第2590号 2004年6月28日


NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


著者との会話が楽しめる本

《シリーズケアをひらく》
見えないものと見えるもの
社交とアシストの障害学
石川 准 著

《書 評》栗田育子(大阪府立精神医療センター・看護師)

 著者の石川准さんは2つの本業を持っている。1つは社会学者であり,もう1つはソフトウェア・プログラマである。

 石川さんは高校1年の時に目の病気で長期入院し,そのまま全盲となったが,同級生より2年遅れて大学に進学,「全盲東大生第1号」となる。やがて自己の身体の限界を克服する道具としてのソフトウェアの開発に熱中するようになっていった。

先輩と長話をしている気分

 彼の経歴から見ると,ガンバリズムの肩の凝る本かと思いきや,決してそんなことはない。柔らかい語り口と1つひとつの共感できるエピソードにのせられて,休日にお茶を飲みながら,あるいは仕事の休憩時間にやさしい先輩とついつい長話をしてしまったような気持ちにさせられる本である。たとえば石川さんは次のように言う。

 「患者さんの根源的な苦悩と至近距離で向き合ったあと,プライベートで恋人との語らいを楽しむ自分に気づいて,あるいは救命のために全力を出し切る身ぶりをしながら,ある種の感情の高ぶりを感じる自分に気づいて自己嫌悪する。看護師は,そうした要請から逸脱する自分,正しくもなければ優しくもない自分と向き合わなければならない」(77-78頁)。

 さらにこうも言う。

 「この条件下では,看護師は感情を揺さぶられても崩れない強さをもつか,感情が揺さぶられることをむしろ快と感じるような嗜好をもつ人でないと勤まらない仕事なのかもしれない」(79頁)。

「引き際」と「わきまえ」を教えてくれた人たち

 たしかに人を援助するという仕事は,好きでなければできない。しかし好きなだけでは続けられない,というのもまた実感である。私自身のことを考えてみると,現在まで「しんどいなあ」と感じながらも,どこかで「この仕事はおもしろい」と思い続けることができたのには,いままでかかわった患者さんや同僚の存在が大きい。

 先輩から夜勤のたびに聞いた失敗談や成功談,何をするでもなくそばに寄り添っていた時に患者さんが私に送ってくる何気ないメッセージの数々が,その時はわからないが今になってみるととても役立っている。多くの人たちとの語らいが,教科書が教えてくれない援助の「引き際」と「わきまえ」のヒントを教えてくれた。

 自分が援助者としてできることの限界,自分が入り込んではいけない領域を学び,援助者の役割を感知するセンスを磨くことを「快」ととらえることで,自らの揺れに対処していくやり方もあるように思う。石川さんと本の中で会話をしていると,このようなことを思い出させてくれる。

スローナーシングがあってもいい

 ここ数年,看護職の周囲は忙しい。「科学的」という名のもとに,目新しい学びの必要性が次から次へと出現し,そのたびに看護師という職種に携わる人々は強迫的と思えるほどに勉強に余念がない。看護職にとって道具であるものが,看護職そのものになっている感は否めない。

 そんな中にあって,「人間を援助する」ことの意味を時には孤独に自問自答し,じっくりとかかわる援助を望んでいる人,「専門家」と思い込むことで,行為の押し付けをしているのではないかという恐れをいだいている人たちに,本書をぜひおすすめしたい。

 著者とついつい長話をしてしまうこと請け合いである。

A5・頁268 定価2,100円(税5%込)医学書院


なぜ「しんどい」のかがわかる本,だから元気になれる本

援助者必携 はじめての精神科
春日武彦 著

《書 評》荻原美代子(武蔵野市高齢者総合センター・看護師)

「燃焼系」の私はしんどくなってきた

 私は,在宅介護支援センターと居宅介護支援事業所の併設事業所に勤務している看護師である。本人,家族,近所の人といった人々から相談を受け,家庭訪問して対応することを仕事にしている。

 この仕事をしばらくやっていると,「普通の家庭って何だろう?」「外からは普通に見えても,家庭の中は何でもありなんだ」といった思いにとらわれずにはいられなくなる。と同時に,しんどくなっている自分にも気がつく。

 仕事をはじめたばかりのころは,ただ楽しかった。いま思うと「措置時代」は,サービスをプレゼントして地域を回っていたような気がする。それだけであたかも問題が解決したかのような錯覚にとらわれた。

 要援助者から「ありがとう」と言われるだけで嬉しくて,ただただ調子づいて働いていたことを覚えている。でも,「燃焼系」の私はすぐにしんどくなってきたのだ。

言葉にできないから,つらいんだ

 いったい何がしんどいのだろう,なぜしんどいんだろう――それが言葉にできないからこそしんどいのだ。この本は,私たち援助者が感覚的にはわかっていても,曖昧で言葉にできていないことをすっきりと解説してくれている。そこがすばらしいと思う。

 私には大きな課題がある。「待つ」ことである。「待つ」という時,何もしないで放っておくような後ろめたさを感じた時期があった。しかし著者は,「周囲が腹をくくって待つ態勢へ入った時,その精神的ゆとりがプラスのかたちで患者サイドへも伝わるため,思ったより早く決着がつくことが多い」と述べ,さらに次のように続ける。

《援助者とは,決して部外者ではない。いくらでも巻き込まれる可能性がある。混乱もするし加害者にもなりうる。時には事業所とか保健所,いや地域そのものが「巻き込まれた家族」と同様になっていることすらある。アプローチされなければならないのは自分たちかもしれないのである。》(32頁)

ラクになれる,不思議な教科書

 私はこの部分を読んで,「こういうことだったんだ!」と納得して,大いに安心できた。

 「待つ」ためには,いざという時アプローチできる準備を整えておかなければならない。そう,少なくとも援助者1人で行うのではなく,関係諸機関とのチームアプローチを考えたい。そこで支援方針を話し合い,態勢をつくっておくことができてこそ,「待つ」ことができるのだろう。

 本書は『はじめての精神科』というタイトルではあるが,精神科に限らず在宅支援に係わる関係者なら必ずぶつかる問題について,とてもやさしく,腑に落ちるように解説してくれている。不思議な“教科書”だ。著者の在宅支援に向けられた,誠実でやさしいまなざしに感謝したい。

 そして1人でも多くの援助者の方々に,読んでほしいと思う。本に巻かれた帯にあるとおり,まさしく,《「ラクになる言葉,役立つヒント」がてんこ盛り》の1冊だからだ。

B5・頁244 定価1,890円(税5%込)医学書院