身体で覚える
糖尿病療養援助技術 〔第2回〕自己管理の「基本のキ」 |
吉田百合子
富山医薬大附属病院地域医療連携室・看護師
(前回よりつづく)
糖尿病の療養指導の最終的な目標は,患者が自分の生活の中に糖尿病とその療養生活を組み入れ,自己管理の継続に至ることです。そこで押さえておきたいのは,自己管理を続けていくためには,いくつかのポイントがあるということです。
今回は,患者が自己管理を確立し,またそれをナースが援助していくためのポイントを解説しました。また各ポイントごとに,筆者が行っている研修会でのプログラム項目を記しました。各プログラムの具体的な内容については,次回以降に紹介します。
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患者は自分にとって好ましいことを行う
患者(=人)は,毎日の人生を楽しく生きたいと考えています。そのため,人は自分の行動を変える時の要件として,「そのように変えることが自分にとって好ましいか,自分は心地よい気分になるか」という判断基準を持ちます。糖尿病療養指導においては,患者の行動変化を期待するわけですから,心地よさを提供する必要があると考えることができるでしょう。
・糖尿病を肯定的に表現し,心地よく感じてもらう。→2)「肯定的な文章に直す」
・自己管理のよい点を拾う。→3)「よい点を拾う」
・糖尿病の説明において,患者が糖尿病を好きになるような,自己管理を行ってみようかと気持の動くような心地よい説明。→4)「患者向けQ&A」
・自己管理行動を選ぶ時,利点が確認できて,希望をもって選べるための援助。→5)「利益の確認」
・自ら判断し選んだ自己管理行動に対して,距離を置いてエールを送る。6)→「私メッセージ」
人は変化する存在である
糖尿病の療養内容は,それまでの生活習慣を変化させることです。しかし,一方で人は生まれてから今日まで,常に変化してきている存在であり,変化そのものが生活であるともいえます。そこで糖尿病もそれまでの変化(小学校入学,就職,結婚など)と同じく,人生における1つの変化因子だととらえられるように支援することが,ナースの役割と考えられます。
ただ,生活とは,無意識でも本人が「こうしたらいいのではないか」と選択し,作り上げてきたものであり,一見妙なライフスタイルにみえても,そこにはその人にとっての「これでいいのだ」という価値の塊,信念が貫いているものです。それゆえここでは,人は,他人がそれに干渉しようとすると必死に守ろうとすること,その必要性があることを十分に理解することが重要となります。
・患者の現在の姿として,今のライフスタイルがある。現代のような多様化の社会では,さまざまなライフスタイルがあるが,意識しないと,看護師も患者も,自分の周辺のライフスタイルしか目に入らないものである。そこでまず,ひたすら聞いて知ることが必要である。一方,患者は話すことによって現在のライフスタイルに検証を加え,よりよい自己管理行動を作るきっかけとすることができる。→9)「ライフスタイルを聞く」
過去を位置付け,未来に目を向ける
糖尿病において食事と運動は重要な治療要素ですが,この2つは本来,生活の柱であり,また,生の根源ともいうべきものであるため,その人の深い思いが込められているものです。そこで,ここには十分な尊重が必要であり,それを整えることや,変化にかかわっていくことは,慎重に行うべきだといえます。
・ナラティヴとは物語という意味である。人は自分の人生の出来事に対して,うまく対応し,時には自分自身が変化しながら生きている。しかし要因が大き過ぎると,1人では対応できず専門家など他人の力を借りることがある。
そこで患者は援助者に助けられながら過去を語り,そこから現在に至る過程を一連の流れの中にのせて,未来への道を見出す。語ることによって,現在から未来への道を見出すこと,これがナラティヴである。そこで,大きな行動変化が求められる糖尿病の患者においては,このナラティヴが効を奏するのではないかと考えられる。→10)「食事ナラティヴ」,11)「運動ナラティヴ」
・人は目標があると,我慢もでき意欲も沸いてくるものである。目標は人生の節目や苦悩があり,それから脱出したいと願う時に設定されるものであり,日常が問題なく過ぎていれば意識することはない。
患者にはよいコントロールに向けて自己管理をがんばってほしいものであるが,糖尿病では自覚症状に乏しいことも多く,自己管理の開始や持続は難しい。そこで糖尿病の自己管理を意識して生きていくために,また意識できるように目標を作ることを試みる。そこでは本人の生活上の価値などに注目し,合言葉になるようなインパクトのある目標づくりをめざす。→12)「目標の確認」
患者の心と行動を知り,支える
ナースが患者を支えるためには,患者の考え,行動を知る必要があります。患者がどのように感じ,どのような思いでいるのか,またいま自己管理のどの部分に注目しているかを知り,タイミングの合った後押しが行えればよいと考えられます。
・人を知る方法の1つとしてカウンセリング理論を使う。カウンセリングでは,患者に話をしてもらうことにより,悩みや思いを理解することができ,一方患者自身も話すことにより心が整理されてくる。
ただ,人のこころは複雑であり,本人でさえ自分の思いがわからないことが往々にしてある,ましてや他人である医療者には本当のところはわかりえない。カウンセリング技法は他人のこころを知る方法として有効であるが,使いこなすには相当の訓練が必要であり,使い方を誤ると心に傷を負わせる危険性もある。そこで,私たちナースは基本の技法だけに限って使うほうが無難と考える。ここではうなずき,繰り返し,感情の反映で患者自らが自分の思い,心の動きを知る手助けを学習する。→7)「カウンセリング」
自己管理項目を知り,援助方法を知る
患者の自己管理にはいくつかの柱があり,その1つひとつの柱には多くの具体的な項目があります。さらに,それぞれの項目を実施していくには,それぞれの段階があり,患者はそのいずれかに焦点を合わせながら,療養に取り組んでいます。ナースの支援は,そうした患者個々の「今」に注目し,取り組んでいる自己管理にいかにタイミングを合わせて援助していけるかが重要であり,そのことがかかわりの効果を左右します。ナースは前もって,多くの自己管理項目を確認しておき,患者がその管理行動に集中し,先に進めるように,支援を準備しておく必要があります。→8)自己管理行動の確認
また,患者が自己管理行動をどのように体験しているのかを知ることは,援助者にとって大きな力になります。→13)自己管理を体験学習
【研修案内】
LCDE(地域糖尿病療養指導士)富山による研修「身体で覚える療養援助技術(富山版)」を下記日程において開催いたします。(日本糖尿病療養指導士認定更新のための研修単位申請中) ◆第4回
◆第5回
◆講師:吉田百合子(富山医薬大病院) ◆定員:100名 ◆参加費:10,000円 ◆申込締切:第4回(5月31日),第5回(8月15日) ◆おことわり
◆問合せ・申込み先
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[著者略歴]
国立山中病院附属看護学校卒業後,国立がんセンター勤務を経て現職。佛教大,富山医薬大学院に社会人入学し,社会学,看護学を学ぶ。「現場の“技”を言葉にして,それをもう一度現場に還元するのが私の仕事」と語り,日々後進の指導に取り組む。 |