまずないであろう。被検者の訴えを聞いた後,どこに重点を置いて検査をすべきであるか,本書を開きながら検査を行ってもいいのではないか。しかも,症例を並べただけに終わらず,症候ごとに超音波像がまとめられ,これにより鑑別すべきポイントが明確にされている。

 次に,症例の多くに内視鏡像が配されている。超音波検査の本に内視鏡像がある本はめずらしい。消化管を検査する者にとって内視鏡画像があると,疾患の状況を把握しやすい。病変の位置,拡がり,程度がそのまま頭に入ってくる。さらに,超音波内視鏡像,X線検査像,切除標本像,病理組織像が添えられ,超音波像の成り立ちを理解しやすくする工夫がされている。特に,急性腹症では別項として取り上げて,注意が喚起されている。

きれいな超音波像で眼を肥やす

 さて,画像診断では症例をたくさんみて,まず眼を肥やすことが上達の早道である。本書の超音波像は大変きれいである。しかも,それぞれにシェーマがつけられている。超音波診断と関係がないのではないかと思われる疾患にまで超音波画像があり,説明はすべて箇条書きで読みやすい。カラフルであり,書名に「ビジュアルテキスト」とあるのもなるほどと思わせる。

 新しい検査法として造影超音波,運動機能異常検査が入れられている。造影超音波は色々な症例に付けられており,本法が疾患の特徴を明確にするうえで有用であることを示している。さて,春間教授が編集されるからには運動機能検査について多くの紙面が割かれるのではと期待したが,それほど多くはなかった。これは,次の出版を考えておられるのであろうか。

 これほどまでに工夫がされている本書だが,超音波診断の本にしては,超音波像がやや小さいのではと思われた。これだけきれいな画像を集めたのであるから,もう少し大きくしてもいいのではないかと惜しまれるくらいである。しかし,これにより本書の価値が減ずるものではない。むしろ,超音波検査の有用性・重要性を再認識させられ,読者にとっても,臨床の現場で手元に置いて使える最良のテキストとなりえることは間違いない。

B5・頁140 定価8,400円(税5%込)医学書院


「私たちにもきっとできる」糖尿病の心理的アプローチ

糖尿病ケアの知恵袋
よき「治療同盟」をめざして

石井 均 編

《書 評》屋宜宣治(屋宜内科医院)

 糖尿病治療に携わる医療者に「糖尿病の心理的アプローチ」という言葉は広く知られている。しかし,どのようにして「心理的アプローチ」を行っていくかについて十分理解している医療者は多くはないと考える。本書は「心理的アプローチをこれから行っていきたい」と思っているみなさんや,現在「心理的アプローチを実践している」みなさんにぜひ読んでいただきたい1冊である。

 本書は,事例編と解説編の2部で構成されている点が特徴的である。事例編は医師,看護師,管理栄養士,理学療法士の先生がタイプの異なった7ケースに対して,ディスカッション形式で心理的アプローチの実際を詳しく語っている。解説編は,「心理的アプローチ」「食事療法」「運動療法」「経口薬治療」「インスリン療法」「血糖自己測定」「高齢者」のトラブルとなるポイントをわかりやすく解説している。

 事例編から読んでも,解説編から読んでも心理的アプローチについてより深く理解することができる内容となっている。

診療現場で困っているケースが取り上げられる

 事例編のディスカッションは,その場に参加しているような気持ちで一気に読むことができた。ディスカッションは,一般臨床でよくある血糖コントロールが難しい7人のケースがテーマとなり,そのケースで用いられた心理的アプローチの方法がとてもわかりやすく記載されている。「仕事が忙しく,勧められると間食を断れない患者」「運動を行っても,下がらない血糖に怒りを持っている患者」「インスリン自己注射を行わなければいけない痴呆老人患者」「自己表現が苦手な若い1型女性患者」「医療者の支援を受け入れない患者」「重度の合併症を持った患者」「乳がんの再発に不安を持ち糖尿病の治療に取り組めない患者」など,まさに私たちが診療の場で困っているようなケースを取り上げている。

 ディスカッションの中で石井均先生のコメントは,心理的アプローチやエンパワーメントアプローチがどのようにかかわっているかを繰り返して解説しているのでとても参考になる。

吹き出しコメントなどの工夫された構成でわかりやすい

 事例編でのもうひとつの特徴は,重要な点をわかりやすくするため3つの方法でまとめていることである。第一に重要な発言が色文字で強調され,第二にCheck Pointとして議論の要点がまとめられている。さらに第三として設けられた吹き出しコメントは,発言の内容についての簡単な解説であり,詳細を解説編へと導いてくれるため,内容に不明な点を残さず理解しながら読むことができる。

