第2579号 2004年4月5日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


疫学者や医療政策担当者は必読の1冊

根拠に基づく健康政策のすすめ方
政策疫学の理論と実際
Robert A. Spasoff 著
上畑鉄之丞 監訳
水嶋春朔,望月友美子,中山健夫 訳者代表

《書 評》藤崎清道(厚労省大臣官房参事官・健康担当)

 本書は,オタワ大学スパソフ教授が長年にわたる疫学の講義や政府関係者・関係機関との仕事の経験をもとに,疫学を健康政策過程に寄与させることを目的として書かれたものである。監訳者の上畑鉄之丞氏をはじめ,疫学と健康政策に深い造詣を有する訳者の方々のご努力により出版に至った。
 本書の構成等についてであるが,まず対象は疫学の基本的なコースを修了した者,特に健康政策の開発や評価を学びたい大学院生または疫学者としている。構成は2部よりなっており,第1部では健康政策についての解説と疫学とのかかわり,そこに用いられる特有の疫学ツールと集団の健康データについて記載している。第2部では第1部で示された政策サイクルに基づき,集団の健康評価,介入効果の予測,政策の選択,政策の実施,政策の評価の各過程に疫学の立場からどのように寄与していくかを対象・分野別に具体的に展開し,さらにその際に必要とされる概念,カテゴリー,手法などについて紹介している。

政策疫学の体系を示す

 さて,本書の特筆すべき点は何であろうか。副題が「政策疫学の理論と実際」とあるが,やはり政策疫学の体系を提示したことであろう。記述疫学を経て分析疫学(病因疫学)が疫学の主流になって久しいが,その成果を踏まえ政策疫学として発展させた意義は大きい。病因疫学との対比については本文に詳述されているので参照していただきたいが,本質部分を引用するならば「分析疫学は,暴露の影響を決定するという観点から,対象を注意深く選択して実施されるが,政策疫学は一般の集団への暴露の影響や,健康にまつわる現象の予測に関するものである」ということになろう。つまり健康政策に適用するには分析疫学の研究結果のgeneralizability(一般化可能性)が常に求められており,内的妥当性に加え外的妥当性が必要になるということである。
 また,率に加えて実数が重要であることや調整率よりも粗率が有用な場合があるなど,政策形成の対象となる事項のmagnitude(大きさ,重要性)が問題となる点についても言及している。さらに分析疫学が分析的方法をとるのに対して政策疫学が記述疫学とモデル化を方法とすることを対比させているのも興味深い。これらは行政に携わる評者も日ごろから感じてきたことであり,疫学者の皆さんと認識を共有できることはたいへんにありがたいことである。本書は疫学者のみならず国・地方自治体で働く保健医療政策担当者にも必読の書である。

健康日本21の推進にも貢献できると確信

 最後になってしまったが,評者は厚生労働省の健康日本21推進本部事務局長を拝命している。健康日本21ではスパソフ教授がめざした根拠に基づく政策形成にそった取組みを推進しており,本書が健康日本21の推進に大きく貢献することを確信し,また期待していることを申し上げたい。
A5・頁320 定価(本体3,500円+税)医学書院


最新の指導書を待っていたCPRインストラクターたちに

CPRインストラクターズガイド 第2版
小濱啓次 監修
山本保博 編
吉田竜介 編集協力

《書 評》浅井康文(札幌医大医学部附属病院・高度救命救急センター)

 今回,真新しい「CPRインストラクターズガイド・第2版」を手に取ることができた。監修は川崎医科大学の小濱啓次先生,編集は日本医科大学の山本保博先生で,ともに尊敬する救急医学の先輩である。この「CPRインストラクターズガイド」は,もともと一般市民に対する救急蘇生法普及を目的に,CPRインストラクター(蘇生法指導者)の育成を目的に作成されている。「CPRインストラクターズガイド・第2版」は,8年ぶりに改訂されたアメリカ心臓協会(AHA)の「ガイドライン2000」に基づくガイドで,最新のCPRの指導書を待ち望んでいたCPRインストラクターにとってまさに待望の書である。

