第2580号 2004年4月12日


臨床腫瘍専門医制度の進展

第2回日本臨床腫瘍学会開催


 さる3月12-13日,第2回日本臨床腫瘍学会が,高嶋成光会長(国立病院四国がんセンター院長)のもと,日本都市センターホテル(東京都千代田区)において開催された。ここでは12日に行なわれたシンポジウム「臨床腫瘍専門医育成の展望」のもようを紹介する。


 学会初日,福岡正博氏(近畿大),佐伯俊昭氏(国立病院四国がんセンター)の座長のもと行なわれたシンポジウム「臨床腫瘍専門医育成の展望」では,医師,患者,厚労省など,さまざまな立場から,今後の臨床腫瘍専門医のあり方について議論が交わされた。

学会のめざす専門医像

 はじめに田村和夫氏(福岡大)は,日本臨床腫瘍学会専門医制度委員会の専門医審査部会長の立場から,学会のめざす専門医像について述べた。田村氏は,日本での臨床腫瘍専門医制度を立ち上げるにあたって参考にした米国のシステムを概観し,日本における臨床腫瘍専門医に求められる要件と,それを確保するにあたって障害となるであろう,日米における教育資源の格差などに触れた。
 現在の日本の医療では,例えば子宮癌が肺や肝臓に転移した場合に,それらをトータルに診る枠組みが存在しない。田村氏は,「そこに全身を診ることができる臨床腫瘍専門医の存在意義がある」としたうえで,専門医に求められる条件として,少なくとも1種類の腫瘍には精通しつつ,主要な複数の癌腫に対する豊富な治療経験を持つことをあげた。

求められる臨床教育と 卒前での認知度向上

 森武生氏(都立駒込病院院長)は,臨床で教育に携わる立場から,専門医育成について述べた。森氏は専門医制度全般について,認定乱発による質の低下を危惧していると述べたうえで,現場として臨床腫瘍医に一番求めるのは,悪性腫瘍患者とよいかかわりを持てる人格であるとした。
 駒込病院ではjunior resident2年間とsenior resident3年間で行なってきた研修医教育の中で,臨床腫瘍医養成を行なってきた。森氏は研修医の希望をいれながらのローテート方式や,積極的な国内・海外への研修など,充実した教育カリキュラムを紹介する一方で,指導医の負担が大きいことや,研修医への経済面の援助など,運営上の問題点にも触れた。
 森氏は最後に,「実際問題として知識・技術・人格のすべてを兼ね備えた人材を育成するのは限りなく不可能に近い。しかし,不可能だからといってあきらめてはいられない。それが臨床教育だと思う」と述べ,人格面での陶冶も含めた総合的な臨床教育を今後もめざしていきたいと述べた。
 続いて中川和彦氏(近畿大)は,卒前における臨床腫瘍学の啓蒙・教育について発言。臨床腫瘍学はコアカリキュラムに含まれておらず,また医師国家試験に出題されることもほとんどない。中川氏はそういった現状を踏まえ,卒前教育でできることは「臨床腫瘍学」の存在を,医学部6年間の中で知ってもらうことではないかと述べ,近畿大学で2000年度より開始された「臨床腫瘍学」と銘打って行なわれている集中講座を紹介した。
 同講座は現在,臨床総論(全11週)の中の臨床腫瘍学コース(2週)として実施されるに至っており,中川氏は「近畿大学医学部の学生の間では,臨床腫瘍学が当たり前のものと認知されつつある」と述べ,学部生の間に臨床腫瘍学への関心を高めていく意義を強調した。

