医学界新聞

 

座談会

後発医薬品を育てる
不安を信頼に変えるために

武藤 正樹氏(国立病院機構長野病院副院長)=司会
五十嵐 正男氏(五十嵐内科循環器クリニック院長)
政田 幹夫氏(福井大学医学部附属病院薬剤部長)


 患者負担の軽減や病院経営の改善を目的に,後発医薬品の使用が広がりはじめた。医療財政の安定化をねらう厚労省は,普及を促進する施策を打ち出している(表)。国民に向けた後発医薬品メーカーの広告宣伝も盛んだ。

表 後発医薬品をめぐる近年の動き
2002年3月 国会予算委員会の場で,坂口厚生労働大臣から国公立病院での後発品使用を促す発言
同年4月 診療報酬改定で後発品使用促進点数(処方点数の格差2点)を新設
――院外処方で後発品を含む処方をした場合に加算。緩やかながらも,診療報酬上初めての誘導策
同年6月 厚労省が国立病院への通知で,後発医薬品の使用を促す
――通知では,患者への薬の処方に際し,後発品があれば必ず使用を検討することを求めた
2003年4月 DPCに基づく包括支払い制度を特定機能病院に導入
――包括部分のコスト削減が経営的な視点で重要となったため,後発品への置き換えが進む結果に
2004年4月 民間病院を含む一部医療機関に対し,DPCを試行的に適用拡大
――本格的な民間病院への拡大が今後の焦点に

 ただ,優良なメーカーが次々と現れてはいるものの,品質や情報,供給体制の面で現場の医療者に不安の声が根強いのも事実だ。本座談会では,後発医薬品の現状と課題を検証し,医薬品の健全な育成のために医療職がなすべきこと,必要な環境整備を考えた。


武藤 遅々として普及の進まなかった後発医薬品ですが,このところの環境の変化によって,徐々にではありますが使われるようになりました。今日は,後発医薬品の現状と課題についてお聞かせいただこうと思います。

 最初に,自己紹介をかねて,私から話させていただきます。私が後発医薬品に期待するのは,やはり経済性です。国立長野病院の場合,医薬品費として年間12億円を使っていますが,もし後発に置き換え可能な医薬品をすべて置き換えたとすると,1億円ものコストカットになります。これは非常に大きな額ですね。

 ただ,やはり不安も大きいです。本当に先発品と臨床効果が同じなのか,副作用についてはどうなのかが情報不足でわからない。現場の安心と納得を得る必要を感じ,試行錯誤しながらやっております。それでも今,品目ベースで全体の5.4%まで後発医薬品を採用するようになりました。2-3年前には1%未満だったものがそこまで増えてきています。

五十嵐 私は聖路加病院の内科に30年勤め,そのうちの3年間,アメリカで内科と循環器のレジデントをやってきました。アメリカの内科で処置ないしは薬を処方した時,先輩医師からしつこく問われたのは,「そのrationalはあるのか」ということでした。今でいうエビデンスですね。それともう1つ,「それはcost equivalentか」,コストに見合うだけの価値があるのかということです。

 その後開業医となって,病院の医療とはまったく違う医療をみました。病院では死ぬか生きるかの患者さんばかり診ていたので,あまりコストのことは考えず,とにかく目の前の命を救おうとしていたわけです。ところが,開業すると,患者さんは自分の近くに住んでいる人たちで,患者さんの家族の生活も含めて全部みえる。そうなると,「この人たちに,そんなにたくさんのお金を払わせていいのか」という気になります。ことに最近は患者負担も重くなったので,病院時代には薄れていたコスト意識がだんだん強くなりました。できるだけ不要な検査はしない,そして同じ効能があるなら安い薬を使うという方針で,その一環として後発医薬品を使いはじめました。

 ただ,これらの医薬品にどの程度の信頼度があるのかということが問題です。例えばメバロチンの後発品だけでも20種類以上あって,値段もかなり違います。これだけあると,いったいどれが信頼できるか不安です。そんなわけで,後発医薬品は本当に信頼できるのか,この機会に知りたいと思っています。

