第2581号 2004年4月19日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


医療人のすべてが一度は熟読すべき臨床教則本

米国式Problem-Based Conference
問題解決,自己学習能力を高める医学教育・卒後研修ガイド
町 淳二,児島邦明 著

《書 評》宮城征四郎(臨床研修病院群プロジェクト「群星沖縄」研修センター長)

臨床指導のあり方を明確に示す

 2004年5月からいよいよ必修化される本邦の卒後臨床研修制度を前に,医学生はもとより研修医,指導医の双方にとって臨床指導のあり方に関するきわめて有意義な教則本が,よくもタイムリーに出版されたものだと思う。臨床研修に実績のない研修指定病院にとどまらず,本邦の医育機関の大部分の指導医たちにとっても,臨床教育,指導方法のハウツーが判然とせず,従来の経験からみても,今回の研修必修化が大きな戸惑いと負担になるであろうことは想像に難くない。
 本書は指導医側が教育に適した模擬患者のシナリオを自由自在に操り,医学生,研修医にいかに臨床医学の基本の大切さとおもしろさ,EBMに基づく臨床的アプローチとアカデミックなレベルの論理を伝えるか,という巧みな構成になっている。
 表向きは外科の教則本ではあるが,同領域といえども患者を局部的に診るのではなく,全人的に診る臨床態度が必須であることが反復強調され,問診,バイタルサイン,身体所見の重要性が繰り返し述べられているばかりでなく,コミュニケーションのあり方,インフォームド・コンセントのとり方と注意点,medical ethics,medical intelligenceなどが縦横無尽に行間にあふれている。臨床医学の基本に忠実な指導方法は,内科を含むどの分野にも共通する重要な内容である。
 瞠目すべきは,相互の討論という形式の中で,医学生,研修医,指導医各人の意見が順を追って整然と記述されていて,医学生と研修医,研修医と指導医間では明らかに発言内容のレベルが違い,まさしく屋根瓦的な大差が認められることである。
 筆者はかねがね,よりよい臨床教育環境とは,研修医各学年ごとの大きなレベルの差を生むものであると主張してきたが,著者らのPBCはそういう意味では文字通り成功していて,それぞれのレベルにおけるteaching pointやlearning issueが整理され,教育方針とその目的を明確にしているところが実に素晴らしい。

global standardへの関心が低い日本

 例えば米国では,stageⅠまたはⅡが予想される乳癌の場合,術前の検査は血液検査として血算と肝機能検査,画像診断としては胸部X線写真に限られるのが一般的である(178頁)としている記述は,ややもすると読み飛ばされ,軽視されがちであるが,ここにはEBM,cost-effectiveness,medical intelligence,果てはethicsに至るまで実に重要な内容が包含されている。
 「あの検査をやったか,これをやったか」と多くの検査を現場の研修医に求めるような教育,指導が平然とまかり通っている本邦の医育機関がもっとも反省を求められる内容である。さらには,医療行為のstandardとcontroversialを明確に分けて議論を推し進めるという態度が一貫しており,このあたりは各指導医の力量がもっとも問われるところである。
 本邦ではこのglobal standardに対する関心の薄さが臨床指導上の大きな問題である。そして,この教則本に述べられているような,もっとも基本に忠実な臨床指導方法が本邦の大学の教育陣に共感を呼びうるであろうか。また果たして,時間を割いてこのような書を彼らが真剣に読破してくれるであろうか。残念ながら,もっとも危惧されるところである。
 このような内容の指導は学生や研修医各人が本を読んで習得すべきものであって,いちいち超多忙な教育陣が教えるレベルの内容ではないと思いがちである。特に本邦の指導医たちは,よりリサーチ的な内容を含む最先端医学の討論を好み,このような基本的な討論は低学年の学生を対象とした指導内容だと誤解しがちである。
 しかし,卒後臨床教育は基礎教育が基本であり,1階や2階をつくらずにいきなり3階や7階の建造物を建築することはできまい。1-2階の基礎固めが完成して初めて,その上階につながるという当然の論理を決してないがしろにしてはなるまい。
 共著者の順天堂大学外科助教授の児島氏は,おそらくハワイ大学の町教授とは大学時代の同級生であり,学生時代からの親しい友人なのであろう。日米臨床外科学の比較を盛り込みながら,実に息の合った名コンビぶりでこの教則本を仕上げている。日米の新時代の臨床教育者として巧みな教育モデルを示してくれている。もって銘すべきである。
 本教則本のPBCは指導医が模擬患者を設定して,不羈奔放にそのシナリオを操り,より充実した討論を企図した教育方法の内容になっていることはすでに述べた。多彩なteaching pointやlearning issuesを次々と設定していくという点ではきわめて有効な教育方法ではあるが,模擬患者である点にはそれなりの限界があり,いくばくか臨場感に欠ける印象を否めない。
 特に回診時に研修医が呈示する身体所見を指導医が自ら確認し,訂正するという作業がここでは欠けている。願わくば,実在の患者で新患回診などを通じ,Problem-Based Roundに応用してほしいと願うものである。とはいえ,この書の価値がそれで損なわれるわけではない。
 臨床研修必修化を前に,指導医はもとより,研修を受ける側の学生,研修医をはじめ,プロフェッショナルな医療人すべてが一度は熟読すべき臨床教則本であり,確信を持って推奨できる良書である。
B5・頁256 定価(本体4,000円+税)医学書院


