第2588号 2004年6月14日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


研修医の視点から見た「病院探検」ルポルタージュ

臨床研修の現在-全国25病院 医師研修の実際
市村公一 著

《書 評》宮城征四郎(臨床研修病院群「群星沖縄」研修センター長)

 COML(Consumer Organization for Medicine & Law:医療と法の消費者組織-代表:辻本好子氏)に「病院探検隊」という,患者の視点から見た病院のあり方をただす社会活動がある。多くの場合,患者本位に改善を望む心ある病院からの要請に応ずる形で隈なく病院全体を探検するのであるが,その目は厳しく,病院にとっては痛い所を鋭く指摘される。しかし,その病院が提供している医療の質の改善という観点からは,大いに参考になる立派な活動である。

研修医に密着取材

 本書は研修医の視点から見た「病院探検」ルポルタージュである。市村氏は東京大学美術史学科卒業後,銀行などの勤務を経て東海大学医学部を再受験し,2002年に卒業したばかりの新人医師である。1年の初期研修の後,故あってある医療情報誌を刊行する会社に就職し,臨床研修必修化元年にふさわしく,研修医の立場に立って医療情報を発信するユニークな仕事に従事された。

 本書はその仕事の一部である。

 新人研修医たちが常々心につぶやき,著者自らもまた疑問に思っている「他の研修医は一体,どんな研修をしているのだろう?」に答えるべく,全国25病院を精力的に訪問し,各病院それぞれ3日間ほどの日程を費やして研修医に密着取材し,約1年の歳月を要して書き上げた決算書である。

 取材する研修病院の選択には特別な基準を設けたわけでもなく,ある意味では著者の自由気ままな意思に基づいているとはいえ,新人研修医たちが心のどこかでいつも気になっている病院群が選ばれたであろうことは疑う余地はない。

各病院の教育・研修の現状を鋭くレポート

 現在の本邦における臨床医学教育の最大の欠陥は,大学,学外を問わず,どの臨床研修病院においても指導医層に「What and how to teach」を学ぶ機会も関心もなく,また,研修医の間にも「What and how to learn」を意識して学ぶ姿勢が欠けている点である。

 本書の瞠目すべき点は,この両方の視点から各病院の研修の現状を事細かに視察,探険していることである。

 病院の規模や年間入院患者数,平均入院日数,年間救急受診件数,年間救急車搬送件数,研修医受け入れ人数,大学医局ローテーションとのかかわりにはじまり,マンツーマン指導方法,屋根瓦方式,各科任せ-個人任せなどの研修システムの比較,総合診療部の役割,各科の病棟回診や教育回診のあり方,病棟における受け持ち患者数,外来,救急室,ICU,CCUでの研修医のかかわり,集合教育の時間帯の選択方法,当直時のスタッフとのかかわり方,カルテの内容や記載方法,労働環境や教育環境(研修医室整備状況,図書室,ITその他の整備など)などを指標として詳細に比較検討している。

 「臨床研修とはこうありたい」という著者自身の明確な視点から,各病院の指導医や研修医,管理者なども自らはほとんど気がつかないであろう数々の難点が鋭く指摘されており,驚かされるに違いない。もちろん,ここに取り上げられていない研修病院にとっても,自らの研修システムの現状に照らして反省を強いられることが多いであろう。

臨床研修必修化元年にふさわしい好著

 望むらくは各病院における研修委員会活動の実態も取材に加えてほしかったし,研修医の健康管理に関する各病院の取り組みについても言及してほしかったと思う。さらに付け加えるならば,せっかくこれだけの病院を密着取材して得た情報なのだから,著者が組み込んだ取材項目ごとに,末尾に一覧表にして表示頂ければ,即座に各病院の特徴的な取り組み方が理解できたのではないかと思うし,次回の探検旅行にはぜひ,大いに気になる大学病院での研修実態の情報をも公にしてほしいと思う。

 しかし,だからといって,本書の価値がそのために損なわれるということはまったくない。

 研修必修化元年に最もふさわしい,すばらしい好著であり,研修指定病院を抱える国立・公立の行政官,各研修病院の管理者,研修に携わる研修委員会のメンバー,研修指導医,研修医,学生ならびに研修医と深く交わるコメディカルの方たちにとって必読の良書であると思う。