抗癌剤治療の地域格差が問題

 島根県で臨床腫瘍医養成運動など癌医療の問題に携わっている佐藤均氏は,患者の立場から臨床腫瘍医の必要性を述べた。
 佐藤氏ははじめに,自身が前日の夜から講演当日の朝までクロノテラピー(夜間に行なう抗癌剤治療)を受けていたことを述べた。ニュースカメラマンである佐藤氏にとって,抗癌剤治療を受けながらも,数十キロのカメラを持って仕事ができるか否かは,経済的にも精神的にも大きな違いがある。優れた抗癌剤治療を受けることが,治療効果はもちろん,治療中の日常生活の質にも大きな影響を与えることを身をもって説明した。
 腫瘍専門医はまだ全国的に少なく,佐藤氏が最初に地元・島根で抗癌剤治療を受けた時と,現在東京近郊で受けている治療では,その質に大きな差があったという。佐藤氏はこうした現状について一般の認知度が非常に低いことに触れ,厚労省や日本臨床腫瘍学会に対し,国民へのアナウンスを積極的に行なっていくことと,臨床腫瘍専門医制度について,迅速な取り組みを行なってほしいと述べた。
 佐藤氏に続いて登壇した上田博三氏(厚労省)は,医師の生涯教育を推進する立場から,臨床腫瘍専門医制度の今後の展開について述べた。
 上田氏はまず厚労省の取り組みとして,今年4月からはじまる新臨床研修制度の「経験すべき疾患」の中に癌が含まれていること,「対がん10か年総合戦略」に「癌医療の均てん化」(治療の質の地域格差を少なくすること)が採択されたこと,また2002年の告示によって「専門医の広告」が可能となったことなどについて述べ,癌医療に対する厚労省の考えを示した。
 専門医制度については,その質の担保や,養成をどのように行なっていくかについては,現状では大きな問題があるとしたが,その一方で上田氏は「日本の医療は患者が医者を選べるフリーアクセス,そして医師が治療法を選べるプロフェッショナルフリーダムを前提に発展してきた」と述べ,厚労省が生涯研修を考える立場として専門医制度にどのように取り組んでいくかについては今後の議論を待たなくてはならないと述べた。

米国臨床腫瘍専門医制度の「前提」

 最後に上野直人氏(MD Anderson cancer Center)はアメリカの臨床腫瘍専門医制度と,癌を含む医療全般について述べた。
 上野氏はまず,アメリカの臨床腫瘍専門医制度の前提となっている医療システムについて概説。専門医が一般病院と契約し,一般病院から患者の紹介を受けることによって開業するのが一般化しているアメリカ医療では,癌に限らずこうした「専門医の開業医」が専門性の高い医療の屋台骨となっている現状を解説した。
 一方,癌を診断するのはそうした専門医ではなく,一般病院にいるジェネラルプラクティショナーである。上野氏は,これらそれぞれの「専門家」が,自分の限界をよく知ったうえで協力体制をとって治療に当たるのがアメリカの医療システムであり,専門医が活躍できる前提であるとしたうえで,こうした背景のない日本で,米国の制度をそのまま導入することは難しく,どのような形で取り入れるかは議論が必要だとした。
 上野氏は最後に臨床腫瘍専門医に求められる条件として「幅広い知識と,倫理的に高い治療を行なうこと,そして自らの限界を知っていること」をあげ,「制度の違いはあれ,日本においても臨床腫瘍専門医は必要であり,米国の良い点と日本の良い点のバランスをとっていくことが必要だ」と述べ,発言をまとめた。

臨床腫瘍専門医制度の推進に向けて

 シンポジウム後半には会場からも多くの意見が寄せられ,活況を呈した。
 抗癌剤の保険適用やガイドラインに関する行政のかかわり方についての質問に対し上田氏は,「ガイドラインについては基本的に学会主導で作成していくべき」であり「保険適用は必ずしもガイドラインにしたがうものではなく,国家財政や患者のベネフィットなど多くの要素を勘案しつつ行なうべきものだ」としたうえで,そうした限界のある財源の中でバランスを考えなければいけない時に,どうしても欠けてはならないのは治療を受ける患者の視点であると述べた。
 また,現在の治療の枠組みの中では多くの癌腫を体験することは難しいという指摘に対しては,上野氏や中川氏らが,「各臓器における悪性疾患の専門家」という枠組みを一度捨てることなしには,臨床腫瘍専門医制度設立の意義が失われてしまうと述べた。
 また上野氏は,このことと関連して,一番大切なのは抗癌剤や副作用の知識ではなく,病歴や身体所見からスクリーニングをかけ,それに合わせて専門医を紹介することができる優れたジェネラリストを養成していくことだと述べた。
 最後に福岡氏は,日米の違いはあれ,臨床腫瘍専門医の必要性は疑いのないところであり,学会として今後も努力を続けていきたいと述べ,シンポジウムをまとめた。