医学界新聞

 

〔寄稿〕

合格発表を経ての感想と提言

青木きよ子(順天堂大学教授)


 第93回の看護師国家試験では,出題基準の改定,必修問題の導入,問題数の増加など変更点が多かった。問題の持ち帰りも禁止となり事後の評価・分析も難しく,合格発表まで学生ともども,3年間の学習の成果がどのように評価されるか気がかりな日々を送った。  3月26日の第93回看護師国家試験合格発表では,合格率が昨年に引き続き90%を超え,合格率,合格基準ともおおむね妥当な結果と判断され,大きな混乱はなかったように思われた。

難易度を一定に保つよう期待

 今回の国家試験から適用された出題基準では,国家試験問題の適切な範囲とレベルを確保するとともに,21世紀のわが国の少子・高齢化の進展,看護・医療を取り巻く環境の変化に対応できる看護を提供できるための見直しがなされた。この見直しでは,これまで以上に,医療安全に関する内容や医療における人権への配慮などが強調されている。出題基準は教育のあり方を束縛するものではないとされているが,このように,国民の求める質の高い看護職者を確保することが目的とされ,医学モデルではなく看護学の視点から作成されている。
 今回の国家試験問題は出題基準が改定された初年度であったためか,学生の意見からもわかるように小項目から出題され,基本的問題が多く難易度の高い問題は限られていたように思われた。特に,今年度から導入された必修問題について,学生からは看護師として基本的かつ重要な知識を問う問題として8割を合格ラインとするに適切なレベルであったとの意見がみられた。また,学生の意見から,出題基準は出題の範囲を把握し,到達すべき目標を見定めるのに利用価値の高いものであったことがわかった。
 しかし,出題レベルは出題者により如何様にも設定でき,問題の難易度が変化しやすくなる危惧がある。このため,問題の質と難易度を一定に保ち良質な問題を確保するためにプール制が開始されている。国家試験は受験年度により難易度に左右されるという奇妙な状況とならないよう問題の質が同一に保たれることを期待する。

養成課程による合格率の格差

 看護師国家試験の出題基準には「3年間の修業年限で修得すべき能力」とあり,それぞれの養成施設は学生の教育の質を保証する責務を負っている。養成課程によっては,合格率を一定レベルに保つためにやむをえず正規のカリキュラム以外の国家試験対策を重視する傾向にあるとの声を耳にする。また,例年,看護師養成課程により合格率に大きな差が出ることから,国家試験は4年制大学の受験生に有利と指摘されることが多い。
 今年度の新卒者をみると,合格率が最も高い大学の合格率は97.0%となり,高等学校専攻科は87.7%であった(「看護国試について,私たちが知っているいくつかのこと」参照)。養成課程により合格率に約10ポイントの差が生じている。この差は,必修問題によるものか,一般問題によるものか,全体的な傾向か,養成課程により差が生ずる原因を明確にしてほしい。
 大学教育では,保健師・看護師の双方の国家試験受験資格が得られる教育内容を保証している。また,4年間という教育期間は「3年間の修業年限で修得すべき能力」を深める機会を豊富にする。ことに「人々が社会資源を統合的に理解できるよう,保健・医療・福祉制度を統合的に理解し,それらを調整する能力を養う」などについては大学教育を受けている受験生のほうが理解しやすい内容であろうと想像できる。
 したがって,おおむね好評であった今年度の試験問題であるが,国民に安全で質の高い看護・医療を提供するための知識として,「3年間の修業年限で修得できる能力」の教育実態に即しているか,さらに,基礎教育修了者に問う社会の要請に応じられる知識の範囲とレベルとはどのようなものが妥当であるのか,今後とも出題基準を含め検討していく必要があると思われる。



〈略歴〉順天堂看護学校卒業,筑波大大学院教育研究科修士課程修了,医学博士。順天堂医療短大講師,助教授を経て教授。現在,2004年4月開設の順天堂大医療看護学部教授。数年来,学内で国家試験委員を担当し,学生の指導に当たる一方,『看護教育』誌などにおいて問題の分析・提言を続けている。専門は成人看護学。