救急救命士の役割は拡大するも,最重要なのはバイスタンダーCPR

 我が国が欧米と比較して立ち遅れている心肺停止患者蘇生率や社会復帰率の向上を目的として,1991年4月に救急救命士制度が創設された。しかし救急救命士が誕生しても,心肺停止患者蘇生率や社会復帰率の向上に直結しなかった。これは,医師の具体的な指示の下でしか,救急救命士の3行為といわれる,(1)心肺停止患者に対する半自動式除細動器による除細動,(2)乳酸加リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液,(3)食道閉鎖式エアウエイまたはラリンゲアルマスクによる気道確保が許可されなかったことによる。その後救急救命士の処置拡大の議論がなされ,2003年4月よりメディカルコントロールの確立した地域での指示なし除細動が認められた。2004年度には救急救命士の,病院実習後の気管挿管や現場でのエピネフリン投与などが可能となり,プレホスピタルの現場での情勢変化が見られ,さらに一歩踏み出したCPRがなされようとしている。しかし一番重要なことは,救命の連鎖の中でも,現場でのバイスタンダーCPRであることには異論はない。

心肺蘇生の社会復帰率向上を願って

 これまで1994年に出版された大塚敏文先生と小濱啓次先生監修の「初版・CPRインストラクターズガイド」で,多くのCPRインストラクターがその指導法を学んできた。表紙は初版と同じイラストであるが,CPRの上に書いてあった心肺蘇生法の文字が消えたのは,CPRという言葉が現在皆に受け入れられてきた証拠であろう。初版と比較して,2.観察の必要性と観察要領,4.止血法,5.その他の応急手当,6.傷病者の管理法と搬送法,7.解剖・生理の知識と病気の知識,8.感染防止,9.教育用式資機材の取扱法と管理法までは,最新の図や解説を加えているがほぼ同じである。第2版で大きく変わったのは1.救急蘇生法の必要性,3.心肺蘇生法(一次救命処置),10.救急蘇生法の教育(一般人の行なう電気的除細動を含むAHAにおける救急蘇生法教育,日赤方式に基づく救急蘇生法教育),11,資料(ガイドライン2000の経過と日本での取組み,用語解説,効果測定法を含む)であり,わかりやすく解説されている。最後の和文索引・欧文索引も再整理され,疑問点が出ても索引を引きやすくなっている。
 簡潔にまとめられた本書が,全国のCPRインストラクターの統一されたガイドとなり,我が国の心肺蘇生法の発展に寄与し,願わくは心肺蘇生の社会復帰率が欧米に肩を並べ,さらに追い越すことを期待したい。最後に第2版の改訂にあたり,隅々まで目を配り編集と編集協力をされた,山本保博先生と吉田竜介先生に拍手を送りたい。
B5・頁136 定価(本体2,000円+税)医学書院


EBMへの苦手意識もこれで払拭

臨床のためのEBM入門
決定版JAMAユーザーズガイド
Gordon Guyatt,Drummond Rennie 著
古川壽亮,山崎 力 監訳

《書 評》武田裕子(琉球大医学部附属病院・地域医療部)

「JAMAユーザーズガイド」のエッセンスが集約

 この本は,EBM(evidence-based medicine)という言葉を考え出したGordon Guyattと,ユーザーズガイド(User's Guides to the Medical Literature)シリーズを担当したJAMA編集者によって協同編集された。ユーザーズガイドは,EBMの概念や方法をわかりやすく臨床医に伝える目的で1993-2000年に25回にわたってJAMAに掲載された論文集である。EBMという新しいツールを実践したいと考えた者は,どこかでこれらの論文あるいはその一部を目にしたことがあるであろう。もしその際に,EBMはやっぱりとっつきにくい,理解しにくいと感じたとしたら,そういう方にこそエッセンシャル版ともいえるこの本をお薦めしたい。
 本書は,JAMAに掲載された32本の全論文を,それぞれの著者(Guyatt氏を中心としたEBMワーキング・グループのメンバー50名)が互いに協力して大幅に加筆修正したものである。論文間の重複が取り除かれ,最近の臨床スタディの結果を取込んだ1冊の新しい教科書となっている。第1部基礎編には,文献の探し方から読み方までEBMの必須事項がコンパクトにまとめられている。第2部応用編を読むと,どうしたら学生や研修医にわかりやすく教えることができるかを学べる。いずれも即実践に用いることができるよう具体的に書かれており,EBMに対する苦手意識を払拭してくれる。巻末の用語集は知識の整理に役立ち,ポケットカードのおまけまでついている。

