第2570号 2004年2月2日


生活習慣病の視点で予防医学を考える

第38回日本成人病(生活習慣病)学会開催される


 さる1月10-11日,東京都・日本都市センター会館において,第38回日本成人病(生活習慣病)学会が,山口巖会長(筑波大教授)のもと開催された。
 「自然への回帰の医療――予防と治療」をテーマに行なわれた今回は,疾病構造の変化の中で変化・拡大する成人病治療の考え方に基づき,若年者の生活習慣病や,癌の危険因子としての生活習慣とその予防など,幅広いテーマについて取り上げられた。


周術期のコンサルテーション

 会長講演では山口氏が「周術期と循環器疾患:外科手術に役立つ循環器疾患の診断と治療」と題して,周術期の循環器内科コンサルテーションの内容とその対応を紹介しながら,循環器内科と他科との連携の重要性について述べた。
 周術期に生じる心疾患リスクには,年齢や基礎疾患など,患者の生活習慣に起因するものが少なくない。山口氏は,循環器疾患の既往歴の聴取がまず重要であるとしたうえで,安静時心電図など,簡便な検査でかなりの情報が得られると,循環器医としての対応を述べた。また,術前の心血管リスク,手術の術式,患者の状態など,それぞれの要因ごとに階層化を行なうことによって,手術の適応・不適応までを含めたチェックが重要だと述べ,講演をまとめた。

癌は予防できるか?

 プレナリーセッション1「癌は予防できるか」では,沖永功太氏(帝京大)の司会のもと,「生活習慣病としての癌」について,議論が交わされた。
 まず,加藤治文氏(東医大)が肺癌の予防について講演。肺癌患者の数は年々増加しており,癌による死亡者数では胃癌を抜いて1位となっている。原因は,高齢化と喫煙率増加のほか,大気汚染,排気ガス,食品の中のアスベストなどがあげられる。それらを踏まえたうえで加藤氏は,肺癌の一次予防と二次予防(早期発見・早期治療)について述べた。
 一次予防については,まずタバコ消費量の増加にほぼ10年から20年遅れて,肺癌の死亡数は増加しているという疫学調査を紹介。本数,年数によって異なるが,平均して喫煙者は男性で4-5倍,女性で2-3倍,発癌リスクが高まるといわれている。これらに対して,若年者への禁煙指導や,非喫煙者を守る取り組みが予防のうえで重要となると述べた。一方,薬剤や栄養による予防については,話題となっている緑茶,カテキン,ポリフェノールなどについて,腫瘍抑制効果を認めた研究を紹介した。
 二次予防に関しては,検査による早期発見早期治療が有効であるとしたうえで,CT検診やカッター細胞診など,最新の検査によって従来では発見できなかった初期段階での癌の発見・治療が可能となったことを紹介。これらの検査によって早期発見できれば,100%の治癒も期待できるとした。

胃・大腸癌予防の課題

 続いて佐治重豊氏(岐阜大名誉教授)は胃癌の予防について述べた。
 胃癌死亡者数は,肺癌にトップの座を譲ったものの,ここ数年横ばい状態であるが,5年生存率を中心に,年々治療成績は向上している。これには,食欲不振,吐き気,腹痛などの初期症状が国民に広く理解されるようになったことや,予防検診の普及により,初期癌が早期発見されるケースが増えてきたことなど,二次予防が一定の寄与を果たしているとの考えを示した。
 他の癌に比べて,胃癌は罹患率が低下傾向にあるが,その最大の功績は冷蔵庫の普及によって,漬け物などの保存食の摂取が減りトータルとしての食塩摂取量が減少したことが大きな原因と考えられていると指摘。胃癌予防に効果があるといわれている食品の腫瘍抑制効果についての信頼度は,野菜と果物が確実,ビタミンCは高確率,カルテノイドと緑茶は可能性ありと推察されており,逆に危険因子としては,ヘリコバクターピロリ菌が確実,高塩食品は高確率とされているとした。
 また,危険因子としてあげられたピロリ菌については,胃癌の増殖段階を促進するが,発癌段階には関係しないと考えられると,研究データをもとに述べた。
 最後に氏は,発癌を完全に抑制することは困難であり,予防的な観点からは,癌になる年齢をいかに遅らせるかということに尽きると述べたうえで,日頃からの信頼できる家庭医との関係性が,実際に癌になった際にはもっとも重要であるとまとめた。
 続いて武藤徹一郎氏(癌研究会附属病院)は,大腸癌の予防について述べた。
 日本における直腸癌の死亡率は最近上がっていることが知られており,女性では,近年治療成績をあげている英米よりも死亡率が高くなっている。武藤氏は,欧米での大腸・直腸癌の死亡率が低下している理由の1つに,高い検診の普及率をあげ,日本でも検診率を上げていくことが二次予防の成績向上につながると述べた。
 欧米で行なわれている予防法としては,早期発見・早期切除という大原則を踏まえたうえで,これまでアスピリンやCox2などの薬剤,ビタミン類,野菜,繊維質,カルシウムなどの腫瘍抑制効果が検討され,実際に行なわれてきた経緯を紹介。氏は,「薬品による予防には副作用があり,また,食事による予防は単純なものではなく,複合的かつ長期的に見るべき性質のものだと思う」と述べた。

欧米の乳癌予防の現状

 最後に霞富士雄氏(癌研究会付属病院)は,乳癌の予防について述べた。
 乳癌による死亡数は戦後コンスタントに増加し続けている。日本での乳癌の罹患率・死亡率の特徴は30歳以上60歳未満の働き盛りで高いことであり,これが日本において乳癌が社会的な問題を引き起こしやすい原因である。欧米では年齢とともに増加する乳癌が,どうして日本では50歳くらいをピークにしてその後,減少するのか,その理由は知られていない。
 乳癌のハイリスク群としては,年齢が40歳以上の未婚女性,既婚未婚を問わず30歳以上で初産の女性,閉経年齢が55歳以上の女性,閉経後の女性,肥満,良性疾患になったことがある女性などが知られている。また,乳癌の家族歴については,他の癌に比して遺伝的要素が高く,特に家族の中に複数の発癌者が存在する場合,リスクが15倍程度高くなるという欧米のデータを紹介した。
 氏は,これらのリスク要因から,女性の社会進出が進み,出産年齢が高くなってきたことが,乳癌の発生率を高めていると考えることができるが,この傾向について修正をかけることはできないと述べたうえで,食事,その他による予防も難しい乳癌の予防は,欧米では薬剤と外科的手術による予防が行なわれていることを紹介した。
 乳癌では,他の癌に比べて有効な抗癌剤が存在する。欧米では家族歴などからリスクが高いと考えられる女性が予防的に服用することがある。また,そうしたハイリスク群では,予防的な乳房・乳腺切除術が行なわれることがある。これらは,日本に比べて乳癌に対する恐怖が一般に強く,そうした選択を希望する患者が欧米に多いことに起因すると考えられる。
 これらの積極的な予防策は,日本の文化的風土から考えて導入することは難しいだろうと述べたうえで霞氏は,どのような予防策をとるとしても,まずは欧米で行なわれているような早期発見のための検診を普及させていくことが重要であると述べ,講演をまとめた。