政田 私は薬剤部長になって15年になります。その前は生物薬剤学といって薬の体内動態や,医薬品の性状・品質など物理化学的性質を学ぶ物理薬剤学を薬学部の学生に教えてきました。国立病院と同じように国立大学でも,やはり経済的な観点から後発医薬品が大きく取り上げられてきています。後発品を使わざるを得ないだろうと考えてはいますが,いま五十嵐先生がおっしゃったように,実際の品質はどうなのか,薬の専門家として調べなければいけないことがあるだろうと考えています。

後発医薬品のメリット

武藤 2003年4月から特定機能病院がDPCの対象となって,後発医薬品のシェアは伸びましたか。

政田 福井大学においては,これまでどおりです。後発品はすでにいくつか入っていますが,経済性のために後発品を導入するということはなく,今までと同じスタンスで,いい医薬品は採用しようという話をしています。

武藤 五十嵐先生のクリニックでは,どれくらい使用されていますか。

五十嵐 私のところは全部院外処方なので,薬局で頼まなければなりません。先発品と後発品の両方を揃えてもらうと在庫が増えますから,薬局に対して申し訳ないことにもなります。ですから,使う後発品は8種類ぐらいに限っていて,私の出す処方の4分の1です。

武藤 患者さんの自己負担はどのくらい減っていますか。

五十嵐 実際に計算しますと,思ったほどは減っていません。たとえば,先発品と後発品の薬価差が100円で患者さんの負担が2割とすれば,実際の負担の差は20円。その30日分だから,ひと月で600円ぐらいです。

武藤 例えば生活習慣病の患者さんですと長期に渡って投与されていますし,複数の薬を投与されている場合もあるので,そうなるとまた違ってきますね。

五十嵐 複数の薬を服用する場合は,月に1000円から2000円の差が出ます。

武藤 患者さんの反応はどうですか。自己負担が少なくて済むわけで,「家計にやさしいジェネリック」ということですが(笑)。

五十嵐 「安くなりますよ」というと,にっこり笑います(笑)。これは確かで,概ね喜ばれます。

武藤 外来では,特にサラリーマンの窓口負担が3割になってからは,「薬をもうちょっと整理してほしい」とか,「検査を減らしてほしい」という声が実際にありますね。患者さんのコスト意識も,だいぶ高まってきていると思います。

五十嵐 それに患者負担がそう違わなくても,日本全体の医療費を考えれば,かなり大きな額になります。ですから,よい後発品があるなら使ったほうがいいだろうと考えています。

武藤 それと患者さんのメリットとしては,先発品に比べて後発品のほうが製品改良されている場合がありますよね。大きな薬が飲みやすいよう小さくなったり。

政田 剤形工夫がなされていることは非常にいいことで,後発品のメリットの1つだと思います。

武藤 経営上のメリットについても伺いたいのですが,後発医薬品の処方による2点加算が2002年からはじまりました。あれは開業医にとってメリットがありますか。

五十嵐 ないに等しいようなものです(笑)。ただ,私のところは院外処方ですが,ご自分のところで薬を出している開業医の場合,いわゆる薬価差益があるのだろうと思います。

武藤 そのゆえに,後発品を選ぶ医師もいるということですね。私ども国立病院はDPCの次のターゲットになっているので,どうしても意識しなければなりません。DPCの環境下では,包括部分のコストを削減することによって疾患差益が大きくなるので,そこに後発品のメリットがあると考えています。

■現状の不安要因を検証する

品質は保証されているか

武藤 次は,今回の最大のテーマである,現状での不安要因です。まずその1つは,漠然とした不安ではありますが,「臨床効果で,先発品と同等の効果を示すかどうか」ということです。現状ではどのように後発医薬品を評価しているのでしょうか。

政田 1997年に出された「後発品の生物学的同等性試験ガイドライン」,いわゆる新ガイドラインによって,服用後に薬の成分が規定どおり溶け出すかを調べる品質再評価がはじまりました。そこで安全性は担保されているはずですが,先発と後発で溶出性が異なるという報告が研究所や病院からいくつか出ています。今年3月の日本薬学会でも,ニフェジピン徐放性製剤で,後発メーカーの溶出性にかなりバラツキがあるという発表がありました。こうなると,申請資料を作成するためにつくったロットと,実際に流通しているロットが違っているのではないかとか,いろいろな疑問が生じてきます。

