医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


定評ある研修マニュアルが,新制度に向けて改訂

レジデント初期研修マニュアル
第3版

小泉俊三,他 編

《書 評》大滝純司(東大助教授・医学教育国際協力研究センター)

 「初期研修」という書名と,初版から数えて14年になることからわかるように,特徴と定評のある本である。
 いろいろな領域を幅広く研修する,卒後1-2年目の研修医に向けたマニュアル本なのだが,従来は,そのような研修をしている者は,多数派ではなかった。そうした状況は間もなく一変する。ご存知のように,2004年の春からは卒後臨床研修が必修化され,研修医のほぼ全員が多数の科や施設をローテーションする研修に突入する。しかも,これも初めて実施されたマッチングの結果として,ほとんどの研修の場で,さまざまな大学を卒業した研修医が一緒に研修することになる。このようなマニュアル本の需要が,一気に増すのだろう。

診療の「コツ」が満載

 使いやすいマニュアル本に求められることの1つが,現場を熟知した人による具体的な解説だと思う。この本には,診療に関係した手技や方針に関する通り一遍の解説だけでなく,「指導医からの一言」「ピットフォール」「トラブルシューティング」など,まさに,診療の場で,直属の指導医から教えてもらう「コツ」のような情報が,たくさん載っている。
 初期研修向けなので当然なのかもしれないが,内容は「基本」を重視している。特に,「輸液の基本」「救急外来での基本的な考え方」「小児の診療」などを読むと,患者さんや診療全体を俯瞰する眼を持つことを,重要な基本的能力として勧めていることがわかる。個々の手技や知識は,習得した直後から古くなるが,このような態度や判断力は,一度身につけるとなかなか古くならない。
 勝手な要望だが,もう少し図があればさらにわかりやすいだろう。眼底診察や腰椎穿刺は,新米研修医にとっては,まずは手技を身につけることが切実な課題なので,そこにも触れてほしい。ACLSの手順の備忘録や,各筆者の専門領域の情報も入れてほしかった。
 研修医だけでなく,学生や指導医にも参考になる,安心して使えるマニュアルだと思う。
B6変・頁480 定価(本体4,000円+税)医学書院


「多障害時代におけるリハビリ医療」の充実のために

FITプログラム
統合的高密度リハビリ病棟の実現に向けて

才藤栄一,園田 茂 編

《書 評》上月正博(東北大教授・リハビリテーション部)

 FIT(Full-time Integrated Treatment)プログラムとは,才藤栄一教授が主宰する藤田保健衛生大学リハビリテーション部門で考案され,七栗サナトリウムリハビリテーションセンター(園田 茂病院長)で実行されている「より効果があり,より効率の良い脳卒中リハビリテーション(以下,リハビリ)プログラム」の名称である。本書はそのFITプログラムの取り組みの内容と効果を藤田保健衛生大学のスタッフが解説した労作である。

日本のリハビリテーションの現状にみる課題

 わが国は食生活の改善,環境対策や医療対策の充実などにより,世界きっての最長寿国となったが,脳卒中後遺症患者などが増加しており,一生の中で活動性の高い生活が行なえる期間を少しでも長くすることが重要な課題になってきている。
 医療の現場では薬物療法や食事療法は休日なく行なわれているが,ことリハビリ(理学療法,作業療法など)に関しては,スタッフ数の問題で休日・祭日にはほとんど行なわれておらず,脳卒中リハビリ患者の自主訓練に任されているのが現状である。さらに本邦では,昨今の祭日や振替休日の増加により,リハビリ患者が非活動的に過ごす時間が増えて,リハビリ効果がさらに減弱する可能性も指摘されている。たとえば,リハビリ施設における脳卒中患者の平均入院期間は,集中訓練を行なう米国に比較して,本邦では大幅に長い。

果敢な挑戦で経営的にも成功

 FITプログラムではこの問題に果敢に挑戦し,病棟から訓練室への動線を排除した訓練室一体型病棟を建築し,療法士に週休2日の休日を与えてもリハビリ患者の週7日訓練を維持できるだけの療法士の多数雇用と複数担当制を行ない,チーム内の連絡の頻度を増やすことなどにより,「毎日・全日訓練」,「コミュニケーション増強」,「単純化による役割整理とアフォードする環境」を課題としたリハビリを施した。その結果,在院日数の短縮,同一ADLレベルへの到達の早期化,最終到達ADLの高度化,費用対効果比の向上などの成果をあげ,しかも経営的にも成功している。
 本書の構成は11章から成り立っている。130頁あまりの本なので2,3時間で通読が可能であるが,時間のない場合には各章の冒頭の要約と第7章の「FITプログラムFAQ」を読むだけでもFITプログラムの内容の概略が理解できるようになっている。第8章以降がFITプログラムとは直接関係ないリハビリや運動学習の総論であったりはするものの,全体を通して現状のリハビリに対する飽くなき改革のための両編者の意欲や志の高さが迫力をもって迫ってくる。

