医学界新聞

 

ともに考える「作業療法の技と心」

第38回日本作業療法学会開催


 さる6月24-27日,第38回日本作業療法学会が冨岡詔子会長(信州大)のもと,長野市・ビッグハット,他にて開催された。

 学会テーマを「くらしを創る――作業療法の技と心」とした今回は,OTが活躍する場の広がりを反映し,演題数は590に達した。外国からの演題募集も初めての試みとなった。また,他職種の参加を募ったほか,無料の市民公開プログラムを豊富に用意したのも特徴。色平哲郎氏(南相木村国保直営診療所)による教育講演「地域医療・地域リハへの期待」など計8題が一般公開された。


答えを知っている人でなく,探す術を備えた人が専門職

 教育講演「行く手は患者が告げている――高次脳機能障害がさまざまに指し示す前進への手がかり」では,鎌倉矩子氏(国際医療福祉大)が登壇。「講演を依頼された際,若い人に何か話すことが残っているだろうかと考えた」という氏は,表題に込めた意味について,冒頭で説明した。そこで,単なる症例報告は科学性に乏しいという批判に対して,「前例を参考にすることは大変重要である」と強調。その理由を「多くの事例を知ることが発想力の強化につながり,前例から類似性を見出すことができるから」と述べた。また,「専門職はたくさんの答えを知っている人ではなく,答えを解く手がかりをたくさん知っている人」と,1例に対する深い観察がすぐれた考察を生むという信念を語った。

 高次脳機能障害の患者にかかわる際のポイントとしては,(1)脳機能の全体を診る自分の枠組みを持つこと,(2)枠組みに沿って相手を診ながら,観察と検査を組み立てる力を持つこと,(3)枠組みを更新し続ける意思を持つこと,の3点をあげた。脳を診る枠組みをつくるには,まず脳の機能系を想定し,反応だけでなく(自発的な)発意からも脳機能との関連を診ることなどを助言。こうしてベースとなる枠組みを構築すると同時に,臨機応変な対応も心がけるべきだとした。

 最後は,漫然と同じプログラムを続けることに対して疑問を呈し,(1)介入開始時に測定指標を考える(できれば数値化する),(2)経過に沿って頻繁に測定し,やめ時を検討する,などの心構えが必要だと語った。

作業療法理論の教育方法を議論

 日本作業療法教育研究会ワークショップ「作業療法理論を学校でどのように教えるか」では,最初に司会の宮前珠子氏(聖隷クリストファー大)が,日本のOT養成校における作業療法理論教授の歴史を概説。1960年代以降,諸外国で発表された著作はほどなく日本で訳されてきたことを明らかにする一方,PTおよび医師によって開発された理論が多く,OTはアイデンティティの不確実性に悩まされてきたことも補足した。そして80年代以降は,「人間作業モデル」「カナダ作業遂行モデル」などの作業療法理論の発達,活動と参加に重点を置くWHOによるICFが発表されたことに触れ,「作業療法理論の卒前教育はぜひ必要で,わが国の養成校でどのように教えられているのか,ディスカッションしたい」と,企画の趣旨を述べた。

 その後は,5名の演者がそれぞれの授業方法を紹介。小林夏子氏(群馬大)は,理論モデルを複数教えて,多様な視点から検討できるような教授方針を採っていると述べた。また,理論学習と体験学習を同時並行で行うことにより学生の理解を深めるよう工夫していると報告した。村田和香氏(北大)は,理論を学生に教える前段階で,教員間での共通認識をつくる必要があるとして,作業療法学を学問として構築するために教員間でのディスカッションにかなりの時間を割いたことを明かした。

 竹原敦氏(山形県立保健医療大)は,問題解決型学習による作業療法理論教育の試みを紹介。「知識を教えるだけでなく,理論を用いた実践の討議を通して主体的な学習を行うことが重要である」と強調した。山田孝氏(都立保健科学大)は,地域作業療法学の新設(2000年)など教育課程の変換を例に出しながら,「必要な知識は変化する。なぜ変化したのか,社会がOTに求めるニーズの変化,認識論全体の変化などを学生に教えていかなければならない」と主張。そして,こうした歴史の変換を教えながら,理論を学生に伝えていると語った。

 最後は宮前氏が自校での教育経験を報告。KJ法による臨床実習の振り返りから理論との関連付けなど,これまでに試行した3つの理論教育方法を紹介した。それぞれに一長一短があるものの,講義だけでは学生の理解が浅いものになるのは明らかであると述べ,「今後,専門科目はできるだけPBL中心でやりたい」と意気込みを語り,ワークショップを締めくくった。


知識労働者としてのOT,その未来は?

日本作業療法学会ランチョンセミナーの話題から


 第38回日本作業療法学会会期中の6月25日,ランチョンセミナー「ネクスト・ソサエティと作業療法の未来――激変する時代,あなたは何をする」(共催医学書院)が開かれた。これは矢谷令子氏を座長に,能登真一氏(ともに新潟医療福祉大)を演者に迎えて企画されたもの。証券会社出身のOTである能登氏のユニークな講演に,立ち見がでるほどの盛況となった。

管理者でなくとも収支に関心を

 本セミナーは3部構成で企画され,能登氏の講演に続いて,座長の矢谷氏が参加者の意見を引き出す,インタラクティブな形式で行われた。

 第1部「激変する社会情勢と医療・福祉」では,急激な高齢化や経済の停滞など社会情勢が変化する中で,医療費が抑制されていることを確認。特に,2002年診療報酬改定ではリハビリテーション科が最もあおりを受けたことを強調した。会場からは「自分の病院では4割もの減収になった」と,その後収益回復に努めたことが報告され,矢谷氏は「たとえ管理者でなくとも自分たちの部門の収支に関心を持つ必要がある」と,OTの意識改革を促した。

エビデンスを外部に発信しよう

 第2部「ネクスト・ソサエティと知識労働者」では,経営学の産みの親でもあるドラッカーの著『ネクスト・ソサエティ』から,「社会情勢が激変する中では,資本よりも知識が重視される時代になる」などの要点を紹介。医療福祉の分野でも知識労働者が求められるとした。第3部「知識労働者としていかにあるべきか」では,「常に社会情勢に関心を払いながら,時代のニーズをキャッチする」など,OTが知識労働者であるための条件を列挙。また,能登氏が医学中央雑誌を調べた結果,PTによる論文数が1990年当時から5倍以上に増えたのに対し,OTは2.5倍に留まったことを報告。OT1人ひとりがこの現状を認識し,エビデンスを外部に発信していく努力が必要だと述べた。

 会場からは,介護保険下で,あるいは病棟でOTの独自性をどう打ち出していくべきか,積極的な発言が続いた。最後に矢谷氏は,「好きな作業療法を一生懸命やって,そこで満足するだけでいい時代ではない。外部との連携の中で差異をみせて,効果を出すようにしたい」と,ネクスト・ソサエティにおける作業療法の発展を期して,セミナーを閉じた。