磨きのかかったEBMの教育方法も学べる

 この本の序には,“実際の患者の問題を解決するために文献の情報を使うように臨床医を励ますことの必要性と,また困難さを意識するようになった”McMaster大学臨床疫学のグループが,90年に大学病院内科研修の募集要項にEBMという言葉が登場して以来,“EBMの実践と教育方法にさらに磨きをかけて”きた過程が紹介されている。米国の大学に籍を置く多くの内科医たちとも連携し,医学文献を診療に応用する実践的なアプローチを発信し続けている。今回翻訳された「臨床のためのEBM入門」はその集大成ともいえ,磨きのかかった教育方法を自分のものにする絶好の手引書である。
 McMaster大学では,毎年,“How to practice and teach evidence-based clinical practice”というワークショップが開催されている。私も2回参加したが,そこで学んだ内容のほとんどをこの本に見出すことができる。ワークショップは1週間にわたり,日本から休暇をとって出かけるのはなかなか困難である。参加できても語学の壁から,議論を堪能するに至らず悔しい思いをすることもある。今回この翻訳書が出版されたおかげで,ワークショップの内容を日本にいながら学べることになった。読みやすい日本語で書かれており,翻訳本を読むときの難儀さをほとんど感じさせない。
 今後,EBMの理解と実践に本書は大きく貢献するであろう。この本の読者は,監訳者あとがきに古川壽亮先生が書かれている,“「目から鱗」の連続”体験,“これからもあるかどうか分からない”知的興奮の意味を感じ取れると期待してほしい。
A5・頁404 定価(本体4,000円+税)医学書院


第一線の病理学者が示す,胃の病理学の到達点

胃の病理形態学
滝澤登一郎 著

《書 評》浅香正博(北大教授・第3内科)

自分の「目」を信頼してまとめられた1冊

 滝澤先生の書かれた『胃の病理形態学』には,今をときめく分子生物学的研究成果がどこにも記載されていない。都立駒込病院病理時代の豊富な症例1例1例を丹念に観察した自分の目に全幅の信頼をおき,過去の文献を参照しながら考えをまとめる手法をとっている。古典的ではあるが,オーソドックスなやり方である。胃や腸疾患などの臨床病理学的研究は本来がretrospective studyなので,症例が他のどの施設より多く,また観察方法や解釈においてこれまでのどの報告をも凌駕しているとの確固とした自信がなければ本にまとめる勇気などなかなか出るはずがない。
 著者自身が序文の中で述べているように,2001年ニューヨークにおける同時多発テロと2002年の同僚の突然の腫瘍死がこの本をまとめるきっかけとなっている。“人生には限りがあり,本を書くための残り時間は少ないということを教えてくれた事件と人の死であった”との並々ならない決意から出発したのである。
 滝澤先生は私の古い友人であり,今でも月1回は日本消化器内視鏡学会雑誌の編集委員会でお会いしている。標本を見て瞬時に病理診断してくれるのみでなく,理論立てたわかりやすい解説をしてくれるので編集委員の評判がきわめてよい。また酒の飲みっぷりも見事である。

重要な問題にスポットを当てる

 本書が通常の教科書と異なる点は,著者自身が観察した胃の形態学的所見を軸に本の構成がなされている点であろう。したがって,基本的な問題の一部は意識的に削除し,重要な問題にスポットを当て集中的に解説検討を行なっている。胃炎については“H. pylori感染が成立すると確実に胃炎が発生する”との書き出しからはじまる。さらにH. pylori感染によって胃炎は幽門前底部の小弯側と胃角から腺境界に発生し,漸次大弯側に拡大していくことを病理学的に観察している。著者は,胃の運動を胃病変発生の重要な要因として位置づけている珍しいタイプの病理医でもあるが,この現象について,小弯領域の粘膜は他の領域の粘膜よりも動きが少ないため萎縮が生じやすいという興味深い仮説を提供している。
 胃潰瘍の発生については,まさに彼の胃壁運動理論が躍動している。これまでH. pyloriが胃潰瘍発生にきわめて重要な要因とされてきたが,なぜ胃角小弯に多発するのかは誰も説明ができていなかった。彼は,胃壁の筋層構造を組織学的に詳細に検討し,胃角は小弯の筋群と境界輪状筋群が交差する部分で,胃の運動に伴って生じると思われる物理的な負荷がもっとも顕著になる特殊な領域であるため,胃潰瘍の発生率が高いのではないかと述べている。有名な大井の二重規制学説の胃壁の筋層構造部門の見事な完成品を見る思いがした。
 胃癌の項の圧巻は,なんといっても滝澤先生の所有する88病変の超微小管状腺癌と23病変の超微小印環細胞癌の解析であろう。これは,欧米の病理学者が決してできない研究であり,実際,彼の発表を札幌で聞いたベイラー大学(現在ジュネーブ大学)病理のGenta教授は目を丸くして驚いていた。何とかこの部分だけでも英文論文にして世界の病理学者を震撼させていただきたいと考えている。そうすると早期胃癌の病理診断における日米欧の相違など消えてしまうのではないかと考える。

