第2580号 2004年4月12日


連載

ディジーズ・マネジメントとは何か?

第3回 ディジーズ・マネジメントの実際:
プログラムの展開方法について

森山美知子 広島大学医学部教授・臨床看護学


2575号よりつづく

 第1回では,ディジーズ・マネジメント(以下,DM)の定義や概略について解説した。DMの解釈や展開方法は保険制度,さらには,サービスの提供主体によって異なることは前回に述べた。今回は,米国におけるDMプログラムの展開方法について説明する。

DMプログラムはどう行なわれるか

 DMプログラムは,アウトカムマネジメントの枠組みに適合し,患者集団に標準化された最適な教育・治療プログラムを提供し,その結果を測定,評価し,プログラムのデザインを改善するフィードバックループを持つ持続的なプロセスである(図)。DMプログラムは,アセスメント→階層化→介入→効果測定(評価)の一連の流れから構成される。主治医や加入している保険からプログラムへの参加の助言を受けた患者は,それぞれDMプログラムのホームページなどにアクセスし,会員登録し,スタートする。

図 ディジーズ・マネジメントの基本プロセスと主な活動
(出典)損保ジャパン総合研究所作成によるものを一部改変
(損保ジャパン記念財団叢書No. 65「米国におけるディジーズ・マネジメントの発展」より)

【アセスメント】
 DMプログラムのコアになる部分で,リスク特性や行動特性を特定し,それに応じた介入プログラムを選択するために行なわれる。健康信念モデル(Health Belief Model)や自己効力感尺度,変化のステージモデルは頻繁に用いられているようである。多くのDM会社は,どのようなアセスメントモデルや理論根拠に基づくのかを利用者に説明し,自分たちのプログラムの優位性を主張している。具体的なアセスメントの内容を表に示す。利用者は自分でインターネットのホームページにアクセスするか,面談や電話等でアセスメントを受ける。

表 アセスメントの項目例
年齢/職業/経済状況 等
健康状態/疾患の重症度/治療内容
変化の段階
変化による利益
治療の負担感と最も関心のある事項
現在の知識レベル
障害
自己効力感
過去の経験
ライフスタイル/生活習慣
心理社会的ストレス
うつ
ソーシャルサポート

【階層化】
 アセスメントの結果から利用者を特性に応じて分類し,ハイコスト/ハイリスク者を特定する。ここで,どの集団に対して集中的な介入,つまりケースマネジメントや教育が必要なのかを判断し,限りある資源の有効配分を考える。多くの医療資源を必要とする者の特定はプログラムによって若干異なるが,次のような者はハイリスクと分類されると考える。
(1)行動変容に抵抗する者→将来,重篤な合併症を起こし,コストの高いヘルスケアを必要とする
(2)不定愁訴の多い者(知覚と実態の不一致)→多受診につながる
(3)多くの合併症を現に有している者/データの悪い者
(4)ソーシャルリスクの高い者(高齢・要介護・要支援状態で1人暮らしの者,家族や友人といったサポートの低い者,生活保護,無職,アルコール依存等)

【介入(利用者へ)】
 アセスメント・階層化の結果に基づき,選定された介入が行なわれる。利用者の選択に応じて訪問や電話,オンラインによる情報や教材の提供,ニュースレター等の定期的送信,定期検査,カウンセリングや教育等が行なわれる。利用者がいかにすれば行動変容を起こし,行為を持続させるかがもっとも重要なポイントであるが,この点については,心理学の理論が応用され,行動特性に見合ったコミュニケーションの手法やメッセージの提供の仕方が工夫されている。
 例えば,コントロールの所在が外的な利用者に対しては「医師からのアドバイス(直接的なメッセージ)」として従うよう情報を伝え,内的コントロールの強い人には行為の必要性について科学的な根拠を示し,主体的な行動を促すような働きかけを行なうなどである。メッセージの提供の仕方については,比較臨床試験が数多く実施されている。

【介入(医師・コメディカルスタッフへ)】
 介入は利用者に対してだけではなく,利用者の主治医や関係する医療スタッフに対して行なわれるのもDMの特徴である。標準化されたベストプラクティスが提供されるように,DMプログラムの運営主体(DM会社や保険者)は医療提供者に対してエビデンスに基づいた治療ガイドライン等を提供する。さらに,次に示すアウトカムデータを共有し,対象集団のレセプトのコストが高い場合やデータが改善されない場合には,医療提供者に対して働きかけを行なっている。