スタッフや診療報酬制度のさらなる充実のために

 回復期リハビリ病棟で50人の患者が1人6単位(上限)のリハビリを受けると,週40時間勤務の療法士が20人必要であり,この条件であると最大の診療報酬上の恩恵を受けられる。一般病棟,療養型病棟,外来を持つ施設などで実際に回復期リハビリ病棟に携わる療法士が極端に少なくなる病院ではリハビリの出来高を上限まで算定できないので,診療報酬上の恩恵を受けられない可能性もあるといったことなど,経済的側面まで立ち入って詳細かつ丁寧に分析している点も本書の特徴の1つといえよう。
 本来,薬物療法や食事療法と同様にリハビリ(理学療法,作業療法など)も連日休みなく継続的に行なわれるべきである(「医療の毎日性」,「訓練の毎日性」)。本書をきっかけに本邦のリハビリスタッフや診療報酬制度のさらなる充実が図られ,21世紀の「多障害時代におけるリハビリ医療」がさらに充実することを期待したい。
B5・頁152 定価(本体3,800円+税)医学書院


不妊治療の今を懇切に記した名著

不妊治療ガイダンス 第3版
荒木重雄,浜崎京子 編著
不妊カウンセラーワーキンググループ 協力

体外受精ガイダンス
荒木重雄,福田貴美子 編著
体外受精コーディネーターワーキンググループ 協力

《書 評》玉田太朗(日本女性心身医学会理事長/自治医大名誉教授)

本書の生い立ち

 著者,荒木重雄氏はコロンビア大学において生殖内分泌学の分野でめざましい研究業績をあげ,その後自治医科大学に招聘された。1966年,自治医科大学病院の生殖内分泌不妊センター長として活躍していた折に,初版「不妊治療ガイダンス」が出版された。当時,同氏は自治医科大学看護短大の教授も併任されていたことも反映してか,不妊カップルの心身のケアにも配慮した著書として好評を博した。1年半後には早くも第2版が出版され,これも3年足らずで第3版を上梓することになった。新しく出版された2冊のガイダンスでは不妊カウンセラー浜崎京子氏と体外受精コーディネーター福田貴美子氏を共著者として加え,いっそうの充実がはかられている。
 近年,わが国ではART(高度生殖医療)の普及によりARTによる妊娠が不妊治療を受けて妊娠した方の1/4をこえるまでになった。そのような背景もあり,第3版の改訂にあたって,第2版までの書名を継承した「不妊治療ガイダンス」と新たに体外受精の部分に焦点をあてた「体外受精ガイダンス」の2冊に分冊された。それが今回ご紹介する双子のガイダンスである。

巨大な双生児

 第1版ではB5判,120ページであったのが,今回の2冊はA4判となりページ数も192ページと232ページとなったので内容は4倍以上に増えた。
 この増加の原因として,(1)不妊カウンセラーならびに体外受精コーディネーターからの患者さんに対する懇切丁寧なサポートやアドバイスの実際が各章ごとに付け加えられたこと,(2)最新の知見が文献とともに書き加えられ,特に「体外受精ガイダンス」で目立つのが,GnRHアゴニストおよびアンタゴニストの使用法とそのメリット・デメリット,胚培養の改善法,胚盤胞移植,アシステッド・ハッチング,フラグメンテーションなどがわかりやすい図とともに付け加えられたこと,(3)多数のわかりやすい図は本書の特徴であったが,古い図が書き換えられるとともに新しい図が多数付け加えられ,図表が2倍くらい増えたこと,などがあげられる。

不妊に関するEBMとNBMを望む人々に

 エビデンスとともに明快に解説された最新の不妊治療法とその理論的背景は,不妊診療に携わる専門家や不妊カップルのサポートにかかわる看護職にとって不可欠のものばかりである。一方,不妊に悩む患者さんとご家族は,不妊抜きでその人生を語ることはできない。本書はこの両面に細かく気配りしてあり,患者さん,ご家族,その援助者も必ずや有益な情報が得られるものと思われる。本書が,不妊という人生の重荷を幸せに変える一助になることを祈りたい。

●不妊治療ガイダンス 第3版
A4・頁192 定価(本体6,000円+税)医学書院
●体外受精ガイダンス
A4・頁232 定価(本体7,000円+税)医学書院