四六・頁368 定価1,995円(税5%込)医学書院


理学療法士・作業療法士が神経画像に親しみを持って学べる


PT・OTのための
脳画像のみかたと神経所見
[ハイブリッドCD-ROM付]
森 惟明,鶴見隆正 著

《書 評》近藤 敏(広島県立保健福祉大教授・作業療法学)

 本書は,脳神経外科医とセラピストの協働によるものであり,名実ともに理学・作業療法士向けに書かれたもので,CTやMRIを中心とした脳画像のみかたをコンパクトにまとめた書である。言うまでもなく,理学・作業療法士の役割は,神経疾患を直接診断するのではなく,疾患に伴う障害を評価し,理学・作業療法計画を立案することにある。この点について,著者らは理学・作業療法士が日常接する患者の多くは,脳卒中や脳腫瘍など脳の限局性器質性病変による障害を呈しており,画像と神経所見が一致することが多いため,患者の評価と治療計画に画像が大いに役立つとの見解を述べている。

 本書を一読してみて,CTやMRIの画像のみが突出して述べられているわけではなく,神経解剖,脳神経疾患の基本的事項,CTやMRIの画像と神経所見,治療,理学・作業療法のポイントなどが関連づけられて説明されていること,さらにCD-ROMを活用し,症例がQ & A形式で学べるように配慮されており,学ぶ側の視点で書かれているといった特徴があると思われた。

神経画像に親しみを持って学べる

 著者の1人,森惟明先生は,所々,脳神経外科医としての長年のご経験からCTやMRIがなかった頃の神経疾患診断についてもふれておられ,当時の医師たちの苦労を垣間見ることができる。若い学生さんたちはこのような経緯があって今日に至っていることも知ってほしいと思う。私自身,昭和40年代の半ば,作業療法学科の学生として神経内科の先生より脳卒中の講義を受けたが,脳出血と脳梗塞の鑑別診断が必ずしも容易ではなく,いくつかの所見をもとに判断されていたことを思い出す。無論,CTやMRIについては,一言も聞いたことがなかった。

 症例の大部分は脳卒中,脳外傷,脳腫瘍である。なかでも脳卒中には多くの症例が呈示されている。これらは,誰が見ても異常所見とわかる。しかし,その病変の局在と広がり,およびその種類を判断するためには神経解剖や脳画像のみかた,神経所見のつかみかたの基本的知識が必須である。本書はこれらについて自学自習できる教科書である。著者たちの意図は,理学・作業療法士が,神経画像に親しみをもって,効率的に学んでほしいということにある。本書の最後の10章では,脳神経疾患への基本的アプローチが理学・作業療法を中心にまとめられているが,9章までを振り返りながら読んでみると脳神経疾患がイメージ化され,より実践と結びついてくるのではないかと思われる。

B5・頁128 定価5,040円(税5%込)医学書院


眼科学の何たるかを通読的に理解できる

標準眼科学 第9版
大野重昭,澤 充,木下 茂 編

《書 評》玉井 信(東北大教授・眼科学)

 標準眼科学が改訂され,その宣伝文には現代眼科学の最新情報を盛り込んだ教科書の決定版と記載され,豊富な写真,図表が全ページカラー,医学教育のminimum requirementをコンパクトにまとめてある,国家試験出題基準を網羅,簡潔な記述で通読可能なページ数,などの特徴から,医学生の必携書であると述べられています。少なくとも教科書の書評は,それを読んで学生が買うかもしれないと思い,「通読」ではなく,「熟読」してみました。

教科書が備えるべき条件

 小生が考えるに,教科書というからには,備えるべき条件として,(1)正確な記述,(2)わかりやすい表現とその理解を助け,可能にする図表の適切な配置,(3)目的とする学問領域の網羅,(4)対象が学生である以上,将来どの分野の医療従事者になるにしても,共通して記憶にとどめなければいけない検査法,検査結果,そして各種疾患の重要性とのバランス,(5)可能であれば国民の生活様式や時代の動きに伴う疾病構造の変化,検査法,治療法を含めた学問の発展を十分捉えた記述などがあげられるでしょう。一方を追求すれば他方を犠牲にしなければならないなど,難しさがあるかもしれません。例えば内容をあまりに簡略な記述にすると,正確に伝えることが困難になります。

