医学界新聞

 

インタビュー

信頼される薬剤師認定をめざして

内山 充氏(薬剤師認定制度認証機構・理事長)


 薬剤師の各種認定制度の整備・充実を図り,与えられる資格証書の信頼性を高めるため,「薬剤師認定制度認証機構」が本年5月17日に設立された。日本薬剤師会,日本病院薬剤師会,日本薬学会,日本医療薬学会,日本私立薬科大学協会,国公立薬学部長会議,日本薬剤師研修センターが設立時の社員となり,それぞれの認定制度を適切に評価,認証することが同機構の役割だ。

 本紙では,理事長に就任した内山充氏(前・日本薬剤師研修センター理事長)へのインタビューを企画。機構設立の背景にある薬剤師の現状や将来展望を聞いた。


薬剤師認定制度の現況

――まず,現在,薬学領域でどのような認定制度が存在し,それぞれどう機能しているのか。各種認定制度の歩みから教えてください。

内山 ようやく大学での6年制教育が実現の運びになりましたが,薬剤師を取り巻く教育環境を変えなければいけないという要望は,現場の薬剤師さんを中心にかなり以前からありました。

 卒前の教育体制が未整備な中,医療の場で薬剤師が期待される職務を果たすためには,免許取得後の生涯学習を大いにやって必要な能力や適性を習得してもらおうという機運が高まり,1994年に,日本薬剤師研修センターによる研修認定薬剤師制度が発足しました。それから日本病院薬剤師会でも,同じ時期に認定薬剤師制度をつくりました。

 日本病院薬剤師会は各都道府県に支部があって,そこでやった研修の成果を本部に届けると認定証が出されるという形式です。無料ですが,病院薬剤師会の会員でないとその認定証は取れません。一方で,日本薬剤師研修センターは薬剤師全員を対象として,1単位1.5時間,4年以内に40単位取った人に認定証を出します。ただし,手数料がかかります。

――自己学習の成果を認証する生涯研修制度に当たるのは,この2つの認定制度ということですね。

内山 そうです。そのほか,学会認定薬剤師制度としては,1997年に臨床薬理学会,2000年に日本医療薬学会が独自に認定制度をはじめました。これらは試験や学会発表,実績で評価されます。

■認定制度の認証機関が必要となる理由

内山 このように,これまでは2つが学会認定,2つが研修認定ですが,学会認定というのはそれなりの自負があるわけです。日本学術会議で認められた学会で,その学会が認定した制度だから,何も第三者に認証される必要はないという意見もありました。この機構をつくる時に苦労したことの1つが,そうした意見への対応です。

――現状のままでいいという意見もある中で,各種認定制度を評価,認証する機構が必要だと内山先生は強調されたわけですね。どうしてそう思われたのでしょうか。

内山 私が1995年に薬剤師研修センターの理事長になった時,できるだけ広く情報を集めて,薬剤師の卒後研修の世界的な現状も知りたいと思いました。それでまず,熱心に研修に取り組んでいたドイツのフランクフルトを視察しました。その結果は現在の研修認定制度に生かされています。

 1999年11月には,アメリカのASHP(American Society of Health-System Pharmacists:米国医療薬剤師会)を訪問して,エグゼクティブ・ディレクターに話を聞きました。その際,アメリカには当時認定機関がすでにいくつもありましたが,それら薬剤師の称号制度を整備する機関,CCP(Council on Credentialing in Pharmacy:薬学称号制度協議会)を設立したという話を聞きました。2000年9月に,アメリカで与えられている各種の称号を分類整理した白書もCCPから公表されています。

 日本でも薬剤師研修センターや医療薬学会以外の機関が薬剤師の認定をしてもいいのではないかと常々考えていましたから,こうしたアメリカの体制整備の動きは参考になりました。

――認定を実施する団体は多いほうがよいとお考えですか?

内山 日本の場合,薬剤師の生涯研修はすべて薬剤師研修センターがやるものだと思っている人もいますが,すべての研修を一手に運営するのは無理があります。集められる人数にも限界を感じました。

 そうじゃなくて,いろんな団体が薬剤師の業務に関する新しい観点から必要な研修を行って認定をするべきだし,今はさほど多くない認定制度も今後は増えるだろうと思います。それと同時に,無秩序な乱立状態になって,いい加減な研修認定や専門薬剤師が出てきても困ります。ですから,アメリカのように,薬剤師の認定制度に関する社会的な信用を高めて,乱立状態を整理する組織が必要だと考えました。

