第2590号 2004年6月28日


身体で覚える
糖尿病療養援助技術

〔第3回〕

(1)やりとりの学習(ロールプレイ)

吉田百合子
富山医薬大附属病院地域医療連携室・看護師


前回よりつづく

 糖尿病療養指導の技術とは何か。その技術を向上させるには,どのような教育法がよいのか。今回からは,筆者が行っているセミナーのプログラムの進め方を順次紹介していきます。今回はまず,「やりとりの学習(ロールプレイ)」を学習しますが,プログラムは今回のものも含めて,そのほとんどがロールプレイ方式の実技で行うものですので,まず,すべてのプログラムに共通する学習法の原則から説明することにします。

実技で体験する学習法

 各技術を実技で,体験を通して学習します。看護師の立場で技術を行い,患者の立場で援助を受け,他の人が行うのを見ることによって,それぞれの立場で学習します。さらに,そうやって実技を行った感想を,必ず文字にして書き,口頭で発表するようにします。言葉にすることによって,学習内容を明確にしていくことが目的です。さらに,その技術が患者にとって役に立つかどうかを考えながら行うようにします。

 実技の「実感」を身体に覚えこませるためのポイントを以下にまとめます。

1)感じたことを口に出し,言葉にする。
2)感じたことを文字にする。
3)声に出して読んで,自分の耳に聞かせる。
4)自分で書いたものを目で読んで,視覚に訴える。

 さらにその実感を膨らませるために,以下のことを行います。

1)感じたことをお互いに言い合う。6人ほどのグループに分かれ,グループ内で全員がもれなく感想を言い合う。
2)多くの人の感想を聞く。
3)多くの人,多くの感じ方の異なる人と実技を通して交流する。

具体的な進行
1)実技ごとに記入用紙を準備する。
2)全員参加で実技を行う(患者にどのように役立てるかなどの,項目を埋める作業もここで行う)。
3)感想を記入用紙に書く。
4)各項目について感想を全員の前で口頭発表してもらう。
5)続いて,6人程度のグループに分かれてもらい,その中に司会役を置き,感想などを必ず全員から聞く。
6)記入用紙を集める。項目をすべて埋めて提出することを徹底する。

 全体での感想は,できるだけ全員が発表することが望ましいが,人数の多い場合は時間の有効利用のため,グループごとで行う。ただし,「感想は個人の想いだからどのような内容でもよい」ということ,また,「正解は1つではなく,感じたことがすべて正解で,自分の感じたことも大切なことだ」という共通認識には達するようにすること。

 5)のグループ分けについては,くじ引きなど,できるだけ知り合い以外の人がグループになるようにします。6)で用紙を集めるのは,記入することへのモチベーションを高めてもらうことが主な目的なので,希望者があれば,返却するようにします。          

(1)やりとりの学習(ロールプレイ)

病気の情報を「患者向け」に言い直して説明
 患者が自己管理を自発的,積極的,持続的に行えるためには,糖尿病を十分に理解するだけでなく,自己管理をこころよく思え,日常生活に組み込ませて新しい生活をつくれることが大切です。そこでナースは糖尿病の情報を患者が好ましく思えるように「患者向け」に言い直し,その知識を生活の中へ組み込む手伝いをします。記入用紙は表を用います。

学習目標
 一方的ではない,双方向のやりとりで,こころよく日常生活に自己管理を組み込ませていける。

手順
1)ナース役・患者役・評価役3人一組になる。
2)課題設定,患者設定をする。
3)3人一組でそれぞれの役割を交代で体験する。
4)評価役は,時間管理,やりとりの状況確認を行う。   

コツ
・患者役からナース役に質問して,内容を深めたり,焦点の絞りを助ける。
・患者役にこころよくわかってもらえたかの確認をしながら進める。
・自己管理を生活の中で具体的にどのようにするかの言葉が聞かれるまで行う。

継続学習
 課題を変え,患者設定を変え,練習メンバーを替えて行う。

やり取り学習のねらい――療養援助は患者との協同作業

 このプログラムは研修の最初で行っているものですが,総合的な能力が求められますので,各技術の練習を経て,再度行うこともよいと思います。糖尿病療養援助の最終的な目標は,患者が糖尿病を好ましく感じ,現実の人生経過の中に糖尿病とその療養生活を組み入れ,自己管理の継続に至ることです。よって,このプログラムでも,患者役やナース役を通して,糖尿病に対してどのような実感を持つようになったか,ということを言葉にしていくことがポイントになります。

