第2593号 2004年7月19日


特集

家庭医の仕事を探る

〔インタビュー〕家庭医をめざす学生に知ってほしいこと(葛西龍樹)
〔インタビュー〕「よりよい人生」を送るお手伝いがしたい(山田康介)
〔投稿〕個人・地域のニーズに応える家庭医療(齊藤裕之)
〔投稿〕地域に根ざした家庭医を見学して(金子春香,大坂友希)


 地域に密着し,患者さんの健康問題についてなんでも相談にのれる,「家庭医」をめざしたい――。そういう思いを抱く学生が今,増えている。家庭医に興味を持つ学生を対象として,日本家庭医療学会学生・研修医部会の主催で毎年行われる,「医学生・研修医のための家庭医療学会夏期セミナー」にも多くの参加希望者があり,近年では定員をオーバーするほどだという。

 本号では,家庭医療研修で定評のある北海道の医療法人カレスアライアンスと協力している北海道更別村国民健康保険診療所を取材した。また,離島の診療所で代医診療を経験した研修医からの報告と,日本における家庭医のパイオニアのもとで見学を行った学生からの報告もあわせて,家庭医の仕事とはどんなものなのか,考えていきたい。


 更別村は北海道・帯広市の南約35kmに位置し,ビート,小麦などの農業が盛んな村だ。人口は約3500人,そのうち20%は60歳以上の高齢者が占める。一方で全人口の18%ほどが15歳以下という子供の多さも,この地域の特徴になっている。

 村唯一の医療機関である更別村国民健康保険診療所には,所長の山田康介氏を含め,3名の医師が常駐する。山田氏は卒後7年目。北大卒業後,カレスアライアンスの研修医として家庭医となるための研修を4年間行い,研修医4年目から更別村での診療を行っている。

 更別村とカレスアライアンスとの協力関係は2001年からはじまった。この年からカレスアライアンスの「十勝・更別サイト」として,家庭医研修機関としての役割も果たす同診療所には,カレスアライアンスの家庭医研修を終了した医師,もしくは後期研修医が赴任している。

村で唯一の医療機関

 診療所の年間の外来件数は年間9000件弱。基本的には予約診療制としているが,予約診療に対する患者の理解が得られない場合もあるために予約外の患者も多く,1日の外来患者数は,予約されている倍の数にのぼることもあるという。外来のほかにも病床が19床あり,入院件数は年間300件弱になるという。

 村の救急医療を担うのも診療所の役目だ。村で発生した救急患者はすべて,いったん診療所に搬送される。診療所医師の判断で後方病院への搬送が必要とされた場合,帯広市内の病院への搬送となる。村に1つの医療機関なので,村民の定期健診や学校検診,予防接種などといった地域の健康にかかわる多くの仕事を担うことになる。

 診療所事務長の剱持壽一氏によれば,カレスアライアンスから医師がやってくるようになってから,外来診療に訪れる患者数が,特に小児で増えているという。「先生がよく話を聞いてくれるということが信頼回復のカギになっているのではないか」と剣持氏は話す。

家庭医の多忙な1日

 本格的な家庭医トレーニングを受けた医師による医療とはどんなものなのだろうか。山田氏の外来診察を見学した。

 それぞれの患者の診察にあてる時間は15分ほど。山田氏によれば,疾患では生活習慣病の他,外傷などの整形外科疾患も多いという。診察室に訪れる患者とはすでに顔なじみだ。患者の家族も山田氏が診察しているので,診察中は自宅での患者の世話はだれがしているのか,買い物はどうしているのか,などといった,家族の話が自然に出る。他院への紹介となった患者には,紹介先までの交通手段はどうするのか,だれが患者を連れていくのか,ということまで相談する。

 印象的なのは,患者が最近の病状,現在困っていること,改善したことなどを話していく時,それにあわせて山田氏も一緒に困った顔や,うれしそうな顔になることだ。治療法を指示・指導するというより,患者と一緒に,回復に向けて共に進んでいく,そんな姿勢がうかがえる。診察の終わりには必ず,「他に,何か聞きたいこと,話し忘れたことはありますか?」と尋ね,患者の言い忘れがないように配慮する。

 取材に伺った日の午後は,村の乳児健診があり,担当した山田氏は20人以上の乳児を診察した。おとなしく診察を受ける子,聴診器が触れたとたんに泣きだす子とさまざまだが,山田氏はいつも笑顔で対応し,診察の最後には母親に必ず「他になにか,気になっていることはありますか」と尋ねる。患者とその家族からの話を聞くことを第一とする姿勢が,ここでも貫かれている。

 乳児健診の間,診療所医師の安藤慎吾氏は往診に出た。この日訪れた98歳の患者宅では,家族が患者の衣服の着脱などに協力し,積極的に診察の手助けをしていた。

 診療所医師の役割は診療行為だけではない。この日,乳児健診終了後に行われた村の在宅ケアスタッフとの「ケア担当者会議」でも,山田氏は議長を務めた。家庭医は多職種で構成されるスタッフ間の意見調整の場でも,リーダーとしての役割が求められている。

 診療所では定期的にカンファレンスも行っている。毎週2回は,テレビ電話を利用して室蘭市にいるカレスアライアンスの研修医たちと診療所とをつなぎ,議論しあう。診療の質を向上させるための努力も欠かすことはできない。

家庭医教育の広がり

 カレスアライアンスでは4年間のプログラムで家庭医を養成している。初期研修の段階では,日鋼記念病院においてスーパーローテート研修を行いながら,「サテライトクリニック」と呼ばれる診療所で毎週1度,半日勤務する「ハーフデイ・バックシステム」がとられる。継続的に地域医療に触れるためだ。その後に用意されている2年間の後期研修では,全国各地にある協力施設やサテライトクリニックにおいて地域医療を実践する。

 研修を終えた医師に対しては,全国の協力施設で活躍する家庭医療の指導者たちが試験官となって専門医認定試験を課し,「家庭医療学専門医」を認証している。2003にはカレスアライアンスから2名,亀田総合病院から1名の計3名が,専門医の認証を受けている。

 北海道家庭医療学センター所長の葛西龍樹氏によると,「家庭医療の研修プログラムが出来上がっている施設の研修をうけていなければ認定試験を受けることはできないが,今後,他施設で研修を受けた医師が認定を受けるケースが増えていくだろう」と話す。ゆくゆくは全国的な認定制度にまで育てていきたい考えだ。研修内容の詳細はカレスアライアンスのホームページを参照されたい。

 おわりに,カレスアライアンスのエクスターンシップに参加した学生が運営しているWEBサイト「puyar(プヤラ)」を紹介したい。同サイトでは葛西氏の監修のもとで,定期的に家庭医療について考えるメールマガジンを発行しており,家庭医療の考え方を学ぶことができる。家庭医療を志す学生のみなさんには,こうした情報に触れたうえで,ぜひ家庭医療の現場を見に出かけてほしい。