 解説編では,前述した7つのポイントを解説している。これらのトラブルのポイントは糖尿病の診療にたずさわる医療スタッフならぜひ押さえておきたいと考える。糖尿病治療では患者を中心としたチーム医療が大切である。患者と医療者が十分に話しあうことも大切であるが,患者のことを医療チームで十分にディスカッションすることも大切である。その際にこの7つのトラブルのポイントをしっかり押さえておくことは,よりよいエンパワーメントにつながるものと確信している。

 最後に,番外編で八戸市立市民病院西病棟7階の看護師のみなさんの「私たちの辞書には『手こずる患者』ということはないんです!(笑)」という言葉は心に残った。

 本書は,糖尿病の心理的アプローチが「私たちにもきっとできる」という自己効力感を高めてくれる1冊であるのでぜひ読んでいただきたい本である。

B5・頁184 定価2,835円(税5%込)医学書院


造影プロトコールの至適化に挑戦

CT造影理論
市川智章 編

《書 評》大友 邦(東大教授・放射線科)

造影CTのプロトコールは施設ごとに異なっている

 わが国では1万2000台あまりのX線CTが稼動し(人口あたりの普及率は堂々の世界一),1年間の造影CTの件数は450万件に達している。

 ちなみに東大病院では6台のCTが設置されており,うち5台が診断用に稼動し,年間の検査件数は約3万2000件,うち約2万件で造影剤が静注されている。

 これだけあたり前に行われている造影CTではあるが,そのプロトコールは施設ごとに異なっているのが現状である。そして自分たちが採用しているプロトコールを構成している造影剤の濃度,注入速度,注入量,撮影タイミングなどの各パラメータの正当性について客観的データに基づいて説明できるかと問われると,内心忸怩たるものがある。

現状に正面から取り組む

 このような現状に正面から取り組み,最適な造影プロトコールの理論的な構築に挑戦したのが本書である。内容的には3部構成で,総論の1章では,ヨード造影剤の物理化学的性状,生体への影響,体内での薬理動態に加え,副作用とその対策については裁判事例を含めて解説されている。基礎編と題された2章では,この領域のパイオニアである長野赤十字病院の八町淳氏を中心とした方々が理想的なtime-density curve(TDC),造影剤使用量と撮影タイミングの適正化について,ファントム実験などに基づいた理論を展開されている。臨床編である3章では,本書の仕掛け人でもある山梨大学放射線科の市川智章講師を中心とした方々が肝臓,膵臓,腎臓の多時相造影CTの至適プロトコールの詳細を示されている。

 造影プロトコールの至適化は,解より未知数の方が多い連立方程式を解く作業に例えることができる。この作業に取り組んだ執筆者の方々の意欲は,本書自体のタイトル,章ごとに付された「すべて」という語句,そして「本書は10年,20年経っても色あせない輝きを放ち続ける」という序文に現れている。

 本書を通じて放射線科医・診療放射線技師などのCTにかかわる多くのスタッフが理解を深めることが,造影CTの質の向上に直結すると確信している。

B5・頁260 定価5,250円(税5%込)医学書院


「質の保証」を軸にまとめた本邦初の本

臨床試験データマネジメント
データ管理の役割と重要性

大橋靖雄 監修
辻井 敦 著

《書 評》開原成允(国際医療福祉大教授・医療福祉情報システム)

データマネージャの養成に期待

 臨床試験のデータマネジメントは,これまで日本では,いわば「盲点」になっていた。「盲点」であった理由は,それがあまりにも日常的な業務であるために,それをまとめて考えることがなかったためであろう。しかし,データマネジメントが重要であることは今さら言うまでもなく,その成否が臨床試験の質を左右する。

 欧米諸国にはデータマネジメントを専門とするデータマネージャが存在し,養成コースもあることを大橋靖雄教授は早くから指摘し,日本でも必要であることを説いてこられた。その大橋教授の監修と辻井敦氏の実務経験からこの本が生まれたことは正に時宜を得たものであり,本書の出版を心から喜びたい。

 本書は,「臨床試験データマネジメント」を初めて1つにまとめて展望し,解説したものである。まとめてみると改めてその重要性が理解できるが,同時にその関係する領域,人,組織,技術などの複雑さが浮かび上がってきて,データマネジメントの難しさを感じさせる。データマネジメントの概念を示すために,その業務を本書から引用すると,データマネジメントとは,1)企画・立案,2)プロトコルおよび症例報告書の作成,3)施設との契約,薬剤配布,4)モニタリング,5)症例報告書の回収・確認,6)データ入力前のチェック,7)データ入力,8)データ固定,9)データ集計・解析,10)総括報告書作成,といった臨床試験の流れの中のすべての段階で良質なデータが得られるように,データ収集,確認,コンピュータによるデータ管理などを行うことである。このために必要な知識は,カルテを読むことにはじまり,品質管理手法,コンピュータデータベースの設計,国際的動向の把握にまで及ぶ。