アメリカに学ぶ生涯研修制度

内山 ただ,CCPは認定制度の相関関係を示して,優れた制度を広め,乱立気味の制度の調整をしているだけで,評価や認証はやっていません。それで,私は2000年と2001年に,評価と認証を行っているACPE(Accreditation Council for Pharmacy Education:薬剤師教育認証協議会)を視察しました。

 ACPEは主に2つの仕事を行っています。1つは大学のPharm.D教育課程のアクレディテーション(認証)。それからもう1つは,免許取得後の更新に必要な生涯研修実施機関の認証です。

 アメリカでは,薬剤師免許の更新を受けるため,1年あるいは2年ごとに一定の生涯研修単位(年間15時間程度,州により異なる)をとる必要があります。その免許更新のための生涯研修は,ACPEの認証した実施機関の行う研修が中心となっています。現在,薬学系大学,関連学会,職域団体など390ほどの団体が実施機関として承認され,現在もその数は増加中です。

 ですから,日本薬剤師研修センターも自前の研修をするばかりでなくて,各地に立派な認定制度をやるような機関ができたら,本来はそれらを認証するような仕事をしなければならないと思いました。だけど,自分たちで生涯学習の認定をやりながら他の機関を評価するのもおかしいので,別の組織をつくろうということになり,認証機構を設立することにしたわけです。

薬学部6年制教育への移行が契機

――日本はまだ,アメリカのように認定制度が乱立する状態ではありません。なぜこの時期に機構を設立しようとされたのでしょうか。

内山 乱立する前につくっておかないと後からでは手遅れになるというのがまず1つです。それと,大学薬学部の修業年限を4年から6年にするための法案が通り,6年制課程の大学における新入生受け入れが2006年にはじまることが大きいです。

 医学・薬学が進歩し,患者の意識も変わる中,薬学の教育は4年では不足じゃないかという声が強まってきました。それから,教育の中身も基礎研究が中心で,薬を創ることには関心があっても,創った薬がどう使われるかという臨床で役立つ知識の面では不十分でした。こうした社会的なニーズから,法案が改正されたのです。

 しかし,法案が通ったからといって薬剤師が偉くなるわけではありません。法律を変えなければならなかった原因を理解して,それに見合うような資質の向上をしなければ,画竜点睛を欠くことになってしまいます。残された緊急の課題は,従来の4年制教育を受けた薬剤師のレベルアップです。

――4年では不十分だと言って6年制教育を実現した以上,4年制で卒業した薬剤師は足りないぶんを生涯教育で補わなければならないということですね。

内山 6年制に伴う学校教育法と薬剤師法の改正の際に,付帯決議がつきました。付帯決議というのは,「法律改正を行うに当たっては,行政はこういうことをやらなくてはならない」という意味あいのものです。その中には,「現に薬剤師の資格を有している者が,生涯にわたり学習する機会を充実するよう配慮すること」(学校教育法の一部改正案への付帯決議),「新制度移行前の薬学教育を履修して薬剤師となった者についても,近年の医療技術の高度化,医薬品の適正使用の推進等の社会的要請にこたえるため,卒後教育の一環として実務研修の充実・改善を図ること」(薬剤師法の一部改正案への付帯決議)と明記されています。こうした公的要望も機構設立の追い風となっています。

機構の役割と評価の実際

――認定制度認証機構から各種の認定制度実施機関に対し,認定する項目やプログラムの指導・提言まで行うことはあるのでしょうか。

内山 反対の声もある中で薬剤師会や学会の協力を得るために,そこは非常に気をつかいました。この機構で実施するのは認証で,強制的に何かを押し付けるものではありません。認証というのは,認証してほしいという機関があり,そこから申請を受けた時にするものです。だから,認証を取りたくなかったら取らなくていい。典型的なのがISOです。ただ,ISO9000などを取っていないと事業が信用されない世の中になってきたわけです。

――決してプログラムを押しつけるわけではなくて,ある程度のレベルに達していなければ認証は受けることができない,という基準を示すということですね。

内山 そうです。評価の基準・手順もホームページで公開しています。ですから,認証を受けたい事業母体は申し出れば,基準に従って評価します。足りないところがあったらコメントして,直してもらってから処理します。

――認証する際にいちばん重視されるのは,どういうところですか。

内山 どこが大事で,どこが大事じゃないということはないです。私は,基準の1つひとつで点数をつけて合格点に達しなければ駄目だというようなことはしたくない。特徴のある認定制度ということでいいと思います。ですから基準も,事業の目的と役割の明確化や管理運営体制の整備など,骨子の部分のみ示されています。

 いちばん大事なのは,ミッションでしょうね。何のためにやる認定かということです。そして,その目的が達せられるような中身であれば,問題はないと思います。認定するというのは,ある能力・適性を保証することですから。それからもう1つ,その保証した能力が,患者さんの役に立たなければいけない。世の中に必要な技術と,知識,能力,適性を保証する認定制度であることが重要です。