【評価】
 介入の効果測定は,「顧客満足度」「医療費(レセプトデータ)」「受診行動の変化」「臨床アウトカム(検査データや合併症の発症等)」等のアウトカム指標に基づき,定期的に行なわれる。治療を継続しているかどうか(ドロップアウト率),データの改善,医療費の減少,患者の主観的満足度の向上等が具体的な指標として用いられる。効果測定は長期間にわたって行なわれることから,データベースが構築され,保険者内だけではなく,主治医とも共有される。

【質の管理(フィードバック:継続的なアセスメント)】
 アウトカムマネジメントの手法と同じく,評価結果をもとに利用者および医師への介入プログラムやアセスメントの内容・精度,階層レベルを修正する。

【集団の特定(費用対効果の検討と予測)】
 プログラムは有限な人的・経済的資源の中で展開されるので,集団をどのようにグルーピングし,どの集団に対してどのようなケアをどのくらいの頻度で提供するかをあらかじめ設定しておく必要があり,DM会社や保険者は予測モデルpredictive modelingの手法を用いて,集団(リスク)特定を行なう。
 主に保険請求歴や診療記録等から得られる患者の基本属性(年齢,性別,収入等),医療の経年データ(受診行動と治療内容:治療,検査データ,資源の活用等),そして,質問票への回答から得られる行動変容に関するデータ〔ライフスタイル(喫煙歴,飲酒歴,食事摂取,心理的準備状況等)〕から,集団のリスクと将来的にかかるコストを予測し,分類する。
 多くの場合,もっともリスクの少ないレベル1からもっともリスクが高くケースマネジメントの対象となるレベル4程度に段階を設定し,費用対効果から,コンタクトの頻度,訪問頻度,教材提供内容や頻度を決定する。このケースマネジメントを必要とする集団の割合をどの程度で設定するかは議論になるところである。

 以上,DMプログラムの基本プロセスについて示した。行動変容理論等を応用しながらさまざまな工夫がなされていても,米国でのプログラム登録1年後のドロップアウト率は高い割合で観察される。米国のDMプログラムを展開する医療現場においても,医療者からは,治療者-患者の人間関係の重要性が指摘され,患者への対面でのコミュニケーション,特に心理社会的局面の変化をすばやく察知しての温かい支援と賞賛(ほめること)の重要性が強調されるところである。

わが国のアプローチと課題

 わが国には地域保健,職域保険に健康診査という優れた二次予防の制度が存在することから,この制度を活用し展開することが可能であり,実際にもわが国独自のDMプログラムが展開されているともいえる。
 DMの基本的な考え方を活用するためには,以下の課題への対応が必要となると考える。
1)医療機関においての教育入院の制限と,外来機能の強化
2)DMプログラムの構築とセンター化:専門スタッフによるチーム医療の推進
3)患者・家族教育の強化:医療者へのインセンティブの設定
4)医療者のガイドライン順守のための仕組みつくりとITを活用した長期的なデータ管理
5)各疾患の専門スタッフの養成(特に専門看護師の養成・活用)

 慢性疾患管理は,患者が日常生活の中での対処について学習することが重要であること,患者・家族への教育の重要性が強調されること,さらに教育には専門的な知識と時間,エネルギーが必要とされることから,これらを推進する仕組みづくりが必要である。さらに,多くの患者が合併症を有することから,利用者の利便性とリスクコントロールの視点をもって複数の専門家が協働しながら治療ケアを提供できるシステムも考慮されなければならない。
 また,DMプログラムの実施にあたっては,プログラムの構築,アセスメント,介入,ケースマネジメント,結果の評価の各段階において看護師が大量に動員され,サービスの直接提供者となることから,専門性を有する看護職の養成が必要になると考える。




森山美知子氏
 1992年カリフォルニア州立大学フレズノ校看護学部大学院修士課程修了(老年看護CNSコース)。医学博士(山口大学)。京都第一赤十字病院,日赤医療センター,山口県立大学,厚労省勤務を経て,2002年4月より現職。主な著書に『ナーシング・ケースマネジメント:退院計画とクリティカルパス』『ファミリーナーシングプラクティス』(医学書院)。