第2594号 2004年7月26日


英国に学ぶ高齢者の整形外科看護

第4回日本整形外科看護研究会開催


 21世紀に入りWHOを中心に「骨関節の10年」というキャンペーンが世界的に繰り広げられている。また,先ごろ厚労省老健局の高齢者リハビリテーション研究会から「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」と題する報告書が出されたが(本紙2579号既報),その中で強調された急性期リハビリテーションの強化と廃用症候群予防の双方に,整形外科看護師は深くかかわっている。

 そんな折,第4回日本整形外科看護研究会学術集会が,さる6月12-13日の両日,武田宜子会長(前横市大看護短大)のもと,「高齢者の整形外科看護」をテーマに,横浜市のはまぎんホール「ヴィアマーレ」で開催された。


 学術集会の初日には基調講演「わが国の包括医療と看護の課題」(群馬大病院 前田三枝子氏),一般演題6題,イブニングセミナー「英国における専門看護実践-クリニカルナーススペシャリストの役割」(英国シェフィールド北部総合病院 バーバラ・セルヴォン氏)が行われた。2日目は同じくセルヴォン氏による講演「高齢者に向けた整形外科ケアの標準化-英国の国家戦略」にはじまり,「高齢者の転倒・骨折の病態とその予防」(東大 武藤芳照氏),「大腿骨頚部骨折のアウトカム・マネジメント」(広島大 森山美知子氏)の計3題の講演が行われた。

CNSの役割とNSF

 セルヴォン氏は英国の整形外科専門看護師(Clinical Nurse Specialist:CNS)の立場から自身の経歴と役割について解説。米国では修士レベルの教育が必要とされるCNSであるが,英国では経験を十分に積み重ねることが重視される点,しかし,修士号の取得が必要となるよう移行中であることが強調された。また,CNSの役割については,拡大する医療サービスの中でサービスの質の維持・向上を図ることとし,それには豊富な経験と高度な判断力が要求されると説いた。

 高齢化に伴い,わが国でも転倒・骨折が増加しているが,英国では高齢者ケアのナショナルガイドラインが世界に先駆けて作られ,標準化が進められている。セルヴォン氏は,(1)英国における高齢者ケアの現状,(2)病院ケアの実際(データ),(3)高齢者のための国民保健サービス枠組み(National Service Framework:NSF)の開発,(4)包括的転倒予防プログラムの開発,(5)シェフィールド北部総合病院での大腿骨頚部骨折患者のアウトカム監査,について述べた。

 NSFは英国の国民健康サービスを近代化し改善するための国家的プロジェクトである健康増進と監査のための委員会(Commission for Health Improvement and Audit: CHIA)の戦略(国レベルでの標準設定,実践を支援するためのプログラム〔クリニカル・ガバナンスや専門職の自己規制〕,成果の測定枠の設定と標準の順守に対する監査)の一部であり,高齢者のほかに,糖尿病,冠動脈疾患,がん,小児,泌尿器科のケア提供の枠組み,標準や指標の設定を行っている。高齢者のためのNSFは2001年3月に施行され,2005年4月までに達成すべき8項目が定められている。

大腿骨頚部骨折-わが国と英国との比較

 英国では,大腿骨頚部骨折が65歳以上の主要死因・要介護要因となっている。患者数は年間5万7000人で,その数は全整形外科入院患者の20%。1人あたりの平均入院費用は5000ポンド(約100万円)で,全体では病院関連の費用だけで年間2億8000万ポンド(約560億円)となっている。

 英国では,1995年,監査委員会が大腿骨頚部骨折患者のケアを監査し,下記のいくつかの問題を指摘,その改善に乗り出している。

・救急部で患者をアセスメントするまでに長時間待たせるところがあった。
・患者が手術のために24時間以上待つことは珍しいことではなかった。
・時には1回以上,手術がキャンセルされた。
・監督する医師なしで研修医と麻酔医によって手術が行われることがあった。
・高齢者をケアする専門医は大腿骨骨折の症例にいつもかかわっていなかった。
・効果的なリハビリテーションや退院が整えられている病院はほとんどなかった。

 英国では監査を繰り返し,国をあげての標準化の結果,受傷から手術までの待機日数の削減,自宅に退院する高齢者の増加,再入院や入院の減少,介護施設のベッド詰まりの解消,転倒・骨折の減少など,多くの成果が現れていることが報告された。

 一方,わが国では大腿骨頚部骨折は主要死因とはなっていないものの,いわゆる「寝たきり」の実質的原因では,大腿骨頚部骨折が脳卒中に次ぐ第2位となっている。年間の患者数は97年の全国調査推計で9万2400人,医療費は1300億円以上ともいわれている。

 日本と英国の在院日数の比較では日本が平均53.4日(2001年)であるのに対して,英国26.3日(2002年,シェフィールド北部総合病院では8日-10日の在院)となっている。英国では(1)受傷/入院から手術,(2)手術から完全離床/リハビリ開始の基準を可能な限り24時間以内に設定しているのに対して,日本では受傷から入院までに平均6.3日,入院から手術までに平均10.5日をすでに要している。(大腿骨頚部骨折の発生頻度および受傷状況に関する全国調査,厚生労働科学研究費補助金〔長寿科学総合研究事業〕,主任研究者:萩野浩,2002)

整形外科看護師の役割

 大腿骨頚部骨折については,予防の観点が欠かせない。一次予防としては骨粗鬆症と転倒の防止,カルシウムやビタミンDの内服やヒッププロテクターの装着,二次予防としては,リスク者のスクリーニングと対処(転倒外来等),三次予防として入院時の早期介入,早期離床とリハビリテーション,計画・退院調整に焦点が当てられた。

 大腿骨頚部骨折による要介護者を減らすには急性期医療の充実が不可欠である。それにはシステムの改善が必要であるが,システムを組み換えるのに看護師が果たす役割は大きい。理学療法士,作業療法士など他職種と協力しながら,大腿骨頚部骨折や深部血栓予防,感染管理等に関する診療ガイドラインを活用し,クリニカルパスの中に組み込んでいくことが重要である。

 わが国においても2005年に「大腿骨頚部骨折診療ガイドライン」が公開予定となっており,標準化の動きに拍車がかかりそうである。今回の学術集会で整形外科看護の先進国である英国から学んだことは,今後の日本の整形外科看護に大きな示唆を与えるものとなろう。