第2588号 2004年6月14日


連載

ディジーズ・マネジメントとは何か?

ディジーズ・マネジメントの事例(2)
第5回 多様な環境における適用(前編)

Application of Disease Management in Variety of Settings Worldwide.

Gregg L. Mayer President, Gregg L. Mayer & Company, Inc.
坂巻弘之 医療経済研究機構研究部長


2583号よりつづく

はじめに

 ディジーズ・マネジメント(以下,DM)は,主に慢性疾患患者の治療を改善するプロセスであり,患者が最新のエビデンスに従って治療を受け,ライフスタイル改善の援助が中核となる。すなわち,エビデンスに基づく医療(EBM)の実践手段ともいえる。

 慢性疾患にかかわるコストの大半は合併症の治療費であり,適切な治療やライフスタイル修正により合併症罹患を予防することで,ヘルスケア・システムに支払う費用を回避することができる。

 DMは,歴史的に病院や研究的な医療センターで開発・実施されてきた。最近では,情報技術や遠隔医療技術の利用により集約的なDMセンターの設立も可能となり,営利企業もDMサービスに参画している。これらの企業は生き残るために,DMサービスの提供コストよりも医療費節約額のほうが大きいことを示そうとしている。

 本稿では,2回に分けて米国におけるDM実施状況を具体的なケースに基づき解説していく。

DMプロセス

 第3回でDMのプロセスについて解説しているが,まず,母集団の中からDMの対象となる候補者を明らかにしなければならない。このプロセスでは,医師や診療所からの保険請求(insurance claims)や紹介状を再検討することによって達成することができる。

 次のステップは,母集団について健康リスク評価を行ってそれらの情報を収集・分析し,DMを行おうとする対象疾患に関して高リスク・グループから低リスク・グループまで階層ごとに分けることである。高リスク・グループは,近い将来に医療費がかかる確率がより高いことを意味する。具体的な患者への介入方法は,各患者の健康リスク状態に応じて決まるが,すべての患者に対して介入するプログラムもある。患者だけでなく,医療サービス提供者も,最新のEBMに関する知識の適用のために教育・支援の対象になる場合もある。

 最後のステップは効果測定であり,効果を測定してベースラインや対照グループと比較することで質の高いDMプログラムとなる。測定においては,一般的に,プロセスとアウトカムの両面からの評価がなされる。すなわち,EBMと比較することでのプロセス・処置の遵守状況,臨床的アウトカム(検査値や健康状態の変化など),経済的アウトカム(総コストや利用率など),QOL(SF-12やSF-36など)や患者・医療サービス提供者の満足度などが用いられる。多くの場合,第三者に委託し,サービス提供者から独立して効果を測定または確認する。多くのプログラムは,効果測定のたびに母集団の状況を継続的に再評価し,患者が最も適切な治療を受けていることを確認している。

 完全サービスまたは包括的DMプログラム(full-serviceまたはcomprehensive DM program)は,一貫したサービスとして通常これらの構成要素をすべて提供する。しかし,このプロセスの一部だけの実施を専門とする企業やサービス提供者も少なくない。

だれがDMを提供しているか

 図は米国のヘルスケア・システムの主要な利害関係者・参加者を示している。この図に示される利害関係者のそれぞれが,何らかの方法でDMに関与している。DM会社はビジネスとして支払者(雇用者など)にDMサービスを提供している。独自のDMプログラムを運営する支払者や雇用者も多く,それらで独自に確立されたプログラムもある。また,多数の販売会社から提供されたDMツールを組み合わせたプログラムもある。

 研究機関,装置会社,製薬会社をはじめとするヘルスケア産業は,一般的に,完全サービスのDMプログラムではなく各種の重要なDMツールを提供している。

DMプログラムの4つの事例

 ピアレビュー誌には多くのDMに関する論文が発表され,主として病院や研究医療センターでのDMプログラムの事例が報告されている。ここでは4つの事例について検討を加え,さまざまな環境の中で,多様な医療サービス提供者が提供するDMの実施状況を示す。病気や国,環境,医療サービス提供者,戦略に違いはあるものの,どのプログラムも上述のプロセスから派生している。各プログラムを対比させて比較し,それぞれのプログラムが上記の中核的プロセスの各段階をどのように達成したかについて考えることが重要である。また,各プログラムに関与する利害関係者全員を明らかにするのも有用と思われる。