――あくまでも患者さんや社会から信頼される認定制度ということですね。

内山 そこが非常に恐いんですよ。特に専門薬剤師の場合は,現場で役に立たなかったとか,患者に話もできなかったということだったら,薬剤師全体の信頼を失うことになります。だから,専門薬剤師制度の認証は非常に責任のある仕事だと思います。本当に役に立つ専門薬剤師を,育てなければなりません。

■臨床で活躍するために,薬剤師の将来展望

生涯研修の義務化,免許更新は実現するか

――将来的に生涯研修が義務化される可能性について,どうお考えですか。

内山 6年制大学卒業の薬剤師が出るのは8年後で,それまでは4年制の教育で薬剤師が出る。そうすると,比較されるわけですね。4年制で教育を受けた若い薬剤師を,緊急に再教育しなくてはいけない。これは先ほど申し上げたように,法改正の際の付帯決議に書いてありますから,行政もやらざるを得ない。

 それからもちろん,ベテラン薬剤師も再教育が必要です。「昨日卒業して,今日学ぶのを止めれば,明日は無学者になる」という言葉もあります。新しいことを勉強しなくてはいけない。もちろん,6年制大学を出た人にも生涯学習は必要です。

 ですから,これからは生涯研修を義務化する話になるでしょう。生涯研修の義務化というのは,言い換えれば免許の更新ということになります。アメリカの免許更新は,研修の義務化とイコールですから。

 若い薬剤師を対象とした卒後レベルアップ研修では,6年制では盛り込まれているけど,4年制の既存の教育では学んでいないことを中心に修得する必要があります。まず患者とのコミュニケーション,次に処方せんの読み方です。それから,薬剤師は疑義照会が義務ですから,そのために必要な相互作用や特異体質の話ですね。ベテランの生涯研修では,法規改正とか新しい医薬品の特徴,作用メカニズムを学ばなければなりません。

 薬剤師研修センターが今やっているような研修認定制度では,いくらがんばっても年間3000人ぐらいしか認定できない。アメリカでは研修単位の認定機関が390あります。日本全国で100か所ぐらい,責任を持って生涯研修をして,その人たちの記録を取って証明してくれる機関が必要だと思っています。そういう場所を増やさなければいけない。

 そして,その増やしたところに,同じレベルの研修をやってもらわなければならない。その100か所の認定制度機関のレベルを揃えるために,評価と認証をしようというのが,この新しい認定制度認証機構の重要な仕事になると思います。

薬剤師に期待する医師・看護師へ

――最後になりますが,医師や看護師から,薬剤師に期待する声がある半面,現状に対するかなり厳しい批判もあります。特に今,投薬ミス防止の観点から薬剤師の役割が問われています。そこで,薬剤師の質向上のために,医師・看護師に要望したいことは何でしょうか。

内山 認定薬剤師の存在を知って,「認定は義務化の趨勢にある。認定を受けていなかったら一人前の薬剤師とはいえない」と考えてほしいです。薬剤師が隣にいたら,「勉強しているか?」と,時々聞いてほしい。薬局に行ったら認定薬剤師がいるかどうか確かめてほしい。言い換えれば,「役に立つ薬剤師を選んでください,そしていっしょに仕事をしてください」ということです。

 今はチーム医療の中で薬剤師がなかなか表に出てこないようですが,医療のかなりの部分は薬物療法です。薬物療法は,薬剤師がいないとできないことがたくさんあって,質の高い薬剤師がいることで患者さんの安全が確保され,医療の能率が上がる場合がかなりあるのです。これは,マネーセービングにもライフセービングにもなるはずです。

 また,薬剤師の業務は調剤ばかりではないことをぜひ理解してほしいですね。例えば,病棟での輸液の調製や患者さんに合った投与剤形やTDMに基づく投薬設計のような技術的なことをはじめ,医薬品情報の提供や処方監査,処方に基づく薬剤(銘柄)の選択なども,最終的には患者さんと医療施設の利益につながるものですから積極的に薬剤師にやらせてほしいと思いますし,そのように薬剤師に注文してほしいと思います。

――今後の薬剤師の活躍を期待しております。ありがとうございました。


内山充氏
1953年東大卒(薬学科)。東北大教授,国立衛生試験所(現・医薬品食品衛生研究所)所長など経て,1995年より日本薬剤師研修センター理事長。2004年5月17日に薬剤師認定制度認証機構が設立され,同機構の理事長に就任。日本公定書協会会長を兼務。