臨床第一線の病理学者の到達点

 本書は,胃の病理学の標準教科書としてはやや荒削りの面があるが,臨床第一線の病理学者の,悩みながらの到達点を示す記念碑的な作品に仕上がっている。病理学者はもとより消化器内科医にとっても必読の本として推奨する。できれば,英語版の早期発行も期待したい。
B5・頁200 定価(本体15,000円+税)医学書院


日本の精神科領域で初のエビデンスに基づいたガイドライン

統合失調症治療ガイドライン
精神医学講座担当者会議 監修
佐藤光源,井上新平 編

《書 評》樋口輝彦(国立精神・神経センター国府台病院院長)

アップデートな内容で総説的に解説

 統合失調症治療ガイドラインがやっと出版された。企画から出版までに4年近くの歳月を要したので,初期に書かれた原稿はすでに古く,時代に合わないのではないかと危惧したが,すべての原稿に手が加えられ,アップデートな内容になっているので安心した。
 治療のガイドラインには大きく3種類が存在する。その1つはEBMに立脚した本書のような総説的,解説的スタイルのものであり,他の1つはより実践的なアルゴリズムの形をとったものである。第3にはEBMではなく,専門医のコンセンサスに基づいたガイドラインをあげることができる。これらは,それぞれが特徴を持ち,使い方も当然異なるのであるが,常に相互補完的に使用することができて有用である。本書はその第1のスタイルに相当し,すでにAPAが出版しているガイドラインの日本版とも言えるものである。

基本的な事柄を押さえた構成

 構成は5章からなり,第1章は疾患の概念というタイトルで統合失調症の概念,疫学,臨床症状,経過と転帰について要領よくまとめられている。この章自体は治療に直接かかわるものではないが,治療の前提としておさえるべき基本的なことが整理されている。
 第2章は治療計画の策定であり,本書の中核をなす章である。精神医学的管理に始まり,急性期,回復期,安定期に分けて,症状の評価,治療の場の選択,薬物・身体療法,心理社会的療法について書かれている。網羅的であるが,単に羅列的記述ではなく,実践に役立つように意識して書かれている点が印象的である。薬物療法の項には抗精神病薬選択のアルゴリズムが示されており,従来のガイドラインとは一味違っている。また,病期を分けて,これに合った治療法の指針が示されている点も,特にレジデントなど初心者にとっては有用と思われる。
 第3章はそれぞれの治療法の解説である。薬物療法には従来型抗精神病薬に加えて新規の抗精神病薬についても十分な記載があり,また身体療法では電気けいれん療法に矩形波による修正型ECTにも言及されており,直近の情報が提供されている。心理社会的療法については,基本的な療法が網羅されており,しかもその道のオーソリティーによって執筆されており,たいへん内容の濃いものになっている。
 第4章には「その他の重要な問題」として,自殺,身体合併症,統合失調症と老化,司法精神医学的諸問題がとりあげられている。いずれも今日的重要課題であり,重要な指摘が随所に見られる。最後の第5章は本書のまとめであり,編集者の今後の展望が描かれている。

精神科研修の参考書としても有用

 本書は恐らく精神科領域でEBMに基づいて作成された本邦初のガイドラインと言えよう。ガイドラインの持つ意味は治療における最低限の知識と方法を共有することであると思う。個別の治療はあくまでも医師の裁量に委ねられるべきことは当然であるし,この点は編集者も序で述べている。しかし,最低限のコンセンサスすら,これまでの精神医療では実行されていなかった点が問題であり,これを克服するうえでも,このガイドラインの役割は大きいと考える。精神医療関係者にはもちろん手にとっていただきたいが,加えて来年度からはじまる卒後臨床研修の精神科研修の参考書としてもお薦めしたい。
 最後に1つ希望を述べさせていただく。治療法の開発は日進月歩である。1-2年もたてば,すぐに改訂が必要になると思われる。大変な作業であるが,きめ細かな改訂作業が恒常的になされ,常に最新のエビデンスに基づいたガイドラインが届くようにしていただければ幸いである。
A5・頁356 定価(本体4,700円+税)医学書院