第2583号 2004年5月10日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


「MRIで何がわかり,何がわからないのか」がわかる本

乳癌MRI診断アトラス
中村清吾 編集

《書 評》芳賀駿介(東女医大教授・第二病院検査科)

MRI画像が色付けされた写実的なものに

 わが国の乳腺疾患におけるMRIの先駆者であり,第一人者である中村清吾先生編集の『乳癌MRI診断アトラス』を読ませていただいた。まず,最初にMRIの原理が正常な乳房組織と正常から逸脱したときにみられる組織を用いて平易に説明されており,乳腺疾患専門のMRIアトラスとしての興味をそそられる。そうした乳房におけるMRIの基礎知識を理解させた後,多種多様な疾患を用いて乳癌診断の代表的なモダリティである超音波,乳腺X線画像,そして最終診断である病理組織像と対比することで,MRI画像が何を表現しているか具体的にわかりやすく説明している。繰り返し読んでいると,病理組織像からMRI画像が頭に浮かぶようになり,これまでモノクロでしかもメカニックなものと思っていたMRI画像を色付けされた写実的なものとしてとらえていることに驚かされる稀有な学術書である。

MRIのさらなる発展を期待させる

 さらに,三次元MRIについて,これまで体表にありながら知る術の少なかった乳癌の進展範囲に対する診断にもっとも有用なモダリティとして解説がなされ,術前化学療法などに対する乳癌治療のさらなる広がりも実感させられる。読み終わって,もっとも心に残ったことは,MRIで何がわかり,また何がわからないのかという点を臨床医の立場から真摯に取り組んでいる中村清吾先生および聖路加国際病院を中心とした執筆者の姿勢である。本書はMRIのさらなる発展を期待させる内容となっている。

 MRIを乳腺診療における1つのモダリティとして確立した編者によるこの本は,すでに乳癌の診断,治療に携わっているものだけではなく,これから学ぼうとしている若い医師にとっても欠かすことのできない1冊である。
B5・頁144 定価(本体9,500円+税)医学書院


最も日常的な不整脈である心房細動を,あらゆる角度から解説

心房細動の治療と管理
井上 博,新 博次 著

《書 評》杉本恒明(関東中央病院名誉院長)

悩まされることの多い疾患

 心房細動は日常の診療で最もありふれて,また,頭を悩ますことの多い疾患である。本書によれば,60歳代で0.5%,80歳代で2.5%にみられるというが,これは健康人を含めての一般人の中での頻度である。悩むというのは,心房細動を診た時の検査の手順,細動発作の停止のさせ方,再発防止のための薬の選択,アブレーション治療の適応,主要な合併症である塞栓症の予防,さらにはQOLに対する洞調律維持と心拍数コントロールとの効果の違い,といった事柄である。本書はこうした疑問を6章にまとめ,47項目のQ&Aとこれに付随する解説という形で解答を与えている。

エビデンスに基づいた説得力ある診療の解説

 印象に残ったことをいくつか書いておきたい。その1は心房細動発作の扱いである。発作後「24時間以内の場合は心拍数コントロールのみで自然に洞調律化する」ことが多い,とあってわが意を得た。ベータ遮断薬を頓用してお休み願うというのが評者のポリシーであるが,その根拠は経験的なものでしかなかったからである。実は以前にはジギタリスを頓用させたのであるが,昨今,ジギタリスは有効というよりも無効あるいは悪化とされることが多い。もっとも,ここで紹介されているエビデンスはジギタリス使用例も含んでいる。

 その2もジギタリスにかかわる。「再発時の心拍数抑制を期待して漫然とジギタリスを使用するのは慎みたい」とある。前述の反省にもかかわらず,ジギタリスを愛好する評者には安易にこれを用いる傾向がある。エビデンスではジギタリスは心房細動発生時の心拍数を抑制しなかった。その昔,心房細動例に運動負荷した時の心拍数増加がベータ遮断薬では抑制されたが,ジギタリスでは抑制されなかったことを思い出した。

 その3は心房筋リモデリング現象の記述についての感想である。心房細動が厄介なのは,著しい頻脈が頻脈誘発性心筋症をもたらすためということがある。心房と心室の違いがあるとしても,共通した機転はないのであろうかと思うのである。血栓形成にしても心房内膜面のリモデリング性変化が関与するともいわれている。

