第2597号 2004年8月23日


時代が求める医学教育を議論

第36回日本医学教育学会開催


 第36回日本医学教育学会が,相良祐輔会長(高知大学長)のもと,さる7月30-31日の両日,高知市の県民文化ホール,他において開催された。

 「医学教育の一貫性-入学選抜から生涯教育まで」を基調テーマとした今回は,卒前教育・生涯教育のそれぞれをテーマとしたシンポジウムや,海外の医学教育専門家による特別講演が行われた他,3題のワークショップも企画された。また,100題を超える要望演題・一般演題も集められ,各会場では医学教育に関する最新の話題について,参加者間で活発な議論がなされた。


■生涯教育・プライマリケア教育の課題

日本医師会の生涯学習制度

 シンポジウム「プライマリ・ケアと生涯学習」(座長=埼玉医大 大野良三氏,日本医師会 橋本信也氏)では,医師の生涯教育や学生・研修医のプライマリ・ケア教育などについて,さまざまな立場から取り組んでいる演者によって議論された。

 最初の演者として登壇した橋本氏は,日本医師会による生涯教育への取り組みについて概説。1984年に重要施策の1つとして検討がはじまり,1987年に制度化,1991年には「日医生涯教育カリキュラム」が策定され,このカリキュラムは以降3回の改定が行われていると述べた。

 日本医師会による生涯教育の評価は,学習方法によって異なる単位数を認定し,単位数を自己申告するという方法をとっている。この評価について氏は,所定の単位を取得した場合に何の認定とするか,また日本医師会の生涯教育制度認定と学会認定専門医とをどう関連させるかといった課題があると述べた。

 また,生涯教育の質向上のために,講演会偏重から実技も含めた研修へのシフト,指導医のための教育ワークショップなどの実施などが必要になるとした。

 さらに氏は,医師の生涯教育は,職業人である医師が集団を形成し,規約を作り,その中で自主的,自律的に運営を進めるという「プロフェッショナル・オートノミー」に基づいて行われていくことが基本になると提言した。

プライマリ・ケア教育の実践

 前沢政次氏(北大病院)は,北大において卒前に行っているプライマリ・ケア実習と生涯教育としてのプライマリ・ケア教育について発言。卒前の実習は,立地・診療に特徴のあるプライマリ・ケア施設で行われ,現在,希望する学生のみの参加となっている。氏は,大学では基本的臨床能力を教えることはできるが,地域医療における連携などを教えることには限界があると指摘。実際に地域の施設に赴いて実習を行うことでプライマリ・ケア医療や訪問診療の,地域におけるさまざまな役割についても学習できるとしてその有用性を強調した。

 一方で,生涯教育としては,大学院教育や他大学などとの合同検討会,「地域のこころのケア研究会」といった取り組みを行っており,これらには卒前のプライマリ・ケア実習を経験した医師や学生の参加もあり,継続的な教育の場になっているとした。

 升田和比古氏(北海道勤医協)は,北海道民医連の診療所において卒後3-4年目に診療所長を経験した医師にアンケートをとり,診療所が臨床研修に果たす役割について考察した。アンケートの結果,青年時代に診療所において勤務・研修することは医師の生涯にとって非常に有意義であると結論。診療所研修には,チーム医療や地域の医療・福祉との連携を学ぶことができるなどのメリットがあるとした。一方で氏は,診療所研修に臨む前に,基本的診察技法,医療面接,医師・患者関係を築く,他職種との連携,生活習慣病の診察,などといった項目の知識・技能・態度を病院での研修で身につける必要があると指摘した。

へき地における医師確保のために

 本学会の開催地である高知県は,人口10万あたりの病床数・医師数がともに全国1位であるが,同時に無医地区数も全国で3番目に多く,医師確保が重大な問題である。

 家保英隆氏(高知県健康福祉部)は,高知県における地域保健・医療研修プログラムについて紹介した。プログラムは県と高知医大が協力して作成したもので,へき地医療協議会加入の3病院を核として4週間を中小自治体病院研修,2週間をへき地・離島診療所実習,2週間を保健所実習にあてるというもの。管理型臨床研修病院から各施設への研修医の派遣という形をとるが,派遣窓口は県健康福祉部医療対策課に一本化する。氏は,研修医派遣の機能的な取り組みにより,将来へき地医療に従事する医師の確保にもつながる可能性があるとする一方,研修終了後の医師の県内残留方策について,大学病院や臨床研修病院での3年目以降のポスト確保を検討する必要性などを指摘した。