 本書の記述は囲みの解説(Info Navi)を入れた工夫もあり,すべての業務にわたって非常によく整理されているが,その中心となる考え方を「臨床試験の質の保証」としているのも大変よい。日本では,これらの業務は複数の人がばらばらに行っていたのであろうが,全体を統括する人を置くことによってのみデータの質が保証されるからである。

 今後は,本書が契機となって日本でも臨床データマネジメントの重要性が認識され,データマネージャの養成が進むことを期待したい。すでに大橋教授らも関係したコースが企画されたり,実施されたりしているようであるが,問題が多岐にわたるだけに,さらに多くのコースが必要となるであろう。私の奉職している国際医療福祉大学においても,本年から「臨床試験研究」の大学院修士コースを開設して,CRCを養成していくことになっている。ここでもデータマネジメントは重要な科目となるが,将来はこれを独立させたデータマネージャ養成コースも必要になるかもしれないと思っている。

日本のデータマネジメントを先導する本に

 最後に,私の専門とする医療情報学の立場から著者に対し希望を述べておく。データマネジメントは,今後臨床試験に情報技術が導入される中で急速に変化していくと思われる。こうした新しい技術については,最後に「ニューテクノロジーによる新しいデータ管理手段」としてまとめられているが,この中の一部は数年もたたないうちに日常のこととなるであろう。特にリモートデータエントリー技術は注目しておく必要があり,それに伴いセキュリティ技術がますます重要になる。こうしたことを考えると,本書は今後も時代の変化に応じて改訂されていく必要がある。こうした改訂によって本書が常に最新の知識を提供し,日本のデータマネジメントを先導する本であり続けることを心から願うものである。

B5・頁196 定価4,725円(税5%込)医学書院


急速な進展をみせる気分障害治療の最先端をいく指針

気分障害治療ガイドライン
精神医学講座担当者会議 監修
上島国利 編

《書 評》田代信維(九大名誉教授・精神病態医学)

こころのカゼ「うつ病」

 躁うつ病やうつ病は1980年の米国精神医学会編纂のDSM-IIIで気分障害と衣替えした。「うつ病」は,特にその疾患スペクトラムが拡大され,従来の内因性疾患にとどまらず,「こころのカゼ」とも呼ばれるように,身体疾患に付随するものも含め一般内科や産婦人科でも多くみかけるポピュラーな疾患となった。経済的不況も加わって自殺者は,この5年間3万人を超す状況で,その大半が「うつ病」であるといわれる。「うつ病」の外来通院患者数も,この3年間で急増しているという調査がある。このような時期に『気分障害治療ガイドライン』が出版されたことは,治療者だけでなく患者さんにとっても大変ありがたいことである。

正しい診断と適切な治療

 本書の特色はDSM-IVの診断基準に従って,「うつ病」を幅広くとらえた「うつ病性障害」と従来内因性疾患とされた「双極性障害」とに2分して,その疾患概念をまず明らかにしているところであろう。本書の意図として,「正しい診断」がなされていないと「適切な治療」ができないという大前提がある。疾患の定義にはじまり,疫学調査による有病率,臨床症状にみる特徴,そして予後がエビデンスに基づき詳細に述べられている。うつ病で悩む人々を1日でも早く,その苦しみから解放することが本書の目標でもある。“治療計画の策定”にあって注意すべき点が事細かに,懇切丁寧に書かれている。初心者にとっても,読み返し,多くの患者さんに接していると,早く計画が立てられるように組まれている。その治療手順として,まず急性期,継続期,そして維持期を見極めること,どの治療期にあるかによって,チェックポイント,薬物の選択,精神療法のあり方などが異なる。治療法の適応だけでなく,その限界にも触れられている。さらに深く理解するためには“治療法の解説”が別章としてたてられていて親切である。治療効果だけでなく,副作用に関してもエビデンスに基づいた解説がされている。

難治性うつ病とラピッド・サイクラー

 このように近年,「うつ病」の治療法が急速に進展しているが,それだけに治りの悪い難治性うつ病への対策が大きな問題となっている。その対応についても手順を追って治療を進めるよう,かゆい所に手が届く解説がなされている。“自殺”の問題にも正面から取り組んでいる。「双極性障害」は,再発を繰り返しやすいこともあって,その治療にあたっては,ラピッド・サイクラーを含め,細心の配慮が必要であるが,十分な喚起がなされている。近年,気分安定薬としてリチウム,カルバマゼピン,バルプロ酸が使用されているが,データに基づく詳しい解説があり,副作用の問題も含めて役立つ情報が満載されている。

 本書の治療ガイドラインは,最先端をいく指針であり,著者らの意気込みが感じられる。さらに深く勉強しようと思う者にとっては多くの文献がついている。本書は座右の書といえるが,詳しいだけに,初心者にとっては取っつきにくいかもしれない。本書になじみ,十分に活用できるようになるよう,多くの症例にあたり本書を読み返し,理解を深めるとよい。

A5・頁336 定価4,935円(税5%込)医学書院