武藤 臨床医にとって関心があるのは,実際の臨床効果の点で本当に同じなのかということですが,その点はいかがでしょうか。

政田 2003年9月16日付の『日刊薬業』で,後発品の使用実態・意識調査に関して,全国保険医団体連合会が会員医師に行ったアンケートの結果が出ています(4892人中,2063人が回答)。そこで,「過去5年間に,先発品と異なる薬効を経験したか」という質問に,14.4%の人が「経験した」と回答しています。そして,「過去5年間に先発品と異なる副作用を経験したか」という質問には,4.5%が「経験した」となっています。これらはアンケート調査で,あくまで噂の段階でしかないのですが,無視できない数字です。

武藤 五十嵐先生は,臨床の場でそうした経験はありますか。

五十嵐 私は8種類に限定していることもあって,それは感じておりません。

政田 一部に品質が悪いものがあるというのも噂の段階で,本当にどうなのかはまだ検証されていません。

武藤 病院で後発医薬品の導入が進んでいるのは,造影剤とか抗生剤,カルシウム拮抗剤,抗ウイルス剤といったところが一般的ですが,導入時は過敏になります。特に昨年の7月,造影剤の切り替えの際にも,アナフィラキシーショックが起きないか,現場は不安を感じました。 やはりデータを出して検証していかなければいけない段階だと思います。新薬と同じような治験が必要というわけではないのですが,ある程度の市販後調査は必要だと感じます。

日本版オレンジブックの充実を

武藤 市場に出た後発医薬品の再評価手段の1つとして「医療用医薬品品質情報集」,いわゆる「日本版オレンジブック」があります。日米でのオレンジブックの違いについて,紹介していただけますか。

政田 日本のオレンジブックは,われわれ医療者がどの後発品を選ぶか決める時には役に立たないと思います。アメリカの場合は生物学的同等性の判定結果をA,Bとランク付けしているのですが,日本はそこまでしていません。

 私が品質に問題があると言っているのは後発品全部ではありません。ほんの数社の製剤に少し問題があるだけなのですが,それによって,「後発メーカーのものは悪い」という印象を持つ人もたくさんいると思います。そこをこれからどう差別化していくかを考えていかないと,いつまで経っても「後発はよくない」と思われます。

武藤 日本版オレンジブックは後発品を選定する際の参考にはならないということですが,アメリカ版のどういう基準が加わればよいでしょうか?

政田 生物学的同等性試験の基準を設けることですね。もし,Aという製品の後発が出るのであれば,その生物学的同等性試験の際にはどういう測定方法で,どういう採血時間でやるかなどを決める。それに沿って,全社試験を行う。溶出試験に関しては医療機関が抜き打ち検査をやって,「君のところの製品はちょっとおかしいよ」と言えるような体制を取るといいと思います。

五十嵐 オレンジブックの発行機関に権威性や経済的基盤を持たせないといけないのではないでしょうか。そして,そこでやった試験を私ども医療者が「本当に信頼できる」と思えたなら,後発品を使うと思います。

政田 同感です。そこで市場に出ている製品についてランク付けもできれば,選ぶ側も選びやすい。製薬会社に対しても,品質の劣る製品は淘汰される環境を示すことになります。

武藤 この座談会としての提言は,「日本版オレンジブックの充実・強化」ということですね。

政田 悪いものが数個あるばかりに手が出しにくいわけで,それを正していくことが必要です。

毒性試験の義務化

武藤 医療現場では消費が多い造影剤などの注射薬から後発に置き換える場合が多いのですが,日本版オレンジブックは内服薬のみで,注射薬と外用薬に関しては記載がありません。