 本書について,宣伝文の特徴を頭に入れながら,まさに通読し,かつ精読してみた感じを述べます。宣伝文にあるように,ほとんどのページにカラーの図版があり,項目ごとに順番に番号を付して,わかりやすく説明しているなど,大変工夫されており,コンパクトでありながらきちんと網羅されています。眼科の特徴である検査法も詳述されています。それだけでなく各種疾患の症候,診断や,現在の外科的眼科学の特徴である代表的な手術手技を模式図とカラー写真で示していることは理解を助けています。一部に取り入れられているように,別の章に詳述されているような項目については,その章を迅速に検索できるようにページを付すという工夫もされており,勉学する人たちに大変助けになるでしょう。

さらに高度な内容を理解する努力を

 前にも述べましたように,簡潔な記述で,かつ正確さを期することは大変困難です。その両者を満たそうとした工夫は随所に見られますが,やはり気になるところです。また検査機器の急速な開発,発展によって新たな所見が得られるようになった現在の眼科学であるだけに,すべての検査機器の理解とその得られる画像を詳述することは困難でしょう。本書を利用する医学生,医療従事者をめざす方々は,眼科学の何たるかを,まさに通読的に理解するために本書は理想的であります。しかしさらに高度の参考書を見ながら,正確な知識とその内容を理解する努力を怠らないように期待したいと思います。それはどのような分野においても,教科書,参考書を見る場合に同様なことかもしれません。

B5・頁336 定価7,140円(税5%込)医学書院


悩める言語聴覚士へのヒント


言語聴覚士のための
子どもの聴覚障害訓練ガイダンス
立石恒雄,木場由紀子 編

《書 評》石津希代子(福井医療技術専門学校・言語聴覚学)

聴覚障害の臨床への不安

 先日,私が勤務している専門学校の卒業生から電話があった。彼女は,臨床3年目の言語聴覚士である。話を聞くと,今度,初めて聴覚障害を持つ子どもの担当となったとのこと。彼女は「どうしたらいいですか? 何からはじめて何をしていけばいいか,まったくわからないんです。」「補聴器をつけてるんですが,何をしなければいけないんですか?」「参考になる本はないですか?」など,これから挑むことになる聴覚障害の臨床への不安を訴えていた。

 実際に,このような相談は卒業生からよく受ける。「子どもの聴覚障害」は,聴覚を含めた発達全体に関する知識と,長期的視点に立ったアプローチ,関連職種との密な連携が必要となる。そのためか,初めて難聴児と関わることとなった場合,何から手をつけて具体的にどうするのか,臨床経験の少ない言語聴覚士は,どうしても身構えて,混乱してしまう。またある程度,臨床経験があっても,家族や学校など周囲への介入の方法,補聴器装用や装用中止のタイミングの見極めなど,どのように実施すればよいのかわからず,悩みは尽きない。

 過去に聴覚障害を取り上げた書籍は,数多く出版されている。評価や訓練,補聴機器,家族支援など様々な内容が細かく説明してあるが,目の前の症例の,どの時期に何をどのように導入し実施すればよいのか,それらの繋がりが見え難く困惑する。

臨床に密着したガイダンスに納得

 本書は立石恒雄先生,木場由紀子先生をはじめ,長年,聴覚障害を持つ子どもたちと関わっているベテラン言語聴覚士による症例集となっている。子どもの発達に沿って,どのようなことを考え配慮し実践するか,実施内容の経過という縦の流れと,各内容の横の繋がりが非常にわかりやすい。本書は,子どもの聴覚障害への指導の実践が見える書といえる。