 その4は塞栓症予防に関することである。エビデンスによれば,75歳以上にはワーファリンが望ましい。しかしながら,高齢者ではワーファリン管理の理解が乏しく,説明に難儀することがあり,また,脳塞栓ならぬ脳血栓の併発も少なくない。エビデンスにかかわらず,評者には,若い世代ではワーファリンを,高齢世代では抗血小板薬を用いているという現状がある。

 こうしたエビデンスを伴わない評者のささやかな抵抗は,そのうち消滅するであろう。そのような思いをもって拝読した次第であった。それほどに極めて説得力のある著書である。編書ではなく,おふたりの共著である。随所に拝見するおふたりの深い学識と経験には改めて深い敬意を感じた。書中に51項のサイドメモがある。通読するだけでもおもしろい。ワーファリンの名の由来も評者はここで初めて知った。

 最も日常的な不整脈である心房細動のすべてを,あらゆる角度から解説する書物である。また,この分野の代表的な専門家としてのおふたりがその学識と経験を傾注して記述された貴重な書物でもある。専門医に限らず,一般臨床医家にとっても日々の診療にたいへんに役立つ書物であり,ここに広く推奨したいと考える。
B5・頁240 定価(本体5,000円+税)医学書院


初期研修に臨む研修医に小児医療の何たるかを伝える

一目でわかる小児科学
Paediatrics at a Glance
五十嵐隆 監訳

《書 評》横田俊平(横市大教授・発生成育小児医療学)

コンパクトな「小児科学入門書」

 いよいよ新しい初期研修制度がはじまった。私たち小児科専門医には,これまでの研修医指導とはまったく異なる対処が求められている。すなわち,“小児科医をめざさない研修医”の存在である。しかもこれが95%に達するのだが,この研修医に小児医療の何たるかを,しかもわずか2-3か月のうちに効率よく研修してもらわなければならないのだ。この事態に,研修指導医の間でたいへんな戸惑いが見られるのは,当然といえば当然である。しかし考えてみれば,小児科医を志す研修医にとっても初期研修のうちにコンパクトに小児医療の概略を飲み込む機会があればそれに越したことはないはずだ。

 本書は,この意味で新研修制度の初期研修医にとって必要かつ十分な配慮のなされた「小児科学入門書」といえる。

 イギリスで成立した本書はコンパクトにまとめられているとはいえ,子どもの健康と病気にまつわる諸々の事柄を微細なところまで網羅していることは驚き以外のなにものでもない。

 子どもの年齢,話の理解度により,こちらの診察法を変幻自在さまざまに変えて対応するのが小児科の特徴といえるが,診察の一歩である医療面接の項も系統的診察の項もこの特徴が実に要領よくまとめられている。また,子どもの病気は発育の一断面にすぎないというコンセプトが本書を貫く縦糸になっており,子どもの年齢ごとに栄養の問題,育児の考え方,保健行政や予防接種などの地域サービスの要点が加えられていることは,成人医療とは異なる小児医療の社会性の主張であり,研修医のみならずわが国のどの医療者も学ばなければならない点であろう。

すべての研修医の座右の書に

 著者たちは,「医学教育が情報過多に陥っており,本書では個々の疾患について述べるのではなく,研修を受ける医師がぜひとも身につけるべき核となる知識を網羅した」と述べている。子どもによく見る症候から何を考えるか,すなわち小児医療のもう1つの特徴である「トリアージ能力」への配慮も十分に行き届いている。

 “Tomorrow's Doctors”構想を樹立し,臨床教育の大改革に取り組んだ最近のイギリス医療界の面目躍如といったところであろう。翻訳も訳者の思い入れが感じられるほどに吟味されており,かくて本書は初期研修を有意義なものにしようとするすべての研修医の座右の書となる。本書を強く推す。
A4変・頁152 定価(本体3,200円+税)MEDSi


がん患者への心理・社会的介入の実践・研究が示される

がん患者と家族のためのサポートグループ
デイヴィッド・スピーゲル,キャサリン・クラッセン 著
朝倉隆司,田中祥子 監訳

《書 評》野島一彦(九大教授・心理臨床学)