MRIによる乳癌診断の未来を開く1冊

乳癌MRI診断アトラス
中村清吾 編集

《書 評》田島知郎(東海大教授・外科学)

 すでに10年前に三次元MRIによる乳癌広がり診断の有用性について報告した中村清吾先生が,10年の苦労を実らせて,第一人者としてグループの力を結集して完成させた本書には,MRI画像がマンモグラフィ,エコー,さらに病理所見とともに収載されている。嬉しいことに,乳癌では組織型に応じた特徴が解説され,これまでに画像の特徴があまり知られていない扁平上皮癌,炎症性乳癌,妊娠期乳癌,豊乳術後乳癌,悪性リンパ腫なども含まれている。また放射線の害を考えないですむMRIということで,若い女性の良性疾患も網羅されており,幅広い利用が目論まれるMRI教本であると同時に,乳癌学徒が待ち望んでいたプロ向け教本にもなっている。

きめ細かな乳房温存療法実現への大きな一歩

 本書にはまず基礎的事項の解説がしっかりあって,そのうえで核心は,MRIの特長としての優れた乳管内進展の描出能,任意の角度から可能な透過的観察,容易な体積計算を駆使した乳房温存手術への適用にある。触知する腫瘤を中心に切除し局所再発防止のために照射を追加するというまだまだ未完成で大雑把な欧米流から脱して,乳房温存療法を,部分的照射や非照射法なども含めて工夫し,乳腺の解剖,乳癌の病態に則った緻密な治療法として格上げさせる方向で,本書は大きな役割を担うはずで,この安全性を検証するためにも,MRIを駆使したきめ細かい臨床研究をわが国で蓄積することが大きな課題である。なお本書では,指標として病理学的断端陽性率で判断しているが,そう遠くない将来に局所再発率という指標でも検証できるようになろう。
 MRIの解像度は毎年向上し,画像処理のコントラスト強調などで,微小病変の見落としは一層減ると予想される。また装置としても,低磁場で安価な検診用,MRIガイド下生検用,手術ナビゲーション用などが急速に普及しており,目が離せないのがMRIで,今回上梓された本書はこうした将来性の原点にもなっているといえよう。なお本書へというよりも,MRI一般への注文として,多岐にわたるMRI撮像法を素人が一目で把握できるような表示法の案出を願っている。
B5・頁144 定価(本体9,500円+税)医学書院


現在における整形外科診療の集大成

今日の整形外科治療指針
第5版
二ノ宮節夫,他 編

《書 評》河合伸也(山口大教授・整形外科学)