 第1章では乳幼児に聴力検査や補聴器を装用させる場合のアドバイスや問題点が,9例の経過を通して丁寧に説明されている。第2章では,小児の聴能言語指導について,10例の指導経過がまとめられ,難聴幼児を指導していく上での工夫や注意点が書かれている。第3章では,4例が紹介されており,人工内耳のマッピングの流れがわかりやすく書かれている。これらの内容は具体的で理解しやすく,「聴覚障害の臨床に戸惑う実務経験の少ない言語聴覚士」にとって,待ちに待った本である。

 この書の特徴は,紹介されている各々の症例に,症例検討と,臨床における考え方やポイント,留意点や応用などが書かれていることである。読み手は,臨床家としての着眼点や考え方に,「そうか!」と思い,また著者たちの経験からのアドバイスや留意点に,「なるほど」と感じるだろう。これらの臨床に密着したガイダンスは,他の本には決して載っていない,この本だけの魅力である。

 現在,本書に記述されている症例と似たようなケースを経験し,悩んでいる言語聴覚士は少なくない。この本はその場合の考え方や進め方について,何らかのヒントを与えてくれる。時に,著者たちが困難な症例に遭遇し,悩まれた様子も伺え,「先輩言語聴覚士も迷っておられたんだ」と共感し,あらたに臨床に取り組む意欲となろう。また,読み手が言語聴覚士をめざす学生の場合,この本を通して,子どもの聴覚障害の臨床の流れや,それに対する先輩言語聴覚士の熱意を感じ,一層,臨床への興味がわくことと思う。

 自己の臨床をまとめ公表することは,なかなかできることではない。著者たちが,われわれ後輩のために臨床のすべてをさらけだし,それを伝えてくださる思いやりと愛情に深く感謝する。

 早速,冒頭の彼女に,この本を紹介しようと思う。

A5・頁256 定価3,675円(税5%込)医学書院


医学研究は疫学的手法をもとになされている

医学的研究のデザイン 第2版
研究の質を高める疫学的アプローチ
Designing Clinical Research: An Epidemiologic Approach, 2nd Edition
木原雅子,木原正博 訳

《書 評》吉村健清(福岡県保健環境研究所)

研究・教育の経験を生かしてわかりやすく

 本書は,1988年に出版された原著「Designing Clinical Research -An Epidemiologic Approach」(訳書は1997年出版)が改訂され2001年に第2版として出版されたものの訳書である。

 原書はカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の疫学の専門家たちによって「Research Method Workshop」の教科書として執筆されたものである。これまで医学研究の実践書として広く読まれてきたが,その後の著者らの医学研究の経験や,毎年100人を超える前述ワークショップ参加者に対する教育経験に基づいて,旧版がよりわかりやすいように改訂されている。

研究方法にも言及した実践書

 本書の第I部には,研究テーマ設定の方法,対象者の選定,データを得る方法(測定)にかかわるバイアス,サンプルサイズの意味と重要性がわかりやすく書かれている。第II部は,従来の教科書に述べられている疫学の基本的手法が述べられ,さらに臨床研究,系統的レビュー,メタアナリシスと最近疫学で論じられている手法について書かれている。この項は類書と大きな違いは見られないが,第I部と第II部を,織物の縦糸と横糸の関係として読むと理解が深まる。

 本書が実践書として優れている点は,第III部であろう。この第III部では,現在医学研究で大きな論点となっている倫理の問題,実際の質問票のデザイン,データ処理の実際,調査費用,研究申請書の作成方法が述べられている。このような医学研究の実践上の課題についてのテキストはあるが,研究方法と同時に述べられたものは少ない。また,コミュニティ研究と国際共同研究の項は目新しい。

 ただ,疫学関連のテキストで問題になる訳語については苦労のあとが見られるが,新しい訳語は疫学初心者にとってはやはり理解しにくいと思われる。幸い,原語が付してあるので,その原語をもとに原著や他のテキストを参考にすれば理解できるであろう。

 このように訳書としてやむを得ない問題はあるにせよ,本書の医学研究の実践書としてのすばらしさは変わりない。本書により医学研究が疫学的手法をもとにしていることが理解されれば幸いである。

B5・頁348 定価4,935円(税5%込)MEDSi