政田 日本の場合,後発の注射薬は申請時の各種試験がほとんど免除されています。いちばん問題なのは,先発品に対して義務づけられている7つの毒性試験が,後発だと何ひとつ行われていないことです。これは知らない人もかなりいると思います。先発品で一定の不純物が出れば,おそらく製品回収ですが,後発はそんなことが全然ないでしょう。不純物の毒性はわかっていないのです。

武藤 外用薬はどうですか。目薬もあるし,経皮的に吸収する薬もあります。

政田 そういうものも全部いっしょだと思います。目薬も恐いですから,純度の問題はクリアしておかないといけません。

五十嵐 ただ,あまりうるさく義務づけると,安くならなくなってしまう。どの程度までやるかという問題ですね。

政田 そうなんです。ただ,毒性試験は動物実験なのでヒトの治験みたいにお金のかかることではないですし,ある程度義務づけてもいいと思っています。

市販後長期を経た薬なら安全!?

武藤 品質以外にも薬剤情報提供体制に不安の声が聞かれます。後発メーカーはMRが少ない場合も多いですが,その点はいかがでしょうか。

五十嵐 私はMRに会わないことにしています。フィロソフィーとして,新薬は使わないことを原則にしています。ですから,新薬に関する情報はあまり入れない,そのためにはMRにも会わないわけです。

武藤 使い慣れた薬を使っておられるということですね。

五十嵐 ええ。使い慣れた,評価の決まった薬しか使わないことにしています。しかも,非常に限られた数の薬しか使いません。

武藤 では,後発品はどういう基準で選んでいますか。

五十嵐 薬局の薬剤師と相談します。どういう基準かというと,結局,後発品メーカーとして名の通ったところのものを中心にしているようです。

政田 薬剤の安全性情報に関していえば,「市販後長期間使用されているので,後発品の安全性と有効性は確立している」という厚労省の見解には疑問があります。私どもの大学病院で調べたところ,1990年以降で厚労省の「緊急安全性情報」が30回出ています。そのうちの12回が,発売後10年を経過している薬です。10年経てば後発品も出ますよね。医薬品というのは何年経っても安全じゃないということです。

五十嵐 もちろん,よく効く薬ほどそうです。これは避けられないことです。

政田 それに当然ヒトの体質も変わりますよね。例えば20年前と今では,アレルギー体質に関してもぜんぜん違います。だから,「有効性と安全性が確立した」というのは言い過ぎです。

五十嵐 ただ,緊急安全性情報が出たからといって,それを使ってはいけないということではないですよね。

政田 ええ,注意して使ってほしいということです。

五十嵐 そこを誤解してはいけないですよね。

政田 緊急安全性情報が出たあとは,注意のできる医師だけが使うべきだと思います。注意のできない医師には使ってほしくないし,「市販後10年経ったからといって,薬は決して安全が保証されない」ということを,頭の中に入れておいてもらいたい。これは後発品を使う時も,先発品を長く使う時にもいえることです。

五十嵐 先発後発に限らない,薬というものの宿命ですね。

政田 それから,緊急安全性情報が出た場合,先発メーカーは当然,その緊急安全性情報をその都道府県の薬剤師情報センターに持っていきますが,後発メーカーの中には,情報を持っていかないどころか,その時点で販売停止にするところも多いのです。これは無責任きわまりない。結局は信用されないことにつながってしまいます。そこは襟を正す必要があると思います。

まぎらわしい名前は誤薬のもと

武藤 そのほか,現場の不安材料として,後発品が入ってくると,薬の名前がいくとおりもあるため管理が難しくなり,誤処方・誤調剤・誤使用が起こるのではないかといわれます。大学病院の場合はどうでしょうか。