診察室に常備して

 『今日の整形外科治療指針 第5版』は,現在における整形外科診療の集大成とも言い得る充実した内容である。極めて多岐にわたる整形外科の各種疾患について,疾患の概念と診断の要点に基づいて,治療指針が明快に記載されている。本書は既刊の版に比べて内容が最も充実しているだけでなく,外観も表紙の材質や体裁が一新されており,書籍としての格調が一層高くなった。本書はいわゆる教科書とは異なって,日常診療の実際に則して記載されているので,診察室に常備しておき,機会あるごとに気軽にこの本によって現在の治療方針を確認しておくことは,安心・安全な医療を提供するコツの1つである。診断と治療に迷う時だけでなく,すでに自分にわかりきった疾患であっても,現在の考え方を確認しておくことで,今の水準の診断と治療の方針を知り,時代に即応する考え方を整理できる点においてきわめて有用である。
 もちろんのことであるが,治療の方法には多様なアプローチがあり,この本に記載されていることがすべてではない。中には独自の見解に基づく記述もなされており,自分が実践している治療方針や既刊の本書と比べることで,同じ疾患であっても筆者によって捉え方が若干異なることを興味深く知ることができる。すなわち,現在の医学,ことに医療はいまだに発展途上にあり,絶対的な存在ではないが,科学性,標準性,普遍性を考慮し,現在の水準に照らして,個別に対応することが医療であり,謙虚に患者さんと対応することの大切さを改めて認識できる。

整形外科領域の時代の方向性を感じ取れる

 振り返ってみると,整形外科の診療内容は随分と変貌してきた。中には基本的な考え方,診断基準や治療方針が大きく変わっている疾患も少なくない。今回の特徴の1つとして,この本の冒頭に,トピックスとして現在大きい話題になっている8項目が取り上げられており,整形外科領域における新しい考え方や手法が記載されている。この部分を読むことで,時代の方向性を感じ取ることができる。さらに,整形外科が運動器疾患の専門であるだけに,生活機能を重視して治療する必要があり,当面の苦痛や苦悩に対応するだけでなく,障害を持ちながら生活している人々に欠かせない介護・福祉についても深い知識と関心を持っておくことは治療方針の選択にあたり重要な要素である。その意味においても「整形外科と介護・福祉」の章が今回追加されていることは特筆に値する。通常の教科書では得がたい情報が適切に記載されているので,整形外科医としてこの項目を是非ご一読されることをお薦めする。
 各種の疾患に関する記述の中に,整形外科の先輩が記載されている「私のノートから/My Suggestion」という短文が適宜ちりばめてあり,先人の診療における思いを伺い知ることができる。それぞれに心に染み入る内容である。
 時代が大きく変化している現在,医学医療の従事者は常にその時代の水準に適応できるよう研鑽を積み重ねておくことがプロフェッショナルとしての責務である。その研鑽の一助として本書を手元に常備しておくことを推奨する。
B5・頁944 定価(本体18,000円+税)医学書院


初学者にも配慮。最新の診断・治療をわかりやすく解説

消化器癌の診断と内科治療
2.肝・胆・膵
岡部治彌 監修
西元寺克禮 編

《書 評》峯 徹哉(東海大教授・消化器内科学)

飛躍的に発展した診断技術

 1998年に「消化器癌の診断と内科治療1.食道・胃・大腸」が出されて5年後の2003年9月に同シリーズの第2巻となる「消化器癌の診断と内科治療 2.肝・胆・膵」が出されることになった。
 一読してわかる本書の特色は,1)診断,治療を項目別に淡々と述べるのではなく病理を組み込んでこれらを体系的に述べた点,2)北里大学の同門で執筆されており,相互の連携がスムーズであり,抵抗なく読める点にある。さらに詳しくみてみると,診断の項目に160ページが割かれている。その内訳は肝細胞癌に約100ページ,胆嚢癌・胆管癌に約30ページ,膵臓癌に約30ページが割かれている。肝胆膵の癌に対する治療の項目に対して約50ページが割かれている。ページ数の割り振りから推測するとやはり診断面おいて特に肝細胞癌の診断に対して飛躍的な進歩があったことをうかがわせる。それにひきかえ治療面については割かれているページ数が比較的少ないことは,診断面と比較し飛躍的な進歩が未だ十分行なわれていないことを伺わせる。