 本書は,米国におけるがん患者と家族のための心理・社会的介入を行なっている著者らの20年余にわたる〈支持・感情表出型グループ療法〉の体験を中心に,他のグループ実践・研究も数多く引用しながら,グループの有効性,グループ運営などについて,わかりやすく述べたものである。

 がん患者に対する生物医学的介入をめぐる実践・研究はおびただしく行なわれているのに対し,心理・社会的介入のそれは量的・質的に遅れているが,本書を読むと,この方面の現時点での概況がわかるとともに,グループの潜在力の大きさをひしひしと感じることができる。

治すことよりも十分に生きること

 著者らの〈支持・感情表出型グループ療法〉は,グループによる支持(サポート)の構築と,グループにおける感情表出の促進を特徴とするサポートグループである。これに参加した転移性乳がん患者86名の無作為化比較試験では,10年間の追跡調査の結果,平均18か月間,統計的に有意に長く生存した。さらに研究を開始して48か月後に対照群の患者は全員死亡したのに対し,グループ参加者群の3分の1は生存していた。しかし著者らは,このグループが人々の生命を引き延ばすか否かにかかわらず,患者のQOLをよりよくするということを強調する。そしてこのグループは,「治すことよりもケア,つまり深刻な病気を避けたりおさえるのではなく,十分に生きることに焦点をおいている。」と述べている。

 本書の特色の1つは,著者ら自身のリサーチ・データの提示,他研究者のリサーチ文献の丁寧なレビューをもとに,つまりエビデンスに基づいて効果を論じている点にあり,非常に説得力がある。

 もう1つの特色は,このようなグループをやってみたいと思う医療,看護,心理,ソーシャルワーク,その他の関連分野に従事する医療専門家に役に立つように,懇切丁寧に,痒いところに手が届くような形で書かれている点である。そして,随所に実際のグループのエピソードがちりばめられており,とても理解しやすい。

 このグループは,がん患者以外にも,HIV感染患者,多発性硬化症患者,エリテマトーデス(自己免疫性疾患)患者にも応用が行なわれていることが紹介されており,適用範囲はさらに広まっていきそうである。

 わが国におけるがん患者に対する心理・社会的介入の実践・研究はかなり立ち後れているだけに,本書が出版されたことは本当にタイムリーである。本書に刺激されて,がん患者と家族のためのサポートグループの実践・研究が盛んになることを心から願いたい。
A5・頁344 定価(本体3,400円+税)医学書院


PCI施行医待望の1冊

Drug-Eluting Stent
山口 徹,田村 勤 編集
阿古潤哉,上妻 謙,田辺健吾,森野禎浩 編集協力

《書 評》木村 剛(京大助教授・循環器内科)

DESがいよいよ日本でも使用可能に

 Drug-Eluting Stent(DES)がいよいよ日本でも使用可能となりそうである。DESは細胞周期を抑制する薬剤を病変局所でコントロールレリースすることによって,全身性の副作用なしに細胞増殖を抑制しカテーテルインターベンション(PCI)後の再狭窄を激減させる。最近のACC 04では,First-in-man(FIM)試験における4年後の成績も報告され,安全性および有効性の持続が確認された。今後,安全性についての懸念さえ生じなければ,DESがPCIの主流になることは間違いないと思われる。

 DESは冠動脈疾患患者の治療法選択に大きなインパクトをもたらすはずである。多くの患者さんが再狭窄による再PCIの繰り返しの負担から解放されるであろう。またPCIは約束された結果をもたらす標準化された治療へと向かい,重症例における長期的成績でもバイパス手術(CABG)を凌駕する可能性が高いと考えられる。われわれ,インターベンション施行医にとっては,ワクワクするような時代の到来である。

DESの基礎から臨床まで

 このような時,まことにタイムリーに山口徹先生,田村勤先生の編集で「Drug-Eluting Stent」が発刊された。再狭窄の現状,メカニズム,病理からDESの基礎,初期成績,長期成績,さらには長期展望までを広くカバーしており,きわめて読みごたえのある内容となっている。