政田 私どものところでは,今までそういう問題はないです。

武藤 私は,厚労省の「ヒヤリ・ハット事例検討会」のメンバーですが,後発品の名前が先発と似ているので間違えてしまったという事例が実際に出ていました。

政田 それはあり得るでしょうね。

五十嵐 後発品のメーカーが,心しなければならないところですね。似た名前を使ってはいけない。

武藤 できるだけ一般名に近い名前をつけるよう求めたいですね。

■後発医薬品を育てるのは医療者

導入には現場の納得と安心が必須

武藤 後発医薬品の採用を考えている病院や診療所があると思いますが,初めて選定する際のポイントを話したいと思います。

 私どもの病院では,導入には現場の納得と安心が重要だと考えています。できるだけ客観的に後発品を選定するため,品質や情報,供給体制など50項目ぐらいのチェックリストをつくり点数化して,比較調査しました。先にメーカーに対する評価(緊急連絡体制の有無,MR数など)を行いましたが,上位と下位では点数にかなりの開きが出ました。メーカーを選んだあとに,品目別のアンケート調査をして,それらをすべて定量化して評価資料としました。ただ,このプロセスがけっこう煩雑で,なかなか1つの病院でやるのは大変でした。やはり,そういう選定のプロセスを踏むための機関が必要だと思いました。

五十嵐 そのためには,オレンジブックをもっと権威づけてほしいですね。

武藤 そうですね。標準的な評価本があればありがたいですね。

政田 私どもの病院では,先発後発にかかわらず,薬剤については薬剤部全員で,「本当にこの製品がいいかどうか」とあらゆる角度から検討し,議論します。つい最近,後発品を採用した際も,メーカーに説明会を開いてもらい,かなりディスカッションをして,われわれの質問にはすべて文書で答えてもらいました。薬剤師というのは薬の番人だと思っているので,まず薬剤部が検討して,そのうえで医師と話し合うようにして,納得したうえで使っていきたいと思います。

試験は大規模ネットワークで

武藤 大学では,実際に後発品溶出試験や,夾雑物をガスクロマトグラフで検証してみるのですか?

政田 いくつかの品目にしぼって検証しています。採用する品目全部となるとかなり人手がかかります。だから,病院薬剤師会や薬剤師会が,器械を持っている大きな医療施設に振り分けて共同実施してほしいと思っています。

武藤 大学ネットワークを使うことになるのでしょうか。

政田 私はそうしたいです。特定機能病院だけで82,薬学部もずいぶん増えましたから絶対にできるはずです。

五十嵐 それがオレンジブックになるんじゃないですか。

政田 そうなるといいですね。1つの大学でやろうと思ったら,薬剤師を増やさなければいけないし大変です。後発品を入れるために薬剤師を増やすなんて,経済的にみても筋違いです。後発品に限っては,どこかで集中的にやるのがいいと思います。

武藤 いいですね。「ジェネリック医薬品評価機構」なんていうのをつくりまして……(笑)。

五十嵐 それはぜひ必要ですし,厚労省も喜ぶと思います。

一般名処方と代替調剤

武藤 一般名処方については,これはぜひ普及させていくべきですし,医学教育の中でも,一般名で薬の名前を覚えていく習慣づけが必要だと思います。五十嵐先生は一般名処方をされていますか?

五十嵐 大部分は商品名でやっています。ただ,「後発医薬品を使っていい」という場合には,一般名処方にしております。

武藤 なるほど。後発医薬品の場合に一般名処方をされる理由は?

五十嵐 お金が少し高くても先発品がいいという患者さんもいるので,それを薬局で話し合ってもらいます。「先発と後発,どちらでもいいようにしてください」という意味で一般名に変えております。アメリカは代替調剤といって,医師が商品名を書いても,薬局で勝手に変えることができますよね。

武藤 DNS(=do not substitute)というマークがついていない限りは,変えられます。

五十嵐 日本も代替調剤にするのはどうでしょうか。

政田 そこに至るには歴史がいると思います。アメリカでは,エドワード・ケネディが委員長となった公聴会が1972年に開かれていて,生物学的同等性や品質についての議論をしっかりしています。今でもジェネリック使用促進計画を進めていて,60億円の予算を投入し環境整備を行っています。

武藤 すでに72年に問題になっていたわけですね。

政田 そこから30年経って,後発品のシェアが5割に達したことになります。日本はまだ,その議論の最中です。後発品の品質がすべて保証されるか,劣るものがあってもそれらがランク付けできるようになれば,代替調剤も可能だと思います。そこでやっと,医療経済の議論もできるようになります。だから,その時を想定して,一般名処方を考えておかなければいけません。

