第2576号 2004年3月15日


第2回日本予防医学リスクマネージメント学会開催


 第2回日本予防医学リスクマネージメント学会(第8回日本精神障害予防医学研究会同時開催)が,丹羽真一会長(福島医大)のもと,さる2月19-20日の両日,福島市の福島医大において開催された。本学会では,事故防止への取り組みが各施設から報告された他,他分野からのシンポジストを招いた学際シンポジウムが企画されるなど,医療の安全をめざした活発な議論がなされた。


「リスクマネジメント学」の確立を

 会長講演「臨床医からみたリスクマネージメント学」で丹羽氏は,学問としてのリスクマネジメントについて,すでに技術や経営などの分野ではリスクを測り,管理・コントロールしていく方法論や知識が学問体系として確立していると説明。医療においてもこうした学問を確立し,卒前卒後の医学教育の中に入ることによって,マニュアルに沿うだけではない医療リスクマネジメントの実現につながることを示唆した。また,学問体系の確立をめざすことが学会の役割であり,そのためには,心理,経済,法律,病院管理といったさまざまな分野の研究者の共同体制が必要と述べた。
 さらに氏は,医療の現場においてリスクを被るのは医療消費者であると指摘したうえで,リスクマネジメント学には医療消費者の立場が必要と強調した。

異分野から学ぶ

 学際シンポジウム「病気と事故におけるリスクマネージメントの方法と今後のあり方」では,分野の異なる2名のシンポジストが登壇し,それぞれの視点から議論した。
 上野信吾氏(三菱総研)は「経営・管理工学分野におけるリスクマネジメント」と題して,確立されているリスクマネジメントシステムについて説明。
 町田和彦氏(早稲田大)は,「感染症におけるリスクマネージメントと今後のあり方」と題し,ワクチン行政,抗生物質の乱用,などといった感染症に関する諸問題について,現状を踏まえて考察を述べた。
 会場を含めた議論では,リスクマネジメントについての教育やコミュニケーションについても議論され,この中で上野氏は管理の教育以上に,安全への意識・態度を高めるための教育が重要と指摘。経営工学では,リスクを低減させる能力向上のための訓練をリスク対策の1つとして行なっていると紹介した。




学会が果たすべき役割とは?

―― 酒井亮二理事長(スイス連邦工科大)
  世良田和幸広報委員長(昭和大)に聞く


 日本予防リスクメネージメント学会理事長とともに「国際予防医学リスクマネージメント連盟」の理事長も兼ねる酒井氏によれば,「医療事故予防」をテーマに議論する場を設けるため,2002年1月に日本国内で学会を立ちあげたところ,世界各国から問い合わせが相次いだという。「それまで,医療の分野で“Health”の問題は多く語られてきたが,“Safety”の問題を中心に議論する場がなかった」(酒井氏)という背景のもと,各国に同様の学会設立の動きが出はじめたため,国際学会の設立を計画。同年3月には国際学会発足に至った。国際学会加盟国は設立から2年弱の現在で38か国。会員数は約1000名にのぼっている。

学際的な議論の場を作る

 「米国のような訴訟社会では医療におけるリスクマネジメントの教育もいやおうなく進むが,米国ほど訴訟の多くない日本では,リスクマネジメントへの取り組みが制度的にも遅れている」と話す酒井氏は,これまでの日本では,診療の現場からの声が政策に反映されないことが少なくなかったと指摘する。学会の設立によって現場の声を集めて議論する場を設け,より大きな声として政策にも反映させていきたい考えだ。医療以外の学問,業種から安全管理や法律の知識を取り入れる学際的な議論を通して,「リスクマネジメントを統合するフィールド」となることをめざす。

学問体系の確立

 世良田氏は,「病院に置かれているリスクマネジャーはそれぞれが独自にリスクマネジメントについて勉強している」と現状を指摘する。そのような状況の中,学会は「リスクマネジメント学」としての一定の方向性を作っていく役割を担う。また,学会として教育セミナーなどを開催するとともに,各大学に講座を設け,それぞれが研究を進めることで,さらに学問としてのリスクマネジメントを確立させていくという動きを指導していくことも,ねらいとしている。
 日本の医療者の意識について酒井氏は,「安全・信頼が医療の目標の1つであることを認識し,質を上げることで患者がやってくるようになるという意識を持つことが必要」と話す。日本に「医療リスクマネジメント学」は確立するか。学会の今後の動きに注目したい。