第2598号 2004年8月30日


身体で覚える
糖尿病療養援助技術

〔第5回〕

心地よさを提供するプログラム(2)

吉田百合子
富山医薬大附属病院地域医療連携室・看護師


前回よりつづく

 前回から引き続いて,患者に心地よさを提供するプログラムを紹介します。各プログラムについては,第3回で紹介したロールプレイの方法や,プログラムごとに紹介している個人学習の方法を参考にしながら,技術が身につくように練習してください。

表 プログラム
(1)やりとり学習(ロールプレイ)
(2)肯定的な文章に直す
(3)よい点を拾う
(4)Q&A
(5)利益の確認
(6)私メッセージ
(7)カウンセリング
(8)自己管理行動の確認
(9)ライフスタイルを聞く
(10)食事ナラティヴ
(11)運動ナラティヴ
(12)目標の確認
(13)自己管理を体験学習
「身体で覚える糖尿病療養援助技術」プログラム。太字は本号で紹介したプログラム。

(4)Q&A

 医療者は患者に病気の説明をする義務があります。病気を医学的・科学的に正しく説明することは当然ですが,治療法の大部分を自己管理が占める糖尿病においては,患者が病気を好きになり,自己管理を行ってみようかと気持ちの動くような,心地よい説明が求められることになります。

 ここではまず,医療者としての知識・理解を深めるために,看護師の先輩・後輩という設定でロールプレイを行います。糖尿病に関する様々な質問について「先輩,これはどのようなことですか」と一方がたずね,他方がそれに答えます。これはある程度,病態生理学に基づいた,正しい知識の説明でよいでしょう。ここでも声に出して質問し,声に出して答えること,そしてそれをよく聞き,書き留めることが大切です。

 続いて,同じテーマについて看護師・患者という設定でロールプレイを行います。この場合,単なる病態生理の説明ではなく,「この人にどのような影響があるか」について説明することを心がけます。例えば,インスリン抵抗性についてなら「あなたのインスリンは十分に出ているんですよ。だから,運動をすることによって,その1つひとつがしっかり働くようになることが大切なのです」といった,その患者の状況に即した説明を心がけます。

 ロールプレイを行った結果,患者役から「自己管理に取り組んでみようという気持ちになった」といってもらえることをめざしましょう。

 図1はQ&Aのテーマの一例です。それぞれのテーマについて,後輩ナースに説明する場合と患者に説明する場合で,どのように説明が変わるのか,実際に書き込み,声に出して確認してみましょう。

図1 Q&A
質問 後輩Ns向けの説明 患者向けの説明
2型糖尿病と遺伝両親なら50%,片親なら30%,遺伝が関与しているといわれている。親子は同じ環境で生活しているので,家族内に多いのです。
インスリン抵抗性  
糖毒性    
インスリン注射開始    
合併症    
高齢者    

 また,研修会や学会などで糖尿病に関する新しい知識を得てきた時には,その新しい知識をテーマにやってみるとよいでしょう。援助で使える,生きた知識になるはずです。

(5)利益の確認

 人がある行動を選ぶのは,その行動が自分にとってよいこと,つまりは利益・価値があると思っているからです。例えば,糖尿病の治療には好ましくない飲酒でも,その人にとっては「人付き合いがよくなる」「食欲が出る」などの利点があるかもしれません。

 そこで,自己管理行動に関して,それを行うこと・行わないことの利点をすべて書き出してみます。その場合,ある欠点の逆を言えば利点になるというパターンについても考えるようにします。例えば,娘に「お父さんまた飲んで!」と嫌われる,という飲酒の「欠点」は,禁酒した場合の「飲まないと娘と仲よくなれる」という利点になります。

 図2は,ウォーキングを行った場合の例です。「間食をとらない」「きちんと血糖自己測定を行う」など,種々の自己管理項目について,同じように書き出してみましょう。

図2 利益の確認
自己管理行動の1つひとつについて,行う時の利点と,行わない時の利点をあげてみましょう
行う時の利点行わない時の利点
(例:ウォーキングを行う)
インスリンの効き目がよくなる 楽である
気分がさわやかになる 靴や服装の準備がいらない
ウォーキング仲間ができる 人に会いたくない時,会わなくて済む
筋肉が強くなる 汗をかかないので,洗濯が少なくて済む

