第2575号 2004年3月8日


連載

ディジーズ・マネジメントとは何か?

第2回 ディジーズ・マネジメント・
リーダーシップ・フォーラムに参加して

森山美知子 広島大学医学部教授・臨床看護学
坂巻弘之 医療経済研究機構研究部長


2571号よりつづく

 米国ディジーズ・マネジメント協会(DMAA)は,「ディジーズ・マネジメントプログラムおよびそのツールの開発と標準化,そして,それらの普及のために,医療の消費者,支払い側,サービス提供側,立法側に働きかけ,成長を促す」目的で,1999年3月に設立された。DMAAが,その理念の達成のために,毎年開催しているフォーラムの1つがディジーズ・マネジメント・リーダーシップ・フォーラムであり,2003年は10月12日から15日にかけて,米国イリノイ州シカゴで第5回大会が開催され,世界22か国および米国43州から1240人が集った。

各国での導入が進む

 ディジーズ・マネジメントは,その概念を適用する保険制度によってさまざまな形態をとるが,基本的には,ガイドラインにそったヘルスサービスの標準化と慢性疾患を中心とするクライアントの健康行動を形成し,維持することにより,疾病悪化によるコスト増を抑制しようとするもので,cost-effectivenessを考慮した手法である。米国を中心とする,民間保険が役割を担う国々,また,公的保険が普及している国々でも,増大する医療費のコントロールのために積極的に導入・展開されている。
 今回は,プレカンファレンスとして,第1回インターナショナル・ディジーズ・マネジメント・サミットが開催された。参加は,10か国+地域(ドイツ,オーストラリア,日本,シンガポール,香港,アルゼンチン,南アフリカ,インド,スイス,オランダ)であり,それぞれの医療保険制度の中でのディジーズ・マネジメントの進展が発表され,ディスカッションが活発に行なわれた。
 本フォーラムは,複数の基調講演,ワークショップ,展示から構成されており,基調講演の中では,DMAAが立法側への働きかけとしてワシントンから招聘した米国ヘルスプラン協会会長兼CEOのKaren Ignagni女史の,刷新的なディジーズ・マネジメントの手法の開発とそのメディケア(高齢者用の公的医療保険)への導入についてのデータを巧みに織り込んだスピーチが印象的であり,米国の公的保険においてもディジーズ・マネジメントが重視されるようになっていることが理解できた。

国際的な広がりをみせる参加者

 このフォーラムの特徴は,医療制度を構成する支払い側,サービス提供者,立法側,これに医療システムに関心のあるコンサルタントや研究者が加わり,学術的かつビジネスライクに交流が行なわれることであろう。会場一杯に設けられたブースでは,ヘルスプランやディジーズ・マネジメント企業が自分たちの開発したディジーズ・マネジメントプログラムや教材,電子プログラム等を披露し,各保険者が物色する光景がみられた。
 今回のフォーラムは,参加者が国際的な広がりをみせたことと,全米に普及したこの手法が発展期に入ったことを感じさせるものであった。ディジーズ・マネジメント企業やHMOなどが,自ら開発したプログラムの運用状況と,成果としてのコスト削減や受療行動の変化,ドロップアウト減少等の結果について多くの発表を行なっていた。

ハイリスク集団や個人をどう特定し,教育や治療を提供するか

 支払い側の立場からは,医療コストのかかるハイリスク集団や個人を早い時期に特定し,その集団に適切な教育や治療を提供して健康状態が悪化しないように維持していくことが重要な視点になる。特に,入院や救急外来への受診,ICUへの入室,頻繁な外来受診,透析への移行等は保険者としては避けたい事態である。このような生理学的,行動学的(パーソナリティ)特性を持つ者をどのように特定し,その特性にみあったプログラムを提供していくかは,どの保険者にとっても大きな関心事で,心理学や統計学の著名な研究者をプログラム開発に引き込み,人々の行動特性に応じたプログラムや教材開発についても発表があった。こうしたプログラム開発プロセスについては,まだ産学共同研究の土壌が十分に育っていないわが国にとっても学ぶべき点が多いものと考えられる。

予測モデルも実用段階

 また,支払い明細書や行動特性の自己申告,受療行動についての経年的データから将来的なリスクを分析し,集団を階層化し(行動特性によって最も介入が必要な群から必要性の少ない群までを分ける),リスク調整を行なうための予測モデル(predictive modeling)開発に関する報告も数多く,人工知能などより高度な技術の利用も試みられるようになっている。
 いくつかの州ではメディケイド(低所得者用の公的医療保険)対象者について本手法を用いてリスク調整を行ない,従来の慢性疾患の治療とディジーズ・マネジメント導入後の比較を数十万人のデータで行なった研究や,全米の100を超えるマネジドケア組織の未公開のベンチマークデータの統合がディスカッションされるなど,予測モデルが実用段階に入っていることが印象付けられた。

ケースマネジメントの必要性

 ディジーズ・マネジメントでは,資源の効率的な利用のため,集団に対する介入と個別介入を適切に組み合わせる必要があるが,今回のフォーラムでは,「ケースマネジメントとディジーズ・マネジメント」の関係がクローズアップされたことも特徴といえる。複数の疾患・合併症を持つ者は医療費を押し上げる要因となるため,こうしたハイリスク者については,個別にケースマネジメントを行なう必要がある。各保険者では,看護師がケースマネジャーとして登用されており,Department of Veterans AffairsやKaiser Permanenteなどでは,独自に開発したディジーズ・マネジメントとケースマネジメント手法とを展開し,成果を上げていることが報告されていた。ただし,階層化の中で全体の何パーセントをケースマネジメントの対象とするのかは資源利用の観点から検討されるべきポイントとして認識されている。

うつのコントロールに関心

 階層化においては,患者の社会・精神特性についても考慮する必要があり,特に慢性疾患患者はうつ状態に陥ることが多く,うつ状態は患者のアドヒアランス行動を退行させる。うつそのものも,慢性疾患であることからディジーズ・マネジメントの対象となり,不安と抑うつとの関係,抗うつ剤の継続的な服薬行動をどのように高めるのかも1つのテーマとして取り上げられるとともに,慢性疾患患者でのうつのコントロールについても関心が示されていた。
 米国を中心に,各国のヘルスケアリフォームに関する斬新なアプローチやエネルギーに触れて,今後の日本での展開に思いを馳せたフォーラムであった。




森山美知子氏
 1992年カリフォルニア州立大学フレズノ校看護学部大学院修士課程修了(老年看護CNSコース)。医学博士(山口大学)。京都第一赤十字病院,日赤医療センター,山口県立大学,厚労省勤務を経て,2002年4月より現職。主な著書に『ナーシング・ケースマネジメント:退院計画とクリティカルパス』『ファミリーナーシングプラクティス』(医学書院)。
坂巻弘之氏
 1979年北海道大学薬学部卒業。1992年慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。製薬企業勤務,慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室,国際医療福祉大学国際医療福祉総合研究所等を経て,2000年5月より現職。主な著書に『やさしく学ぶ薬剤経済学』(じほう),『日本型疾病管理モデルの実践』(じほう,共著,近刊)。