生涯教育のための取り組み

 横倉義武氏(福岡県医師会)は,都道府県医師会として初めて開催した「指導医のための教育ワークショップ」について述べた。同ワークショップは,学生や研修医に対する適切な教育を推進するために参加者の教育への関心を深め,望ましいカリキュラムを理解・実践する能力を身につけることが目標。42名が参加し,カリキュラムプランニングをテーマに2日間にわたって行われた。参加者の感想から,教育への理解が深まったとするものが多く,満足度は高かったとし,医療を取り巻く状況が厳しくなっていく中で,こうした取り組みを通じて医師会もさまざまな努力をしていく必要があるとの考えを述べた。

 田坂佳千氏(田坂内科小児科医院)は,1998年より自身が管理しており,開業医を中心とした1600名以上の会員の生涯学習に寄与しているメーリングリスト「TFC」について発言。TFCは教育ツールとしての他に,意見統一,勤務医と開業医の相互理解といった役割も果たしているとした。

 氏は,日本の医療には「教科書の記載と実践」,「専門医の指針とプライマリ・ケア医の行動」,「専門医間の指針」などの間に,なかば恒常的にギャップが存在しており,こうした問題について討議される機会はなかったと指摘。これらの問題が冷静に多方面から討議できることがまさにメーリングリストの醍醐味であると述べた。

■卒前教育のこれから

コア・カリキュラム導入の現状

 シンポジウム「コア・カリキュラム-導入,蹉跌,飛躍」(座長=東海大 阿部好文氏,慈恵医大 福島統氏)では,医学部教育におけるモデル・コア・カリキュラムの導入状況や導入にあたっての問題点などが議論された。

 後藤英司氏(横市大)は,コア・カリキュラムの導入に伴い生じた問題点について発言した。横市大では「優れた臨床医の養成」を最重視する方針とし,2002年度入学生で2年次からコア・カリキュラムを導入した。しかし,説明不足や事前調整の不足などから,統合カリキュラムの実施には大きな抵抗があり,教員の事前打ち合わせが重要と指摘した。

 志村俊郎氏(日医大)は,コア・カリキュラムの全内容について一般目標と到達目標の履修割合,講義の欠落・重複を日医大内の教員アンケートによって調査した。基礎医学でコア・カリキュラムを取り入れている講義が少ない傾向があったとし,教育に関しては講座の壁をはずして,基礎・臨床のより統合されたコースの確立が望まれると指摘した。

 鈴木富雄氏(名大)は,学部4年生に対して「基本的臨床技能実習」を導入した経験を発表した。28週間にわたり週に一度,グループごとに分かれて各項目の実習を行う形式で,学生の評価は特に技術獲得型の実習項目において高かったと報告した。また6年生がティーチングアシスタントとして参加することで,学年を超えた新たな学部教育のあり方が示唆されているとした。

 谷口純一氏(熊本大)は,熊本大と九州大で教育カリキュラムを相互評価した試みについて報告。施設間での相互評価によって,両大学ともに自己評価だけでは認識できなかった問題点・改善点に気づくことができ,カリキュラムの新しい改善点を抽出・立案できたと述べた。また,自施設で改善の困難な点も明らかになったとした。

 大西弘高氏(国際医学大)は,世界的なカリキュラム開発の潮流はOutcome-based education(OBE)に移行していると紹介。これは教育目標よりアウトカムを基盤としてカリキュラム開発を行うもので,情報の膨大化や社会からの期待の増大などに伴って重視されるようになったという。座長の阿部氏は大西氏の発言に対し,モデル・コア・カリキュラムには,OBEをもとに作成された部分もあり,最終的にはプロセス・アウトカムの双方を基盤とする「ハイブリッド型」になっていると補足した。