薬剤師にとっては正念場に

武藤 一般名処方がしづらい1つの原因は,本音を言うと,調剤薬局との信頼関係の問題がありますよね。五十嵐先生のところは調剤薬局と非常に信頼関係があると思うのですが,中には,調剤薬局の薬剤師さんを信用していない医師もいます。一般処方の問題,後発医薬品の問題は,薬剤師にとっても非常に正念場といいますか…。

政田 そうです。正念場だと思います。

武藤 薬学教育を含めて,どういう見解をお持ちですか。

政田 一般名調剤ができるような判断力,後発メーカーの善し悪しについての判断力のある薬剤師が育たないといけないし,その判断材料となるオレンジブックも必要になる。

 これから薬学部が6年制になります。6年制教育を受けた薬剤師が社会に出る頃には,後発医薬品のシェアが欧米並みになるでしょう。その頃までに環境を整えておかなければなりません。

武藤 「後発医薬品のことは自分に任せて!」と薬剤師が主張できるようにならないといけませんね。

おわりに

武藤 最後に,後発医薬品を健全なかたちで発展させていくためのポイントをお聞かせください。

政田 もう後発医薬品を使わざるを得ない時期がきていると考えます。そのためにも,医薬品としての品質保証が必要ですし,メーカーには市販後何年経っても情報収集活動をしてもらわないといけません。われわれ医療職の監視努力とメーカーの企業努力で,後発医薬品を育てていく必要があります。半信半疑のままで使うのは絶対によくないので,その努力を惜しまずにやって,信頼を積み重ねていくことです。

五十嵐 臨床医としては,後発医薬品に対する信頼性を高めて,安心して使えるものにしてほしい。それから本論からは外れますが強調したいのは,先発品の薬価を下げてほしいということです。特に新薬の値段は,外国にくらべて非常に高いです。これを下げると,総医療費の中の薬剤費はかなり減ります。その努力をしてもらいたいと思います。

武藤 ありがとうございました。後発医薬品には,メーカー間のバラツキ,製品間のバラツキが確かにあると思います。私たち医療職が自ら選んで,優良な後発医薬品を育てていくことが必要だと感じました。それには薬剤師さんの力が必要です。ぜひとも新しい薬剤師像の1つとして,後発医薬品の“目利き”になってほしいという願いをこめて,座談会を閉めさせていただきます。

◆後発医薬品
先発品(新薬)の特許が切れた後に,臨床試験などを省略して認可される同じ成分の薬。「ジェネリック医薬品」とも呼ばれている。研究開発費が大幅に削減できるため,薬価は先発品の7割以下に定められている。後発品の数量シェアが1割程度の日本に対し,米国やドイツ,英国では5割前後に達する。


政田幹夫氏
1973年京大薬学部卒。京大病院薬剤部,城西大講師,摂南大助教授,京大胸部疾患研究所病院薬剤部長などを経て,91年より現職。教授。2004年5月より日本ジェネリック研究会理事。厚労省中央薬事審議会・副作用被害判定調査会の委員も務める。専門は臨床薬物速度論,生物薬剤学。著書に『医薬品情報・評価学』(南江堂,共著)など。
五十嵐正男氏
1957年新潟大医学部卒。聖路加国際病院(内科)在籍中にニューヨーク州Ellis病院(内科レジデント),シカゴMichael Reese病院心臓血管研究所(Clinical Fellow)。聖路加国際病院復職後は内科医長,内科部長を歴任。87年に開業し,現在に至る。『開業医のための循環器クリニック 第2版』(医学書院)では,新たに「安くて良い薬の選び方」を解説。
武藤正樹氏
1974年新潟大医学部卒。国立横浜病院(外科),厚生省関東甲信越地方医務局指導課長,国立療養所村松病院副院長,国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長などを経て97年より現職。2004年5月,日本ジェネリック研究会の新会長に就任。ユーザーの立場からジェネリックの評価や研究,検討を行う。近著に『DPC時代の病院医薬品マネジメント』(じほう,共著)。