 本書の執筆陣には欧米の研究室やコアラボでDESの開発や評価に直接かかわってきた多くの若手研究者が名を連ねている。われわれ,日本のインターベンション施行医にとって,DESの成績発表は海外での成績をただただ受け入れるのみで,正直なところ,そろそろ退屈な感も免れなくなってきていたが,本書では内膜増殖のないステントの病理標本や血管造影像,血管内超音波像などを直に見た若手研究者の感動と興奮,さらには将来への期待がひしひしと伝わってくる。そしてDESの導入の遅れから,欧米のみならずアジア諸国からも大きく遅れをとった日本の現状をどのようにして挽回していくべきかも明確にされている。

 左主幹部疾患,3枝疾患,慢性完全閉塞,高度石灰化病変,び漫性病変,分岐部病変や急性心筋梗塞などの複雑病変に対するPCIにおける日本のインターベンション施行医の技術的優位性は依然として健在である。患者への低侵襲治療の提供を願って,複雑病変にチャレンジする日本のインターベンション施行医にとって,DESは非常に大きな武器となる。われわれに求められていることはこのような複雑な病変背景を持つ患者に対するPCIの長期成績を明らかにし,その地位を確立することである。

 今後DESを使用するにあたって,ベアーメタルステントの場合とは異なる手技が必要となると思われる。DESについての基礎から臨床までの理解を深めるために本書は最適であり,PCIの現場にかかわる多くのインターベンション施行医やコメディカルスタッフに一読を薦めたい。
B5・頁184 定価(本体7,000円+税)医学書院


整形外科領域のエンサイクロペディア

今日の整形外科治療指針
第5版
二ノ宮節夫,他 編

《書 評》守屋秀繁(千葉大教授・整形外科学)

診察机に1冊置きたい

 加齢とともに物忘れをするようになってきました。特に固有名詞を度忘れしてしまうことがしばしばあります。外来で,私の後ろに学生がいる,研修医がいる,という状態でいざ教えようと思った時に固有名詞が出てこなくて,まことに恥ずかしい思いをすることがあります。先日はHeberden結節のHeberdenが出てきませんでした。

 本書は1987年に「整形外科領域のエンサイクロペディア」をめざして発行され,以後順調に改訂を続け,第4版が出てから4年で今回,第5版として上梓されました。今回も随所に編者の斬新な考えが取り入れられており,そのカバーする領域はただ単に整形外科領域に止まらずにますます拡大し,今回からは「整形外科医と介護・福祉」の章にまで及んでいます。まさに当初の目的であったエンサイクロペディアそのものです。私のように物忘れの激しくなった者には,外来の診察机の上に置いておけば恥をかかずにすむ,たいへん便利な1冊です。内容的には,この1冊でほとんどの整形外科疾患の治療方針の概要を知ることができますので非常に有用なのですが,手術の具体的なことまでは入れられないということは致し方ないことかもしれません。

研究・診療に直接携わる若手執筆者も

 本書の具体的な内容としては,付録を入れて30章よりなり,まず第1章では,トピックスとして現在,話題を呼んでいる三次元CT,MRIの最新の知識,クリティカルパス,デイサージャリー,ロボット手術,遺伝子治療などの記載があり,以後,第2章は外傷一般について述べてあり,第3章ではスポーツ傷害,第4章で感染性疾患,第5章で関節リウマチ,慢性関節疾患および骨壊死症,第6章で骨・軟部腫瘍および腫瘍類似疾患,第7章で骨系統疾患,代謝性骨疾患,第8章で筋・神経疾患,第9章で末梢循環障害,壊死性疾患,第10章でリハビリテーション,第11章で整形外科と介護・福祉,第12章以降,第29章まで部位別の疾患について最新の知見が述べられていて,その後に付録として治療成績判定基準,関節可動域表示ならびに測定法などが記されています。

 執筆者は必ずしもその分野の第一人者と言われている方々だけではなく,実際にその分野の研究・診療に携わっている若手の方も含まれており,その記述はたいへん興味深いものがあります。特に「患者説明のポイント」や「看護ケアとリハビリ上の注意」は現代にマッチした素晴らしい項目立てと感じました。また,今回から「私のノートから/My Suggestion」というコーナーが設けられ,われわれの大先輩の示唆に富む教訓が述べられており,たいへん勉強になりました。研修医のみならず整形外科診療に従事するすべての医師の診療机の上に置いていただきたい書として推薦する次第です。
B5・頁944 定価(本体18,000円+税)医学書院