 実際の研修会では,時間が制限されます。しかし,司会者が一律に時間管理を行うと,各グループそれぞれのやり取りの内容経過を無視することになってしまいますので,時間管理は各グループ内で1名が責任を持って行い,患者役・ナース役・評価役をそれぞれ行えるようにします。

 評価役が評価すべき重要なポイントは,患者役・ナース役のやりとりが,双方向的なものになっているかどうかの確認です。ナース役が患者役の話の内容に対応して発言しているか,また,患者役に内容を確認をしながら話を進めているか,また,患者役も自己管理についての質問をしているかを確認します。時には患者役に「○○とは何ですか」といった具体的な質問を行うように促し,内容に強弱をつけるといったことを行うとよいでしょう。

 評価役は,患者役・ナース役のやり取りを客観的に見ることができ,自身を振り返ることもできる役どころになります。最初のうちは不慣れなので,自信がなく,照れが出てしまい,単なる「事例相談会」のようになってしまうことが多いので,評価役は上記のようなポイントを踏まえて,役目に徹するようにお願いします。

 自己管理をどのように生活の中に組み入れるかは,患者それぞれの生活によって異なります。一方,どのような生活が糖尿病の治療において望ましいかは,ナースが知っておくべき知識です。糖尿病の療養指導は,このような両者が歩み寄って共同作業で作り上げていくものであり,共同作業の醍醐味を力とするものです。自己管理の計画はナースだけでは立てられず,そのように考えると,患者は治療の場面にいなくてはならない存在であるといえます。

【研修案内】
 LCDE(地域糖尿病療養指導士)富山による研修「身体で覚える療養援助技術(富山版)」を下記日程において開催いたします。(日本糖尿病療養指導士認定更新のための研修単位:II群2単位)
第5回
 〔日程〕8月28日(土)-29日(日)
 〔会場〕福岡市 八重洲博多ビル
 (1日目13:00-21:00,2日目9:00-14:30)
講師:吉田百合子(富山医薬大附属病院)
定員:100名
参加費:10,000円
申込締切:8月15日
おことわり
 ・宿泊に関しましては必要に応じて各自ご予約ください。
 ・定員になり次第,参加申込みは締め切らせていただきます。
問合せ・申込み先
 〒930-0194 富山市杉谷2630
 富山医科薬科大学附属病院 地域医療連携室(吉田)
 FAX(076)434-5104
 E-mail:yoshiyu-tym@umin.ac.jp

表 (1)やりとりの学習(ロールプレイ) 病気の情報を「患者向け」に言い直して説明する
趣旨 このプログラムでは,3人一組になってロールプレイ(役割演技)を行います。「ナース役」「患者役」と,そのやりとりを観察して評価する「評価役」を交代で体験します。患者設定に合わせた援助を行い,受け,観察する体験を通して,自分に合った援助方法を模索しましょう。
方法 1.ナース役,患者役,評価役をそれぞれ決める
2.患者設定(別紙リスト等を用いて行う)
3.ナース役,患者役はそれぞれの立場から聞きたいことを整理し,下の所定欄に書き込む
4.それぞれの役割を交代で体験する(各役割それぞれ10分程度)
うまく行うコツ
  (患者役)ナース役に対して質問し,会話を促す。
(ナース役)患者がこころよく理解できたかを確認する(最後に「いかがですか」などの言葉で問いかける),患者から自己管理に向けた言葉があったかどうかを確認する。
(評価役)時間管理とロールプレイの進行・流れの確認・評価を行う。
課題 ナース役の時「                            」
患者役の時「                             」
ナース役の時,患者に伝えたいこと

(患者の設定:             )
患者役の時,ナースに聞きたいこと

(患者の設定:             )
ナース役を行った時の感想

患者役を行った時の感想

評価役を行った時の感想

(患者の設定:            )
このロールプレイを行っての感想

この学習は患者の自己管理にどのように役立つか,役立たせるか

この学習は臨床でのエンパワーメントにどのように役立つか,役立たせるか

継続学習のポイント
・課題を変える ・患者設定を変える ・練習メンバーを替える ・繰り返して行う中で,自分の中に今までなかった新しいエンパワーメントの考え方が産み出されることを体験する


[著者略歴]
国立山中病院附属看護学校卒業後,国立がんセンター勤務を経て現職。佛教大,富山医薬大学院に社会人入学し,社会学,看護学を学ぶ。「現場の“技”を言葉にして,それをもう一度現場に還元するのが私の仕事」と語り,日々後進の指導に取り組む。