 このように,ある行動についての利点を書き出すことによって,自己管理を考える際に考慮にいれる要素を増やし,選択肢の幅を広げることができます。また,実際に自己管理をうまく行えた日の面談では,それによってどのようなよい点があったかを聞くなど,患者さんの新しい価値感づくりのお手伝いをするようなかかわりをめざしましょう。

(6)私メッセージ

 患者さんが自分で考え,自分で行動することが「自己管理」ですが,その支援においては看護師と患者さんの間に適度な距離が必要です。あまりにも「援助」しすぎてしまうと,患者さんが自分の力ではなく,私たちの力を頼りながら「自己管理」を行ってしまうことになります。それは本当の「自己管理」ではありません。かといって,放任では援助にはなりません。常に気にかけていることを伝える,やわらかい距離が必要です。

 私メッセージとは,例えば「昨日,お婆さんと饅頭半分にしたんだってね。私,それ好きだなあ」といった形で,「(こちらが勝手に)好きだと思っている」と伝えることを言います。ともかく,こちらがその行動のことを「好きだ」と伝えておくことで,うち解け,その後,その行動についてのお話を聞くことなどがスムーズにいくはずです。

 演習では,「私メッセージ」をお互いに口に出して伝え合うことで,心地よさを体感します。この時は相手の服装,話し方,何でもかまいません(図3)。大事なのは,「私が」という主体性をはっきりさせたうえで,相手に肯定的なメッセージを伝えることです。日本では文化的に主体性,主語をあいまいにする習慣がありますので,より意識的に,技術として「私メッセージ」を練習する必要があります。

図3 私メッセージ
相手の持ち物や行動について,「私」ではじまる言葉で表現するように練習する
話題私メッセージによる表現
(例)
すてきなバッグ 「わあ! 私,あなたのバッグ好き!」
野菜を多めにとった食生活 「私,あなたが沢山野菜食べてるの,好きだな~」
ジョギングシューズ 「私,あなたのジョギングシューズ,好きだわ」

口に出して,感じて,書き留める

 以上,2回にわたって心地よさを提供するプログラムを紹介しました。これらは頭で理解するだけではなく,実際にロールプレイを行って,本当に心地よくなるのかを自分の「身体」で確認しておく必要があります。友人や同僚とグループを作り,手順にのっとり行ってみるのが一番です。

 学習では自ら口に出して,自分の耳に聞かせます。内容の確認だけでなく,役者になった気持ちで演技して,患者に想いを伝えます。

 また,感じただけで終えることなく,文字にすることを省略してはいけません。言ってみてどう感じたのか,言われてみてどんな気持ちになったのか。それらを文字にすることで初めて,技術が身体の中に定着します。そしてそれを繰り返し行うことによって,プロの技術として患者さんはもちろん,後輩や他職種の方に伝えることができるようになります。

 また,今回の演習においては患者役の役割は重要です。患者役が「私,やってみよう」と思うような援助を工夫して行う中で,ナース役は育っていきます。いわば,患者役がナース役を育てるといってもいいでしょう。

 また,一人学習も大切です。プロスポーツマンや楽器演奏者などが,試合や舞台の一瞬のために基本動作を黙々と練習しているように,私たちも練習を行う必要があると思います。また,演習を行うことによって,医療者自身がエンパワーメントされます。患者へより多くのエネルギーを送るために,一人学習も加え,演習の機会を増やしましょう。


[著者略歴]
国立山中病院附属看護学校卒業後,国立がんセンター勤務を経て現職。佛教大,富山医薬大学院に社会人入学し,社会学,看護学を学ぶ。「現場の“技”を言葉にして,それをもう一度現場に還元するのが私の仕事」と語り,日々後進の指導に取り組む。