画像診断を機器の原理から解説

 さらに通常の放射線学の専門書よりむしろ事細かに基礎的なことが書かれていることがみてとれる。例えばCT画像がどのような過程を経て構築されるか,MRIはどのような原理でその画像が構築されるのかなどさまざまな細かな画像診断機器の原理まで書かれている。通常のいわゆる画像診断の成書のような書き方ではなく,消化器臨床家及び初学者の視点にあわせて書くという慎重な配慮がなされている点が浮き彫りにされている。
 われわれ臨床家はついつい画像診断においてその画像をどのように読影するかということしか頭が働かないことが多い。この本ではその画像がどのようにして構築されているかという点までも明らかにされているのですばらしいという一語に尽きる。タイトルのつけ方も消化器癌と明記することにより本のねらいを鮮明にでき,さらに内科治療と明記していることにより暗にその中に最新の治療が含まれることを示しており,その意味でも標題のつけ方は圧巻というしかない。

最新の治療についても踏み込む

 また,治療の内容をみてみるとinterventionalな治療だけではなく,現在治験中である抗癌剤の治療にも踏み込んでおり,実地臨床家のさまざまな疑問点にも答えられる形となっていると思われる。以上をまとめると,消化器癌の診断について最新のことはもちろん,画像診断の読影の基本となる原理についても書かれており,非常に読みやすい本であると言える。治療について現在の最新の治療法が入っており,しかも今後の治療法の将来についても考えさせられる優れた1冊であると断言する。
B5・頁244 定価(本体22,000円+税)医学書院


緑内障の診療,研究に携わるすべての眼科医に

緑内障
北澤克明 監修
白土城照,他 編

《書 評》布田龍佑(NTT西日本九州病院・眼科)

ガイドラインに則った初めての緑内障の教科書

 本書は2004年2月に刊行された500頁に及ぶ最新の緑内障に関する成書である。序にあるごとくこの成書には現在のわが国を代表する緑内障の基礎,臨床の研究者による監修,編集に加え,第一級の専門医,研究者の力が結集されている。
 本書の特徴は以下の2点に要約できる。
1)2003年秋の日本緑内障学会により作成された緑内障診療ガイドラインに則って執筆された,最初の緑内障の教科書である。
2)緑内障の基礎的研究,検査法,診断および治療法についての最新の情報が,その歴史的背景と併せて記載されている。
 緑内障診療ガイドラインに則った記載は本書の各所にみられる。たとえば病型については,原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障は一連の疾患スペクトルに包括されるとして,「原発開放隅角緑内障(広義)」とされている。また先天緑内障もその発生機序を考慮し,発達緑内障に置き換えられている。その他の章においても緑内障診療ガイドラインを十分意識して記載されている。

基礎,臨床ともに充実した内容

 基礎研究の章では線維柱帯,毛様体,視神経乳頭などの構造と機能に関しては,これまでの知見に加え,新しいテクニックを駆使して得られた結果が付け加えられている。さらにアポトーシス,分子遺伝,眼血流,免疫などに関して,現在進行中の研究の最新情報が,豊富な文献とともに載せられている。臨床研究の章では眼圧,隅角,視神経乳頭,視野検査のこれまでの歴史と現状,さらには今後の遠望が述べられている。近年その進歩がめざましい視神経乳頭部の画像解析法や血流評価の実際も紹介され,今後の臨床応用への普及が期待される。視野検査では時代の流れにより動的量的視野測定法の記載が減少している反面,静的自動視野測定については,最新の機器,測定法,評価法が詳細に述べられている。
 従来の各論に相当する診断と管理の章では,緑内障各病型の臨床像,診断,治療が,緑内障診療ガイドラインに則って述べられている。治療に並行して管理の重要性が強調されている点は注目に値する。薬物治療に関しては,ピロカルピンの時代から最近の薬,さらには将来の使用が予想される薬まで網羅されている。また血流増加,視神経保護作用についても言及されている。手術療法に関しては,総論にあるごとく,いまだ理想の手術方法はない。近年画期的な進歩も多くはないが,現在広く用いられている術式の解説はわかりやすく,新しく手術を学ぶ眼科医にとっては,よき指導書となるはずである。
 以上のことから本書は緑内障を初めて勉強する眼科医にも,さらに深く知りたい眼科医にも,最新の基礎研究を志す眼科医にも対応できる教科書といえる。緑内障の診療,研究に携わる眼科医であれば,ぜひ手元において参考としていただきたい1冊である。
B5・頁504 定価(本体20,000円+税)医学書院