第2582号 2004年4月26日


身体で覚える
糖尿病療養援助技術

〔第1回〕

慢性疾患ケアとは「患者の主観」へのかかわりである



吉田百合子
(富山医大附属病院地域医療連携室・看護師)


糖尿病患者にいかにかかわるか

 糖尿病患者は年々増え続けています。そんな中,患者の療養援助を業務とするナースに期待がかかり,全国で教育が行なわれています。糖尿病,ひいては慢性疾患患者の援助には,どのような専門性が必要で,それを養成するにはどのような教育方法がよいのか。この連載では富山県で筆者が行なっている療養援助技術の教育方法を紹介しながら,その具体的な方法について考えたいと思います。

主観で生きる患者にかかわる仕事

 糖尿病療養指導士制度ができ,糖尿病の認定看護師の養成がはじまって数年がたちます。では,糖尿病の専門性を得たナースは何を行なうのでしょうか。医師のように,患者に病気や自己管理の説明をするのでしょうか。あるいは看護理論を構築するのでしょうか。私はいずれも,「違う」と感じています。なぜなら,私たちは臨床のナースだからです。
 臨床とは,患者のいる場所です。では患者とは何でしょうか。
 患者=人はみな,主観で生きています。ですから,物事が正しいからといって無条件に自分の中に取り入れるとは限らず,それを取り入れるか否かは,どう感じたか,という個人的な感覚にかかっています。
 また,人は日々生きており,その生き方は人さまざまで,真っすぐ向かう人,回り道する人,1つのことに進む人,多くの課題を同時に進める人,さまざまです。そしてさまざまな人が,それぞれに楽しく幸せそうな様子を見ると,人の生き方はさまざまでいいのだと確信できます。
 こう考えると,糖尿病や,その他の病気も,そうしたさまざまな生き方の1つの要素であることがわかります。病気はその人が生きる過程であり,時には人として成長する契機となります。そして,この過程においては,すべてが正解といえるでしょう。なぜなら,(病気を持っていた)過去がなければ現在はなく,また(病気を持っている)現在が未来を作っていくからです。これが,臨床で出会う患者という存在です。
 では看護とは何でしょうか。私は,看護とは患者へのかかわりであると考えています。そしてそのかかわりは,直接的なかかわりです。患者の目を見て,手に触れて,身体を支え,そして心を支えるのです。看護師がかかわることで,患者は変わり,人生が変わることさえあります。
 このように考えると糖尿病の専門家である糖尿病療養指導士や認定看護師の「専門」とは何かが見えてきます。看護がかかわりによる患者支援なのであれば,当然,その専門家にはこうした支援技術を向上させる義務,責任があるといえるでしょう。

患者に「かかわる」ための技術はどこにある?

 患者に「かかわる」ための技術を向上させる具体的な方法として,筆者が現在行なっているのが,臨床からスタートする方法です。日々の臨床の中で何が患者支援として行なわれているのか,何が有効なのか。それを臨床の実践から探しだし,言葉にする。さらにそこに理論的裏づけを加えたうえで反復練習し,より有効な「技術」として,臨床に返すというのがその概略です。
 しかし,お気づきのようにこれはかなり困難な方法です。その理由の1つは,先に述べたように臨床とは患者がいる場所であり,その患者の主観に対するかかわりが看護であることから,技術の到達度が見えにくいことがあげられます。また一口に糖尿病の看護といっても,施設としては開業医のクリニックから大病院まで,あるいは医療施設から地域・在宅まで,症状としては予備軍から重症合併症,対象者は幼児から超高齢までと幅が広く,1つの技術をピックアップしても,それを日常的な業務の中でどのように展開,活用していくかは難しいことです。そもそも,臨床の実践を,すぐに使えるような具体的な技術として形にしていくことは,並大抵なことではありません。しかし,それゆえに糖尿病療養指導士,認定看護師に期待がかかるのだともいえます。

●「身体で覚える療養援助技術」プログラム
1)やりとり学習(ロールプレイ)
2)肯定的な文章に直す
3)よい点を拾う
4)Q&A
5)利益の確認
6)私メッセージ
7)カウンセリング
8)自己管理行動の確認
9)ライフスタイルを聞く
10)食事ナラティヴ
11)運動ナラティヴ
12)目標の確認
13)自己管理を体験学習

援助技術は臨床から拾い出す

 筆者が行なっている富山県での研修は糖尿病の実務ナースの集まりです。ナースは日々なかなか自己管理に向かってもらえない方にも多く接し,また患者の個性に合わせて対応を工夫しています。
 研修では糖尿病に関する知識を学習したうえで,そうした情報をいかに患者に提供するのか,さらには最終目的として患者が自ら療養に取り組んでいくような支援方法を模索しています。研修ではこの情報提供と支援方法に,重点をおき,技術を抽出して練習するようにしました。
 患者への情報提供では,糖尿病や療養に関する知識を,患者が理解しやすく,納得して自己管理に心を動かしてもらえるように組みなおすことからはじめました。また,そうして組みなおしたものを研修参加者同士で実際に話してみて,患者役となった人の反応や,目の輝きで確認する,といったことを行ないました。そしてこうした実技を行なってみた結果,自分の身体でどう感じたかを言葉にし,患者にどのように役立てるかを模索しました。
 こうしたことを繰り返すうちに,筆者の行なう研修では,臨床で行なわれているさまざまな実践が13の技術に集約され,それぞれ習得しやすいようにプログラム化されてきました。これは現時点で13ということで,今後はさらに増えるかもしれません。いずれにしても,これらの技術プログラムは臨床ナースが日ごろから自分たちが行なっている看護に視点を当て,すでに行なっている援助を技術としてとらえ,それを糖尿病の専門家の技術としての確立をめざしたものです。次回以降,これら13のプログラムを順次紹介していきます。糖尿病療養指導の専門家を養成する立場にある人,また,日ごろ慢性疾患にかかわっていて,自らの専門性を高めたいと願う人のヒントになれば幸いです。

【研修案内】
●身体で覚える療養援助技術(富山版)

 LCDE(地域糖尿病療養指導士)富山による「身体で覚える療養援助技術(富山版)」を下記日程において開催いたします。
◆第4回
〔日程〕6月12日(木)-13日(金)
〔会場〕京都市 みやこめっせ
◆第5回
〔日程〕8月28日(土)-29日(日)
〔会場〕福岡市 八重洲博多ビル
(1日目13:00-21:00,2日目9:00-14:30)
◆内容:「身体で覚える療養援助技術(富山版)」のプログラムによる体験学習(日本糖尿病療養指導士認定更新のための研修単位申請中)
◆講師:吉田百合子(富山医薬大附属病院)
◆定員:100名
◆参加費:10,000円
◆申込締切:第4回(5月31日),第5回(8月15日)
◆おことわり
 ・宿泊に関しましては必要に応じて各自ご予約ください。
 ・定員になり次第,参加申込みは締め切らせていただきます。
◆問合せ・申込み先
 富山医科薬科大学附属病院 地域医療連携室(吉田百合子)
 FAX(076)434-5104
 E-mail:yoshiyu-tym@umin.ac.jp




[著者略歴]
国立山中病院附属看護学校卒業後,国立がんセンター勤務を経て現職。佛教大,富山医薬大学院に社会人入学し,社会学,看護学を学ぶ。「現場の“技”を言葉にして,それをもう一度現場に還元するのが私の仕事」と語り,日々後進の指導に取組む。