医学界新聞

 

今この時こそ,教育と臨床の連携を

第35回日本看護学会(看護教育)開催


 さる8月5-6日,第35回日本看護学会(看護教育)が谷眞子学会長(和歌山県看護協会)のもと,和歌山市・和歌山県民文化会館,他にて開催された。

 学会のメインテーマを「看護実践能力を育てる環境」とした今回は,安酸史子氏(福岡県立大)による特別講演「考え,実践できる看護教育――経験型実習教育」,シンポジウム「教育と臨床との有機的連携」が企画された。ここ数年で看護実践能力の育成に関する報告書が文科省,厚労省から相次いで出される中,具体的な方策を立てるために熱心な議論がなされた。


 シンポジウム「教育と臨床の有機的連携」では,冒頭で座長の山美惠子氏(日本看護協会看護教育・研究センター)が,「どうすれば実践能力を育成できるのか。教育と臨床,それぞれの立場でその方法論を考える時だ」と本シンポジウムのねらいを語り,5名のシンポジストの発言へと続いた。

事例に学ぶ「臨床との有機的連携」

 阿曽洋子氏(阪大)は,臨床との有機的連携の一例として,看護教育実践検討委員会の活動を紹介した。この委員会は,阪大病院と大学での臨床実習に関する協議機関である病院実習運営委員会の下部組織と位置づけられ,臨床側の看護部長・師長も参画。卒業時に期待する実践レベルや実習に関する問題事項を検討しているという。具体的には,看護学実習ごとに技術項目を抽出し,それらを実施するか見学に留めるかの判断,習得程度などを検討していると報告した。

 中村惠子氏(青森県立保健大)は,99年6月から実習病院との間ではじめたユニフィケーションシステムについて説明した。同システムは,看護教員と臨床スタッフの双方がお互いの持ち場を一部担当することで,看護学生に実践的教育を提供しようというもの。また,教員が臨床の場で専門知識をいかすことで,看護ケアの改善を図ることもできる。手あげ方式で教員を募集し,兼務辞令を得てから平均週1回ほど臨床に出るという。ユニフィケーションの効果としては,看護教員の実践力の維持・向上になるとともに,「臨地における教育的環境の醸成が非常に大きいのではないか」と分析した。

行政も交えた協議会を地域で設立

 谷眞子氏は,和歌山県看護教育機関連絡協議会での活動から,地域での教育関係者の連携について述べた。同協議会は,これまで教育成果や課題について検討する機会の少なかった反省を踏まえ,教育機関や実習病院,県看護協会や行政担当者を交えて設立。関係者間の情報交換や研修に関する事業を行っている。2年間の活動を通して会員数が増加してきたことに触れ,「問題解決のための動きがはじまったところ。今後も継続していきたい」と語った。

 長岡榮子氏(山形大病院)は,病院の立場から看護技術に関する大学との連携について報告した。看護学科との連絡会では,実習における看護技術実施レベルについて議論され,現在は看護学科との共通認識のもとで実習指導にかかわっていると述べた。加えて,一定条件下で実施が許容される基本的看護行為の例示項目を検討し,実習に際しての患者同意書を導入したことを明らかにした。

 駒木根愛氏(和歌山県立医大病院)は1年弱の臨床経験を踏まえ,基礎教育と実践の違いを語った。臨床に出て感じた違いとしては,(1)学生実習と違い,患者とのかかわりに決められた期限がないため継続看護が必要になる,(2)実習時のように1対1ではなくチームで看護している,(3)専門職としての自覚と責任が必要になる,の3点を提示。また,リアリティショックを軽減するためにも,総合実習が非常に有効であったと病院配属当時を振り返った。

厚労省報告書にみる教員の技術研鑽の必要性

 厚労省「看護基礎教育における技術教育のあり方に関する検討会報告書」では,看護技術に関して3つの水準が設けられ,その1つには「教員や看護師の指導・監視のもとで実施できるもの」と明記されている。

 討論の最後では,司会の山氏がこの文面に言及したうえで,「臨床経験があっても教育が長くなれば実践能力は損なわれる。この水準が示された以上は,教員も常に技術を磨いていかなければならない」と語った。また,医療事故が多発する臨床側では学生実習に消極的な傾向であることに対し,「それでは看護師は育成できない。今こそ臨床と教育が話し合って方策を探ることが,われわれに与えられた大きな課題だ」と強調。演者が示した有機的連携例を参考にしながら,各教育機関の実情にあわせたモデルをつくってほしいと参加者に呼びかけ,シンポジウムを締めた。