 今回検討する事例は(1)職場の喘息プログラム,(2)高齢者向けケア付き施設のうつ病プログラム,(3)地域薬局での冠血管疾患プログラム,(4)看護師電話コールセンターを利用したHMOでの糖尿病プログラムの4つであるが,紙幅の関係で,今回は最初の1事例を,次回残り3事例を取り上げることにする。

職場の喘息DMプログラム1)

 米国では,1000万人を超える患者が喘息に罹患しており,学校や職場での生産性を大幅に低下させている。ある推定によれば,1997年の喘息関連コストは150億ドルに上り,118億ドルが医療費,33億ドルが間接費だった。しかしながら,喘息は適切な薬物療法,在宅ケア,セルフケア計画によって管理可能な病気であり,医療費のほぼ半分を占める入院費の大部分は治療の改善によって回避できる可能性がある。多くの喘息DMプログラムで,患者の知識,セルフケア計画の利用,EBMの遵守状況(最新薬物療法の利用など)に大きな改善が見られ,結果的に患者の健康が増進し,入院件数も減少したとしている。本事例は,イリノイ州シカゴを拠点とするアメリカ第4位の銀行,バンク・ワン(Bank One)で実施された職場DMプログラムである。

 雇用者がDMに関心を持つ理由は,常習欠勤(absenteeism)とプレゼンティズム(presenteeism病気の従業員が出勤することによる生産性低下)を減らすことによって,医療費を削減すると同時に生産性を高められる可能性があるためである。バンク・ワンの医療部は,まず保険・障害者請求を含む医療データ・ウェアハウスを利用して,喘息関連の診断を受けた従業員を特定した。喘息であることが確認された従業員を含むシカゴで働く1万2000人の従業員全員に,このプログラムへの参加を勧める文書を送った。合計76人の従業員がプログラムに参加した。

 このプログラムはファーストエア喘息教育プログラムThe FirstAir Asthma Education Programと呼ばれ,昼休みに実施される毎週1時間のセッション5回で構成される。これらのセッションは喘息専門臨床看護師が実施する。参加者は毎回無料でランチを食べながら,喘息専門誌の定期購読権を与えられ,教本・資料などが詰まった健康バッグ(tote bag)や,喘息患者に役立つ各種の物品が支給される。さらに,アンケートに答えた参加者全員に25ドルのギフト券が進呈される。

すべての測定分野で見られた改善
 参加患者は,プログラムの最初にコンピュータ化された健康リスク評価を受け,血圧やコレステロール,BMIの測定や各種の行動面の情報などが記録されるとともに,メルク社が開発・販売するDM測定ツールを利用して,プログラムの効果が評価された。これは,喘息治療評価アンケート(The Asthma Therapy Assessment Questionnaire:ATAQ)とよばれ,各人の自己報告による喘息症状の重症度,薬物療法の遵守状況,喘息に関する知識,医療サービス提供者とのコミュニケーションを妨げる障害などが評価されるものである。

 参加者全員が,プログラム開始前,プログラム終了時(2か月目),プログラム終了後4か月目と12か月目にATAQに記入し,記入内容はミシガン大学健康管理研究センターによって分析される。結果は参加者に通知され,自己管理を改善するためのアドバイスが行われ,結果やアドバイス内容を主治医に見せるよう勧告される。

 プログラム導入の結果,喘息管理や医療提供者とのコミュニケーション,知識,自己管理など,すべての測定分野で改善が見られた。推奨される薬物療法を使用するものの割合は,ベースラインの59%から12か月後には76%に増加した。参加者の90%がプログラムを「非常に優れている」または「優れている」と評価した。

 このプログラムは,低コストで従業員のセルフケアを改善するうえで効果を発揮した。また,このプログラムは教育と支援を提供するものであるが,直接的な医療的ケアは提供せず,直接的ケアは各参加者の主治医に委任されている。このプログラムは明らかに患者と医療サービス提供者とのコミュニケーション改善に成功しており,プログラムにかかったコストは従業員の健康と生産性の増大の価値によって見合うものであると推測されている。

(参考文献)
1)Burton, WN. et al: Asthma Disease Management: A Worksite-Based Asthma Education Program. Disease Management 4: 3-14, 2001.


Gregg L. Mayer氏
1981年カリフォルニア大バークレー校卒。87年同大にてPh. D取得(Physiology)。90-94年慶大・同大学院,国立小児病院研究所研究生。マッキンゼー,カイザー・パーマネンテ他の勤務を経て,95年ヘルスケア経営コンサルタントを起業し,現在に至る。